震災をきっかけに、食とエネルギーを見つめ直した
もともと私は技術屋なんですよね。東日本大震災が起きたあと、これからの日本にとって食とエネルギーの安全保障を確保することが、日本が生き残るためにきわめて重要だろうと思ったんです。当時、経営していた会社でスマート農業の開発をおこなっていたんですけれど、そのなかで農業のこれからを考えるようになりました。
異常気象が続いたり、農業従事者の高齢化がどんどん進んだりしているなかで、植物工場という選択肢が改めて注目されるはずだと考えたんです。以前、三菱化学(現・三菱ケミカル株式会社)にいた頃、植物工場の開発に少しだけ関わったことがあって植物工場はコスト的に厳しいと思ってました。その後やはり植物工場は重要な技術だと考え直し、私はLED照明の専門なので、そこに突破口があると思ったんです。当時の植物工場業界にはLEDの専門家がほとんどいなかったので、そこを突き詰めれば既存の植物工場と差別化できるのではないかと。コストを抑えた栽培方式を開発できる、そう考えてエコデシックを創業しました。
システムは思うように売れなかった
創業当初は、植物工場のシステムそのものを販売するモデルでした。ただ、お客様候補に融資をしてくれるはずの銀行が植物工場業界の苦戦を知っていたので、なかなか融資が下りず、契約寸前まで進んでもお客様を獲得できないことが続いたんです。
その間も技術開発は止めませんでした。世界でいちばんエネルギーを使わず、いちばん栽培速度が速い技術だという自負はあったんですけれど、なかなか世の中に受け入れてもらえなくて。売り上げが伸びず、自分のお金を投じて技術開発だけは続けてきたというのが、あの頃の実情です。
「まず収益性を示す」という発想転換
数年前から、事業モデルの転換を図りました。システムをすぐに買ってもらえないのであれば、まず自分たちで植物工場を作ってしまおうと、都市型の遊休物件を使って工場を作り、地産地消で野菜を販売するモデルを実証し、そこで得られた結果をもとにフランチャイズ化を図るというモデルです。自社工場はいわゆるショールーム的な働きをします。
従来の郊外型の大型工場は、正直ほとんど失敗しています。野菜の栽培には繊細な条件管理が必要なのに、大きな工場だと上と下で温度を均一にするだけでも一苦労なんです。だから、小型の植物工場でないと制御が効かないと考えました。加えて、輸送コストの問題も大きい。空気を運んでいるようなものですから、ぎゅうぎゅうに荷物を詰め込めるわけでもなく、コストがかさんでしまう。だったら、都市の遊休物件を使って小型の工場を分散させ、輸送距離そのものを縮めればいい。そう考えたのが、今のモデルの原点です。
相鉄グループとの実証実験
このモデルを実際に形にできたのは、相鉄グループとの出会いがあったからです。きっかけは、相鉄グループが新しい事業モデルを実証する企業を募集する、アクセラレータープログラムでした。相鉄は鉄道会社であると同時に、宅地開発などをおこなうデベロッパーでもあります。当然、遊休不動産をお持ちですよね。それを工場として活用しつつ、輸送は鉄道を使えばおもしろいモデルが作れると考えて提案したんです。
相鉄グループには「相鉄ローゼン」というスーパーがあります。とくに駅の近くにあるローゼンなら、鉄道で運んですぐ店頭に並べられる。そう考えて提案したところ、相鉄自体も沿線の食に強い関心を持つ会社だったこともあって、まずは一緒に実証していこうという話になりました。現在は神奈川県横浜市の施設で、実証実験を進めています。
地産地消がもたらした、品質の向上
このモデルでいちばん驚いたのは、消費者からの評価です。午前中に収穫した野菜をお昼ごろから電車で配送すると、13時や14時にはもう朝どれの野菜が店頭に並ぶんです。短距離輸送で地産地消だからこそ実現できることで、輸送費だけでなく鮮度も高くなる。当初ねらっていたことがそのまま実現できていて、非常によく売れています。今、相鉄ローゼンは45店舗ほどあるのですけれど、まだ9店舗にしか販売していません。ここをどう広げていくか、例えば自社工場をもう少し増やすのか、あるいはフランチャイズ先を探すのかが、今の課題です。
資金調達のつまずき
