インタビュー

「負けん気だけは人一倍」――テレビ東京のADから、ゲームで社会課題に挑む起業家へ

「負けん気だけは人一倍」――テレビ東京のADから、ゲームで社会課題に挑む起業家へ
PROFILE
株式会社 Digital Entertainment Asset 代表取締役社長
山田 耕三

山田 耕三 X:https://x.com/kozo_tx

明るいけれど、運動はできない子どもだった

勉強だけは真面目だった

小学校、中学校の頃は、明るくて元気なんですけど、運動はできないタイプでしたね。どちらかというと、勉強を頑張るみたいな子どもで。中高は水泳部に入ってはいたんですけど、そこまで得意というわけではなかったです。

ちょうど小学校1、2年の頃にファミリーコンピューター、いわゆるファミコンが世に出てきた時代だったので、家庭用ゲーム機が普及していくのと一緒に大きくなった感じですね。だから、ゲームはずっと好きでした。

高校は、いわゆる進学校です。もう勉強するぞ、みたいな学校で。男子校で受験校だったので、それなりの青春はありましたけど、大した華やかさではなかったですね。

一人暮らしがしたかった

大学は関西にいたんですけど、東京に出たくて、東京大学に行こうと考えました。東京に出たい理由は単純で、実家を出たかったんです。実家から通うのは嫌だ、一人暮らしをしたい、という気持ちが強かったですね。

大学時代は、サッカーサークルを作ったり、バンドを組んだりして、それまでできなかった青春をなんとか取り戻そうとしていました。一人暮らしを始めて、遊びほうけるような生活に変わりましたし、東京の人がちゃんと標準語を話しているのに驚いたのを覚えています。あとは、一人暮らしを始めると親のありがたみがわかる、という話はまさにその通りで、何から何まで自分でやらないといけないことを実感しました。

テレビ東京で過ごした15年間

バラエティと音楽番組を担当

新卒では一浪一留と少し遠回りをして、2002年にテレビ東京に入社しました。そこから15年間、ずっとテレビの制作現場にいましたね。担当していたのは、バラエティ番組と音楽番組の領域です。みんな一緒で、アシスタントから入ってディレクターになり、最後はプロデューサーをやる、という流れでした。

バラエティでいうと、「やりすぎコージー」がゴールデン帯で放送されていた頃にディレクターをしていました。音楽番組は、演歌や歌謡曲からJPOP、いわゆるアイドル音楽まで手掛けていて、モーニング娘。系からジャニーズジュニア系まで、幅広く関わっていました。

コンプライアンスなき現場

当時のテレビの世界は、まだコンプライアンスという言葉がない時代もあって、朝まで作業するのは全然当たり前でした。体調を崩している暇もなかったので、むしろ元気だったくらいです。今はコンプライアンスが守られる世界に変わりましたが、それでもADさんの現場は続かない人が多いと聞きますね。制作会社さんだと、新卒で入っても半分以上辞めてしまう、という話もあるくらいです。

そんな環境でも、心が折れそうになったことは特にありませんでした。それよりも、のし上がってやる、形にしてやる、という負けん気というか怒りのようなものが、ずっと持続していた感じですね。それが続ける原動力だったんだと思います。

インターネットと出会う

テレビ東京時代、ちょうどインターネットが勃興する頃だったんです。もともとテック好きなところがあって、2011年くらいから、インターネットとテレビ地上波をどう連動させるかという取り組みを自主的に始めました。そこから辞める2017年末まで、6年以上はインターネット×テレビにかなり力を入れていて、時代とマッチングしたというか、やや時代に先行したおかげで、非常に仕事が取れる体になっていました。

ABEMA TVも2011、2012年あたりに立ち上がっていましたし、LINEさんやYahooさん、YouTube、Googleもその後に続きます。プロ仕様で動画コンテンツを作れて、なおかつインターネットもわかる、という人材は、当時まさに引く手あまたでした。会社の中でもいろいろな案件をうまく成立させられていたので、これは自分でやったほうがいいだろうと考えて、2017年いっぱいで円満退社しました。

いろいろ手を出した末に、ゲームへたどり着く

一人で番組制作会社を設立

2018年からは、まず自分のテレビ制作会社を一人で立ち上げて、番組制作の事業をスタートさせました。テレビ東京を辞めたことで、そこでは到底できなかったことにいろいろ挑戦できるようになったんです。舞台演劇のプロデュースに携わったり、タレントYouTuberの事務所をやってみたり、VRやXR系の取り組みをしたり、人工衛星を飛ばすプロジェクトに関わったりもしました。

