インタビュー

病気の愛犬のために。出版社勤務16年を経て、犬と人が一緒に食べられるパンを作った

病気の愛犬のために。出版社勤務16年を経て、犬と人が一緒に食べられるパンを作った
PROFILE
Bread&Dogs株式会社 代表取締役
瀧澤 貴之

記者を夢見た就活、旅行会社への入社

記者になりたかった学生時代

学生時代に思い描いていたのは、新聞社や出版社のようなメディア業界への就職でした。両親がマスメディアに勤めていたこともあり、記者になりたいという思いが強くありました。しかし縁がなく、代わりに選んだのが旅行会社の「HIS」です。学生の頃からよく海外へ足を運んでいて、当時勢いのあったHISの雰囲気に「自分に合っている」と感じたことが入社の決め手になりました。生意気なように聞こえてしまいますが、最初から「一生この会社で働く」というつもりはなく、社会人としての経験を積む場と捉えていました。

サッカーワールドカップ観戦で広がった視野

入社2年目を迎える前、プライベートで2006年サッカーワールドカップドイツ大会の日本の初戦を観戦する機会がありました。世界32か国以上の人が一つのスポーツに熱狂する光景に触れ、もっと広い世界を見てみたいという気持ちが強くなりました。その後、思い切って1年半ほどイギリスへ語学留学をしています。すぐに転職するのではなく、あえて回り道を選んだのは、20代のうちなら多少寄り道をしても取り返しがつくと考えたからです。

出版社での16年が、起業への種をまいた

多くの経営者との出会いが転機に

イギリスから帰国後、プロ向けの料理本を作る出版社「柴田書店」に転職し、約16年間働きました。企画部に所属し、広告営業やタイアップ企画、イベントの企画運営等を担当するなかで、多くの経営者やオーナーシェフを取材する機会に恵まれました。そうした方々と接するうちに、経営に興味を覚え自分でも事業を起こしたいという思いが少しずつ芽生えていきました。そして、色々と考えぬいた末、2024年1月に出版社を退職し、同年5月にBread&Dogs株式会社を設立しました。

病気の愛犬のために生まれた一斤のパン

きっかけは16歳の愛犬の闘病

起業のきっかけになったのは、知人が飼っていた16歳のトイプードル「チョコちゃん」の存在です。がんを患い、だんだん食欲が落ち、薬も口にしなくなってしまったチョコちゃん。もともと人間用のパンが好きだったことから、飼い主さんは人間用のパンと一緒に薬をあげようと考えましたが、健康面の不安から断念。代わりに犬用のパンに薬を挟んで与えてみましたが、うまくいきませんでした。

「薬をあげても吐き出してしまうから、犬用のパンと一緒に食べさせているけど、とてもつらそう。せっかくなら人間もおいしいと思えるようなパンを食べさせたい」…そんな飼い主さんの声から、人も犬と一緒に食べられるパン作りがスタートしました。

闘病中で食事を楽しめなかったり、年齢により食欲が落ちてしまったりするわんちゃんでも、健康的に食べられるパン。そして、人間もおいしいと思えるパン。ONE DELICIOUSには、そんな商品がたくさんそろっています。

高級ホテルにも選ばれる品質

ワンデリシャスは、素材に徹底的にこだわって作っています。プロの料理人が監修し、工場での大量生産ではなく、一つひとつ手作りで仕上げているのが特徴です。犬も食べられるパンと聞くと味を心配されるかもしれませんが、実際に食べた方からは「こんなにおいしいのか」と驚きの声をいただいています。現在はラグジュアリーホテルへの卸売りを中心にBtoBで展開しており、通販サイトやイベントを通じたBtoCの展開もおこなっています。

プロの技術と手作りへのこだわりが強み

弊社の強みは、プロの作り手が監修し、それぞれの工程を一つひとつ手作りで仕上げている点です。大量生産の市販品と比べると価格は高めになりますが、その分、添加物をできる限り抑え、ヒューマングレードの味わいを実現しています。安さよりも、安心しておいしく食べてもらえることを大切にしていて、それが高級ホテルなど厳しい目を持つお客さまにも選んでいただけている理由だと感じています。

保存食の開発と、届けたい相手への思い

防災にも役立つ保存食を検討中

今後の展望として考えているのが、長期保存ができるパンの開発です。缶詰のような形で賞味期限をしっかり持たせながら、いざというときにもおいしいまま食べられる保存食を作りたいと考えています。まだ構想の段階ではありますが、これからも商品開発に力を入れていきたいと思っています。

健康を大切にする家族に届けたい

商品を届けたい相手として意識しているのは、健康的な食にこだわりを持ち、家族みんなで健康でいたいと願っている方々です。もちろん興味を持ってくださる方には広く手に取ってもらいたいという思いもありますが、それ以上に、そうした価値観を大切にしている方々に、より深く届けていきたいと考えています。

若いうちに海外へ出てほしい

世界を知ることがアイデンティティーになる

学生の皆さんに伝えたいのは、時間があるうちにできるだけ海外へ出てほしいということです。勉学はもちろん大切ですが、日本を離れて異なる人種の価値観、環境、食に触れることで、自分自身のアイデンティティーが形づくられていきます。今やりたいことが明確にある方はそれを追いかければよいと思いますが、まだ何をしたいか見えていないという方こそ、海外に出ることをおすすめします。

20代の経験は一生の財産になる

物価が上がり、海外に出づらいと感じる時期ではありますが、少しでも自分でお金を貯めて、汗水流して得た経験は、その後何倍にもなって返ってきます。20代で得た経験は、何十年も続く社会人人生においてかならず役に立ちます。だからこそ、若いうちにぜひ一歩踏み出して、世界に出てみてほしいと思っています。また作家・沢木耕太郎さんの旅のバイブル「深夜特急」は是非読んでいただきたいです。

編集後記

今回のインタビューを通して、出版社での経験と愛犬との出会いが一つの事業へとつながっていく過程がとても印象的でした。瀧澤さんの「若いうちに海外へ出てほしい」という言葉には、ご自身の経験に裏打ちされた説得力がありました。私自身もまだ海外経験は多くないので、学生のうちにできるだけ多くの場所へ足を運び、視野を広げていきたいと感じました。貴重なお話をありがとうございました。