インタビュー

祖父の葬儀で、焼香の列が終わらなかった。継ぐ気のなかった私が社長になるまで

祖父の葬儀で、焼香の列が終わらなかった。継ぐ気のなかった私が社長になるまで
PROFILE
シンクレイヤ株式会社 代表取締役社長
山口 倫正

継ぐ気のなかった大学時代

名古屋大学を選んだ理由

大学は、地元の名古屋大学に入りました。受験を頑張れた理由のひとつが、会社経営というものにあまり魅力を感じていなかったからなんです。父親が社長業をやっていたので、家にいることが少なかったんです。そういう家庭をあまり再現したくなかったというのが正直なところです。敷かれたレールの上のキャリアを歩むのも、おもしろくないなと思っていました。

だから、地元で一番の国公立に入れば、当時社長だった父も会社を継がせることを諦めるかなと思って頑張ったんです。ところが反応は正反対で、「よくやったね」「こんなに優秀だったのか」「むしろ使えるじゃないか」という感じになってしまって。逆効果になってしまいました。

祖父の葬儀で見た列

考えが変わったのは、大学2年生のころです。創業者である祖父が亡くなって、お葬式に参列しました。お花がいくつも並んでいて、参列してくださる方々も本当にたくさんいらっしゃいました。声を出して泣いている方もいるようなお葬式だったんです。自分自身、何度もお葬式に参列した経験があったわけではないものの、明らかに普通のお葬式ではないなと。

とくに記憶に鮮明なのが焼香です。お坊様は焼香が終わるまでお経を唱え続けてくださるのですが、参列される方が多くて焼香が終わらない。お坊様が時折、後ろをチラチラ見るんです。いつ終わるんだ、これは、という感じで。それが自分のなかでものすごくインパクトがありました。経営者を務めると、多くの方とのご縁を築ける可能性があるんだなと、学生ながらに思った経験でした。

チャンスは望んで得られない

ちょうど大学2年生から3年生になるタイミングは、理系だったので大学院に進学するか就職するかの分かれ道でもありました。同じ学部や学科の友人は、ほとんどが大学院に進みます。その時に自分なりに考えて、チャンスというのはある意味、望んで得られるものではないなと思ったんです。人が望んでも手に入らないようなチャンスが目の前にあるのに、やらない手はないなと。そこが心機一転、考え方を180度変えたきっかけです。

外の3年とコンサルで学んだこと

1社目は自社のお客様

就職活動では、自分の会社に直接入るという選択肢は、正直ほとんどなかったんです。外のことを知らないまま入るのはありえないなと思っていました。会社をこの先発展させる、成長させると考えたときに、最初から自分の会社に入って、その会社しか知らずに成長させるのはすごく難しいと思うんですよね。

少なくとも他の会社を見たいと思っていました。そのなかでも1社目は、弊社のお客様の会社に入らせていただきました。自分の会社が客観的にどう思われているかを知れるのかなと思ったからです。

「取引先企業の社長の息子」という立場

やりにくかったかというと、私よりもその会社の皆さんのほうがやりにくかったかもしれません。取引先企業の社長の息子って、すごく面倒くさい新入社員だったと思うんです。それでも本当に可愛がっていただいて、いろいろ教えていただきました。業界では弊社は「シンク」と呼ばれているのですが、「シンクはこういうところがよくないんだよね」「逆にこういうところがいいよね」という話も普通にしていただきました。

いまでもその会社さんからは「結構頑張っていたからね」とお話しいただけることもあり、大変だったエピソードはあまりないですね。

経営を学ぶために転職

3年働いたあと、弊社とはまったく関係のない経営コンサルティングファームに転職しました。理由はすごくシンプルで、1社目は弊社の延長線上にある技術の世界だったんです。最初に技術は必要だなと思って技術をやったものの、その延長線上に経営者としての自分が見えてこなかった。だから経営を学びたいと思ったんです。

ただ、そこがすごい激務でした。入社後の研修で一番いい成績を取ったところ、コンサルタントとして外に出るのではなく、採用業務を手伝ってくれという話になったんです。優秀な学生の皆さんに、どうしてコンサルタントになるのか、そのなかでも当社を選ぶ意義などを説明するお仕事です。だからなおさら、コミュニケーション力や論理的思考力が必要になりました。働き方は言わずもがなで、その時期は結構大変でした。

