インタビュー

「社長になりたいと思ったことは、一度もなかった」家業を継いだ私が見つけた、社員の幸せを起点にする経営

「社長になりたいと思ったことは、一度もなかった」家業を継いだ私が見つけた、社員の幸せを起点にする経営
PROFILE
株式会社こっこー 代表取締役
槙岡 達也

夢のなかった学生時代

正直に言うと、社長になりたいという思いは、まったくありませんでした。そもそも私は夢のない人間で、夢があってもそれに向かって努力ができないタイプだったんです。

就職活動をしなければいけない年次になっても、将来どうやって生きていくのか、まったく考えられませんでした。自己分析をしなさいとよく言われますが、そもそも自分が何をやりたいかわかっていないので、分析した結果も出てこないんですよね。

目の前の楽しさを追う日々

当時はとにかく、目の前の楽しいことだけを見ている学生生活でした。飲みに誘われたらたとえ懐事情が寂しくても行きますし、面白そうな場所があれば顔を出します。自分を高めたいという気持ちも野心もなく、ただ目の前の楽しさに食いついていくタイプだったと思います。

選んだのは全業界に関わる仕事

ふわふわしたまま就職活動を迎えたとき、考えたのが「やりたいことが見つからないなら、社会人として働きながら見つければいい」ということでした。いろいろな業界や業種の人と関われる仕事がしたいと思い、すべての業界に関わる仕事は何だろうと考えて行き着いたのが、人事や採用広告の仕事です。

新卒で味わった挫折

目の前の楽しさだけを見てきた学生が、いきなり社会人になったわけですから、ものすごい壁にぶつかりました。営業として配属されたものの、同期と比べても全然売れず、数字もついてこない。それでも変なところで自信だけはありましたが、いろいろなことが重なって、すごく落ち込みましたし、挫折を味わいました。今振り返っても、当時の働く環境は決して良いものではなかったと思います。終電なんて関係なく働くのが当たり前で、ちょうど「ブラック企業」という言葉が出始めた頃でした。

 

家業に戻るまでの道

軽い気持ちで決めた家業継承

このまま働き続けても体が持たないし成果も出ない、と思って転職を考えていたころ、たまたま親族から「戻ってこんか」と声をかけられました。父からは20歳のときに「うちの会社のことなんて考えなくていいから、自分の好きな方向に行け」と言われていて、ラッキーだと思っていたくらいです。ただ、好きなことが見つかっていなかった私は、社長になるかどうかというより「ここでまだ飯が食えるなら、それでいいか」くらいの軽い気持ちで戻ることを決めました。これから先の茨の道を想像することもなく、本当に軽い気持ちで受けた選択だったと思います。

取引先で知った貢献の喜び

戻るという結論を出してから、すぐに当社に入社したわけではありません。まず5年間、家業の取引先で働かせてもらいました。当時手がけていたのは、鋼材を加工してソーラーパネルの架台として納品する仕事でした。FIT開始後のメガソーラーブームという追い風に乗って、飛ぶように売れたのを覚えています。

このときに気づいたのが、会社に貢献することの楽しさでした。前職ではとにかく辛さばかりで、自分を守ることばかり考えていましたが、貢献することが自分の評価や自分を肯定することにもつながっていく。会社で「儲ける」という経験をさせてもらえたことは、私にとって大きなターニングポイントになりました。

突然任された百人規模の部署

5年が経って、当社に入社しました。それまで管理職の経験はゼロだったのに、いきなり100人強の事業部を任されることになります。当時29歳。やり方もよくわからない中、義務感だけはありました。なにもできないまま戻ってきたのに、社員より給料が多い。だったら自分にできることは何だろう、と考えるようになったんです。

父についていく社員の姿

入社した当時は強いトップダウンの体制であった結果、社員は考えることをやめていました。言われたことをやっていれば評価される環境だったからです。私は父に育てられてきたので、その厳しさはよくわかります。自分は血のつながりがあるから仕方がないと思っていましたが、社員は別に辞めればいい立場のはずです。それでも厳しい父についてきてくれている社員の姿を見て、社員を幸せにしたいという思いが生まれました。

もともと野心もなく、その日が楽しければいいというタイプの人間だったので、社長業に対する不安はすごくありました。それでも、儲けることで前向きになれた経験と、社員の幸せを実現したいという思いの2つが、今の私を動かすモチベーションになっています。

 

