インタビュー

「工事業者やのに、自分でAIを開発する」大阪の家具工事会社が挑む、業界のガラパゴス化からの脱却

「工事業者やのに、自分でAIを開発する」大阪の家具工事会社が挑む、業界のガラパゴス化からの脱却
PROFILE
株式会社 F. クリエイト 代表取締役
古宮 昇

高卒で現場に入り、29歳で独立した

高卒でこの業界に入った

学歴でいうと、私は高校を卒業してすぐに働き始めており、大学には進学していません。今年でちょうど50歳になり、会社は21年目です。18歳のときに、今でいう登録スタッフのような、日払い・日雇いのアルバイト派遣会社に入ったのが、この業界との最初の接点でした。

アルバイトから正社員になり、現場を経験したあと、社内で手配営業を担当するようになりました。そして20歳のころ、取引先に出向という形で入ることになります。

出向先の10年間で見えたもの

出向先は、コンビニやドラッグストア、ホームセンターの陳列什器を作るメーカーでした。全国を見ても、こうしたメーカーは5社ほどしかない、限られた業界です。私はその1社に出向という形で10年間入り込み、店づくりの見積もりや手配、現場管理を担当していました。

その10年のなかで、工事業者の質になかなか満足できる会社がないと感じるようになったんです。自分が所属していたアルバイト派遣の会社は、アルバイトの手配だけでなく職人も抱えていて、工事まで手がけられる。そこで、お客様先に出向しながら仕事があれば自社に振っていく、という動き方をするようになりました。

台車の開発から始まった、もうひとつの創業

搬入のやり方に疑問を持った

当時所属していた会社はコンビニを主体にしていて、毎日のように商品や什器を搬入していました。ただ、その搬入のスタイルは30年、40年とほとんど変わっていなかったんです。私はさまざまな資材を運ぶ立場だったので、腰をかがめずに作業できて、重いものや変わった形のものもしっかり積め、そのままエレベーターにも乗せられるような、現場に特化した台車があればいいのにとずっと思っていました。

自分で図面を描き、特許を取った

そこで自分で図面を描き、板金屋に相談しました。金属加工が得意な業種なので、いろいろな工場ともつながりがあります。台車を開発して特許も取得し、それを使うことで、全国でうちにしかできない工事工法を編み出していきました。今も毎日、店舗什器の工事にこの台車を使っています。

創業の経緯自体は、どこの会社も似たようなものだと思っています。チャンスがあって会社ができた。ただ私たちは、「オンリーワン戦略」には特許のような技術面だけでなく、オフィスを綺麗にする、備品を会社カラーで統一する、制服を作るなど、業界の中でも珍しい取り組みを出来る範囲でしていくことで、他社と違うと評価していただくという考えがあります。創業当初からずっと意識して取り組んできたことです。

経験者を採らず、高校生を育てる

オフィスにもこだわる理由

弊社のホームページを見てもらうと分かるのですが、オフィスも工事会社や倉庫らしくない、少しきれいな空間にしています。そうした取り組みのおかげもあってか、ここ5年ほどは毎年、高校生を2名以上採用できています。若手メンバーも数多く在籍しており、非常に活気のある若い会社になっていると思います。

経験者をあえて採らない

30年ほどこの業界にいて感じるのは、同じ業界の仲間、協力会社はどうしても少しずつ減っていくということです。結婚を機に転職したり、親の都合で転職したりする。そこで弊社は、創業期からずっと、経験者を採らず異業種からの転職組を採用し、教育して育てていく方針を取ってきました。職人によくあるような、態度の悪さが出ないよう、マナー面の教育も含めて取り組んでいます。

今、社員は19名いますが、この規模はこの業界の中でもかなり多い方だと思います。狭い業界のなかで、他社は人がなかなか新卒が採れなくて中途もこない状況で減っていく状況ですが、弊社は安定して人数を確保できています。福利厚生や採用条件についても、社員を大事にするという方針でやってきました。

