インタビュー

「仲間を守るため、無理やり船を出した」創業の裏側

「仲間を守るため、無理やり船を出した」創業の裏側
PROFILE
株式会社カイゾク 代表取締役
森田 将之

売上はあるのに、外注費の支払いが止まった

もともとは大阪の広告代理店で働いていました。3年ほど経験を積んだら東京に出ようと決めていて、大阪時代から知り合いだった先輩を頼って上京しました。東京で入ったのは、広告の企画や制作を手がける会社です。営業やディレクター、プロデューサーとして、いろいろな案件に関わっていました。

ところがその会社が、外注先への支払いを止めるようになったんです。経営が立ち行かなくなる会社にありがちなパターンを、身をもって経験しました。当時は広告制作の案件がうまくいっており業績自体は悪くなかったのですが、並行して展開していた新事業の失敗により、社内の資金バランスが崩れてしまったんです。そちらの補填に予算が回ってしまった結果、外注のクリエイター陣への支払いが滞るようになりました。現場の売上は確実に出ているのに、他への支払いを理由に身内のパートナーへの筋が通せなくなっている。そんな組織の自転車操業ぶりに、強い危機感を抱いていました。

外注先を守るため、眠っていた会社で再起する

外注先の方たちからすると、「森田さんとは仕事したいけど、あの会社とは仕事したくない」という意見をいただくようになりました。私自身は独立するつもりなどまったくありませんでした。それでも入ってくるはずのお金が払われない以上、案件を回すには別の受け皿が必要でした。

ちょうど前の会社に所属していたころ、福祉とアパレルを掛け合わせた事業をやる予定で登記だけしていた休眠会社があったんです。それを動かして、クライアントと直接取引をして、外注のパートナーに依頼をする形に切り替えました。会社が機能しなくなる前に、大切な外注先への支払いをしっかりと継続できる体制を作る必要がありました。その受け皿として、新たな会社を立ち上げて事業を引き継いだ、というのが独立の経緯です。給料が何か月も払われない時期もありましたが、それより外注のパートナーに払えないとクライアントに迷惑がかかることのほうが気がかりでした。学生時代から起業したいという気持ちはまったくなくて、自分の意志だけで始めたというよりは、「大切なパートナーやクライアントの強いご要望に背中を押され、小さなボートで大海原に出航した」という表現が一番しっくりきますね。

今の事業について

広告の企画制作が軸

弊社は現在、7人の船員と外部パートナーで、広告の企画制作を手がけています。デジタル領域が中心ですが、グラフィックや看板など、リアルな広告も含めて幅広く対応しているのが特徴です。私自身は今も大手代理店に常駐契約で関わりながら、自分の会社の仕事もしています。

気づけばアイドル事業も

実は広告以外に、アイドル事業も手がけています。担当しているのは、私とは別のもうひとりの取締役です。もともとイベントや音楽が好きな人間で、10年ほど前から始めました。

きっかけは横浜開港祭という自治体主催のイベントに携わったことです。自治体の担当者から「横浜を盛り上げる面白い企画を考えてほしい」と相談を受けました。ちょうどコスプレイヤーが注目され始めていた時期で、コスプレイヤーやカメラマンを集めればイベントが華やかになり集客も見込めると考え、コスプレイヤーの撮影会を主催していた知人を紹介してもらいました。声をかけると300人ほどのコスプレイヤーが集まり、横浜美術館でのイベントは大きな盛り上がりを見せました。

そこから「コスプレイヤー自身が稼げるサービスをつくろう」という話になり、都道府県を擬人化したコスプレアイドルという企画がスタートしました。それが今の「BANZAI JAPAN」というアイドルグループの原形です。今では多数のアイドルグループのプロデュースをしており、昨年は10か国ほど海外にも遠征しています。長年、企業の応援する仕事ばかりをしてきて自分たちのコンテンツがないことに気づき、自社コンテンツとして形になったのが、アイドルプロデュース事業です。

今後のビジョン

デジタルだからこそ、人間味と思いやりを大切に。

広告事業は「企業の応援」が中心の仕事です。だからこそ、思いやりを持って、一歩、二歩、先を見据えて真摯に対応する事が重要だと考えています。

最近は「ホワイトワーカーよりブルーワーカー」といった言われ方をされることも増えました。AIの普及で、広告のような虚構寄りの仕事は相対的に弱くなっていくのではないかとも感じています。そんな時代だからこそ、AIを駆使することは勿論、きれいなクリエイティブを作るのではなく、結果を重視した人を動かすクリエイティブにこだわっていきたいと思います。また、まったく違う分野の事業にもチャレンジしていく予定です。

学生へのメッセージ

学歴の差は気にしなくていい

私は大学に進学せず、高卒で働き始めました。現在、周りには東大や早稲田といった高学歴の方が多く、クライアントも大手企業ばかりです。そうした環境の中で自分の役割を考えると、いわば「通訳」のような立場になれるのではないかと思っています。

優秀でエリートな人たちの現場に身を置きながら、学歴や知識にとらわれない現場も経験してきました。仕事では、それぞれ専門性の異なる立場の人同士がうまく噛み合わないことがよくあります。そうした場面で、自分の幅のある経験が生きている実感があります。

広告も同じで、賢い人だけに伝わる広告はうまくいきません。企業目線だけでつくると、自分たちの強みを押しつけるような広告になってしまいます。ユーザー目線で伝えることが何より大事です。

そこそこの大学に進んだ人ほど、上位校との差に劣等感を持ちやすいという話を聞いたことがあります。私は大学に行っていないのでそうした感覚はありませんが、社会に出れば、そうした劣等感は気にしなくていいというのが率直な気持ちです。学歴に関わらず、いろいろな場で力を発揮できると思います。なんせ「人生」という冒険を楽しんだもん勝ちです。

編集後記

「やむなく創業した」という森田さんの言葉が印象的でした。起業志向がまったくなかったにもかかわらず、外注先を守るために動いた結果、今の会社があるというお話に、目の前の誠実さの積み重ねがキャリアをつくるのだと感じました。広告とアイドル事業という一見畑違いの取り組みにも、根底には「人を応援したい」という一貫した姿勢があるように思います。学歴の劣等感は気にしなくていいという言葉は、多くの学生の背中を押してくれるはずです。