循環経済を担う使命

資源を回す静脈産業の役割

当社は、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を通じた社会への貢献を目指しています。これは、これからの社会経済を支える最大の鍵だと捉えています。

いま手元にある物を資源と再定義できれば、「資源大国」という新たな未来が見えてきます。海外情勢が不安定さを増す今だからこそ、国内で自走できる循環の仕組みを整え、海外に頼りすぎない確固たる基盤を築いていきたいと考えています。

メーカーのような「動脈産業(どうみゃくさんぎょう)」が綺麗な血を回す存在だとすれば、私たちリサイクラーのような「静脈産業(じょうみゃくさんぎょう)」は、汚れた血を綺麗にして循環させる存在です。これからの世の中に欠かせないだけでなく、地球環境はもちろん社会環境までも担えるインフラ企業になれる可能性を、静脈産業は持っていると思っています。

中四国に根づく地場戦略

当社は中四国を中心に拠点を構築しています。リサイクル業は基本的に「地場のものは地場で処理する」のが原則です。使い終わったものを資源にする以上、コストはできるだけ低く抑えるべきですが、遠方まで運ぶと運搬費がかさみます。だからこそ、中四国全域に営業網を持っていることが、当社のひとつの強みになっています。

 

強みを支える2つの事業

水銀含有廃棄物が集まる仕組み

事業の強みとして大きなフックになっているのが、特別管理産業廃棄物、いわゆる有害な廃棄物の処理です。中でも得意としているのが水銀含有廃棄物です。水銀は、4大公害のうち2つを占める水俣病(みなまたびょう)の原因となる物質で、流出すると大きな問題になるため、扱いがとても厳しく管理されています。当社はこれを扱える許可を中四国、さらに九州の一部でも持っているので、このエリアで発生する水銀含有廃棄物は、基本的に当社に集まるような仕組みになっています。

これをフックに、鉄スクラップや古紙、木材、太陽光パネルなど、さまざまな廃棄物もまとめて扱い、総合リサイクルとして提案できることが強みです。

建物のライフサイクルを担う

もうひとつ、まったく違う事業として建材の仕入れや販売、施工も手がけています。建物を解体して、そこで出たものを中間処理やリサイクルに回し、土地を土木部門で造成して、価値のあるものに変えて販売する。更には、自社で扱う資材を使ってもらう。建物のライフサイクルをすべて当社で担えるビジネスモデルができれば、これは大きな強みになると思っています。

 

採用と雇用への思い

大口取引先撤退という壁

新卒採用は毎年数名程度を目標にしていて、中途採用は都度実施し年間10名強ほど迎え入れています。

一方で、ここ数年は採用を絞っていた時期がありました。きっかけは、大口取引先だった鉄鋼メーカーが地元の広島県呉市から撤退したことです。当社の社員も130名ほどその工場の中で働いていたので、かなりのダメージを受けました。

雇用を守るという経営判断

私の経営方針は、当社に関わるすべての人を幸せにすることです。仕事がなくなったからといってリストラするわけにはいきません。雇用をいかに守るかを前提に考え、人手不足の時代だからこそ、それを武器に変えていったほうがいいという判断をしたんです。結果として、しばらく人員に余裕のある状況になりました。

ただ、社員の平均年齢が毎年1歳ずつ上がっていく状況を見て、もう少し若い世代を採用しないと、永続的な発展は難しいと感じたため、最近はあらためて採用に力を入れているところです。

忖度せず動ける人材を求めて

一緒に働きたいと思うのは、忖度なく自分の考えをしっかり言える人、そして自分が今何をすべきか考える力のある人です。これまでのトップダウンで染みついた文化を変えるのは今でも簡単ではありません。AIの普及などで世の中が大きく変わっていく時代だからこそ、自ら考えて行動できる人、いろいろなアンテナを張って情報を集められる人を求めています。

 

社員の幸せを形にする仕組み

退職金とDC制度の見直し

社員を大事にする取り組みは、いろいろと進めています。まず週休二日制にしました。それから、ここ数年で退職金を増額し、「DC制度」と呼ばれる企業型の年金制度も新たに導入しています。投資について自分自身で学んでもらいたいという思いを込めた制度です。

禁煙週間とスポGOMI大会

最近では健康経営にも力を入れていて、「ネクストブライト1000」にも選ばれました。ウォーキングキャンペーンや禁煙チャレンジ週間といった取り組みもしていて、禁煙週間にはタバコを吸わない社員も含めて全員にガムを配り、ガムで耐えてもらいます。禁酒デーには紅茶を配って、紅茶で耐えてもらいます。

