インタビュー

「起業は失敗しても終わりじゃない」──生成AI、不動産テックを経てGX市場にたどり着いた理由

「起業は失敗しても終わりじゃない」──生成AI、不動産テックを経てGX市場にたどり着いた理由
PROFILE
カーボンリンク株式会社 代表取締役
増山 大知

暗号資産の世界に、株から迷い込んだ

きっかけは2015年のフィンテックブーム

私がこの業界に興味を持ったきっかけは、2015年頃に起きたフィンテックブームでした。もともと学生時代から株式投資をしていたのですが、当時はフィンテック関連銘柄が次々と値上がりし、今の半導体関連株のような盛り上がりを見せていました。
「なぜこれほど注目されているのだろう」と調べ始めたことが、すべての始まりです。情報を集めるほど投資の判断にも役立ち、「知識がそのまま利益につながる」という面白さを実感しました。

さらに調べるうちに「ブロックチェーン」という技術に出会い、その先にあったのがビットコインでした。その仕組みや可能性に強く惹かれ、気づけば興味は株式投資から暗号資産へと完全に移っていました。私にとっては、それほど魅力的な世界だったんです。

その後、学生時代に2度起業を経験し、暗号資産・ブロックチェーン領域で事業に取り組みました。その活動を評価していただき、ご縁があって業界最大手の暗号資産取引所へ入社することになりました。

学生起業の時代も含めると、この領域には約7年間携わることになります。

 

3回目の起業は、ChatGPTとの出会いから始まった

学生起業2回、大手企業での経験を経て再び起業

キャリアを振り返ると、学生時代に2度の起業を経験し、その後は大手企業で約3年間会社員として働き、再び起業するという道を歩んできました。

現在の会社には少し珍しい歴史があります。実は、これまで3度の

資金調達を行っていますが、そのたびに事業アイデアや事業内容を大きく進化させてきました。

資金調達を重ねながら市場や顧客のニーズに合わせて事業を磨き込み、現在の形へとたどり着いたのです。

 

生成AIとの出会いが事業転換のきっかけに

海外で見た生成AIの可能性

最初の転機となったのは、生成AIの登場でした。ChatGPTが公開された当時、私は海外の情報を日常的に英語でリサーチしていたため、日本より半年から1年ほど早く最新の動向をキャッチできる環境にいました。ChatGPTそのものには、当初そこまで大きな衝撃は受けませんでした。しかし、海外ではChatGPTを単体で使うのではなく、その技術を組み込んだプロダクトが次々と生まれているのを見て、「これは社会を大きく変える技術になる」と確信したんです。

そこで投資家の方々に声をかけ、生成AIを活用した事業を立ち上げるための資金調達を行いました。当初は、AIでコールセンター業務を代替するサービスを構想していました。しかし、約2か月にわたって市場調査やユーザーインタビューを重ねた結果、このタイミングで事業化するのは難しいと判断しました。

「方向転換するなら早いほうがいい。」そう考え、次に取り組んだのが、不動産会社向けのAI画像生成サービスです。

空室の写真をアップロードすると、AIが家具やインテリアを配置したイメージ画像を自動生成するSaaSを開発し、約2年半で約300社ほどの不動産会社に導入していただきました。

エンジニアではなく、事業をつくる立場として

私自身はエンジニアではありません。技術の概要を理解し、プロダクトの方向性を考えたり仕様を決めたりすることはできますが、自らコードを書くことはできません。そのため、この事業は創業当初から約2年半、テックリードとして参画してくれたエンジニアと二人三脚で進めてきました。

不動産テックからGX領域へ

一方で、この約2年半の間は、不動産テック事業とGX(グリーン・トランスフォーメーション)事業を並行して進めていました。その後、市場環境や外部からのフィードバック、投資家の期待などを総合的に検討した結果、今年1月に不動産テック事業を譲渡し、経営資源をGX領域へ集中させることを決断しました。

現在はGX事業を主軸とし、新たな成長に向けて組織を再編しています。創業以来、事業を柔軟に見直しながら挑戦を続けてきたことが、私たちの会社の大きな特徴だと考えています。

