2代目、経営の立て直しから始まる
創業者ではなく途中参画だった
実は私は「創業社長」ではありません。私は途中から参画し、最初は事業の立て直しと言いますか、経営の立て直しのような状況から入りました。資金面だけでなく、創業期のバックオフィス面が構築しきれていなかったため、そこから始めました。
その後、諸事情あって、社長が交代することとなり、私が代表取締役の座に就きました。弊社の創業は、2014年4月ですが、私が代表に就任したのは翌年の2月だったと思います。それ以降、私が代表取締役を務めています。
もう1人、共同代表のような形で経営に携わっている役員がいまして、私が全社の経営状況を見つつ国内事業を管掌し、共同代表のような役員のほうは海外事業を管掌する形で役割分担しています。
事業は海外留学と国内DXの2本柱
事業内容は大きく分けると2つあります。1つは海外留学で、フィリピンのセブ島を拠点にした「ビジネステック留学」の「アクトハウス」です。以前は「IT留学」と呼んでいましたが、今は「ビジネステック留学」と呼んでいます。大学生~40代くらいまでの幅広い年齢層や社会経験を持つ方が参加しています。
ビジネステック留学の「アクトハウス」では、フィリピンで半年間生活しながら、英語とITのスキルを身につけてもらいます。カリキュラムや施設を弊社で用意して、企画運営の全てを自社でおこなっています。
もう1つは、主に国内が対象のDXソリューション事業です。ウェブサイトの制作やシステム開発、企業様のIT分野をはじめとする業務支援などをおこなっています。
アクトハウスを卒業された方の中には、フリーランスとして働きたいという人も多くいます。エージェント経由の場合、働く側に有利な環境をなかなか得にくいこともあり、卒業生が国内のDX事業にフリーランスとして参画してくれるケースがとても多いです。一般的な企業のように新卒・中途で採用するのではなく、留学に参加してくれた人たちがそのまま仲間になってくれることが、弊社らしさかなと思います。
前職までは私自身もITエンジニアで、専門はインフラ領域でした。サーバーやネットワークの設計構築のプロジェクトマネジメントを担当し、人材の調達や予算管理、プロジェクトの推進役などを経験しました。
資金繰りに奔走した10年間
最初の5年は資金繰りに奔走した
経営者の立場で一番きつかったのは、やはり資金繰りでした。創業からちょうど10年ほど経ちましたが、最初の5年ほどは本当に資金繰りに奔走していました。
金融機関は、立ち上がったばかりの会社には、なかなかお金を貸してくれません。実際、当時は実績もなかったですし、海外留学ビジネスが売上の大部分を占めていたため、金融機関は「B to Cのビジネス形態でどれだけ安定的に売上を出せるか」をかなり厳しく見ていたのだと思います。
また、「年商の具合や借入残高も見られる」ことから、それらの面で苦戦を強いられたところもあったかもしれません。当初は財務状況がボロボロだったこともあり、そこを「どのように安定させるか」に非常に苦労しました。事業運営というよりも、「資金をどうやって繋いでいくか」ばかり意識していた時期だったと思います。
そのため、一般的な資金調達の方法だけでは足りず、他にどんな方法が使えるのか、金融機関の担当者や保証関連の方々にあれこれと聞いて回りました。経営において「ファンドやエンジェル投資家(新規起業者に自費で出資をしてくれる投資家)に頼る」という発想をあえてもたず、金融機関からの「返済ありきの融資だけで何とかしよう」とずっと考えていたため、それも苦労の原因のひとつだったろうと思います。
幸いにも、融資していただける金融機関がいくつか見つかり、だんだんと経営状況も好転していきました。今では売上もかなり伸び、事業モデルの比率も変わったことから、資金繰りばかりに時間を割かなくても問題ない状態になっています。
自己資本にこだわった理由
なぜ、「外部資本を入れないこと」にこだわってきたのか。一言で言えば、「誰かに指示された通りにすることがあまり好きではない」からです。多くの経営者が考えることでしょうが、「自力でやりたい」という気持ちが強くあったのです。
そもそも、海外留学事業自体が、「若手人材の育成」のためなのです。「就職に失敗してしまった」、「美術や音楽などの芸術や芸事を追いかけてきたけれど、その道だけでは食べていけない」、「就職はしたけれど、上司と折り合わなかった」など、人生に悩んでいる方々が来てくれています。
