株式会社LUNA STELLA(ルナステラ)で代表取締役をしております、小幡 心です。新宿・歌舞伎町でマジックバー「CUORE(クオーレ)」を経営するかたわら、マジシャンやパフォーマーの派遣、ライブ演出のサポートまで手がけています。今回は創業のきっかけから、マジック業界ならではの強み、そして学生のみなさんへ伝えたい「逆算の思考法」まで、ざっくばらんにお話しさせていただきました。
創業のきっかけ
余興のマジックが本業に
もともと携わりたかったのは、エンターテインメントの仕事でした。ジャンルはダンスでもマジックでも、なんでもよかったのです。最初はダンスのイベントを主催しており、ショーが終わったあとにお客様とお話しをする機会がありました。そのときに、トークよりも軽いマジックを見せたほうが喜んでもらえるのではないかと思い、余興としてマジックを取り入れてみたことがきっかけでした。
そうすると、メインだったはずのダンスよりも、サブで行っていたマジックのほうが好評になっていくという現象が生まれました。マジックを見たいと訪れてくださるお客様が増えていくのを感じ、この世界へ軸足を移そうと決心しました。
そこで始めたのが、マジックバーの経営です。あわせて、私自身も含めたマジシャンやダンサー、バルーンアートのパフォーマーなどを保険も含めて派遣する事業、そしてジャニーズ(現・STARTO ENTERTAINMENT)やavexさんのようなアーティストのライブで、私たち自身が出演するのではなく、出演者のキャスティングや演出を裏方として支える会社を立ち上げました。エンタメが好きで動いているうちに、気づけばマジックという一点に集約されていった、というのが創業の経緯です。
事業内容と強み
マジシャンは日本に300人
弊社の強みを説明するときによくお伝えしているのが、日本にいるマジシャンの数の話です。プロとして活動しているマジシャンは、日本全国で300人ほどしか存在していません。それも「マジックができる」という技術そのものを持っている方が、根本として数少なく在るのが現状です。
たとえば、舞台の演出でマジックを取り入れたいとプログラムを組んでいても、声をかけられる相手はその300人の中から選抜する他ありません。舞台をゼロから組み立てられるレベルのマジシャンとなると、日本で活躍している方は10人に満たない見解となります。テレビでスプーン曲げをしている方、貫通のマジックをしている方、それぞれ思い浮かべても、実際は1人か2人しかいないという正解にたどり着いてしまうかと思います。2026年を通して見ても、テレビに出演しているマジシャンも、おそらく3人ほどと、希少となっているのではないでしょうか。
新宿の1店舗という希少性
マジックバーという業態も、全国で90か所ほどしかなく、新宿には弊社の1店舗しかありません。同業がひしめく美容室のような業態だと、ホームページのSEO対策だけでも月数百万ほど投資されているお店もあると聞きます。本来ならば技術に使うべきお金を、集客の競争に使わざるを得ない状況にあるのです。
弊社の場合は前提として競合が少ないので、価格競争やSEOの過当競争に巻き込まれずに済んでいます。飲食店の余興としてよくあるのは、ケーキに花火を灯して店員が歌う、といった演出だと思いますが、そこにマジックという専門性を掛け合わせられること自体が、他社に真似のできない強みになっています。最近では、マジックだけでなく占い師をお店に招き、占いをパフォーマンスとして取り入れる展開も始めています。
今後のビジョン
現状維持は衰退という覚悟
創業から26年、おかげさまで顧客基盤はできています。ただ、同じことをやり続けていると、お客さまに指名していただけなくなってしまいます。「現状維持は衰退である」とはよく耳にするお言葉ですが、まさにその通りで、常に新しい技術や演出を発信し続けることを意識しています。占いのパフォーマンスを取り入れたことも、そうした発信の一環です。
ライブ演出はあくまで裏方
