サイバーエージェントで学んだ「事業をつくる面白さ」
私がインターネット産業に関わるようになったのは、2000年以降のことです。サイバーエージェントに入社したのが、まさに上場したての頃でした。当時はまだまだこれから新しい事業をつくっていく段階で、非常に活気があったのを覚えています。
もともとはインターネット広告の代理店から始まった会社なのですが、テレビ局と広告代理店が一緒になったような会社にしたいという藤田さんの思いがあり、自分たちでメディアを発信しながら営業もおこなうという形が生まれつつありました。私が入った頃はちょうどメディア事業がスタートしたタイミングで、最初はメールマガジンを配信し、そこに広告をつけるところから始まりました。
その後ネットバブルが弾けて、次にどうしていこうかというなかで、いろいろな事業の立ち上げがいたるところで起こっていました。そこで事業をつくっていく面白みや、メインで関わっていく喜びをすごく感じたのがこの時期です。アメーバブログの立ち上げにも携わり、赤字を何年も続けながら黒字化していくといった、事業をつくるダイナミックな動きを経験させてもらいました。寝る間も惜しんでみんなでワイワイ徹夜をしながら乗り切った、しんどくもあり、それ以上に楽しかった時期でした。
子育ての原体験から絵本事業へ
サイバーエージェントの時もそうでしたが、あれくらい夢中になれるものが他にあるだろうかと探していた時に、子どもが生まれました。子育てをしながら、絵本など子どもを取り巻く環境を見ていくと、自分たちの子どもの頃とあまり変わらない状況がある。そこで、インターネットの知識や経験を生かしながら、子どもに関わる事業で何か新しいことができないかと考えるようになりました。
当時所属していたアイフリークという会社で絵本事業を立ち上げたのが、今のキッズスターの前身です。ただ、創業社長として裸一貫で始めたわけではなく、上場企業の子会社として事業がスタートしました。ちょうど新規事業がこれからという時期に、アイフリークの本業がスマートフォンへのシフトで厳しくなり、新規事業を続けられないという話が出てきました。
それでも続けたいという思いがあったので、この事業を引き連れていろいろな人に会った結果、クックパッドの子会社として買ってもらえることになり、キッズスターがスタートしました。それくらい人生をかけてやりたいジャンルとして、儲かる儲からないよりも、ここで何か成し遂げたいという思いが強くなったのは事実です。
「ごっこランド」誕生のきっかけ
子ども向けのアプリで、簡単なゲームを子どもと一緒にやってみると、遊ぶこと自体を楽しむのはもちろん、たとえばお掃除ゲームをやった長男が「自分もお掃除やりたい」と言って、家でモップをかけるようになったりしたんです。子どもたちが疑似体験を通してお手伝いの仕組みを理解し、楽しみながら学べることは現実的にありそうだと感じたのが「ごっこランド」の出発点になります。
なるべく子どもは無料で使えるようにし、企業からお金をいただくという形でスタートしたのですが、ユーザーが集まらないうちは企業側にもお金を出す理由がなかなかありません。ごっこランドは2013年に始まったサービスですが、実際にきちんと収益化に向けて動き始めたのは2018年ごろです。事業としての可能性をあらためて実感したのもこの頃でした。そこから10年ほどで、だいたい100社ほどの企業とお付き合いをしながら今に至っています。
こういう事業モデルを他でやっているところはあまりないので、お子さまやファミリー向けにブランディングをしたい企業とのつながりを生かし、学校連携をはじめとした「探求」の分野など、次の形に広げていく戦略を今は描いています。ごっこランドという母体があることは、大きな強みだと考えています。
口コミとランキングで広がった初期の伸び
2013年のリリース当初、プロモーションはほとんどおこなっていませんでした。当時はクオリティの高い子ども向けアプリがまだ少なく、子どもを対象にテストを重ねながら「小さい子は何を喜ぶか」にこだわって作り込んでいました。スマートフォンとアプリが広がりつつあった時期で、子ども向けだからこそ口コミの影響がとても大きかったと思います。
当時はランキングの力も強く、常時子ども向けランキングの1位、2位あたりにいたので、子どもに何を与えたらいいか迷う保護者に選ばれやすかったのだと思います。それに加えてレビューの評価も高く、4.4や4.3といった4点台をずっと維持していて、現時点でも4点を下回ったことがありません。そうした要素が重なって広がっていったのだと感じています。
アジアを中心にした海外展開
