インタビュー

「職場の“居場所”は、働く人の可能性を左右する」──オーストラリア出身の起業家が日本で挑む、企業文化の言語化

PROFILE
株式会社カルチャーリー 代表取締役社長
金澤ジョーダン

日本への関心と、異文化の中で見つけた“居場所”

特撮に夢中になった子ども時代

日本に来る前から、日本のコンテンツや言葉には強く惹かれていました。ハリケンジャーや仮面ライダーファイズといった特撮に夢中になり、そこから日本語や日本のコンテンツに関心が広がっていきました。だから高校を卒業したあと、大学入学前の1年間は岐阜に留学していました。

そのあとオーストラリアの大学に進んだんですけど、日本語能力を失いたくなくて、日本語に触れる機会を意識的につくり、日本語を使う環境を保ち続けていました。大学2年目には神戸大学に交換留学もして。実際に日本に住んでみると、人との距離感や社会との関わり方が、自分には自然に感じられました。オーストラリアでは意見の違いが人間関係に強く出る場面もありましたが、日本では自分にとってちょうどいい距離感がありました。その感じが、私にとってはとても居心地のよいものでした。

日本で就活、そして社会人へ

神戸大学に留学していた時期は、日本人と同じように就活もしていました。毎週水曜日に会社説明会に行ったりして。なかなかうまくいかなかったんですけど(笑)、最終的にはオーストラリアに戻ってジョブフェアで縁のあった企業に出会い、新卒社員として入社しました。

 

なぜ「企業文化」と向き合うことにしたのか

採用ミスマッチは、入社前後の期待のズレから生まれる

私がずっと気になっていたのは、優秀な人材であっても、力を発揮できるかどうかは、企業の環境や期待値との相性に大きく左右されます。もちろん改善が必要な文化もあります。ただ、多くの場合、問題になるのは単純な良し悪しではなく、本人と環境の相性や期待値のズレです。でも、その相性が事前にわからないまま入社すると、入る前と入ってからのギャップがものすごく大きくなる。

早期退職につながるコストは、企業にとっても本人にとっても大きいんです。採用にかかったコストが無駄になるだけじゃなく、本人にとっても、キャリア上の負担や迷いにつながることがあります。そのギャップをできるだけ減らすための仕組みを作りたい、というのが私の出発点でした。

企業文化は「企業文化は、簡単には変えられない」

企業文化は、組織の中で積み重なってきた成功体験や判断基準から生まれるものです。何が評価され、何が許容され、どんな行動が成果につながってきたのか。その積み重ねが文化になります。だから、それを変えるのはものすごく難しい。

だからこそ、変えるべきところは変えながらも、採用の入り口では今ある文化を正しく言語化し、正直に伝える必要があります。海外では「リアリスティックジョブプレビュー」という考え方があって、企業の実態や期待値、難しさも含めて事前に伝えることで、長期的に活躍できる人材と出会いやすくする考え方です。カルチャーリーの考え方も、この思想に強く影響を受けています。

 

カルチャーリーが提供するサービス

カルチャーリーは、企業文化・採用・組織づくりのズレを可視化し、採用やオンボーディングに活かせる形に整える会社です。

採用ミスマッチを防ぐ「Fit Signals」

今、特に力を入れているのが「Fit Signals」という採用ミスマッチ予防診断です。

採用ミスマッチというと、候補者のスキル不足や面接での見極め不足として語られることが多いと思います。でも実際には、会社側が入社前に伝えるべきことを十分に伝えきれていないことで、ミスマッチが起きることも少なくありません。

たとえば、「裁量があります」「スピード感があります」「主体性を大切にしています」といった言葉は、求人票や面接でよく使われます。でも、その言葉が具体的に何を意味するのかは、会社によって違います。

Fit Signalsでは、求人票や面接で候補者に伝えている期待と、入社後に実際に直面する現実のズレを整理します。会社の中では当たり前になっている働き方や判断基準も、外から来る人には見えていません。そこを採用前に言語化することで、入社後の「思っていたのと違う」を減らしていきます。

候補者を測る前に、まず会社側が「何に合う必要があるのか」を明確にする。Fit Signalsは、そのための診断です。

Culturally Insightsで文化を診断・言語化する

弊社では、まず「Culturally Insights(カルチャーリーインサイツ)」というサービスを展開しています。企業の文化や働き方の前提を診断・言語化し、求人票や採用コンテンツ、オンボーディングに活かせる形へ落とし込む支援です。