その中に、暗号資産やブロックチェーンの話もありました。これはテレビ東京にいてはできなかったものなので、気合を入れて取り組んでいたら、そこが一番芽を出して、今につながっています。

Play to Earnブームと崩壊

そもそものスタート地点は、暗号資産が世界中でどんどん発行されていた2017、2018年という時代です。テレビ東京を辞めて、絶対テレビ東京ではできない仕事のひとつとして、暗号資産発行に取り組み始めました。共同代表の吉田直人(通称:ごろうさん)は、もともとゲーム会社を経営していた経緯があって、発行した暗号資産とゲームを組み合わせ、遊ぶとお金がもらえる「Play to Earn」をやりたいと言っていたんです。

それはなかなかのチャレンジだけれど面白そうだ、ということで、Play to Earnというジャンル自体を、世界に先駆けて立ち上げました。その後、暗号資産が稼げるゲームができあがったんですが、同じ時期に世界中でも同じようなムーブメントが起きて、バブル的な様相を呈していました。

そのバブルは2年ほど続いて、結局崩壊しました。お金を配って遊んだらお金が稼げる、という仕組みなので、お金が配られ続けて立ち行かなくなり、いろいろなゲームが閉じていったんです。私も、これは持続性にかなり問題があるとすぐに気づいて、どうしたものかと考えました。

ゲームは仕事に結びつく

そのときに至ったのが、ゲームの中でお金が動くというのは、仕事に近い話なんじゃないか、というアイデアです。ゲームが仕事に結びつくという発想から、課題解決ゲームという方向につながっていきました。お金を払ってくれる人たちが外側にいて、それを必要とする仕事とうまくマッチングできれば、報酬がもらえるゲームというもの自体は、持続不可能どころか、むしろ必要なことだという考え方です。

最初の事例が、インフラ点検のゲームでした。実際に必要とされる仕事を、みんなで分け合いながらこなして、全体としては効率化する、という流れにつながっていったんです。

なお、共同代表の吉田直人(通称:ごろうさん)とは、私がテレビ東京にいた時代からの友人で、年齢は一回りほど違いますが、彼が上場会社の社長で私がテレビ東京のプロデューサー、というような関係でした。私がテレビ東京を離れたことをきっかけに、一緒に面白いことをやろう、という話になったのが始まりです。

ゲームで社会課題を解決する会社

インフラ点検をゲーム化

目下、デジタル・エンターテイメント・アセット社(DEA社)が取り組んでいるのは課題解決ゲーム、いわゆるゲーミフィケーションの領域です。普通のゲームはカスタマー向けの課金でマネタイズしますが、弊社はまったく違う形で、事業者向けや政府自治体向けに売り上げを作る事業として、この領域で一番を目指しています。

代表事例は、東京電力グループ関連会社と共同事業としてサービス提供している、インフラ点検ゲーム「ピクトレ」です。今は3年目に入っていて、電力会社やNTT東日本株式会社、NTT西日本株式会社など、幅広いクライアントに広がっています。インフラ点検にかかる人件費削減や人手不足の問題を解決する事業として、確立してきた状態です。

浮いたお金がゲームの原資に

企業がお金を払って、こちら側が受け取る、というのが基本的なマネタイズの形です。電力会社や通信会社は、もともとインフラ点検にお金を使っています。たとえば電柱だと、年間の点検人件費に大きなコストがかかりますが、もしそれを半分にできれば、インフラ事業者さんはその分の費用が浮くわけです。もちろん浮かせたいですよね。

そのお金を使って、ゲーム側に仕事を頼んでもらう。すると、ゲームユーザーさんが、本職の電柱点検の仕事をする人に代わって、写真情報を集めてきてくれる、という仕組みです。インフラ点検のほかにも、地域創生や障害者就労、健康促進など、いろいろな分野でゲーミフィケーションを活用しながら、企業さんや自治体さんと連携して事業を進めています。

社会にないものを広める難しさ

今もずっと大変なのは、社会にまだ確立されていないものを立ち上げることです。ある程度受容される形ができてきたとはいえ、まだまだ知らない人のほうが多いので、ゲーミフィケーション領域が社会に受け入れられていくこと自体が、まずもって大変なところですね。