手配業務を10年かけてシステム化した

自分の頭の中を全部システムにした

弊社では、手配や見積もり、請求といった業務を10年前からシステム化する取り組みを進めてきました。開発した後もバージョンアップ、追加を続けており毎年1000万円を継続してシステム開発に投資しています。私の頭の中にあるものをすべて絵に描いて、ここのボタンを押したらこうなる、というところまで自分で設計し、作り上げてきました。

社長業に専念できるようになった

たいていの会社は、社長がずっと手配や見積もり、請求を担当していて、なかなか他の人に任すことができないために規模を大きくできません。弊社はシステムを作ったことで、私がやっていた仕事を今は社員4人に振り分けられるようになりました。手配業務自体は、今はナンバー2の社員に担当を任せて、私は社長として新しい取り組みに時間を使えています。

このシステムは、今は同業他社にも販売を始めています。台車についても、什器メーカーから推奨台車として同業他社に紹介されて、昨年は200台ほどを販売しました。

AIで積算を自動化し、業界に提案した

図面をスキャンするだけで拾い出す

弊社では、AIを使って図面をスキャンするだけで、必要な什器を自動的に拾い出す(積算する)システムを開発中です。自社で予算を組んで開発しており、私たちに発注をくださるメーカーさまに「これを使って積算を自動化しませんか」と。工事業者でありながらどこも取り組んでいないので自社で開発して営業・提案しています。これまで1日かけて必死に計算していた作業が、最後のヒューマンチェックも含めて10分以内で終わるのを目標にしています。

それでもロボット化はできない仕事

ここまでニッチな業界だからこそ強みになっている一方で、ロボット化はなかなか進みません。大きなビルを建てるような現場ならロボットを導入する意味もありますが、商業施設のなかの小さなテナントひとつに対して導入するのは、費用対効果が合わないんです。AIがどれだけ進化しても、この工事業界は一番最後に技術が回ってくる分野だと思っています。

リアル店舗はなくならないと思う

デリバリーで何でも届く時代になっても、大切な日にお店へ行って商品を選び、ラッピングしてもらってプレゼントする、という体験には価値があると思っています。人間の感情がなくならない限り、リアル店舗はこの先10年、20年経ってもなくならないはずです。内装工事や什器工事のチームは、この先も必要とされ続ける仕事だと考えています。

学生に向けて、伝えたいこと

頭も使う、ミリ単位の仕事

弊社は体を動かす仕事が中心ですが、実はかなり頭も使います。什器のサイズや壁からの距離をミリ単位で考える必要があり、細かい計算が求められる仕事です。ある年に入社したラグビー部出身の高校生が「ソファーをドンと置いて終わり」のような家具設置が多いとイメージしていたようで、入社後の現場を体験して想像していたよりずっと細かい仕事だと分かって辞めてしまったこともありました。 

 

根性論から、省力化へ

私自身は、19歳のころから月420時間ほど働き、コピー機の前で貧血で倒れたこともある、いわゆる昭和世代の根性論で育った人間です。ただ、その苦労を若い世代にさせたくないという思いから、ずっと省力化や仕組みづくりに取り組んできました。残業も少なくなるように取組を続け、社員にも早く帰るよう伝えています。

新しいことに挑戦する会社

弊社は建設・内装業界のなかでも、新しい取り組みに挑戦し続けている会社です。資格取得も、勤務時間中に会社の費用で取りに行ってもらえます。手に職をつけたい、けれど厳しすぎる環境は避けたい、という人には、働く環境としてやわらかい会社だと思うので、興味があればぜひ知ってもらえたらうれしいです。

編集後記

古宮さんのお話を伺って、工事業者でありながら台車の開発や特許取得、AIによる積算自動化まで自ら手がけてきた行動力に驚きました。根性論で育った世代でありながら、その苦労を次の世代に背負わせないという考え方のもとで、10年かけてシステムに投資を続けてきた姿勢がとても印象的でした。「よそと同じ仕事をしない」という一貫した思いが、業界のルールをつくっていくという言葉につながっているのだと感じます。