就活をしたことがない
アルバイトから始まった講師人生
私はそもそも、就活というものをしたことがないんですよね。大学を卒業してからは完全にニートで、正直に言うとパチプロをやっていました。そんな状態を見かねた親戚が面接の話を持ってきてくれて、一回やってみろということでアルバイトを始めたのが最初のきっかけです。
そのアルバイト先が予備校でした。そのまま就職することになり、予備校講師として20年のキャリアを積んでいくことになります。なりたくてなったわけではなく、なってしまったという感覚に近いです。大学時代に家庭教師のアルバイトをしていたこともあって、先生という仕事自体は嫌いではなかったので、そこがマッチしたのだと思います。
真面目に就職活動をしてきた方からすれば、ふざけるなと思われるかもしれないくらい、ろくに何もしないまま始まったキャリアでした。それでも頑張れたのは、目の前に生徒という「お客さん」がいて、反応がダイレクトに返ってくる仕事だったからです。私にとっては、お客様の笑顔がなかなか見えづらい仕事ではなく「ダイレクトにお客様に提供できるサービス業」というスタイルが合っていたのかもしれません。
有名タレントの家庭教師に
予備校で20年のキャリアを積むなかで、9年前に、あるタレントの大学受験に向けた家庭教師を半年ほど務めたことがあります。当時10代・20代だった方のなかには、番組を見ていたという方も多いのではないかと思います。
この番組を通じて多くの芸能人やメディア関係者と関わることになり、直接”社会人”の方に教育を提供させて頂くことが、より社会貢献に近い場所で世の中に役に立つのでは、という思いがどんどん強くなり、独立したいという気持ちが芽生えていきました。
直面した経営課題と責任
道半ばでの挫折
現在の会社を立ち上げる前、私はある企業の経営に関わっていました。特許技術を基にしたアプリ開発を進めていましたが、組織内での深刻な不祥事により、事業の継続が極めて困難な状況に陥りました。経営陣の一翼を担っていた者として、当時の混乱を防げなかったことは私の重大な責任であると痛感しています。
結果として多くの株主や関係者の皆様にご迷惑をおかけすることとなり、今でもその申し訳なさは消えることがありません。当時は被告人席に立つという厳しい現実とも向き合いました。多額の負債を抱え、精神的にも追い詰められた時期でしたが、未熟だった自分を支えてくださった方々のおかげもあり、残された社会的責任を果たすために必死で動く日々が続きました。
誠意を尽くすことの大切さ
何百人もの方々に謝罪し続け、私財を投じてでもサーバーの維持や事後対応に全力で取り組みました。金融的な信用は一時失いましたが、逃げずに真正面から向き合う姿勢だけは崩さないよう努めました。この壮絶な経験を通じて、経営の重みと、人の信頼を守ることの尊さを身をもって学びました。
HIGH5という社名に込めた思い
スタッフを守るための受け皿
弊社の創業には、もうひとつきっかけがあります。先ほどの会社にジョインしていたネイティブ英語講師のオーストラリア人スタッフが、日本に永住したいと頑張ってくれていたのに、会社があのような状況になってしまいました。このスタッフを助けなければという思いから、きちんとビジネスができる受け皿として弊社を立ち上げることにしたんです。
最初はこの講師によるオンライン英会話スクールから起業しました。裁判の案件を抱えながらの船出です。1年半ほど無給の状態が続き、1,000万円ほどの借金を背負うことになりましたが、それでも真正面から受け止めて、仲間のためにも再起を図ろうと強く思いました。それでも自分もスタッフも生きていかなければいけませんし、社会人向けの教育という仕事自体にやりたい気持ちもありました。
世の中にハイタッチを
弊社の名前である「HIGH5」は、両手を合わせるハイタッチのことです。「教育を通じて世の中に多くのハイファイブを」というのが弊社の企業理念になります。社会人向けの教育によって社会に貢献し、提供先の企業や個人がより豊かになることで、世の中にハイタッチがたくさん沸き起こる。危機のなかで未来への希望を持って、そんな思いを込めて名づけました。
生成AI事業への大きな舵切り
ChatGPTとの出会い
弊社は現在、オンライン英会話スクールに加えて、SNS広告運用の代行、そして生成AIに関する法人研修事業をおこなっています。一見畑違いに見えるかもしれませんが、すべて社会人向け教育という文脈でつながっています。
予備校時代の20年間、私は校長として校舎運営、つまり経営そのものに携わっていました。広報部長として20年、集客や予算計画も担当してきましたし、アプリ開発の期間にはマーケティングやSNS運用も経験し、弊社の創業期には事業計画・バックオフィス全般などあらゆる業務を一人で行い、気づけばほとんどの業務に精通している状態になっていたんです。
