Salesforceの導入支援会社を17年間経営し、2年前にバイアウト(売却)。現在は、企業とお客さまをLINEでつなぐツールを開発する株式会社シーアールエムコネクトと、学習プラットフォームを運営する株式会社リアライズラーニングをはじめ、6つの法人を率いる。事業の構想を熱心に語ったあとに出てきたのは、「小学校の頃はずっといじめられっ子だった」という言葉だった。
バイアウト後も残した、自分にしか分からない事業
17年やってきた会社を、手放した
株式会社シーアールエムコネクトに至るまでには、その前段があります。もともと私は、Salesforceの導入支援をするITベンダー、株式会社ベスト・プラクティスという会社を17年ほど経営していました。その事業を2年前にバイアウトして、経営から退いたんです。
引き受けられるのが、自分しかいなかった
ベスト・プラクティスでは、Salesforceの構築事業とは別に、LINE WORKSとSalesforceを連携させるコミュニケーションツールの開発を進めていました。会社は手放したのですが、この事業が分かるのは私しかいなかったんですよね。そのまま残しておくと、いろいろな方にご迷惑をかけてしまう。それならばと、新しくシーアールエムコネクトという会社をつくって事業を引き取り、ツールの開発・販売を始めた。これが最初のきっかけになります。
「○○公式」から届いたメッセージを、人は読まない
差出人が変わるだけで、見え方は変わる
創業時からの事業の柱が、「CRMコネクト for LINE WORKS」というツールです。
皆さん、普通にLINEを使われていると思うのですが、システム側から見ると、「○○公式」というLINEの公式アカウントを使えば、自分のところの顧客管理システムから一斉配信することはできます。ただそうすると、受け取った側は「公式アカウントから来たもの」と見るので、自分宛ての個別のメッセージだと思って読む人はほとんどいません。宣伝だと思われて「ブロックしてしまおう」となる。当然、開封率にも差が出てしまいます。
これが、自分が契約したサービスを使っている会社の担当者、つまり個人の名前から届くとなると、話が変わります。自分への連絡だと思ってもらえて、開封率が上がったり、きちんとコミュニケーションを取ろうという意識が生まれたりする。差出人が変わるだけで、見え方はずいぶん変わるんです。
個人のLINEには、システムがつながる「口」がない
ただ、これをやろうとすると壁があります。一般の無料のLINEには、システムから命令を受ける口、いわゆるAPIがありません。個人アカウントで一つひとつ手で打つしかなく、件数が多いと全然回らないし、効率も悪い。これが、これまでの課題でした。
そこで使っているのがLINE WORKSです。もともとは社内のコミュニケーションツール、いわば「ビジネス版のLINE」として販売されてきたものですが、LINE WORKSを使っているユーザーは、エンドのお客さまの個人LINEと友だちになってやり取りができます。しかも、そのトーク情報を、法人のビジネス用LINEとして契約単位でまとめて管理できるんですよね。
履歴が残ることは、透明性が残ること
CRMコネクトは、このLINE WORKSと、世界でトップシェアを取っているCRM(顧客関係管理)ツールのSalesforceを連携させるツールです。お客さまの情報もトーク履歴もすべてSalesforceに集まるので、それを見ながら配信したり、絞り込みをかけたりできるようになりました。それでいて、お客さまから見た差出人は、友だちになった担当営業の個人名のまま。だから、開封率の高いアプローチができます。
さらに、これまで個人LINEでは見えなかった、担当営業がどんな交渉をしているのかも、すべてデータとして残せます。取引の健全性や透明性の確保にもつながるんですね。こうした橋渡しをするツールが、CRMコネクト for LINE WORKSです。
「使えるようになる」ところまでが、支援だと思う
日本語の情報が、まだ追いついていなかった
エンドのお客さま、つまり実際にサービスを使う個人のお客さまのLINEに、システムからアプローチできるようになったところで、次はSalesforceだけでなく、もう少し領域を広げようと考えました。
