インタビュー

「居心地のいいコミュニティには入るな」——刺激を求め続けた男が描く、AI時代の新しい組織のかたち

PROFILE
株式会社コーチングフォワード 代表取締役CEO
相川貴志

原体験は「引っ越し」、環境が変われば人は変わる

田舎から都内へ、衝撃の出会い

小学生のころ、めちゃくちゃ田舎に住んでいたんです。それが小学3年生のときに都内へ引っ越してきて。あまりにも環境的なギャップ、周りの人たちのギャップに圧倒されながら、結構な衝撃を受けました。こんなにも人が変わると、考え方すら変わるのかと。

そこから、学校だけじゃない、家だけじゃない、「何か」という感覚がずっとついて回るようになったんです。その時は例えば塾だったりとか。ただ勉強しに行って成績を上げるという目的というよりは、学校以外のところにこんなすごい奴らがいるんだ、という感覚でした。

就活コミュニティ、ゲーム感覚で運営

大学時代は、ゲーム感覚でいくつかコミュニティを運営していて、そのうちの一つが就活コミュニティでした。当時はSNSもLINEもなく、横のつながりを作るのが本当に難しかった。だから基本的にオフラインでコミュニティを立ち上げて、その中で情報交換しながら就活を「攻略」していたんです。

バンバン人が増えていって、みんなが有益な情報を交換していく。一つの目的を持ちながら、熱量高い人が集まると「うねり」みたいになっていって。ちょっと動機が不純でしたけど、これは面白いなと思って運営していましたね。

NEC・リクルートで積んだ「人と組織」への眼差し

刺激を求めてリクルートへ

新卒ではNEC(日本電気株式会社)へ。大規模プロジェクトのPMとして流通サービス領域のDX化を推進していたのですが、そこでリクルートの人と仕事をする機会がたくさんあったんです。その時に「面白そうだな」と思って。より刺激的なところで面白い経験がしたいなと。

転職活動も広くではなく、リクルートしか受けていません。「ここが面白そうだな」という感じで受けて、運良く受かって入社しました。想像以上に刺激的で、ボコボコにやられるわけですよ(笑)。それでも、本業だけではなく、デザイン系やプログラミング系のスクールに行ったり、グロービスに通ったりと、仕事の傍らでとにかく外の刺激を取り込み続けていました。

マネジメントの壁にぶつかる

リクルートでチームを持つようになって、一つ大きな壁にぶつかりました。自分のやり方が正解じゃないという気づきです。

今の言葉で言うと「エンパワーメント」のようなことをしっかりしていかないと、チームとして成果を出していくことはできないと。そこから「人と組織」に対してすごく関心を持つようになりましたね。

コミュニティなくして、いいチームはつくれない

リクルートを経た後、スタートアップ企業で人事組織やマーケティングチームの立ち上げを主導しながら、人事系の仕事を合計8年ほどやらせてもらいました。

その経験の中で気づいたんです。いいチームを作り続けていくには、コミュニティの考え方を実装していかないと、長期的には疲弊するなと。ただ、所属している企業の中でそれをやろうとしても、コミュニティ的な考えって長期的な施策なので、なかなか受け入れられない。だったら自分でやるか——というのが、起業のきっかけかもしれないですね。

「受けて終わり」を打破する、コミュニティ実装型の人材育成

研修はゴールじゃない

株式会社コーチングフォワードの事業内容は、人材育成や組織開発のソリューション提供になります。ただ、これはスキルを装着して「成長しました」で終わりではありません。

企業向けでも個人向けでも、講座を受講した卒業生のネットワーク、企業内で研修を受け終わった人たちの横のつながり——これをどんどん加速させていくことが、弊社の大きな特徴です。何かを受けて終わり、スキルがついて終わりではなく、その後に同じ志を持った人たちがつながり、スキルをもっともっと磨き上げていくためのコミュニティを、必ずセットで実装しています。

