サラリーマンに憧れて旅行業界へ
起業なんて考えていなかった
大学を卒業してから今の会社を設立するまで、いろいろな経歴をたどってきました。今の学生さんは、私たちの時代よりもずっと方向性が明確な方が多いと感じています。学生の頃から起業を志すような、はっきりした意思を持っている方も少なくありません。ただ私自身は、大学時代にアルバイトばかりしているような学生で、起業したいと思ったことは一切ありませんでした。
私の父は文具店を営んでいて、自営業として働く父の姿をずっと見てきました。その影響もあってか、私はむしろサラリーマンに憧れていたのですよね。土日も含めていつも仕事に追われている父の様子を見ていたので、自分の就職活動では、きちんと休日もあるサラリーマンになろうと考えていました。
人を喜ばせる仕事を
昔から人を喜ばせることが好きでした。ですので、就職活動でも自分の好きなことで人を喜ばせることができたら一番良いと、ぼんやり考えていたのです。当時は海外を含め旅行が好きでしたので、就職活動は旅行業界を受けました。無事、大学卒業後に鉄道系の旅行会社に入社でき、修学旅行など学校団体を扱う営業部に配属され、京都や奈良の修学旅行、林間学校などの営業を行いました。
悔しさをバネに英語を猛勉強、アメリカの税理士資格にも合格
実はそこで海外旅行を扱いたかったのですが、英語が話せないという理由で、配属が叶いませんでした。その経験が少し悔しくて、いつか海外の仕事をしたいという思いがずっとありました。仕事の幅も広げたい思いもあって、一念発起し、仕事をしながら英語の勉強をし始めました。
ほどなくして運良くフランス系の外資系旅行会社に転職することができ、そこでも営業を担当していました。英語力はさらに伸ばしていこうと考え、英語の資格取得を目指す中で、アメリカの税理士資格の勉強を始めることになりました。周囲から「旅行と会計税務では180度違う業界では」とよく驚かれましたが、試験勉強は意外にも面白く、会計税務のことはまったく分からない状態からのスタートでしたが、1年半ほどで合格することができました。
数字の面白さに気づいて会計の世界へ
マーケティングセールスで数字に目覚めた
私は、どちらかというと足で稼ぐタイプの、いわゆる昭和の営業マンでした。しらみつぶしに飛び込み営業を重ねて数字をつくることを美学としていました。
ただ、外資系旅行会社の最後の頃はマーケティングセールスの部署に配属され、市場調査などのデータに基づいて効率的に営業の指示を出す仕事を任されました。そこで初めて、数字の面白さや、非常に合理的な考え方の魅力に気づきました。アメリカの税理士に合格していたこともあり、違う世界を見てみたいと思い、次に選んだのが国際会計事務所でした。
未経験の世界に飛び込みマネージャーから役員、そして起業へ
入社したのは、世界4大会計事務所のひとつ、アメリカ系の国際会計事務所です。未経験の業界でしたし、最初は分からないことも多く非常に大変でしたが、とにかく業務に取り組み、仕事に向き合いました。その後、同じグループの会計や人事労務、バックオフィス周りをアウトソーシングする会社に転籍し、最終的にマネージャーを経て執行役員まで務めました。起業にはそれほど興味がありませんでしたが、経営的な意思決定に携わりたいという思いは以前からありました。役員になり取締役会に出られるようになれば、自分のやりたいことを自由にできるだろうと、単純に考えていたのです。
ようやく自分の考えに基づいて経営ができると思っていましたが、社員が100名を超え、組織が大きくなればなるほどさまざまなしがらみが出てきます。株主もいるため、3か月後や1年後といった短期の経営目標が非常に重視される環境でした。
そのうちに、私は3年計画、5年計画といった長期的な視点で会社を経営したいと思うようになりました。そこで、「オーナーとしてすべて自己責任のもと、長いスパンでビジネスをしたい」と、起業することを決めました。
日本の水先案内人でありたい
起業をした理由をもうひとつあげるとしたら、旅行会社にいた頃、来日外国人の対応をしていた経験があります。今でこそインバウンドという言葉が一般的ですが、当時は来日外国人の受け入れ体制も整っていない中で、外資系の旅行会社としてそうした方々に向き合っていました。