面接では熱量が透けて見える

選考で通るコツのようなものがあるとすれば、相手が欲しい人材像を類推して、その通りに自分の経験や言動、所作でアピールできること。それができれば、会社は採用しますよね。言うのは簡単ですが、実際にはすごく難しいことだとは思います。

演技は見抜けるのかと聞かれることもあります。当時勤めていた会社は社員数が1000人ちょっとで、難関大学の学生を相手に面接をしていました。もちろん皆さんすごく頭がよくて、私より頭がいい方もざらにいます。ただ、何百人とお話を聞いていると、本当にそう思っているのか、経験に基づいているのかは、透けて見えるくらいわかります。私だからではなくて、人事で100人以上面接や面談をした方なら、おそらく皆さんわかると思います。

研究内容より学ぶ土台

いま弊社の採用で見ているところも、そこと地続きです。大学院時代にどんな研究をしていたかが会社の業務に生かせることは、まったくないわけではありません。ただ、そんなことよりも、入った後にいろんな人たちへ積極的にコミュニケーションを取って、いろんなものを学んでいく土台があるかどうかが重要だと思っています。さきほどの話と同じで、素直であるかどうかですね。あとは、暗いよりは明るいほうがいいなと思います。

受け継いだ会社との向き合い方

強さは歴代の社員のおかげ

情報インフラという安定的な市場のなかで、弊社が一定の存在感を示せているのは、間違いなく全社の力です。歴代の社員やOBさん達も含めて、その人たちがいなければここまで成長できなかったはずです。私は社長になって、まだ半年も経っていません。自分が会社にできている貢献は、まだまだそんなに多くない。

若くして社長に就任したプレッシャーは、かなり感じています。正直、皆さんに「プレッシャーを感じていますよね」と言われるほど感じるところもあります。ただ夜も眠れない、ということはないんです。会社に課題がまったくない、というわけではないものの、すごくいい会社だなと自分自身とても感じています。課題がいろいろ見えてくるからこそ、そこを愚直に実直に乗り越えていけば確実によくなる会社だなと思うので、その意味で安心している部分もあります。

話を聞くことが最大の敬意

自分なりにこだわっているのは、まず社員のみんなの話をちゃんと聞くことです。私は自分で創業して会社を作り上げた人間ではなく、会社を受け継いだ立場で、ある意味自分より年上の人たちが多数派という状況なんです。別に年上だから偉いというわけではありません。ただ、これまで会社を作り上げてきてくれた功績は事実でしかないですし、それ以上のことってないわけです。だから最大の敬意を持って接していますし、自分と考え方が違うかどうかに関係なく、年齢を問わずしっかり話を聞くようにしています。

閉じていた会社を外へ開く

自分から変えたことでいくと、まさにいまやっているようなことです。会社の自慢を、どんどん積極的に外へ向けて発信していく。弊社はこれまで、業界のなかだけで閉ざされているような会社だったんです。そうではなくて、いろんな会社を経験して入ってきた自分だからこそ見える会社の良さや強さがあるので、それを業界外の人たちや、こういった学生の皆さん、もちろん投資家の皆さんにもしっかり届けていく。そこは意識して活動しているところです。

学生に伝えたい弊社の自慢

30年40年の時間軸で見る

お話ししたいことは何個もありますが、2つに絞るとすれば、ひとつは私自身の年齢です。私はいま35歳なんですよね。だからこそ、弊社の将来をどのくらいまで見て経営しているかと言えば、30年40年先を見ているんです。

会社のリーダーがどのくらいの時間軸でその会社を考えているかは、結構大事なことだと思っています。たとえば日本の市場で人口が減っていく、それによって労働力が不足していくという話は、私からするともうすでに強烈な自分ごとなんです。自分たちの世代や、私たちより若い世代の人たちがどうしたら最大のパフォーマンスを出せるかも、常にその時間軸で見るようにしています。

安定と挑戦が両立する場所

もうひとつは、弊社が安定と挑戦を両立できる場所だということです。60年以上、情報インフラを構築する仕事をさせていただいてきました。これからも情報インフラ、いわゆる通信やインターネットといった技術は進化し続けるし、需要も一定以上あると考えています。

そのうえで、若い人たちにもやりがいを持って働いてほしいと思っています。いろんなことに挑戦して、それがその人の成長に繋がって、結果として会社の成長につながっていく。それが望ましいと考えているので、そういう環境がいいなと思う人には、ぜひ来ていただきたいなと。