その分、まだ誰も知らない、世界でも成立していない部分へのチャレンジなので、やりがいはありますし、ちゃんと成し遂げられれば大きなリターンがありそうだとも感じています。広めていくために特別にお金をばらまくことはできないので、課題に関連する人たちをしっかり巻き込みながら、理解してもらって認知を上げていく、という地道な作業を続けています。インフラ点検なら、関わる事業者さんや主体の方々と情報交換をして知ってもらったり、地域創生なら各自治体さんと繰り返し話して、一緒に実験してみようというところを見つけたり。本当に泥くさい作業の積み重ねですね。

世界に広がるソリューションを目指して

ブロックチェーンが基盤にある

弊社はゲームを扱っていて、もともとブロックチェーンテクノロジーを幹としてできてきた会社なので、コンセプトとしてはグローバルなんです。今は日本の株式会社DEAという形でやっていますが、サービス自体はすべて世界に展開できるものですし、解決するべき課題感も、基本的には世界中が共通して持っているものです。インフラの話、地域を盛り上げる話、高齢者の話、障害者の話、二酸化炭素の話。いずれも世界的な課題を、ゲーミフィケーションを通して解決していく、というのがコンセプトです。

日本の企業が、世界が採用するソリューションを作り上げる、というシナリオは非常に美しいですし、あるべき姿だと思っています。日本はコンテンツの部分でひとつのポジションをすでに持っている国です。単純なエンターテインメントはもちろんですが、こういうふうにひと工夫凝らして世の中を良くする、という日本人ならではの工夫が、世界のスタンダードになるといいなと思っています。

今はまだ大型IPとの連携事例はそれほど多くありませんが、世界に通用する、本当に大きな社会課題を解決するゲームに、既存の大きなコンテンツIPが連動したり、あるいは私たちの課題解決ゲームの中から、次世代のポケモンのようなコンテンツIPが生まれてくることもあるかもしれません。純粋なエンタメ以外にも、日本のエンターテインメントができることがきっとある、と感じていて、それを実現するのが今後のビジョンです。

泥くさく広めながら、楽観もする

ゲームソリューションを作っても、それぞれの地域でそのまま使えるかどうかはわからないところなので、これも泥くさく根気よく、地域ごとに受容されていくような作業が必要だと思っています。ただ、デジタルソリューションのいいところは、Facebookのようなサービスが、地球上のほとんどの地域に浸透した、ということが起こりうる点です。その部分は一部楽観的に考えながら、地道に広めていくつもりです。

隠れた力を、楽しくつなぐ

弊社のミッションバリューは、みんなの隠れた力をゲームを通して発見して、形に見えるようにして、それを必要としている人につなぎ込む、しかも楽しくつなぎ込む、というところにあります。これが、弊社がやろうとしていることのひな型というか、土台の部分だと考えています。

学生時代は、狙って自分のスキルを上げて、社会が必要とする、あるいはお金が稼げるスキルを身につけよう、と頑張っている方が多いと思います。ですが、実は社会はもっといろいろな能力や属性を必要としているんです。就職試験やお金が儲かる人気企業で求められる能力だけがすべてじゃないんですよね。人生全体で見ると、学生の間に伸ばさなきゃと思っているものだけでなく、もっと多岐にわたる能力が必要とされたりします。

もちろん、学生さんは頑張ってひとつずつ伸ばせるところを伸ばして、経験するべきことを経験していくのが本道だとは思います。ただ、これからの時代は副業のようなものも社会的にどんどん受容されていきますし、自分たちはいろいろなことができるんだ、ということを知ってもらうためにも、ぜひ課題解決ゲームに触れてみてほしいと思います。自分ができることを世の中に還元していく、そういう体験や成功体験が積み重なると、社会はとても良くなるでしょう。自分の幅を広げる意味でも、社会に出て、ぜひ課題解決ゲームを触ってみていただければと思います。

編集後記

今回、はじめてゲーミフィケーションという事業に触れさせていただきました。ゲームというと娯楽のイメージが強かったのですが、インフラ点検や地域創生など、社会課題の解決に結びつくという発想がとても新鮮でした。テレビ東京時代の現場経験とPlay to Earnの失敗から学んだことが、今の事業の土台になっているというお話が印象的です。学生として、スキルアップばかりに気を取られがちですが、社会が本当に必要としていることに目を向けるきっかけをいただきました。貴重なお時間、ありがとうございました。