インタビュー

婿として継いだ50年企業を、地元一番の「ローカルゼブラ」に

婿として継いだ50年企業を、地元一番の「ローカルゼブラ」に
PROFILE
国際事務機株式会社 代表取締役
山田 太熙

野球漬けの学生時代から渡米まで

肩の手術で野球を諦めた

中学、高校とずっと野球をやっていて、ポジションはピッチャーでした。ところが高校1年生のときに肩を壊してしまって、手術を2回もすることになったんです。それでもう野球は難しいなと諦めることになりました。

今さら勉強してもという焦り

野球しかしてこなかったので、今さら受験勉強をして日本の大学に行くのは難しいなと思っていました。それでアメリカに1年間留学することにしたんです。カリフォルニアのロサンゼルスで語学学校に1年通って、そこから現地の4年制大学に進学しました。日本でいえば1年浪人して大学に入ったような感覚です。

結婚と入社、そして社長就任

妻の父の会社を継ぐという選択

アメリカ帰国後、就職したのは今のこの会社だけなんです。アメリカで知り合った妻の父が経営していた会社を継ぐ形で入社しました。私は2代目にあたります。

内定を断ってこの会社へ

会社に入る背景は、単純に妻と結婚するためでした。アメリカでの就職も決まっていたのですが、それを断ってこちらに来た形です。妻の父から、娘(妻)との結婚の条件が、入社することでしたので、仕方がないなと思い、新卒でこの会社に入りました。

私は5人兄弟の末っ子で、上の兄たちはすでにそれぞれの道に進んでいましたし、自分の実家の会社も継ぐ人が決まっていました。もともと自由に育ってきたので、それならこちらでという流れで今の会社を継ぐことになったんです。振り返れば、両親も代表を務めていたので、サラリーマンになるつもりはあまりなく、いずれは経営者になるものだと子どものころから思っていた気がします。

先代の病気で早まった社長就任

入社してからもう30年ほどになりますし、社長になってからは20年ほど経ちます。本来はもう少し遅いタイミングで交代する予定だったのですが、先代が病気になったこともあり、予定より早く社長を任されることになりました。

江戸川区の一大プロジェクトで掴んだ転機

5万5000台のタブレット導入という難題

弊社のホームページにも掲載していますが、経営していて一番苦労したのは、コロナ禍で学校が一斉休校になっていた時期の話です。江戸川区の小中学校で、生徒1人につき1台のタブレットを配布するGIGAスクール構想があり、その入札に参加してほしいという相談をいただきました。対象は5万5,000台ほど、金額にすると30億円ほどの案件でした。

半年足らずでの落札という賭け

当時は世界中でタブレットが不足していて、どこの会社も入札に手を挙げられない状況でした。10月に話をいただいて、翌年3月末までに導入できなければ違約金を取られてしまうという、かなり厳しい条件だったんです。それでも地元の子どもたちのために、とリスクを背負ってでも勝負をかけて臨みました。結果として無事に落札できて、経営してきた中でも一番苦労した経験になりました。

実績が呼んだ指名入札

タブレットは機械なので5年で更新が必要になるのですが、その後の更新案件も続けて受注できています。この実績が評価されて、今では江戸川区や東京都からの指名や入札の依頼がたくさん来るようになり、会社が成長する原動力になりました。

「利益は社会貢献」という経営哲学

週休3日制と年収1,000万円という目標

私たちは会社そのものが社会貢献の一環だと思っています。利益が上がる、儲かっているというと、何かずるいことをしているのではと見る人もいますが、利益が出るのはそれだけ社会に貢献できているからだと考えているんです。今取り組んでいるのは、週休3日制度の導入と、従業員の平均年収を1,000万円にするという目標です。

社員に両方選ばれた結果

この目標は、従業員へのアンケートがきっかけでした。給料が欲しいか休みが欲しいか聞いたところ、最初は休みが欲しいという声が多かったんです。そこで方向性を決めるために改めて意見を聞いたところ、みんな「両方欲しい」と言い出しました。それなら両方を目指そうということになって、そのための仕組みづくりを今進めているところです。

増やさず稼ぐという方針

人を増やせば売上や利益を伸ばすのは簡単ですが、弊社は人を増やさずに利益を上げる方法を追求する会社でありたいと思っています。今は10人から20人くらいの体制を維持し、1人抜けたら新しく1人入れるくらいのバランスでやっていきたいと考えています。