正直に言うと、経営者としてもっとも足りなかったのは資本政策の理解だったと思っています。投資型クラウドファンディングを2回おこない、500人弱の個人投資家からあわせて5,000万円ほど調達しました。比較的お金を集めやすい方法だと説明を受けて、資金調達をおこなったんです。
新株予約権を発行するタイプのスキームだったので、その後1億円以上の本格的な外部資金調達を得たときの株価によって、転換価格が決まる仕組みでした。事業モデルを転換して自社工場の収益性が見えてきたタイミングで資金調達が必要になり、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資家に相談したところ、いくつかから興味を持っていただけたんです。ところが最後に「投資型クラウドファンディングをやっている企業に出資することは難しい」と言われてしまいました。
うちだけでなく、同じような規模を投資型クラウドファンディングで調達した知り合いの会社も、同じ悩みに直面していました。どうも非上場の企業が数百人の個人株主を抱えることで管理が難しくなってしまい、IPOの障害になると言うのがその理由のようです。そんなことは全く知りませんでしたし、今でも信じられない気持ちです。我々もIPOを目指して調達しており、投資型クラウドファンディングの個人株主もIPOというエグジットを期待しているわけですから、今は運営会社がこの状況を改善すべく何らかの対応をしてくれることに期待しています。
資金があれば、次に進める
今の課題は、はっきりしています。資金調達をしてショールームとして適正な数の工場の建設を行うこと。鉄道との連携以外のモデルも検証したいところです。人を増やすのも、採用を進めるのも、まずはお金がないと始まりません。現在の従業員は正社員が2名、パート従業員が6名ほど。フランチャイズ展開が目的ですから、植物工場をやってみたいという企業の募集も始めています。
フランチャイズに向くのは、自社の遊休不動産を工場に転用できる企業や、短距離輸送を専門にしている会社、青果の卸をおこなっている企業、サラダなどの食品加工をおこなっている企業などです。植物工場の野菜は洗浄の手間がかからないので、加工コストを抑えられるメリットもあります。行き着く先としては、スーパーマーケット自体が植物工場を持つという未来もありえると思っています。生鮮食品の流通ルートを大きく変えたいのです。
学生へのメッセージ
私はもともと技術屋なので、経営についてえらそうなことは言えません。ただ、どんなビジネスがおもしろいかを考えるとき、お金だけを目指して働くと、なんとなく虚しくなってしまうと思うんです。自分がどこで社会に貢献できるのか、それをよく考えて仕事に就くべきだと思います。
事業のアイデアは、ニュースをはじめいろいろな情報から得ました。関係なさそうに見える情報のなかにこそ、ヒントが隠れていることが多いんですよね。新しい技術のニュースを見たときに、「これは自分のところで何か関係させられないか」と考える。視野を狭めずに、興味のない情報にも触れることが大切だと思います。
昔の話を思い出すこともあります。昭和の時代、農家の方が収穫したばかりの野菜を電車で東京まで売りに来ていたことがありました。鉄道が野菜の輸送に使われていた歴史を知っていたので、鉄道の使いみちはあるはずだとずっと思っていたんです。
もうひとつ大事だと思うのが、篤農家(とくのうか)と呼ばれる農業の名人の技術をどう伝承していくかということです。お年寄りの方が多いんですけれど、その技術を古いからと見向きもしないのではなく、今後どう取り入れられるかを考えることも必要だと思います。世の中には、ヒントがたくさん転がっているんです。近郊農家であれば、都市型小型植物工場を運営するという連携もあり得ます。
編集後記
今回、後藤さんのお話を伺って、経営とは技術と同じように、ひとつひとつの課題に向き合いながら答えを探っていく仕事なのだと感じました。とくに印象的だったのは、投資型クラウドファンディングをめぐる資金調達の課題です。資金調達の手段ひとつで、その後の経営の選択肢が大きく変わってしまうというお話は、これから起業を考える学生にとっても、知っておくべき知識だと思います。植物工場という技術だけでなく、地域とのつながりを生かした事業モデルにも、多くの学びがありました。貴重なお話をありがとうございました。