インタビュー

「ナンバー2」のままでは、見えない景色がある

「ナンバー2」のままでは、見えない景色がある
PROFILE
ウメモト株式会社 代表取締役社長
梅本隆太

奈良から出てきた「丁稚奉公」がはじまりだった

弊社の創業は、私の代からではありません。創業者は私とは別の人物で、時代はちょうど戦後にさかのぼります。物がまったくない時代、奈良の田舎から出てきた中卒の男の子が、丁稚奉公からはじめた仕事が箔の製造販売でした。いつか自分で会社をつくって社長になりたいという思いを持ち続け、22歳ごろに一度独立を試みたのですが、うまくいかず、いったん奉公先に戻って営業として学び直したそうです。そこで出会った人たちから商売を学び、30歳ごろに再チャレンジしてつくったのが、今のウメモト株式会社の前身にあたる会社でした。

最初に手がけたのは、マフィンカップやお弁当箱に入っているような、蛇腹状の紙製品です。その機械を自分で設計してつくり、加工して市場に流していくところからはじまりました。社員が50人になった頃、シール事業も並行して行っていました。その後、食品ラベルの需要が伸びると見込み、パンのラベル製造へと事業を広げていきます。今でも弊社の一番大きな取引先は、全国でも著名な製パン企業です。そこから防災用品の消火器ラベル、自動車部品の保護フィルムへと少しずつ領域を広げてきました。自動車部品は少しの傷でも返品対象になってしまうため、工場から輸送されるあいだ、傷を防ぐための保護フィルムが必要になるわけです。

こうして消費財から工業製品へと軸足を移してきた弊社が、今取り組んでいるのが情報のトレーサビリティです。たとえばアップル製品にはひとつずつシリアルナンバーが振られていますが、あらゆる製品にそうした情報がひもづく時代がこれからやってくると考えています。今お問い合わせをいただく会社の多くはスタートアップやベンチャー企業で、アナログとデジタルをつなぎ、その流れを把握していく仕事にも取り組んでいるところです。

スタートアップで学び、「ナンバー2」から抜け出す決断をした

ウメモト株式会社とは異なる、創業90年の医療機器メーカー創業家の長男で、家業を継ぐことを視野に入れつつもまずは挑戦しようとスタートアップに参画しました。大学の先輩と一緒に、23、24歳のころに福岡で会社を立ち上げ、ベンチャーキャピタルから資金調達をしながら、介護業界の業務をデジタル化するサービスを展開していました。そのときに福岡で立ち上げたのが、ウェルモという会社です。当時はまだAIがそこまで発達していなかったのですが、業務をより効率化していく方向性のサービスをつくっていました。

その後、家業に戻らなければならないタイミングが訪れ、いったん実家に戻ります。そのなかで今の妻と出会い、ウメモトという名字に入るかたちで、今の会社の代表を継ぐことになりました。

その一方で、ウェルモに戻って経営に携わるという選択肢もありましたし、それはそれでやりがいのある仕事だったと思います。しかし、そうするとどこまで行っても自分は代表ではなくナンバー2のままなんですよね。代表には別に先輩がいましたから。どこまで行っても代表の気持ちは理解できないだろうと思ったとき、私自身も挑戦しなければならないと感じたんです。今振り返っても、あのままウェルモでスタートアップを続けていたら、今の考え方にはたどり着けなかったと思います。そのポジションにいたからこそわかることがたくさんあって、自分の成長に一番つながったと感じています。

スタートアップと老舗、「時間軸の違い」に一番苦労した

代表に就いてから今で2年になりますが、一番苦労したのは時間軸の違いです。スタートアップにいたときは、1か月がとても貴重でした。今すぐやろうと決めたら、その場で動き出せる。一方で、今の会社に入って代表としてやりたかったことが、10年かけてようやく実現できるという状態でした。スタートアップなら「すぐに実行する」と決めればできることが、なかなかそうはいかない。そのギャップを埋めていくことに、かなり苦労しました。

これは会社を買収した経営者にも共通する悩みだと思っています。もともとあった企業文化や慣習を、少しずつ変えていく。どこまでアクセルを踏んで、どこでブレーキを踏むべきかという感覚は、常に流動的で、正解のかたちも変わり続けます。その場の空気を一緒に吸いながら、それでも「本来こうあるべきだ」という考えを諦めずに発信し続けることが必要なんだと思います。想像していたよりも社員の入れ替わりは少なくて、一緒に変わってくれているメンバーが多いことは、ありがたく感じています。

印刷会社ではなく、「産業に必要なポジション」を目指す

今、私が携わっていきたいのは、基盤のある会社だからこそ、その中で挑戦できる仕組みをつくることです。安定した生活や家族との時間を守りながら仕事ができるのは、とても恵まれた環境だと思っています。だからこそ、中小企業のなかでも挑戦できる場をしっかりつくっていきたいと考えています。

もうひとつ目指しているのは、会社の見られ方を変えることです。シールの印刷会社というと、「販促物をつくっているだけだよね」「子どもの文具をつくっているだけだよね」というイメージを持たれがちです。そうではなく、産業に必要なポジションを担う会社なんだということを、もっと明確にしていきたいと思っています。

海外に出るのではなく、海外を知る

弊社のホームページを見ていただくと海外展開をしているように見えるかもしれませんが、実際に海外へ進出しているわけではありません。むしろ海外の技術を国内に取り入れる側です。イタリア製の印刷機を導入したのも、日本国内の少量多品種というニーズや、これから必要になる情報のトレーサビリティに対応していくために、新しい機械を高額であっても入れておくべきだと判断したからです。

一方で、お客様のなかには海外に製品を出す会社もあります。そのときに「海外のことはまったくわかりません」というのでは、パートナーとして頼りにされません。海外の市場がどう動いているかを把握したうえで、「こうしたほうがいいのではないですか」と提案できる会社でありたいと考えています。印刷会社は「印刷のことしか知りません」と言われがちですが、弊社はそこを越えていきたいんです。

挑戦したい学生には、居場所があると思う

採用については、今後はもっと力を入れていきたいと考えています。今拠点があるのは大阪と名古屋で、社員数は35人+役員です。

学生の方に伝えたいのは、挑戦したい、やってみたいという気持ちがあれば、ぜひ来てほしいということです。自分たちで会社をつくってしまってもいいと思っています。web開発だけ、デザインだけといったひとつの要素に特化した会社で働くよりも、これからは新しい技術と製造をかけ合わせる領域のほうが、活かせる場が広がっていくと考えています。シールや粘着というのは、今後もいろいろな形で活用できる領域だと思っているので、そういう環境で自分を成長させたい方には、ぜひインターンなどにも挑戦してもらいたいですね。社内の評価制度でも、挑戦したかどうかをとても重視しています。

情報発信という点では、YouTubeやTikTokは主に認知拡大とSEOを目的にしていて、撮影は外部に委託していますが、出演しているのは全員弊社の社員です。X(旧Twitter)は個人でも日々発信をしていて、認知拡大に加えて、経営者同士のコミュニティとしても機能しています。実際にXがきっかけで依頼をいただくこともありますね。

編集後記

今回、ウメモト株式会社の梅本隆太さんにお話をうかがいました。創業62年の家業に、スタートアップでの経験を持って飛び込み、「ナンバー2のままでは見えない景色がある」と語る姿がとても印象的でした。老舗の安定と、ベンチャーの挑戦心をどう両立させるか、という問いに正面から向き合い続けている経営者だと感じます。伝統ある会社を、新しい形にアップデートしていく難しさと面白さを、あわせて教えていただいたインタビューでした。