海外旅行に行くと、入国審査の係官が親切だったり、最初に泊まったホテルや観光案内所で親切にされたりすると、その国全体がよい国だと感じます。逆に冷たい対応を受けると、もう行きたくなくなってしまいますよね。
私たちは日本の水先案内人のような存在で、私たちの対応ひとつで日本のイメージが変わってしまうという思いを持って仕事をしていたのです。そして今、旅行業から会計業へと扱うものが変わっても、日本を好きになってもらいたい、日本に良いイメージ持ってもらいたいという気持ちは変わっていません。自分の中では一貫性があると思っていますし、今でも日本を代表してやっているという気概を持っています。
バックオフィスをまるごと支える会社
外資系企業向けのアウトソーシング会社を起業
2013年、東京都中央区で起業しました。ジパングアウトソーシングサービス株式会社という社名の通り、アウトソーシングを手がけています。営業や開発、仕入れといった会社のフロントの部門ではなく、経理や会計、税務、そして人事労務といった、バックオフィス業務のアウトソーシングを請け負う会社です。お客様の90%以上は、外資系企業です。海外から進出してきたばかりの会社で、まだバックオフィスの人財がいないようなお客様も多いですね。
ワンストップサービスにこだわる
強みは3つあると考えています。ひとつ目は、創業当初から掲げているワンストップサービスです。
日本では会計事務所も含めて、分野ごとに専門家が分かれているケースがほとんどです。会計や税務は税理士に、人事労務は社会保険労務士事務所に、会社の登記は司法書士に、というように細かく分業されています。
一方で、海外の視点から見るとこうした日本の特殊性は理解しづらく、なぜそこまで分かれているのかと疑問を持たれる外資系のお客さまが数多くいらっしゃいました。そこで、会社を立ち上げた当初から、さまざまな方の力を借りながらも、会計・税務・人事労務・登記まで、通常の会社で発生する管理部門の業務をワンストップで担うことをモットーにしてきました。
外資系企業特有の問題に対応できる
2つ目の強みは、外資系企業特有の問題に対応できることです。海外の会社の日本法人や日本支店、そのグループ会社を担当するため、当然言語の問題としてバイリンガルサービスが求められます。それに加え、文化や商習慣などの違い、外資系ならではの会計・税務・人事労務の論点があるため、幅広く、かつ正確に対応できるよう、専門性を追究してきました。
作業代行だけではなく経営判断も支援
3つ目は、単なる作業代行にとどまらない支援です。アウトソーシングというと、指示された作業を代行するイメージを持たれることが多いのですが、外資系企業の多くは日本に経理部長や人事部長のような役割の人がおらず、日本でのバックオフィス業務について詳しい人財がいないケースが多いです。
そこで弊社は、こうした方がよいという提案を自発的に海外本社に対して行い、経営判断を支援する形のアウトソーシングを行っています。お受けした作業が正確であることや、財務書類のレポートが正しいことは大前提ですが、それに加えてお客さまを説得したり、判断を支援したりする場面もあるため、正確性だけでなく、ホスピタリティや説得力のあるリーダーシップも求められる仕事だと感じています。
創業して大変だったこと
売上よりも人に苦労した
ありがたいことに、ブルーオーシャンの分野だったこともあり、競合相手はあまり多くありませんでした。前職時代の人脈もあったため、いわゆる新規開拓やお客さまを増やすという面では、他業種の方ほど苦労はしなかったというのが正直なところです。もちろん、さまざまな努力はしてきました。
自分から積極的に営業をしなくても、いろいろな方から相談を受け、たとえ自社のストライクゾーンでなくても話を聞いて適切な人を紹介する、といったことを地道に続ける中で、紹介の輪が広がっていきました 。
社員の半分が辞めたことも
一方で本当に大変だったのは、人に関することです。この業界はプロフェッショナルファームと呼ばれるだけあって、料理人ほどではないにしても職人気質なところがあります。組織という形態を取っていても、一人ひとりのスキルやパーソナリティに基づいて仕事が動いていく側面が強いのですよね。