コミュニティの運営にはお金もかかりますし、無償で活動してもらうことも多い。でも、そこから口コミや紹介が広がっていくので、うまく回っていくんですよね。

コミュニティから社会課題を解決する、そのビジョン

AI時代だからこそ、コミュニティが価値を持つ

今、知識だけ・スキルだけみたいなものはAIに代替されていくと思っています。だから、コミュニティというものがすごく大事になってくる。じゃあスキルを装着した後にどうやって使うか、どういう問いを立てるか——その部分を、コミュニティの中でブラッシュアップしていく。そういうことがすごく大事だと考えています。

DAOが体現しようとした世界を、コミュニティで実現する

一時期、ブロックチェーンの文脈でDAO(分散型自律組織)という概念が生まれましたよね。ヒエラルキーではなく、それぞれが自律していて、有機的に生物のようにつながりながら、ある目的を持って動いていくという世界観です。今話したことに近いものが、そこにありました。

ただ、実際に取り入れた会社はすべからくうまくいかなかった。なぜかというと、そこは結局「人の集まり」なので、優秀なコミュニティマネージャーのような存在が本来は必要なんです。概念だけ借りて箱を作っても、うまくいかない。

弊社はコミュニティをガンガン回していて、コミュニティマネージャーもいる。だからこそ、あの世界観がおそらく実現できるだろうと思っています。

コミュニティから社会課題の解決へ

長期的なビジョンとしては、コミュニティの中に集まった優秀な才能たちを使って、いよいよ本当の社会課題の解決に向かっていきたいんです。例えば、今運営しているコミュニティのメンバーを集めて、SDGsの一つの課題に焦点を当て、課題解決に取り組む。課題解決には大きな資金が動くことが多く、ビジネスチャンスとしても極めて重要な視点なんです。

社会貢献性の高い取り組みをすることで、コミュニティの中にいる人たちはより刺激を受ける。本業もあるけど、このコミュニティでものすごい高度な社会課題の解決をしている——そんな世界観を作るのが、最終的なビジョンです。

あくまでもビジョンであってこれからではありますが、手ごたえも感じており、一定の自信はあります。

学生へのメッセージ——刺激的なコミュニティに、2つ多く入れ

日本人は所属コミュニティが少ない

やっぱりコンフォートゾーンを抜けて、ちょっと刺激的な環境に身を置いてみようということですかね。先進国の中で日本人は、刺激的なコミュニティに所属する数が少ないと言われています。会社(学校)以外に一つあるかどうか、さらにそこから2つ増やせるかどうか。

大事なのは、居心地のいいコミュニティではなく、自分がヒリヒリするような、格上の人たちが所属しているコミュニティです。居心地がいいものはコミュニティとしてカウントしないくらいの気持ちでいてください。ぶつかりながら成長できる場所を見つけてほしいですね。

外の世界が広がれば、本業の「ちっちゃな悩み」は消える

留学は自分の小ささに気づいて、世界観が変わる。それはすごくいいことです。ただ、帰ってきて日常に戻りがちという実態があります。あの刺激的な経験を、日常的にする必要があるんですよ。

外が刺激的だと、本業や学校の中で多少嫌なことがあっても「こんなの小さいことだ、自分はどこに行っても大丈夫」という保険がかかる。視野が狭い・環境が狭いと、そこがすべてになってメンタルが下がりがちですけど、外を見ていれば「こんな小さい悩みはどうでもいい」と思えるようになる。みんな忙しいと思うけど、ぜひ活動してみてください。

編集後記

「居心地がいいコミュニティはカウントしない」という言葉が、取材が終わってからもずっと頭に残っています。自分自身、インターンや学生団体でそれなりに動いているつもりでしたが、「ヒリヒリするか」という基準で見直すと、まだまだコンフォートゾーンの中にいるなと気づかされました。相川さんが学生時代から一貫して「枠の外」を求め続けてきたのは、小学生のころの引っ越しという原体験があったからこそ。それが今、コミュニティから社会課題を解決するというダイナミックなビジョンへとつながっていることに、大きなロマンを感じました。AIが知識やスキルを代替していく時代に、「人と人のつながり」に投資し続けるという選択は、逆説的に見えて実は本質をついているのだと思います。