インタビュー

柔道一筋だった私が、羊羹で「新しいエネルギー補給のカルチャー」を作ろうと思った理由

柔道一筋だった私が、羊羹で「新しいエネルギー補給のカルチャー」を作ろうと思った理由
PROFILE
Delta Trading Japan株式会社 CEO&FOUNDER
渡井 明道

柔道しか知らなかったから、一度畳から降りた世界を見たくなった

柔道一色の学生時代

幼いころから柔道をやっていて、高校、大学までずっと柔道中心の生活でした。柔道を大学まで続けている人の多くは刑務官や警察官になったり、トップクラスになれば実業団に就職して選手として大会に出続けたりするのが一般的なんですよね。ただ私は、本当に柔道しか知らなかったから、柔道のご縁から一旦離れて、社会人になってみたいと思ったんです。

ヘリコプターを売る、珍しい営業だった

そのような背景から、航空宇宙系の商社に就職しました。ヘリコプターを輸入販売する仕事で、まずは国に予算を組んでもらうところから始まるというすごく珍しい営業でした。製造元がイタリアだったので国際ビジネスの経験もそこで積みましたし、商材自体がとてもダイナミックだったので、非常にやりがいを感じていました。

その一方で、何か一つのカルチャーを作りたい、生まれたからには自分がしっかり握って何かを生み出したいという思いが芽生えたのも、前職での経験を通じてでした。

オーストラリアで見つけた「日本文化資本」

経営のことを何も知らなかったので、まずは経営を勉強したいと思い、会社を辞めてオーストラリアに移住しました。向こうの大学院でMBAを取得することを決め、いろいろなバックグラウンドやカルチャーで育った多種多様な人たちと経営について議論したり、海外生活を通じて今の事業のモデルになるイメージがなんとなく形になっていきました。

日本のような国はほかにないんですよね。何千年も島国で独自の文化を形成してきていて、私が住んでいたオーストラリアはまだできて100年ちょっとの国なので、そこに住む人々は日本の歴史深さや格式の高さに対するリスペクトと、ある種の憧れを持っているように感じました。ただ、憧れているからこそ、消費される機会がすごく限られている。日本食や伝統工芸品のように、特別な機会でしか消費されないんです。

日本文化の美しさは、使われて、消費されて、日常に息づくものにこそあると私は思っています。そういうものを発掘するのも、日本文化を愛する者に許された行為なのではないかと思い、自分の事業でそれを体現しようと考えました。それが創業に至った経緯です。最初のプロジェクトとして、羊羹をクリーンエナジーバーとして売り出したのが始まりですね。

羊羹を、日本発のエネルギー補給カルチャーに

TACTというブランドで経済圏を作りたい

弊社は「TACT」というブランドを軸に、今後は興行ビジネスの領域にも参入しつつ、独自のコミュニティを形成していきたいと考えています。少し言い方が大げさかもしれませんが、モンスターやレッドブルに近いことを、日本発のプロダクトで再現したいんです。「TACT1」という商品を通じて、日々挑戦する人たちを支えるエナジーチャージの新しい選択肢を提案するのはもちろん、TACTというブランドを通じて新たな挑戦の機会が創造されるような世界を創りたいと思い、現在は認知拡大に奮闘しているところです。

羊羹は最高のエナジーフードだった

羊羹はこんなに日持ちがして、脂質もないのでエネルギー効率もよく、溶けたり凍ったりしないんです。糖質補給という目的で、ゆくゆくはビジネスパーソンや主婦など、運動になじみのない人たちにも手に取ってほしいと思っています。ただ、まずは糖質補給の重要性について知見のある、栄養リテラシーの高いアスリートやフィットネス界隈の人たちに火付け役になってもらって、このブランドを盛り上げてほしいという思いがあります。今は各所のスポーツクラブや学生の部活動などに訪問して試食してもらい、実際に気に入って導入してくれたり、購入し始めてくれたりする組織も少しずつ増えてきています。

日本最古のサバイバルフードである羊羹の有用性を検証すべく、私自身も神奈川の小田原から東京の有明までの100kmを歩くイベントに参加し、TACT1と水だけで乗り切る企画を実施して無事に成功しました。運動中や仕事中の栄養補給のみならず、アウトドアの携帯食や防災食にもなるので今後活用シーンをもっとデザインしていきたいと思っております。