去年は呉市内で「スポGOMI大会」も開催しました。スポーツとごみ拾いを組み合わせた一般公募の大会で、制限時間内に街のごみを拾い集めて、チームごとに重さを競うというものです。健康経営と、自分たちがリサイクルを手がけているという、2つの意味を込めて企画しました。ウォーキングキャンペーンは年に数回実施していて、一定の歩数を歩いた社員には健康ポイントがたまり、評価にもつながる仕組みにしています。

奨学金とマイカーの支援制度

ほかにも、奨学金の返済を支援する制度や、車を購入したときにローンの一部を肩代わりするマイカー購入支援制度を新しく作りました。該当しない社員には、親孝行支援という形でサポートする仕組みもあります。

サークル活動とボトムアップ文化

社員が2人以上いればサークルを新規で立ち上げられる制度もあって、活動報告を出してくれれば月1回の活動で1人あたり1,000円を助成金を支給しています。こうした取り組みは、私からお願いしなくても下から自然に上がってくるようになり、ボトムアップの文化が育ってきていると感じています。

すべての人を幸せにする展望

75年目を迎えた中期計画

私の長期的な経営ビジョンは、当社に関わるすべての人を幸せにすることです。ただ、これはとても広い話なので、まずは社員の幸せを実現することを優先しています。自分自身が働いていて幸せでなければ、人を幸せにすることはできないと思うからです。

先輩たちが積み上げてきたものがあってこその75年で、私はまだその中の10年ほどしか関わっていません。今期から5か年の中長期経営計画を立てていて、テーマは当社に関わる全てのステークホルダーに対し「期待を超える」ことです。

ステークホルダーへの誓い

地域に対してはCO2削減目標を達成したり、サーキュラーエコノミーやリサイクル率の向上で地球環境をよくしていったりすることはもちろん、地域のインフラとして、当社がいなければ地域社会が回らないくらいの存在感を持つ会社にしていきたいと思っています。取引先に対しては、仕入先や販売先、協力会社の期待を超える価値を提供して、その対価をしっかりいただくこと。みんなが期待しているところに応えるだけでなく、潜在ニーズまで捉えて期待を超えていきたいと考えています。

夢をかなえる人事制度づくり

社員に対しては、一人ひとりの夢をかなえるための人事制度を、今ちょうどゼロから作っているところです。まずは自分の夢を設定してもらいますが、それは会社を通じた夢でなくても、プライベートの夢でもかまいません。個人の夢と会社の発展をつなぎ合わせることができれば、私が今まで想像していなかったようなことも実現できるかもしれない。それが個人のモチベーションにもつながっていくはずです。口で理想を語るのは簡単ですが、実際に制度として作るのはかなり苦戦しているところでもあります。

 

学生へのメッセージ

学生のうちに経験を積む大切さ

自分の経験や、後悔したことからしか語れませんが、学生のうちにとにかくいろいろな経験をしておくことをお勧めします。見る、聞く、触る、食べる。ネットで調べたり動画で見たりするだけではなく、実際に行って、実際に見て、実際に感じることが、いろいろな選択肢を広げるきっかけになりますし、社会に出たあとのよいネタにもなると思います。学生はお金はないけれど時間があります。働き始めるとお金はあっても時間がなくなりがちなので、学生のうちに、いろいろなことを経験して、それを自分でプランニングしながら、いろいろなことに首を突っ込んでみるのがいいと思います。

空気を壊してくれる人材を求めて

当社には、まだ積極的に挑戦できていない社員もいますし、上司の側にもそこまでしなくていいと思っている人間もいると思います。だからこそ、その空気をぶち壊してくれる人を求めています。忖度しなくていいので、ガンガン来てもらえる人材であれば、私は承認します。一緒に土俵を整えてくれるような人が、今のうちにはすごく向いているのかなと思います。

編集後記

早稲田大学3年生で、学生起業もしているので、ビジネスの話を聞く機会は多いのですが、今回のお話はとても刺さるものでした。夢がなかったという学生時代から、社員の幸せを起点にした経営にたどり着くまでの道のりに、勇気をもらった学生は多いのではないかと思います。資源循環という社会的な役割を担いながら、社員一人ひとりの夢にも向き合おうとする姿勢が印象的でした。挑戦したい学生にとって、刺さるメッセージの多い取材になったのではないでしょうか。