ものづくりの原点は、チームでつくる楽しさ
小中高とバスケットボール一筋で、チームスポーツにずっと関わってきました。それ以外にもバンドをやったりしていて、一人で何かをするというよりは、チームプレイで何かをつくるという体験がずっと好きだったんです。何かをつくって、それで誰かが喜んでくれる。そういう感覚が好きで、学校の外でも学生団体を立ち上げたりしていました。振り返ると「つくる」ということに、ずっとこだわっていたなと思います。
学生団体では、主に教育系の団体を続けていて、外部から講師を呼んだり、グループディスカッションやワークショップを毎月企画したりしていました。講師の方は、どこかの会社の社長さんもいれば、小さな塾の塾長さんもいて、かなり幅広い方にお声がけしていました。協賛してくださっている企業様経由でつながせていただいたりして、自分でアポイントを取りに行っていた感じですね。
大学は半年だけ通った
大学に入学する前、1年ほど海外に出ていました。エージェントを使うような形式的な留学ではなく、フィリピンのセブ島、マニラやほかの島々もいろいろ回りながら、転々と過ごしていました。英語の勉強をしに行ったという感覚でもなく、本当に自由に過ごしていた期間です。海外から帰国してから大学を受験しています。
入学したのは 2019年、ちょうどコロナ禍が始まったタイミングでした。入学式もなく、新歓もサークル活動もない。大学生らしいことが何もないまま春学期が終わって、「やることがないな」という気持ちが強くなり、秋から休学しました。大学1年生の秋から、ずっと休学を続けていたんです。大学そのものに強い思い入れがあったわけではなかったので、実務経験を積むことを選びました。
休学中はスタートアップ2社で働かせていただき、事業企画や経営企画、デザイン業務、営業まで一通り経験しました。本当に小さな組織だったので、幅広い権限をいただけたのが大きかったです。この経験をもとに、起業へとつながっていきました。
二十歳、流れに乗って起業した
起業したのは、ちょうど二十歳のときです。「絶対に起業しよう」という強いモチベーションがあったわけではなく、父も起業家だったこともあって、起業すること自体のハードルがそれほど高くなかったんです。友人と一緒にプロダクトをつくって売ってみたり、働きながら個人で活動したりしているうちに投資家の方と出会う機会が増えて、その流れのまま起業に至りました。
金融やWebマーケティングは、前職の事業とはまったく異なる領域で、それまで一度もかじったことのない分野でしたが、そこからのスタートでした。振り返ると、毎回まったく違うバックグラウンドから事業をつくっているなと思います。
事業は三度姿を変えてきた
会社としては、今年5月に6期目を迎えました。一番最初に手がけたのは、飲食店のスタッフや美容師の方に向けたデジタルチップサービスです。QRコードを読み込んで、担当してくれた方にチップを渡せるというサービスでした。ちょうどコロナ禍の真っただ中で、皆さんが外に出られない状況が続いたため、早々に撤退することになりました。
次に取り組んだのが、少しずつ貯金をして商品を購入すると割安になる積立購入のサービスです。弊社のECモールで運用するパターンと、導入企業様の自社ECに決済機能として組み込んでいただくパターンの二つを用意しています。
そして今、新規事業として力を入れているのが「UGC Maker」です。Webマーケティングにおける動画広告やSNSコンテンツを、弊社のAIでまるごと制作できるサービスで、私たちはこれを「クリエイティブエージェント」と呼んでいます。
個社ごとにつくり、価格は五分の一
UGC Makerの強みは、個社ごとのカスタマイズにすべて対応していることです。お客様がつくりたい動画のイメージを、そのまま形にできるようにしています。価格感も競合他社と比べて五分の一ほどに抑えていて、1本2,000円から動画を制作できます。この価格帯と柔軟な対応が、喜んでいただけている理由かなと思っています。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)に着目したのは、一緒に事業をつくっていたメンバーが自らプロダクトをつくる人で、その姿を近くで見ていたことがきっかけです。AIによって「つくる」ハードルは大きく下がったものの、「伝える」手段はまだ確立されていないと感じていました。地方には、食品など、こだわり抜いてつくっているのに伝える手段がなく、埋もれてしまっているものがたくさんあります。私は出身が鹿児島県で、同級生に農業を継いでいる人がいて、同じような課題を近くで見てきました。そうした身の回りのニーズが、事業の原点になっています。
