広島のテレビ局から、シリコンバレーへ
広島テレビでキャリアを積む
EXest株式会社で代表取締役CEOをしている中林幸宏です。新卒で地元・広島のテレビ局に入局しました。最初はスポーツ担当のディレクターとして、広島東洋カープを2年ほど担当していました。その後は大阪支社、東京支社で営業を経験し、合わせて8年ほどテレビ局に在籍していたことになります。
MBAとシリコンバレーで見た景色
東京支社で働いていたとき、あるきっかけで大学院に通うことになり、いわゆるMBA(経営学修士)を取得しました。いろいろな方と出会えたことで、自分の視野や視座がぐっと広がりました。その後、アメリカに渡り、西海岸のシリコンバレーのような場所にも身を置いていました。そこで学んだのは、日本はとても魅力的な国であるにもかかわらず、海外の人にとっては訪れるまでに心理的なハードルがすごくあるんだな、ということでした。
「人と人をつなぐ観光」を思いつく
当時、私はテレビ局を辞めており、日本全国に知り合いもたくさんいました。そういった方々へ、観光ガイドというほど大げさなものではなく「ご飯を一緒に食べに行きましょう」という感覚で、海外から来た方と会ってもらうことができていました。その経験から、観光をきっかけに人と人がつながっていくと、何か面白いビジネスができるのではないかと考え、会社を立ち上げました。
事業内容と強み
AI翻訳時代のガイド価値
弊社が展開しているのは、地方のガイドと旅前の外国人旅行者をマッチングするプラットフォーム「WOW U」です。これまで海外の方をガイドするには英語力や語学の知識が重要なポイントでした。ですが、今はAI翻訳がかなり進んでいて、日本語で話せば多言語に翻訳して発音までしてくれる時代です。弊社もポケトークという会社と事業連携をしており、語学力がなくても海外の人に価値を提供できる環境が整ってきています。
一次情報を持つ「ローカルズ」の強さ
加えて大事なのが、一次体験や一次情報を持っている方の強さです。たとえば農家ではない方が農業について語っても、しょせん伝聞情報でしかありません。弊社は、テレビ金沢さんや各地の観光協会さん、地域に根ざした中小企業さんなどをハブにしながら、そういった土地の一次情報を持つ「ローカルズ」のネットワークをつくってきました。現在、このネットワークは6,000人ほどの規模になっており、弊社の強みだと考えています。
コロナ禍という「外部環境」
インバウンド市場の乱立と淘汰
創業後にぶつかった壁というよりも、いかんともしがたい外部環境の変化がありました。インバウンド需要は2015〜2016年ごろから盛り上がり、2018〜2019年には過去最高を更新し続けていました。そうなると、スタートアップをはじめ、いろいろな企業がどんどんサービスを立ち上げていく状況になります。そこに新型コロナウイルスの影響で3年ほどの停滞期があったことで、結果的に市場が整理されたのは、良かった面もあったと感じています。もちろん今はまた需要が復活してきていて、企業の乱立も戻ってきていますが、コロナは大変苦しい期間ではありながら、いい機会でもあったと思っています。
テレビ局ネットワークを生かした集客
集客の面では、基本的にSEOやリファラルが中心です。2018〜2019年ごろには、テレビ局と35社ほど事業連携をしていました。テレビ局は毎日のように取材に行き、桜が咲いたお祭りが行われたといったローカルニュースの映像素材を持っています。それらの素材を全国の放送局からいただいて編集し、英語字幕をつけて海外に発信するメディアをつくり、集客につなげていました。
世界に広がる「WOW U」のネットワーク
世界観光ガイド連盟との連携
今年2026年の2月、世界観光ガイド連盟(WFTGA)の世界総会が、日本で初めて福岡で開催されました。この総会を誘致したのが、一般法人九州通訳・翻訳者・ガイド協会という団体で、私はそこの事務局を務めています。WFTGAは世界中に会員を持つ、観光ガイドとしては世界最大級の団体です。今、K-iTGとWOW Uのガイドマッチングプラットフォームとの連携を進めています。