カーボンクレジットという答えにたどり着くまで

GXとの出会いは、IVSでの偶然だった

GX(グリーン・トランスフォーメーション)領域に興味を持ったきっかけは、2023年から2024年頃に参加したIVS(日本最大級のスタートアップ・カンファレンス)での出会いでした。そこで、京都大学発のスタートアップを経営されている方と知り合い、その会社が森林測定のソフトウェアを開発していることを知りました。「このソフトウェアは誰が使うのですか」と尋ねると、「カーボンクレジットを創出するために使うものです」と教えていただいたんです。そのとき初めてカーボンクレジットという領域を知り、「こんな市場があるのか」と興味を持ちました。

同僚の一言で事業化を決意

その後、不動産テック事業を立ち上げることになりましたが、サービスの開発には約半年かかる見込みでした。その期間に「自分一人でも収益を生み出せる事業をつくれないか」と考えていたとき、暗号資産業界時代の同僚と話す機会がありました。彼はすでに2年ほどGX領域のビジネスに携わっていて、こんなことを言ってくれたんです。

「この業界には金融の知識を持った人が少ない。だから、金融の視点で動ける人なら十分にポジションを築けると思う。」その言葉が、大きな後押しになりました。

暗号資産との共通点を感じた

実際に調べてみると、カーボンクレジットは暗号資産と共通する部分が多くありました。

どちらもデジタル上で取引される資産であり、ウォレットを使って管理・移転するなど、仕組みや考え方が非常に似ています。暗号資産業界で培った知識や経験を、そのまま活かせる領域だと感じました。

もともと、「2028年頃には大きく伸びる市場になる」と耳にしていたこともあり、投資家から「次は何をやるの?」と聞かれた際には、「まだ決めていないけれど、カーボンクレジットかもしれません」と話していたほど、この領域には以前から関心を持っていました。

小さく始めた挑戦が、現在の事業につながった

まずは一人で事業の可能性を検証

こうした背景もあり、不動産テック事業を運営する一方で、GX事業の原型を一人で少しずつ立ち上げていきました。

まずは小さく事業を始め、実際に収益が生まれるかを検証していく中で、「この事業には十分な可能性がある」という手応えを感じるようになりました。振り返ると、IVSでの偶然の出会いをきっかけにカーボンクレジットという市場を知り、暗号資産業界で培った経験を活かせることに気づき、さらに同僚からの後押しを受けたことで、本格的に挑戦する決断ができました。そうした一つひとつの出来事が積み重なり、現在のGX事業へとつながっています。

大手企業へのアプローチが最大の課題

キーパーソンとの接点づくりが難しい

これまで約2年間、不動産テック事業と並行しながらGX事業の可能性を検証してきました。本格的に経営資源をGX事業へ集中させたのは、今年1月からです。

現在は、企業ごとに異なる利用目的や条件を伺い、それぞれに合ったカーボンクレジットの提案から取引、代理無効化、証憑の交付まで一貫して支援しています。

事業を進めるなかで感じているのは、大手企業の担当部署と直接接点を持つことの難しさです。

この業界の主な顧客は大手企業ですが、単に企業とつながればいいわけではありません。経営企画部やサステナビリティ推進部など、カーボンクレジットやGXを担当する専門部署と直接つながる必要があります。

大手企業へのアプローチ自体が難しいなかで、さらに担当部署までたどり着かなければ商談にならない。この点は、私たちだけでなく業界全体が共通して抱えている課題だと感じています。

金融業界での経験を事業づくりに活かす

金融市場の歴史を事業のヒントに

事業を進めるうえで、1つの指針にしているのが、これまで金融業界で培ってきた経験です。前職では証券会社の子会社に在籍していたこともあり、証券業界の第一線で活躍されてきた方々から、FXや証券市場がどのように立ち上がり、発展してきたのかを直接伺う機会が数多くありました。

さらに、自分自身も暗号資産市場が誕生し、成長していく過程を現場で経験しています。

こうした経験を振り返ると、新しい金融市場は、立ち上がりから成熟まで驚くほど似たプロセスをたどることに気づきました。だからこそ、GXやカーボンクレジット市場についても、金融市場の歴史を参考にしながら事業を組み立てれば、大きく方向性を見誤ることはないと考えています。

接点づくりと仕組みづくりを両輪で進める

現在は、お客様から自然にお問い合わせをいただける仕組みを整えることと、自分たちから積極的に企業との接点をつくっていくこと、この2つを両輪で進めています。

市場がまだ成長途上だからこそ、待つだけでも攻めるだけでもなく、仕組みづくりと営業活動の両方を地道に積み重ねながら、事業の拡大に取り組んでいます。

 