マーケティングオートメーションという製品群があります。特定のサイトへのアクセス履歴やページの閲覧履歴を登録・管理し、それを購買履歴などにもつなげることで、エンドのお客さまに適切な情報を発信していく。そういう思想のツールです。
その中に、Salesforceが2025年から販売を始めた「Marketing Cloud Next」という製品があります。まだ登場して間もないこともあって、日本語の情報があまりなかったり、公開されている記事がバージョンアップについていけていなかったりすることが多くありました。ただ、製品としての将来性と、CRMコネクトとの親和性の高さを感じたことから、Marketing Cloud Nextの活用を支援していくことにしました。
運用を代行しているだけでは、意味がない
Marketing Cloud Nextはマーケティングツールですから、ベンダーがずっと運用を代行するのではなく、マーケティング担当者が自分で使えるようにならないと、あまり意味がありません。そこで、eラーニングの形式で学べる「Marketing Cloud Next Learning Community」というラーニングサイトをつくりました。今はここに力を入れて取り組んでいるところです。
勉強したら稼げる仕組みを
教育コンテンツこそ、使い続けられるべきだ
もう一つ、株式会社リアライズラーニングという会社を経営しています。こちらも、ベスト・プラクティス時代からの流れで引き取った事業で、無料で利用できるe-learningサービスを提供しています。
少し前から、システム構築の世界では「エコシステム」という言葉が流行っています。一から自分ですべてを作るのではなく、既存の製品・サービスと組み合わせてシステムを構築するという思想です。ただ、私には、この「エコシステム」という思想こそ浸透したほうがいいと思っている領域があります。それが「教育」です。
今の日本では、学習指導要領が変わらない限り、勉強の内容自体も大きく変わるものではありません。エコシステムとして一度つくった教育コンテンツを、有用に使い続けていく形が向いているはずなのに、実際には、裕福な世帯ほど教育にお金をかけられ、学歴も高くなりやすいという状況があります。
ベスト・プラクティスの頃、さまざまなめぐり合わせで、NPOやNGOといった非営利団体のシステム構築支援をしていました。そういった支援をする中で、学校教育に馴染めない子どもたちに向けて学習会を開いている団体の話を聞いたことがありました。それなら、コンテンツをうまく使えば、もっと広く届けられるのではないか。そう考えたのが始まりです。
やってほしいことには、お金を払うのが一番早い
さらに、Web3(ブロックチェーン技術を基盤とした、次世代の分散型インターネット)のような概念を組み合わせれば、無料で学べるだけでなく、勉強することでより稼げるようにできるのではないか。そう考えて、海外法人を設立し、準備を進めています。
やってほしいことにお金を払うのが、私は一番正しいと思っています。みんなに勉強してほしいなら、みんなにお金を払うのが一番早い。そう考えてつくったのが、リアライズラーニングです。
大人版のキッザニアをつくりたい
「やりたいこと」と「向いていること」は、違う
先ほどは学生向けの構想でしたが、リアライズラーニングでの構想の一つに、大人向けの就業体験施設の運営があります。端的に言うと、大人版のキッザニアです。まずはライトでエンターテイメント性の高いものからスタートして、そこから大人向けのリスキリングにつなげていきたいと考えています。
はじめは週末などの短期間の体験や、地方への旅行と組み合わせて関係人口をつくりながら、現地で職業体験をするところまでをワンセットにできたらと思っています。
社会人になるときに、その職業を本当にやりたいと思って選ぶ人は、実はあまり多くないと感じています。「会社名」や「就業条件」で選ぶことが多いのではないでしょうか。事前に試してみることが難しい以上、それは当たり前だと思います。逆に、具体的にどういう仕事をするのかを少しでも判断できれば、就職のミスマッチは減らせるはずです。自分がやりたいことと向いていることは違うことも多いので、擬似体験を通じてすり合わせができたらいい。そう考えて、このテーマパーク的な構想にたどり着きました。
