商社、そしてユニクロ。37年間の会社員人生
伊藤忠商事で19年、ユニクロで18年
大学を卒業してから、伊藤忠商事株式会社に入社しました。そこで19年間、商社マンをやっておりました。その後、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)に転職しまして、そこで18年。トータルで37年間、いわゆる会社員をやってきたわけです。
それだけ長く会社員をしていたのですが、実は最初のころから独立志向があったんですよね。一生雇われる側では終わらないぞ、とは思っていました。ただ、若くして起業し、ポンポンと成功するほど世の中は甘くありませんから、まずは力のある企業でしっかり仕事をするという道を選んだということです。
60歳での区切り、独立へ
37年間の会社勤めという形には区切りをつけて、昔から考えていた独立をした。そんな流れですね。20代や30代で起業するのであれば、退路を断って起業の世界に飛び込んでいくという格好になりますが、私の場合は60歳まで勤めましたので、次のステージとして自分の会社を興すという、「自分人生の区切り」の感覚でした。勇気を振り絞り、退路を断って飛び込んでいく、という感じではなかったですね。
看板もお金もないところからの現実
37年間の看板を手放す
独立したといっても、結局は看板などないわけです。37年間、立派な看板の下で仕事をしてきたわけですが、その看板がもうない。資金もない。加えて、提供する商品やサービスも未熟なわけです。厳しいビジネスの現場で、すぐに成約して、売り上げが上がっていく。そんなことは起こらない。ある程度想定はしていましたが、想定より現実はもっと厳しい。甘くなかったです。「あなた、どちらさんですか?」という話ですよね。
経営者として大切にしていること
マインドセットとビジネススキル、両輪の難しさ
事業を拡大していくうえで大切にしている考え方は、二つあります。一つは、経営者としてどうありたいかということ。単純にお金のためにやるという話ではなく、経営者である以上、何を目指して、どうありたいか、というマインドセットの部分です。これがとても重要です。
ただ、そのマインドセットだけかっこよいことを言っても、お金は入ってきません。だからもう一つは、真剣にスキル・ノウハウを磨き、ビジネスとして成立させることが必要。この二つがないと、うまくいきません。
独自のポジションをつくる
ビジネスとして成り立つかどうかは、提供する商品やサービスのコンセプトが、マーケットにおいて「独自のポジション」になっている必要がある。そうでなければ、選ばれないですし、すぐに立ち行かなくなります。経営者としてどうありたいかというマインドセットと、実際に勝てるポジションをつくっていくという部分、この両輪を回していくのは、非常に難しいですね。
大企業にはない、小回りという強み
OPC(ワンパーソンカンパニー)という生き方
当社と大企業とを比較したときの強みは、わかりやすく言えば小回りが利くということです。大企業には組織も人材も設備もある。しかし、意思決定が遅い。そしてなにより「顧客からも遠い」という側面がある。世の中や市場が変化していく時に小回りが利きにくいんですよね。
OPC、いわゆるワンパーソンカンパニーという言葉をご存じでしょうか?一人のキーパーソンが事業を回すという形態です。この言葉自体は最近出てきたものですが、インターネットが登場したとき、既にこうした形態が増えていました。ネットさえあれば、いつでも、どこでも、世界中とつながってビジネスができるようになったからです。
AIエージェントの時代に
そして今、そのような変化の波が更に強まっている。その要因がAIだと思っています。AIエージェントに自動で業務を任せてしまう。そんな時代ですから、このワンパーソンカンパニーという形態は、これからもっと増えていくと思うんですよね。大企業は何万人もの人を雇っていて、給料を払わなければいけない。身動きが軽く、機動性が高いのはどちらか、という話です。ですから、OPCは、大企業との競争のなかで、強みになっていくだろうと考えています。
そして、個別のお客さまの困りごとにどれだけ向き合えるかということも、ますます重要になってくるはずです。AIで画一的に対応するのではなく、お客さま固有の困りごとにどれだけ向き合っていけるか。たとえば最近は、カスタマーセンターに電話しても、自動化されたAIシステムで返されてしまい、なかなか人間にたどり着けない。お客さまはすぐに困りごとを解決してほしいわけです。そのようなことにきちんと向き合う必要がある。特に大企業は気づかなければならないと思っています。
パートナーCMO®という新しい経営参画の仕方
日本にまだない役割を広める
今後のビジョンとしては、パートナーCMO®事業を広めていきたいと考えています。CMOとは、チーフ・マーケティング・オフィサー、つまり最高マーケティング責任者のことです。日本では、CMOという役職はまだ広く知られていませんが、欧米では当たり前のように存在しています。日本ではこのポジションがほとんど普及していません。
私は、企業の最高マーケティング責任者というポジションの仕事を、社外の独立したパートナーの立場から担うという活動をしています。これは日本にまだほとんどないサービスですので、普及させていきたいですね。特に中小企業は、マーケティングという経営機能が弱い。またCMOを置くほどの企業規模がなかったりするので、パートナーとして関与するサービスには大きな需要があると考えています。