大変だったのは、忙しさとマネジメント
創業からこれまでで大変だったことは、正直たくさんあります。スタートアップは日々方針が変わる世界で、お客様のニーズに応え続けながら、社内のマネジメントも整えていく必要があります。シンプルに、やることが多くて忙しい。日々やることに追われています。
創業メンバーが離れることになったときは、こたえました。起業する前からの付き合いでしたが、退職することになったんです。原因は、私自身がマネジメント不足だったと思っています。当時は出張続きでオフィスにもほとんどいない状態で、一対一で話す時間をつくっても、リスケジュールが続いてしまっていました。
ものづくりへの敬意は、自分自身がデザイナーだったから
私自身もものづくりが好きで、デザイナーとして手を動かしてきました。だからこそ、ものをつくっている方へのリスペクトがとても強いんです。一生懸命つくっても、まったく売れないことがある。その辛さを乗り越えてヒット商品を生み出す尊さを、身をもって知っています。明確な原体験というよりは、今も現在進行形でものづくりに関わっているからこそ持っている感覚だと思います。
日本は、ものづくりと対話しながら成長してきた国だと思っています。上場企業を見ても、伸びているのはソフトウェアよりも製造業です。地方にも東京にも、資本主義的な損得ではなく、こだわりや情熱でものをつくっている方がたくさんいます。そうした方々には、社会に届ける手段がない場合が多い。だからこそ、彼らのこだわりや情熱を、より多くの人に伝えたい。それが弊社として社会に貢献したいことです。
AIがつくる敷居を下げても、「伝える」ことの価値は変わらない
AIとものづくりというと、漫画や映画を簡単につくれるという話に注目が集まりがちです。ただ、本質はそこではなく、つくったものをどう届けるかにあると思っています。弊社も、ただ動画をつくるだけでなく、それをいかに人に届きやすい形に加工するかを大切にしています。
これまではAdobeのような専門ツールを扱えることが「つくり手」になる条件でしたが、それが必要なくなり、誰もがものづくりに参加できるようになりました。日本らしい、細部へのこだわりを世界に発信できる可能性が広がっていると感じています。実際、代理店を挟んでもバズるだけの動画しか出てこないという声をお客様からいただくこともあります。バズって売り上げにつなげることも大事ですが、それと並行して、つくり手の情熱やこだわりをきちんと乗せることが、なにより大切だと思っています。
学生へ伝えたいこと
半年後どころか、1か月先すら読めない時代になりました。AIによって地味な作業が代替されていくほど、人と人とのフェース・トゥ・フェース(対面)の関わり方が重要になってくると思います。礼儀のような細やかなところで差がつくようになる。AIがどれだけ進化しても、最後に「この人にお願いしたい」と思われるかどうかは、結局は人間関係だと思うんです。だからこそ、AIで時間を短縮すること以上に、自分らしさにこだわることが、これからより大切になってくるのではないでしょうか。
弊社に合う人物像として大切にしているのは、素直でいい人であることです。スタートアップは方針が目まぐるしく変わる環境ですが、それにきちんと順応してやりきれる方は、インターンとして関わってくださっている大学生の方でも活躍しています。
編集後記
今回のインタビューを通じて、印象に残ったのは黍田さんの「ものづくりへの敬意」でした。ご自身もデザイナーとしてものをつくる大変さを知っているからこそ、地方の生産者やつくり手のこだわりを社会に届けたいという想いに、深い説得力があります。AI時代だからこそ人間らしさが問われるという言葉は、これから就職活動をひかえる私自身にとっても、大きな気づきになりました。