私たちとしては、「子どもの“夢中”を育て、応援する」という軸は変わりません。ただ、子どもとの接点を生かしてサービスの幅を広げ、引き出しを増やしていく必要があります。残念ながら日本では少子化の波を止められない部分があるので、そのなかでもインドネシアをはじめとしたアジア地域は、まだ子どもの数が爆発的に増えていく地域です。私たちが考えるコンテンツは、子どもに遊んでもらえる環境がある地域であれば通用すると考えています。
ベトナムでは3年ほど前からサービスを始めています。経済成長を遂げつつあるアジア地域なので、日本ほどブランディングに力を入れられる状況ではまだありませんが、まずはユーザーをしっかりつかみ、企業連携の意味合いを丁寧に説明しながら進めていきたいと思っています。経済成長とともに、この地域が中心になっていく可能性もあると見ています。
子育てというのは全世界共通のライフイベントです。日本から生まれたサービスだからこそ、海外でも受け入れられる余地があると思っていますし、少子化と経済成長が伴わない部分も含めて、アジアでしっかり足場をつくっていくことが私たちにとって次の道につながると考えています。
学校連携やリアルイベントへの広がり
日本国内では、学校との連携を通じて、企業のリアルな課題解決を学生と一緒に考えてもらう取り組みを広げていきたいと思っています。あわせて、デジタルだけでなくリアルな場での体験も、もっと創出できる流れをつくりたいという思いがあります。今はデジタルの伸びに比べてリアルの需要が高いと感じているので、イベント事業をどう伸ばしていくかを、日本国内ではより中心的に考えています。
学生へ伝えたいキャリアの選び方
今はAIも含めていろいろな技術が出てきているなかで、自分自身が得意なことや深められていることを、どう独自性として表現していくかが、個人が働くうえでとても重要になってきていると感じます。以前はきっちりやれる子がきっちりやるという作業的な部分も評価されていたと思いますが、AIによってある程度の作業がまかなえるようになった今は、そうではない部分をどう自分なりに表現していくかがより重要視されるポイントになると思います。
自分が何をやりたいのか、どういう時に幸せを感じるのか。ひとつの会社に長く勤めるという道がはっきり見えていた時代とは違い、今は決まった1本道があるわけではありません。好き嫌いがはっきりしていなくても、いろいろ試したなかで最終的に選んでいく。どこで勝負をかけるかという部分が、より必要になってくると思います。周りがどうだからとか、給与がどうだからということよりも、何がやりたいかという方向に向かっていかないと、長く続かないのではないかと感じています。
インターネットやAIも含めて、1人でできる量はかなり増えていますし、起業をするにも大きなお金が必要な時代でもありません。表現しようと思えばいろいろなことができる時代だからこそ、そういう思いを持ってやることで、社会人生活を楽しめるのだと思います。
20代はとにかく経験を広げてほしい
中小企業であっても、いろいろな経験を一気に任せてもらえる環境はあります。大きな企業は丁寧に教えてくれる分、舗装された道を通らせてくれるところもありますが、いろいろな経験を20代のうちにしておかないと、30代の伸びしろが決まってくると思っています。今の時代の流れとは逆行する言い方かもしれませんが、あまり自分に優しくしすぎず、時間を忘れてやれるくらいのものをいくつか試したなかで、30代、40代でどう生きていくかが見えてくるのではないかと思います。
私自身、一度広告業界に入ったものの、スポーツの仕事がしたいと思い立ち、27歳で会社を辞めて2年ほどバックパッカーとしてサッカーや格闘技を見る旅を世界中でしました。29歳で帰国してサイバーエージェントに入り、そこでスポーツメディアの立ち上げなどに携わっています。真面目に何でもやるというよりも、遊びでも真剣にやれば、それはそれで身になるということを、自分自身強く感じた経験でした。
子育てに関わってきた社員が支えている会社
新卒採用の仕組みがまだ整っているわけではなく、面接を受けていただいたことはあっても、実現に至っていない部分もあります。ただ、社員のほとんどはごっこランドを通じて弊社を知り、入社してくれています。子どもがいなくても、子どもが好きな方や、子どものために何かしたいという思いを持った方には、将来的にはなりますが、ぜひ扉をたたいてもらえたらと思っています。
編集後記
今回のインタビューを通して、ひとつの正解にとらわれず、興味のある方向へ実際に飛び込んでいく姿勢の大切さを学びました。バックパッカーとしての2年間や、子育てという原体験から新しい事業を生み出したお話からは、遠回りに見える経験こそが後のキャリアにつながっていくのだと感じます。就職活動を控える身として、給与や知名度だけでなく、自分が何に夢中になれるかを軸に選択していきたいと思いました。