ライブパフォーマンスの演出についても、お手伝いさせていただく機会があります。ただ、大規模なライブを主催できる企業自体がソニーさんやLDHさん、STARTO ENTERTAINMENTさんなど、非常に限られています。弊社がそうした企業と直接つながりを持って新しい演出を考えることはあっても、自分たちでライブ自体を立ち上げることはできません。あくまでサポート側へ徹する立場です。
海外進出は劇場ごとに必要
海外展開について聞かれることもありますが、ハリー・ポッターの舞台のように、海外にはすでに別のパフォーマーの土壌があります。そこへ英語対応や渡航費まで含め乗り込んでいくことは簡単ではありません。実際、マジック界の第一人者であるMr.マリックさんでさえ、海外進出はされていません。本気で海外事業を考えるのであれば、劇場を実費で設立し、公演を所定の数まで企画するという規模感で思考を重ねることができなければ、成立しないと思っています。
マジック業界の舞台裏
世界大会で日本人が初優勝
テレビでマジシャンを見る機会が多いので、活躍している人も多いイメージを持たれるかもしれませんが、実態としては先ほどお伝えした通り、かなり少人数の世界です。マジックには3年に1度開催される世界大会があり、90年ほどの歴史の中で、去年(2025年)に日本人が初めて優勝しました。しかも22歳前後という若さでの快挙です。
マジシャンは実は3人チーム
マジシャンは1人で活動しているイメージを持たれがちですが、実際は3人チームで動いていることが多いです。実演する人、トリックやネタを考える人、マネジメントをする人という役割分担です。世界大会に出場するのも実演は1人ですが、その裏には演出やマネジメントを担うチームがいます。表舞台に立つマジシャンだけでなく、裏でネタを考える「脚本家」のような存在がいることも、この業界の面白いところだと思います。
学生へのメッセージ
マジックは数学に似ている
学生のみなさんやキャリアに悩む方へ伝えたいのは、「マジック的な考え方」です。これは数学の考え方によく似ています。数学では、まず答えを先につくります。たとえばアインシュタインの相対性理論も、先に「答え」となる結論があり、そこへ至る計算式を導き出していく。つまり、答えを最初に作った方が、真っ先に評価される世界です。
マジックも同じで、まず「こういう現象を起こしたい」という答え(結論)を先に決めてしまいます。たとえば「マイケルジャクソンを生き返らせたい」「スパイダーマンの映画の宣伝で、本物のスパイダーマンを瞬間移動させたい」といった依頼が来たと想定し、最初から「本物のスパイダーマンを登場させる」という前提を作ってしまう。そこから、どうすれば実現できるかを考えていくのです。
「無理」を最初に言わない
学生のみなさんにも、社会人のみなさんにも伝えたいのは、会議の場で「no」と最初に言わない方向を持ってほしいということです。「できる」という答えをまず出してしまって、そこから逆算する。お金が足りない、技術が足りないという課題は、後出しでいくらでも出てきます。それは出てきたときに、ひとつずつ解決していけば良いのです。
自分にはスキルのない技術があるのならば、そのスキルを持つ技術者を仲間にできたらいい。私自身、会社を企業したときも先に目標を決めており、そこから必要な許可や技術、人材を逆算して揃えていきました。「無理だよね」と先に否定してしまうと、そこで思考が止まってしまいます。
夢ではなく目標に変える
もうひとつ大事にしていることが、「夢」という言葉をあまり使わないことです。「夢」という言葉のままだと、本当に夢で終わってしまう気がするからです。たとえば「メジャーリーガーになりたい」を夢のままにせず、「目標」に変換してしまう。夢を目標へ変えた瞬間、どうすればそこに辿り着けるのか、具体的な道筋を考えられるようになります。漠然とした夢を、逆算できる目標へ変えること。これが、私からみなさんに伝えたい考え方です。
編集後記
今回のお話でいちばん印象に残ったのは、「答えを先に決めてしまう」という逆算の発想です。就職活動をしていても、つい「できない理由」を先に探してしまいがちですが、目標をゴールとして先に固定し、そこから必要なものを逆算していくという考え方は、キャリアを考えるうえでも非常に参考になりました。夢を「目標」に言い換えるだけで、行動が変わりそうだと感じています。