「半年間も海外で勉強する」という経験は、人生でなかなかできないことでしょう。参加者たちは悩み、苦労し、時には不平不満を口にすることもあります。しかし、運営側からすれば、「卒業後の同期の絆はものすごく強く」映っています。それを見るのが本当に楽しくて、「この事業だけは絶対に無くしたくない」という強い思いがあります。
特殊な技術を持っていて、教えることが好きな人であれば、似たような人材育成モデルをやろうと思えばできます。実際、動画編集を教える学校を作った知人もいましたが、大規模資本の企業に買収されるか、廃業するかの2択となる様子を見てきました。知人の会社もかなり大規模な会社に買収され、最終的にサービスそのものがなくなってしまいました。
こうした栄枯盛衰を見ていると、「銀行からお金を借りて自力で頑張らなければ、サービス継続は難しいな」と感じます。言うなれば、「せっかく面白いサービスを作って運営しているのだから、なくさないように努力するしかない」というその一言に尽きます。
弊社に来てくれる人材は、ある種、「個性の強い人が多い」印象があります。「安定して同期と仲良く成長できればいい」という方も比較的多いですが、いわゆるゆとり世代やZ世代と呼ばれる方々は、私たちの頃と比べて元気がなかったり、チャレンジしようという気概を持つ人が減っているように感じます。その背景には世間の空気があるのかもしれません。しかし、弊社の「ビジネステック留学」の参加者には個性のある方が多いので、彼らを応援したい気持ちが強まりました。
AIの流行という新しい課題
「学ぶ意味あるの」という声
直近の課題として、留学事業に少し影響を与えつつあるものが、「AIの流行」だと感じています。「将来、プログラマーやエンジニアは不要になるんでしょう」などの声を聞く機会が増えました。ある種のポジショントークでしょうが、若い世代が不確かなネット上の情報を鵜呑みにして、「それが事実である」と思い込んでいるように見えてしまい、危機感を抱いています。
実際には、AIの後ろには、プログラマーがいれば、デザイナーもいる。背後に携わる人間が「全員不要になる」はずがないことは、少し考えてみればわかるはずです。しかし、誤情報を事実と信じている方々からは「わざわざお金を払って海外に行ってまでITを学ぶ必要があるの」、「そんなことをして、就職に有利になるの」という言われ方をされてしまう場面も出てくるようになりました。
そうは言っても、私が一番伝えたいことは、「ITを学ぶことや技術を磨くことが全てではない」ということです。6ヵ月間、英語やタガログ語でしか話が通じない世界で生活して経験を積んでいくことは、「まだまだ珍しい経験」かもしれません。しかし、それは何よりも得がたいものだと思います。
「それまでの生き方では、出会うはずのなかった人たちと出会い、将来のことや今の不安など、普段は口に出さないような話までしてみる」というのは、とても素晴らしい経験だと私は思います。そして、実際の経験でしか得られないものは、AIでは絶対に学べません。AIを使うこと自体は悪いことではありませんが、「AIを使いこなす人材になるにはどうすればいいのか」を学んでほしいというのが本音です。誤情報を鵜呑みにして、ムダだと決めつけず、あえて「ムダなことでもやってみる」というチャレンジ精神を持ってほしいと思っています。
留学中の授業でも、もちろんAIは使いますが、「なぜそうなるのか」という基礎、要するに、「仕組みや基本構造、設計」の部分はしっかりと勉強してもらいたい。なぜなら、基礎を語れる人材にならなければ、底の浅い人材になってしまうからです。ですから、この先も「ビジネステック留学」の参加者をはじめとする若い世代には、「搾取される側で終わってはいけない」ということを繰り返し伝えていきたいです。
若年層向けのマーケティングが課題
今の明確な課題は、留学事業の集客の勢いが少し鈍化していることです。「AIがあるから」という思い込みからか、あるいは背景にタイパ重視の空気があるからか、「海外に渡航してまで学ぶのはムダだ」と思われているように感じてしまいます。
そうしたことも踏まえて、「弊社はこうした考えのもとで、このような事業をおこなっています」という情報発信をさらに強化していく必要があると感じています。マーケティングの担当者は、私と同世代の40代後半の人間のため、若年層に対するアプローチとして、「40代は知らないが、若年層は利用しているSNS」を活用して、「若年層に向けた徹底的なマーケティング」にもチャレンジしていくべきだろうと考えています。