仲間を増やしていく
このパートナーCMO®という自社サービスを普及させることに加えて、同じような役割を担える人材を養成したいという思いもあります。そのための組織「一般社団法人パートナーCMO推進機構 」の代表理事も務めており、こうした人材を企業に派遣する活動もしていきたいと考えています。
ちなみに、大企業は大規模なマーケティングができます。テレビCMを打ったり、新聞広告や雑誌広告を出したり。ですが中小企業にはそれだけの広告予算がありませんから、ネットを活用したデジタルマーケティングにもっとシフトしていく必要がありますね。大企業と中小企業では、マーケティングのアプローチ方法がまったく異なりますね。
事業のボトルネックと、これから
自分が動けなくなったときのために
事業を進めるうえでのボトルネックは、私自身がもし病気をしたら止まってしまう、というところにあります。私はワンパーソンカンパニー志向が強いので、大きな設備を持ったり、多くの社員を抱えたりするのではなく、身軽に動いていきたいと思っています。ですので、業務提携できるパートナー企業や人材を増やし、事業の持続的成長を実現させるためのネットワークを広げていこうとしています。
会社の名前に込めた思い
その考え方を会社名にも反映しており、合同会社グリームスネットワークという社名にしました。グリームスとは英語で光・輝きという意味。人と人、企業と企業を、輝きのネットワークで繋いでいきたいと思っています。
学生へ伝えたい三つのこと
短期で物事を考えない
独立志向を持つ若い方が増えてきているのは、とてもよいことだと感じています。ただ、ビジネスは甘くない。皆が皆、成功できるわけではありませんし、若いうちから独立するのにはリスクもあります。ですので、独立を安易に推奨はしません。大企業で経験を積み、組織や社会に貢献していくというのも立派な道だと思っています。
この年齢になったからこそ言えることが三つあります。一つは、若い方は長期で物事を考えることをしない、しにくいということです。1年、2年で大きなお金を稼ぎたい、1年、2年で偉くなりたい、と考えるのは若い方にとって仕方のないことだと思います。ですが、長く人生をやっていると、長期で仕事の成果や人生を見るということがとても大事だとわかってきます。たとえば10年というのはあっという間に来ますし、その10年で、実は自分が想像もしていなかったところまで行けるものです。長期的に物事を捉えることを勧めたいですね。
他人と比べない
二つ目は、他人と比べるな、ということです。人間の本性として、どうしても他人と比べてしまいますから、これは簡単なことではありません。あいつの方がお金を持っているとか、出世したとか、そういった気持ちは何歳になっても付きまといます。ですが、いい大学を出ているとか、どこかの有名企業に入ったとか、人生を長期で見ると、実はあまり関係がないんです。どんな個人も尊重されるべきだ。人は人、自分は自分。他人と比べるのはやめたほうがいいです。自分がつらくなるだけです。人生の質が低下します。
信条を持つこと
三つ目は、信条。つまり自分の価値観をなるべく早く持ったほうがいい、ということです。お金を稼ぐことに価値を置くのもひとつの価値観ですし、人よりも早く抜きん出たいというのもひとつの価値観です。ただ、自分はこうありたい、人生で何を大切にするのか、という信条を持っていると強いと思います。家族が一番大事だとか、仲間が一番大事だとか、人を応援することが一番大事だとか。そうした価値観を早いうちに見つけられたら、素晴らしいことだと思いますね。
スタートアップを起業し、ある時期に成功したとしても、それが長く続くとは限りません。これからの時代、人生は長くなっていきますから、信条を持ち、長期的に物事を捉えるということが、とても大事になってくると思います。
面接官がみているもの
テンプレートではなく、自分の言葉
面接をする側になると、テンプレートで答えているかどうかは、すぐにわかります。「学生時代に一番力を入れたことは何ですか」と質問すると「サークルリーダーとしてリーダーシップを学びました」みたいな答えが返ってくる。ああ、テンプレートだなと感じてしまいます。それよりも、その人が実際に経験してきたことや感じたこと、その人なりの価値観を聞きたいですね。人と違う経験をしてきた方は、やはり目を引きます。
人と人とのつながり
結局のところ、面接官も人ですから、その人の背景や価値観に惹かれる部分は大きいです。出身地が同じだったり、同じスポーツをやっていたりすると、それだけで距離が縮まることもあります。人間と人間のつながりが、世の中を動かしているのだと思います。だからこそ、学生のうちにいろいろな経験をして、自分の価値観をもっておくことが大事になってくるのだと思いますね。
編集後記
37年間の会社員生活を経て、60歳から新しい挑戦をされた眞嶋さん。お話をうかがっていて印象的だったのは、「長期で考える」という視点です。就職活動を目前にすると、どうしても1年、2年先のことしか考えられなくなってしまいますが、10年、20年という長い時間軸で自分の人生を捉えることの大切さを、あらためて感じさせていただきました。他人と比較せず、自分なりの信条を持つこと。今回学ばせていただいた視点を、これからの進路選びにも生かしていきたいと思います。