会社の中にいる人たちは、自分たちがどういう企業文化の中にいるか、実はよくわかっていないことが多い。だから、どういう人が活躍しやすいのかも、十分に整理できていないことがあります。まずその暗黙知を言葉にするところから始めます。

言語化した文化を、採用コンテンツに落とし込む

もう一つ注力しているのが、採用広報や文化発信のためのコンテンツ制作です。私自身、これまでポッドキャスト制作に携わってきた経験があり、採用コンテンツとしてポッドキャストを活用することをご提案しています。

ポッドキャストのいいところは、あまり編集しないことを前提にしているので、従業員の実際の声が届くことです。たとえば「チャレンジできる環境です」という言葉も、記事ではきれいに整えられがちです。ポッドキャストだと話した時の温度感がそのまま出る。職場のリアルな雰囲気を伝える媒体として、非常に相性がいいと感じています。

面接の場で「御社のポッドキャストを聞きました」と言ってもらえれば、それだけで企業と求職者の間に共通言語が生まれますから。

 

「誰もが居場所を見つけられる社会」へ

ミッションは、誰もが自分の居場所を見つけられる社会をつくること

企業文化は、私にとってあくまで手段です。本当に大切にしているのは「居場所」という概念で、ミッションは「誰もが『自分の居場所』を見つけられる社会へ」です。

仕事は、人生の中で非常に大きな時間を占めるものです。その時間を、自分に合わない環境で過ごし続けると、生活の質や自己肯定感に大きな影響が出ます。だからこそ、より多くの人が自分に合った職場を選べるように、企業文化を見える形にしていきたいと考えています。

他社との違い

海外では、企業文化そのものを採用や組織づくりのテーマとして扱う会社もあります。ただ日本の場合、企業文化の課題を解決しようとする時に、日本では、企業文化の課題に向き合う際、モチベーションサーベイやエンゲージメント調査など、先に手段から入るケースが多いと感じています。企業文化は分かりにくい領域だからこそ、正面から扱う企業はまだ多くないと感じています。だからこそ、私たちが正面から向き合う意味があると思っています。

小さく始め、専門家と連携しながら広げていく

現在は代表である私を中心に、デザイナーやライターなど外部の専門家とも連携しながら事業を進めています。文化や働き方の前提を、読み手にきちんと伝わる形まで整えるために、専門家との連携を大切にしています。

事業としての手応えが固まった段階で、少しずつ仲間を増やしていきたいと考えています。採用に際して大事にしたいのは、スキルだけでなく、価値観や働き方の前提が合うかどうかです。知識やスキルは後から伸ばせますが、互いの前提や大切にしていることが大きくズレていると、長く一緒に働くことは難しくなります。一緒に働く人とは、その相性や前提の共有を大切にしたいと思っています。

 

就活を前にする学生たちへ

これから就職を考えている方には、ふたつ伝えたいことがあります。

条件だけでなく、「環境」を見る一つは、入社する前にできるだけ環境面を把握してほしいということ。給与や知名度だけで判断するのではなく、その会社の文化、人間関係、実際の働き方をできる限り確かめてほしいです。それが事前にわかるほど、入ってからのギャップは小さくなります。

辞めることを怖がりすぎず、判断基準を持つ

もう一つは、辞めること自体を必要以上に怖がらなくていい、ということです。ただ、辞めるかどうかの判断基準はちゃんと持った上で決めてほしい。

「今はしんどいけど、この環境で自分が描く人材像に近づけている。成長できているし、やりたいことだから続けよう」と思えるなら、辞めない方がいいと思います。一方で、環境や人間関係がどうしても合わない場合には、次の選択肢を考えてもいいと思います。「石の上にも三年」という時代でもなくなってきているので。

大切なのは、「なぜ辞めるのか(あるいは続けるのか)」の判断基準を自分の中にちゃんと持つこと。その基準があれば、次の選択の精度はきっと上がっていくと思います。

 

編集後記

金澤さんのお話を聞いて、「企業文化の言語化」という切り口の鋭さに驚きました。就活生の私たちはつい、年収や福利厚生、企業の知名度で会社を選びがちです。でも金澤さんが言うように、どれだけ優秀な人でも「環境の相性」次第で活躍できるかどうかが変わる。それって、改めて考えると本当にそうだなと思います。「リアリスティックジョブプレビュー」という概念も初めて知りましたが、企業が自分たちの実態や期待値を伝えることで、むしろ長く活躍できる人が集まるという発想は、これからの採用のあり方を考えるうえで、とても重要な視点だと感じました。「誰もが居場所を見つけられる社会」というビジョンが、カルチャーリーのサービスを通じて広がっていくことを楽しみにしています。