「人が人に会いに行く」観光へ
たとえば、旅行者がエチオピアへ行きたいと思うとき、現地で信頼できるガイドをどう探せばいいのか分からない、ということがよくあります。そんなときにWOW Uのネットワークを通じて、日本人ガイドがエチオピアのガイド協会とつながり、信頼できる人を紹介できるような仕組みをつくりたいと考えています。現在、エチオピアやエジプト、ペルー、マレーシア、アイルランド、イスラエルなど、8か国ほどの団体とやり取りを重ねており、これから加速度的に広げていきたいと思っています。最終的には、日本に来た海外の旅行者をガイドした人が、今度はその旅行者の国を訪れてガイドしてもらうというように、旅行者とガイドの立場が入れ替わっていくような世界をつくりたいと思っています。人が人に会いに行くような観光をつくれたら、と考えているのが弊社のビジョンです。
学生に伝えたいこと
言い訳より、まず行動する
学生や社会人に向けて伝えたいメッセージは2つあります。1つ目は、まず行動することです。お金がない、時間がないなど、やらない理由はいくらでもつくれます。ですが、行動を起こさなければ何も変わりませんし、行動した人にしか見えない景色があります。弊社のインターン生のなかには、私がアメリカにいる間に何度も遊びに来て、私が持っているネットワークにも参加しながら自分自身のつながりを広げていった学生もいました。2年間で4回ほどアメリカに来た学生もいて、渡航だけでも決して安くはない金額がかかりますが、それだけの価値があったと思っています。頭の良い人ほど、やらない理由はすぐに思いつくものです。何の結果が出るか分からなくても、とりあえず行動を起こすことができれば、それだけで他者との差別化になると考えています。
日本にいながら世界と出会う
もう1つは、私たちのサービスの話にも近いのですが、WOW Uにはローカルズとして活躍する大学生の登録もとても多いです。学生のうちに、日本という舞台でいろいろな国の人と出会えるのは、大きな価値があると感じています。たとえば、海外の方から「赤味噌と白味噌の違いは何か」「うなぎとアナゴの違いは何か」と聞かれて答えられなかった学生がいました。日本人にとっては当たり前だと思っていたことが、海外の人からの質問によって、あらためて考えるきっかけになるのです。最初は英語で答えられなくても、AIで調べて日本語で答え、それをポケトークのような翻訳機が英語に変換して伝えてくれる。そうしたやり取りを重ねるうちに、自分から英語でコミュニケーションを取り出す学生も出てきます。これも1つの教育だと捉えていて、大学とも連携しながら、こうした機会をより多くの学生に届けていきたいと思っています。
人と出会える環境を選ぶこと
社会人になってから感じるのは、能力の高い低いというのは、実はそこまで大きな差ではないのではないか、ということです。それよりも、自分でアクションを起こせるか、自分の軸を持って動けるかのほうが大事だと思っています。私自身、特別優秀だったわけではありませんが、いろいろな人に出会える業界に入れたことは良かったと感じています。地方のテレビ局は採用人数が少なく、入るのは簡単ではないと言われますが、優秀だから入れたということではなく、たまたま巡り合わせが良かっただけだと思っています。人と話すことや営業、マーケティングが好きな人であれば、いろいろな人と出会える職種や企業を選ぶのも、1つの選択肢としておすすめしたいです。
編集後記
中林さんのお話を伺って、いちばん印象に残ったのは「やらない理由を探すより、行動する」という言葉でした。AIによって情報が均一化していく時代だからこそ、自分自身で動いて得た経験こそが価値になるのだと、あらためて感じました。テレビ局出身というキャリアを軸に、日本各地、そして世界各国のガイドとのネットワークを広げていく姿勢からは、行動することの大切さが伝わってきました。日本にいながら世界と出会えるWOW Uの取り組みは、多くの学生にとって新しい一歩のきっかけになりそうです。