想定内の苦労と、これからの課題

終わりのない仕事が、想定内の苦労

まだ名の知れていない、得体の知れないブランドではあるのですが、この思いや商品を作った経緯を伝えれば、共感してくれる人が多いですし、キャリアをかけてくれる人もいます。そのたびに励みにもモチベーションにもなっているので、想定外の苦労というのはあまりないかもしれません。

強いて言えば、今は機会がありそうな場所にどんどん自分から足を運んでいく段階なので、やろうと思えば永遠に仕事ができてしまう。そこはいつまでも完結しない苦労だと感じています。

SNSと販路拡大が今の壁

今後は広告やプロモーションの最適化を図るうえで、どんな人がこの商品を必要としているのかをもっと解像度高く見極めて、そこに向けた訴求をしていく必要があります。弊社は機能性食品ではなく、スポーツのシーンでも取り入れられるお菓子という立ち位置なので、そのバランスも大切にしたいところです。

SNSにはとても苦労していて、弊社には取締役でクリエイターが1名在籍しているのですが、どれだけクオリティの高い映像やコンテンツを作っても、結局は動画が伸びてリーチが広がらないと見てもらえません。ブランドを毀損しない範囲で、もう少しダイナミックに広げていく必要があるというのが現状の課題です。

また、今は自社ECでの限定販売で、購入してくれている大半が私が直接お届けしたところや、私のリーチの範囲内になってきています。自分たちのSNSコンテンツを見て購入に至ってくれる、私のリーチの外にいる潜在顧客をそろそろ獲得していかなければいけないと考えています。

フェーズを重ねて目指す先

弊社では今後の事業戦略を大きくフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と分けています。まずフェーズ1では、実際TACT1の購入に至らなくても特定のコミュニティーで「なんだか面白いことをやっている会社があるな」「TACTというブランドがあるらしいよ」「大会でパッケージを見たことがある」というくらいの空気感や熱狂を、広範囲で醸成していくことに重きを置いております。フェーズ2以降は今後のお楽しみです。(笑)

最終的なビジョンは、新しいカルチャーを作ることです。この使命感で、それが実現できるのであれば、検証や効果測定の結果次第では羊羹にこだわりすぎなくてもいいとも思っています。日本文化資本で「The New Classic Japan」を実現するという軸さえぶれなければ、フットワーク軽くピボットできるように進めています。日本発のプロダクトで、新たなエネルギー補給のカルチャーを作る。それが最終的なビジョンです。

学生へ伝えたいこと

キラキラした生き方が、正解とは限らない

これを話すべきか迷うのですが、起業家は偉くありません。私は自分の生い立ちなどいろいろな要因があって起業家を目指しましたが、SNSで見るようなキラキラした人はどうしても目についてしまうものだと思います。もちろん、自分が理想に近づくための選択の機会はいろいろあって、私はそのなかで勢いをつけて事業を立ち上げるところまで来ましたが、それが正解というわけではありません。どんな職業も、どんな生き方も、それぞれリスペクトに値するものだと思っています。

私もまだ20代後半ですが、向こう見ずで怖いもの知らずで、自分なら何でもできると思う時期は誰にでもあると思います。それに踊らされることも、一つの経験であり勉強だと思います。

声を大にして伝えたいのは、SNSで見るようなキラキラした生き方がすべてではないし、それが正解でもないということです。そこは自信を持って断言できます。自己投資しろというような自己啓発的な言葉もよく聞きますが、どんな規模でもどんな業界でも、挑戦しなければいけないタイミングは必ず来ます。そのときに全力を出して、自分が後悔しない生き方を選べばいいだけなんです。

どんなに美しいビジネスモデルで意義深いビジョンを掲げていたとしても、他人の尊厳を蔑ろにしてまで通す信条はないと思っています。最近そこを履き違えた経営者がとても多く、それに共感してしまう学生も多いように感じます。だからこそ、一歩引いた目で見てほしいという思いがあります。

編集後記

今回、渡井さんにお話を伺って、起業のかっこよさだけでなく、地道な営業や終わりのない仕事量といった等身大の苦労まで率直に語っていただけたのが印象的でした。「キラキラした生き方が正解ではない」という言葉は、つい憧れだけで将来を考えがちな学生にこそ届いてほしいメッセージだと感じます。日本文化資本を軸に、羊羹という伝統食から新しいカルチャーを生み出そうとする姿勢に、今後の展開が楽しみになりました。