いまの課題は、パッと見て何のサービスか分からないこと
リアライズラーニング本体で扱う問題数は、現時点で約2万問まで増えました。ただ、今一番の課題は、パッと見て何のサービスか分かりにくいことです。認知を広げるために広告も出していますが、クリックはしてもらえても、サイトが素っ気ないので「怪しくないか」と思われてしまう。そこで、社会人向けのリスキリングと、小・中・高向けの学習コンテンツとで入り口を分けて、「キャリアモード」と「スクールモード」という形に、フロントのデザインを見直しているところです。
些細なことで、辞めさせない会社にする
中小企業の採用は、ずっと難しい
ベスト・プラクティスを17年ほどやっていた頃からずっと感じているのが、採用の難しさです。中小企業はなかなか採用が難しくて、だからこそ、一度採用した社員が、改善できる程度の些細なことで辞めてしまうというのは、一番避けなければいけないことだと思っています。
合わなければ、スイッチすればいい
やりたくないことは、誰でもやりたくないですよね。向いていないことをやらせると、どうしても生産性が落ちてしまいます。だからこそ、その人の適性に合った業務をどう割り振るかを常に考えていて、やらせてみて合わなそうであれば、他の仕事にスイッチしてもらうこともあります。
その人のパフォーマンスを100%出せる環境をつくることは、代表としての自分の判断でできる範囲のことです。だからそこを意識してやってきましたし、これからも変わらず大切にしていきたいと思います。
未来の学生たちへ——今がすべてじゃない
給食が、5時間目まで残っていた
私自身、小学校のときはずっといじめられっ子でした。当時は給食を全部食べなければいけないという決まりがあって、野菜が食べられなかった私は、毎日5時間目くらいまで給食が残っているような状態でした。そういう姿を見ると、子どもはいじめてくるんですよね。その後も、いろいろな人間関係の悩みがありました。
無責任に聞こえるかもしれませんが、今になって思うのは、「今がすべてではない」ということです。これまで、何度自分で終わらせようと思ったか分かりません。ですが、さまざまなめぐり合わせで人生を続けてくると、その時どれだけしんどくても、不安でも、嫌なことがあっても、時間が経てば薄れていくものだと分かってきました。
一番コスパがいいのは、「気にしない」スキル
だから、「自分」が嫌な思いをしているのであれば、無視していいし、逃げていいし、なんなら戦ったっていいと私は思います。「自分」を守ることが最優先事項だからです。ただ私の経験上、一番コスパがいいのは「気にしない」スキルです(笑)。そういった「雑音」を気にしないとスルーできるようになると楽ですし、放っておけば、そのうちなくなることも多いんです。
ただ、一つだけ注意点があります。いつも同じ嫌なことが起きたり、同じことを言われたりする時は要注意。そういう時は、自分に直すべきところがないか振り返ってみてください。
自分で終わりにするまでは、終わりじゃない
そうやって終わらせずに生き抜いてきた結果、いくつも会社をつくったり、バイアウトをしたり、小説を書いてみたりと、いろいろな人生経験を積むことができました。嫌なことがあれば無視していいし、気に入らなければ自分の身を守っていい。それで終わりということはなく、自分で終わりにするまでは終わりではありません。
今しんどい人、就職が決まらない人も、ちょうど時代が変わる時期なので、これから先の可能性はたくさんあります。目先のやりたいこと、やるべきことに注力していけば、きっとついてくるはずです。思い詰めずに、気楽にやってほしいと思います。
編集後記
今回、山本さんのお話を伺って、事業のスピード感と、その裏にある人への向き合い方のバランスに驚かされました。LINE WORKSとSalesforceをつなぐ発想も、リアライズラーニングの構想も、根っこには「届く形にする」「向いていることをやってもらう」という一貫した視点があるように感じます。いじめられっ子だったという過去から、今しんどい人へのメッセージが生まれていることも、とても印象的でした。就職活動を控える身として、今の経験も無駄にならないと勇気をもらえるインタビューでした。