ちなみに息子は立教大学出身で、ずっとサッカー部でキャプテンも務めていました。今は大手製造メーカーに勤めていて6年目になります。反面教師ではないですが、私が野球をやっていた分、あれこれ言われたくなかったのかサッカーの道に進んだようです。将来的にはこの会社に戻ってきてもらえたらと思っています。

地元に選ばれ続ける「ローカルゼブラ企業」

職人たちのマーケティングを担う

弊社は新規の飛び込み営業をほとんどしていません。ホームページを見た、電話で問い合わせた、という形で来る案件は他社との相見積もりに巻き込まれることが多く、少ない人数で利益を追求するにはその時間がもったいないんです。それよりも既存のお客さまや紹介からいただく案件のほうが成約率も高く、従業員の負担も少なくて済みます。

意識しているのは「ローカルゼブラ企業」という考え方です。オフィスリフォームなどの工事を伴う仕事でも、施工は地元の会社にお願いしています。弊社はあくまで営業とマーケティングを担う立場で、手に職はあるけれど売上を伸ばすのが得意ではない地元の会社を支える役割です。弊社の売上が伸びることが、地域への貢献につながるようにしたいと考えています。

地域活動に費やした20年間

弊社が長年選ばれている理由には、50年という実績と地域密着の姿勢があると思っています。この地域の経営者が集まる会にはほとんど所属していて、役員も務めていますし、消防団やボランティア活動にも参加してきました。20年間そうした活動を続けてきたことで、地元の方々に認めてもらえている部分が大きいと感じています。

誰にも真似できない強み

同業他社であっても、同じことをすぐにできるわけではありません。この地域に根ざしてきた時間の積み重ねが、弊社が選ばれ続ける理由になっていると思います。

私自身、生まれたときからクリスチャンの家庭で育ち、5人兄弟のうち1人は牧師をしています。人の役に立つことをすれば利益にもつながる、という父の教えがずっと根底にあって、今回の江戸川区の案件で子どものために動いたことが認められて会社が成長できたのも、その考え方につながっている気がしています。

弊社は株式会社リコーの代理店として基本的な商材を扱いながら、自社ブランドの商品も展開しています。江戸川区や葛飾、足立といったいわゆる下町エリアでは、まだDXやデジタル化に疎い会社さんも多いので、そうした企業に向けてデジタル化を提案し、人手不足を補うお手伝いをしています。

学生に伝えたいコミュニケーションの力

AIの時代でも人と人

学生のうちにやっておくべきことは、コミュニケーション能力を高めることだと思います。AIやパソコンがあれば仕事ができると思うかもしれませんが、結局はどんな仕事も人対人です。部活動などで先輩後輩の関係や組織を経験しておくことをおすすめしています。

面接で見ている自然な笑顔

面接では、緊張していても自然な笑顔を作れるかどうかを見ています。楽しんで人と話せる人は、何をやっても成功すると思うんです。商品知識や能力は後からついてくるものですが、コミュニケーションが取れない状態を社会人になってから直すのは難しいものです。だからこそ、学生のうちにみんなと仲良くなれる力を身につけてほしいと思います。

これからの夢は息子への継承

引退後はオーストラリアへ

会社としての目標は、週休3日制と平均年収1,000万円をよい状態で実現したうえで、息子にバトンタッチすることです。私個人としては、妻と結婚するときに、引退したら海外に永住するという約束をしていて、それがずっと心にあります。長期休みのたびに、夫婦で永住先の候補地を探しに世界中を回っているところです。

今、いいなと思っているのはオーストラリアです。アメリカと比べて物価もそこまで高くありませんし、気候も人柄も過ごしやすいと感じています。日本との時差がほとんどないので、何かあったときにリモートで対応することもできますし、息子が困ったときに手伝える距離感というのもちょうどよいと思っています。

心配なのはボケ防止

海外に移住しても何もしないでいるとぼけてしまいそうなので、趣味程度にでも仕事は続けたいと思っています。今回のインタビューが、学生の皆さんの役に立つ話になっていたらうれしいです。

編集後記

野球で肩を壊した挫折から、結婚を機に会社を継ぎ、江戸川区の大型案件を落札するまでの山田さんのお話には、驚きの連続でした。とくに「利益は社会貢献の証」という考え方や、人を増やさずに稼ぐという発想は、経営学を学ぶ身として非常に刺さるものがありました。地元に根ざし続ける姿勢から、地域と企業の関係性について改めて考えるきっかけをいただきました。ありがとうございました。