そうした中で、組織としてどう同じ方向を目指して走っていけるかが一番大変でした。当然失敗もありましたし、創業当初は社員の半分ほどが一気に辞めてしまったこともあります。英語力は当然必要な上に、私自身も多くのお客さまの仕事を抱えていて、教える時間を十分に取れない状況でした。前職などで知り合った、即戦力となる方に声をかけて入社してもらうことが多かったのですが、それはそれで組織として同じ方向を向くのが難しい面もありました。
理念に基づいた原理原則の経営
「幸福の追求」と「進歩発展への貢献」
やはり組織やチームとして動いていきたいという思いがあります。創業から数年が経った頃、会社の理念やビジョンを明確にしようと、経営計画書を作成しました。毎年年に一度作成しているもので、そこに私の考えを文書化し、社員の前で発表して、その1年間の指針としています。
会社理念としては「社員と家族の幸福を追求する」ことと、「日本と世界各国の進歩発展、共存共栄に貢献する」ことの2つを明確に掲げています。
原理原則の経営を貫く
この理念を実現するために、「外資系企業のかかりつけ医」を目指すこと、個人ではなくチームで取り組むこと、付加価値をどうつけるかを大切にすることなど、基本的な考え方をもとに経営を続けています。私はこれを「原理原則の経営」と呼んでいます。
細かい社内ルールは最低限のものはもちろん必要ですが、できるだけ理念や指針といった原理原則に基づいて経営し、あとは社員それぞれが考えて動いていける会社を目指しています。
未経験者・新卒採用への転換
これまでの採用は、経験者が中心でした。ただ、数年前に新卒採用を始めたことをきっかけに考え方を転換し、業界未経験の方も積極的に採用する方針に変えたのです。
真っさらな人財を、既存の社員が教育していく。教える時間が取れない、と当初未経験者採用は反発も多かったのですが、人を教育することで教える側の社員も成長していきます。教えた人も教わる人も、お互いに成長していく。そんな循環をつくりたいと考え、新卒や未経験者の採用にも力を入れるようになりました。この方針を変えるつもりはなく、今後も新卒採用を積極的に進めていきたいと思っています。
教える人も教わる人も成長する
採用方針を転換してから、一定数の未経験者・新卒の方に入社していただきました。最初は何も分からない状態からのスタートなので、研修にも時間がかかり、既存社員からも負荷が大きいという声が多くありました。
ただ、何も分からない状態で入った方が1年ほどで成長していく姿を見ると、単純にうれしいのですよね。また教えてあげようという気持ちになり、気がつけば教える側の社員自身も成長している。やってよかったと感じています。
就活生へ伝えたいこと
自分の中の正解を探してほしい
就職活動というと、会社の知名度や上場しているかどうか、周囲の意見など、いわば「社会的な正解」に基づいて動いてしまう学生さんも多いのかなと感じています。
ただ、就職は入って終わりではなく、入ってからが大事です。いろいろな価値観があってよいと思うので、まずは自分が何をしたいのか、どういう方向性でやっていきたいのかを、現時点で考え続けることが大切だと思うのですよね。
大きな組織で一つひとつ段階を踏みながらキャリアを積んでいくのも、素晴らしい生き方だと思います。一方で、より早く成長したい、早く大きな仕事に挑戦したいという方には、弊社のような規模の会社もひとつの選択肢です。最近では未経験者でも10年でマネージャーになれるような研修体制も整えていますし、15~20年ほどで役員クラスを目指せることも新卒の方には伝えています。もちろん本人の努力は大事ですが、いろいろな方向性がある中で、社会的な正解ではなく、自分の中の正解に基づいて動いていただけたらと思います。
編集後記
今回のインタビューを通して、横倉さんの「日本の水先案内人になる」という考え方が、旅行業から会計の世界へと進む一貫した軸になっていることが印象的でした。就職活動でも、周囲の「社会的な正解」に流されそうになる瞬間があります。だからこそ「現時点での自分の正解を考え続ける」という言葉が、とても印象に残りました。私自身の進路選びにも、あわせて生かしていきたいと思います。