実は、留学事業を代理店に売り込み始めたのは、最近のことで、それまでは本当に自前でおこなってきていました。そうしたこともあってか、代理店の方々も弊社の名前は知っていても、販売先としては考えてこなかったのだろうと思います。今は徐々に「セブ島の英語留学」を扱っている代理店様にも声をかけ、取り扱ってもらえるよう営業をし始めています。ただ、本筋としては、代理店経由よりも、「弊社のことをしっかりと理解して、直接来て来てくれる方を大切にしたい」と思っています。そのため、「直販を増やす」ことが今の大きな課題です。
学生へのメッセージ
遠回りが人を成長させる
若い人たちに伝えたいことはただひとつ、「諦めないこと、ネバーギブアップ」です。自身にも言い聞かせている言葉ですが、実は、「案外難しいな」と思っています。
最近はコスパやタイパという考え方が強く、半年や1年程度で「これをやっていてもダメだ」と諦めてしまう人が多い印象があります。さらに感じるのは、多くの人が「答えを求めがち」だということです。わかりやすい例を挙げるならば、「これをやったら成功できますか」、「なれないならやらない」という考え方が非常に強くなっているように思います。
自分の人生を振り返ると、資金繰りで苦労した話も、最初から本を読んだり誰かに聞いていたりしておけば、もっと違うやり方があったのかもしれません。しかし、自分でやってみて「なんでこんなにムダなことをしているんだろう」、「なんでこんなに時間がかかるんだろう」という経験をしたからこそわかることだと思います。今までコスパ・タイパ良く進んでいたとしたら、「苦労したほうが良い」だなんて、大きな声では言えなかったでしょう。
実体験を明かすと、「印鑑が一つ足りない」、「実印でなければならないのに、違う印鑑を押してしまった」、「誤字訂正の仕方を間違えた」など、素人視点からすれば、「そんなことで」と思えるような理由で、役所から何度も書類を差し戻され、再度作り直して提出したという時期もありました。ムダなことをたくさんしてきたからこそ、「書類はしっかり確認しながら進めなければダメだよ」と言えるわけです。近頃は、インターネットで調べるまではできたものの、実行してうまくいかなければ、「もういいや」となって、諦めて帰ってきてしまうことが少なくないように思います。そして、それは「とてももったいない」と感じます。「ダメだったとしても、うまくいくまで何度もチャレンジして、壁を突破しようとしてみる」という経験を積まなければ、人として成長しないと思います。
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、「諦める」という選択肢は、「人生の成長そのものを諦める」ことだと思うのです。せっかく考える力を持って生まれてきたのに、簡単に諦めてしまっては、もったいないでしょう。言い換えるならば、「能力を生かせず、自身の持つ能力に勝手に蓋をしてしまっている」ようなものだと思います。だからこそ、何事に対しても諦めずに挑戦してほしいと強く思います。
引き出しの多い人生を
諦めないことは、「回り道をしてもいい」ということです。ムダに思えることほど、あとで誰かに話せば、面白がってもらえるものです。「人生の引き出しが増やす」と言いますか、「人生の引き出しが少ない人間」ばかりが増えれば、世界はつまらなくなってしまうと思うのです。「よく遊び、よく働け」、「よく食べ、よく寝よ」という言葉があるように、皆さんには余裕のある人生を歩んで行ってほしいと思います。
そうは言っても、実際には「余裕なんてない」かもしれませんが、余裕は最終的に生まれるものだと私は思っています。ムダに思えることでもチャレンジして、価値観が広がったからこそ余裕ができるように思います。ですから、諦めずに頑張ってほしいと思います。
編集後記
新村さんのお話からは、資金繰りに奔走した10年と若者への深い愛情がまっすぐに伝わってきました。特に印象的だったのは「回り道が人生の引き出しになる」という言葉です。効率や最短ルートを求めがちな現代だからこそ、あえて「ムダに思えることを選ぶ」という勇気の価値を教えていただいた気がします。学生である私自身も、つい答えを急いでしまうことがあるので、今日の取材を機に、遠回りを楽しむ余裕を持ちたいと思いました。