挑戦する学生たちへ伝えたいこと

燃え尽きるほどコミットすれば、就職には困らない

学生起業家たちに出会って、頑張っている子に必ず伝えていることがあります。それは、本気でその事業に燃え尽きるほどコミットしたら、たとえうまくいかなくても、必ずそこを評価してくれる会社があるということです。だから就職には困らない、これは絶対に伝えたいことです。

自分自身、1回目の起業はそこそこの成功で終わって、2回目は明確に失敗して終わっています。その後サラリーマンになって、今に至るという流れです。特に2回目をやっているときは、他の学生起業家もみんな同じマインドになるんですが、お金がなくなってくると、この先どうしていいかわからなくなってしまうんですよね。

会社が終わることが見えてしまうのが、良くも悪くもスタートアップです。数ヶ月後には結果がわかるとなると、みんなマインドを病んでしまって、めちゃくちゃなことをしてしまう人がとても多いんです。

失敗を語る人が少ないから、起業は怖く見える

起業に挑戦してうまくいかなかった人の多くは、その経験をあまり表に出しません。

私が学生起業家だった頃も、周りには100〜200人ほどの起業仲間がいました。しかし、その多くは事業をたたんだ後、コンサルティング会社や一般企業へ就職し、過去の起業経験をあえて語ることなく、新たなキャリアを歩んでいます。

当時本気で挑戦していた人たちも、一部の個性的な人を除けば、今はごく普通に社会人として活躍しています。

それにもかかわらず、その事実がほとんど発信されないため「起業に失敗したら人生が終わる」というイメージだけが独り歩きしてしまっているように感じます。世の中には成功体験ばかりが目立ち、失敗した人のその後が見えないからこそ、多くの学生が必要以上に不安を感じてしまうのです。

本気で挑戦した経験は、必ず評価される

もちろん、中途半端な挑戦では評価されにくいかもしれません。しかし、自分にできることをすべてやり切り、本気で挑戦した経験は必ず次につながります。

実際に、大手企業やメガベンチャーは、そうした挑戦の過程や経験を高く評価してくれることが少なくありません。起業が結果として成功しなかったとしても、新卒で一般的に入社するより高い条件で採用されるケースもあります。

私は、本気で挑戦して得た経験は決して無駄にはならず、むしろビジネスパーソンとしての市場価値を高めるものだと考えています。

VCからの資金調達でリスクを抑える

私自身は、若いうちは失敗を恐れず挑戦してほしいと思っています。

もちろん、挑戦するからといって無計画にリスクを負う必要はありません。だからこそ、起業するのであれば、できるだけVC(ベンチャーキャピタル)などの返済義務がない資金を活用し、リスクをコントロールすることが大切だと考えています。

VCから資金調達ができれば、自分自身の給与を確保しながら事業に専念できます。生活費への不安を軽減した状態で、事業に集中できるようになります。

また、VCが20代、特に学生起業家を積極的に支援する理由もそこにあります。

学生や20代前半は、家庭や住宅ローンなどの大きな責任を抱えていないケースが多く、事業に全力でコミットしやすいと考えられています。一方で、結婚や子育てなどライフステージが変わると、どうしても取れるリスクの幅は小さくなっていきます。

さらに、創業初期は経営者自身やメンバーの給与を比較的抑えられるため、必要な資金調達額も少なく済み会社として生き残れる可能性も高まります。

だからこそ私は、挑戦するならできるだけ早いタイミングがいいと思っています。

20代での失敗と30代・40代での失敗では、背負うものも失うものも大きく異なります。早いうちに挑戦し、たとえ失敗したとしても、その経験は次のキャリアや挑戦に必ず生きる。長い目で見れば、その経験が大きなリターンにつながると考えています。

 

編集後記

今回お話をうかがって、いちばん印象的だったのは「失敗を発信する先輩がいないから怖く見えるだけ」という言葉でした。学生起業というと成功事例ばかりが目に入りますが、その裏でしれっと就職している先輩たちがたくさんいるという話は、挑戦を迷っている同世代に届けたい内容だと感じました。まだ学生である自分にとっても、リスクの取り方を考え直すきっかけになるインタビューでした。