そんななかで生成AIが世に出てきました。ChatGPTが3.5というバージョンで登場したのが2022年の11月です。そこからほどなく弊社でも活用するようになり、これは社会人が身につければ他のどんなツールよりも圧倒的にパワーがあると実感するようになりました。
AI研修サービスの誕生
このパワーこそを社会人向け教育の軸にすべきだという意思決定をして、1年ほどの研究開発期間を経て、2024年12月に「Next-Gen AI Workshop」というサービスをリリースしました。これからの次世代のAIにキャッチアップできるようにという思いを込めたサービス名です。現在は生成AI事業に9割5分ほどコミットしていて、講師として全国各地を飛び回っています。
AIは秘書であり部下である
能力の0.1%も使われていない
学生さんの多くのChatGPTの使い方は、悩み相談や調べ物、あるいは宿題のズル(笑)といったところではないでしょうか。また、多くの日本企業でも、文章の校正・作成、画像作成(最近の飲食店のメニュー表とかChatGPT作成のものが多いですよね)、壁打ち、などに留まっているケースが全体の90%近いのではないかと思います。ですが、それではChatGPTの能力の0.1%も引き出せていません。想像を1,000倍以上上回るような活用ができるのが実態です。
10ページほどの高品位なスライド資料を10分以内で作ることも、提案先企業ごとにカスタマイズした資料を自動的に作成することもできます。相当高度な財務分析、シミュレーション作成、各種戦略書作成、顧客管理・売上管理等の自動化、3Dモデリング画像作成、設計図作成、、、もはや一般社員の日常業務を相当代替できるレベル、専門家のコンサルティングと同等以上のコンサルが可能なところまできています。
AIを神格化してはいけない
AIは前述の通り確かに凄まじい能力を持つようになってきていますが、だからと言って人が考えることを放棄して何でも頼れば良いというものでは決してありません。AIは自分の有能な秘書として、部下として活用すべきだと考えています。意思決定も、人としての幸せも、人間が感じるべきものだからです。
一次情報が差別化を生む
自社の理念や方針、優位性、差別化のポイント、これまで培ってきたノウハウといった一次情報をAIに命令文として与え、それに基づいた成果物を作り上げる。この一次情報を生み出すのも、発展させるのも人にしかできません。厳密に言えば、すでにAIはこの領域の遂行も可能なのですが、”思い・理念”の部分やその深化へのモチベーションは人にしかないものであり、ここを”人”が握らない限り、どの企業もAIを駆使すれば同一品質のものができてしまう=陳腐化したものになってしまう。このことが非常に重要なのです。学生の皆さんにとっては少し難しい話かもしれませんが、これからますます進んでいくAI時代にとても重要なポイントだと考えています。
経営者や社員1人ひとりが、どんな顧客にどんな価値を提供したいかという思いを込めて、AIに形にしてもらう。ここに人が介在してはじめて、自社にしか作れない成果物ができあがり、AI時代の差別化や優位性につながっていくと考えています。
日本が人で勝つために
ホワイトカラーの危機
アメリカではすでにホワイトカラーの大幅なリストラが進んでいます。日本はそう簡単に人を切れないので同じようにはならないにしても、じわじわとAIが仕事を奪っていく構図は起こり得ます。そうなったとき、社員をAIに置き換えるだけの企業ばかりになれば、自社の優位性や差別化はどこにあるのかという話になってしまいます。今できることも一年後には当たり前になっている可能性が高いからです。これが、先ほど述べた「陳腐化」ということです。
人の生産性を最大化する
日本は資源がない国なので、これまでも人で勝ってきました。20年前に世界有数の豊かさを誇っていたのもそれが理由だと考えています。人で勝つということは、人の生産性を最大化するということです。人を大事にしながら、人がAIを使ってブーストし、思いや理念、優位性を拡大していく。そうした人や企業を増やしていくことが、これからの日本社会に絶対に必要だと思っています。
学生の方々へのメッセージとしては、AIは頼りきる神様のような存在ではなく、最強の万能ツールとして、部下のように使ってほしいということです。自分の下に大学の教授がずらりと並んでいるような状態だと考えて、それを使いこなす人材に育っていってほしいと思います。
編集後記
正直、就活をしたことがないという長谷川さんの経歴には驚きの連続でした。倒産という壮絶な経験を経てもなお、周囲の方々を守るために動く姿勢や、教育への一貫した思いが印象的でした。生成AIを「神様」ではなく「部下」として使うという考え方は、今まさに私たち学生こそ意識すべき視点だと感じます。貴重なお話をありがとうございました。