父が作った会社を、20年前に継いだ
私がいまの会社を継いだのは、20年ほど前のことです。会社自体は、私の父が創業しました。大学を卒業したあと、しばらく海外をふらふらしていた時期がありまして、いわゆるバックパッカーのような生活をしていたんですよね。
いったん日本に戻って、別の会社で働いた時期もありました。それでもまたバックパッカーのような旅に出てしまって。継いだ理由も、正直そこまで高い志があったわけではないんです。ただ、いまはこの仕事について「楽しくなきゃ仕事じゃないな」というふうに思っています。楽しみながら働く、というのをモットーにしていますね。
印刷会社から、幅広い制作会社へ
弊社はもともと、父が創業した当時は印刷会社としてスタートしています。いまは印刷やデザインに加えて、動画制作、WEB制作、イベントのブース制作や運営まで、幅広く手がけている状況です。
私自身はデザインなどの制作はできません。基本的にはお客さまと話すのが私の役割で、技術者と私とでは、ものごとに対する温度感がやはり違うんですよね。そこには苦労してきた実感があります。
技術者とAI、そのあいだで揺れる価値観
今後、こうしていきたいという明確なビジョンがあるわけではないのですが、AIを取り入れつつ、AIだけに頼らず、人の手が加わるような仕事を続けていきたいと思っています。仕事はベーシックなものが基本になっていて、そのベーシックなものをいかに進化させるかが、いちばん大事だと考えているんです。
いまの課題としては、私自身が技術者の気持ちを理解しなければならない、といつも感じています。芸術と、商業としての作品や商品とのあいだで葛藤している技術者の気持ちを、理解できるようにならなければと思っているんですよね。
お客さまにも、AIの活用に理解のある方と、そうでない方がいて、両極端に分かれている印象があります。理解がないというのは、AIをよくわかっていないということではなく、AIを使うこと自体をよく思っていない、という意味です。逆に、どんどん取り入れたほうがいいというお客さまもいます。だからこそ、空気を読みながら進め方や素材の選び方を変えていかなければならないな、と感じています。
技術者のなかにも、AIをあまりよく思っていない人は少なくありません。たとえばイラストを描ける人がいたとして、いまはAIを使えば、10枚でも100枚でもいくらでも作れてしまいます。そうした表現は、誰かが描いたものを見て作り上げられている側面があるので、クリエイターへのリスペクトが足りないのではないか、という意見が社員から出てくることもあります。そこを会社としてどういう方向にしていくか、いままさに考えているところです。数年もすれば、AIが嫌だというお客さまはいなくなるかもしれませんが、いまはちょうど過渡期なのだと思っています。
貧乏旅行にはまった学生時代
学生時代にのめり込んでいたことといえば、貧乏旅行です。大きなリュックを背負って、ボロボロの格好で歩くような、いわゆるバックパッカーの旅ですね。インドでは数百円の宿に泊まったり、そのまま1年、2年と旅を続けたりして、世界一周もしました。
お金がなくなったら、イギリスやフランスで東ヨーロッパからの出稼ぎ労働者が泊まるような安宿に泊まって、しばらく働いて、また資金が貯まったら南米のほうへ向かう。一般的にイメージされるような、きれいなホテルに泊まる旅行とはまったく違う旅のかたちでした。テントを持ち歩いて、ホテルで部屋を取らず庭にテントを張らせてもらったこともあります。いかにお金を使わないかにこだわる旅にはまっていた時期でした。
いまも家族で海外に行く際は、あえて安い宿に泊まるようにしています。家族4人で1泊4,000円ほどの、決してきれいとはいえない宿です。子どもにそういう経験をさせたいという思いがあるんですよね。異文化体験は、高級なところに泊まっていてはあまり意味がないような気がしていて。現地の人と触れ合えるように、屋台でごはんを食べて、お腹を壊すくらいのことも含めて経験だと思っています。
楽しくなければ、仕事を選んだ意味がない
学生のみなさんに伝えたいのは、仕事はやはり楽しくなければしょうがない、ということです。自分が楽しめる会社で働くのが大前提だと思っています。つまらないと感じたら、すぐにやめて楽しいところを探せばいい。よく「3年は勤めるべき」といった言い方をされることがありますが、私はまったくそう思っていません。嫌だったら1日でも早くやめて、1日でも早く楽しい職場を見つけたほうが、人生は楽しくなると思うんですよね。
弊社には「『Happiness』の環を広げる」という企業理念があります。自分自身がハピネスの発信源になるという考え方を、社員それぞれが意識していれば、自然と楽しい会社になっていくと思っています。
血の通った仕事が、弊社の強み
弊社は決して大きな会社ではありません。だからこそ、流れ作業にならず、一つひとつを自分ごととして、血の通った仕事ができるのが強みだと思っています。
編集後記
今回、木林さんにお話をうかがって、経営者としての姿勢と、一人の生活者としての価値観がまっすぐにつながっていることが印象的でした。とくに「楽しくなければすぐにやめていい」という言葉には、驚きとともに深く共感しました。AIと技術者の狭間で揺れながらも、答えを急がずに向き合おうとする姿勢から、多くのことを学ばせていただきました。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。