社是「愛・知・和」

弊社には「愛・知・和」という社是があります。このなかで、まず最初に重要なのが「和」です。「愛」は仕事を好きになろう、「知」は自分の知識を研鑽していこう、「和」は互いをしっかり尊重して働こうということですが、まずは和を持ってチームワークで働くところから始まると思っています。

弊社に入って、いろんな人たちとコミュニケーションしながら、しっかり尊敬を持って接して、会社のことが好きになってくれれば、仕事でもっとチームの仲間のために努力ができる。そうしていろんなことを学んで、結果としてそれを繰り返しているうちに仕事が好きになる。そういう場所であってほしいと思っているので、チームのみんなと一緒に挑戦をしていきたいと思ってくれる方であればウェルカムです。社員の話をしっかり聞くというのも、まさにそのための活動ですね。

AIの時代に人が持つ価値

AIに任せるべき仕事はある

AIについては私自身も関心があっていろいろ考えるのですが、仕事がなくなることはないと思っています。もちろん、AIに任せるべき仕事はたくさんあります。そのうえで何が重要かというと、自分たちが改めて存在する意義や、自分が出せる価値のようなものを考え直すことだと思います。

弊社の業務でいくと、当然AIを活用して効率化していくことは考えなければいけません。ただ、さきほどお話しした「愛・知・和」のような精神をお客様にも伝えていくことが、弊社の従業員には必要とされています。この精神をAIエージェントに組み込めるかというと、なかなかまだまだ難しいかなと思っています。

陳腐化するスキルもある

いまの新入社員は、AIを使うのが本当に当たり前なんです。広報担当者が新入社員研修を担当したときも、アウトプットの質にとても驚いていました。学生の方だろうが社会人何年目だろうが、AIが使える前提で社会が変わり始めている。そうなってくると、今まで社会人として差別化要因になっていたスキルが陳腐化している状態だと思うんです。

たとえばコンサルタントも新入社員研修で習うのですが、話を構造化する、抜け漏れがないように考えるといったことは、まさにAIの得意分野です。

本気度が差になる

そう考えると、そういったことはAIがやってくれるので、より人間としての考え方や価値観、どの課題に着目するか、それに対してどういう熱い思いを持っているかが、すごく重要だと思っています。こうしたものは、社会人を何年経験しているかよりも、どれだけ本気で自分の人生や仕事をやっているかで決まると思うんです。だから、ある意味で学生の皆さんからするとチャンスでもあるのかなと。

一方で、AIに甘えるのとは違います。新入社員が出してくるアウトプットは質が高くなっているのですが、経験をしていると「ここの部分が抜けているな」「ここは少し浅いな」というのは結構わかるんです。だからこそ、自分としてどう考えて、何をより深くこだわるのか。そのあたりは重要だなと自分も痛感しています。

これからと、悩む学生へ

ずっと社長であり続ける

在任中にこれだけは成し遂げたいことと聞かれると、難しいですね。そんなことかと思われてしまうかもしれないのですが、私はずっと社長であり続けたいというのがひとつあるんです。死ぬまでと言うと、少し長すぎますが。

そのためには、会社をたとえば30年続けなければいけません。続けたときに、従業員の皆さんが疲弊しているような会社であってほしいとは、まったく思っていないので。しっかり30年以上、社会に必要とされるような会社であり続けられるように会社を成長させて、その中で働いているみんなが今よりもっと幸せになっていける。そういう経営をしていきたいなと思っています。

比べても意味がない

学生のときって、就職活動ひとつとってもそうですが、お友達と一緒に活動していると人と比較してしまいますよね。人気企業の内定が取れるとかっこよく見えることもある。私も若いころはそういうところがあったと思っていて、いろんな人と比較して、自分は優れている、劣っていると考えてしまいがちなんです。

いまはSNSもあるので、なおさらだと思います。就活が始まると、すごくキラキラしている人はやっぱりいるんです。キラキラしているといいなと思ってしまうし、劣等感も感じてしまいますが、あまり気にせず自分の道を行くのが大事なんじゃないかなと思います。

正直に生きる

本当はやりたくもないことをしてしまう、自分で思ってもいないようなことを言ってしまう。それで悩むこともあると思います。ただ、結局いまこの瞬間までいろんな人生の選択をしてきて、間違ったとか後悔したということは、私にはほぼありません。もちろん、こっちのほうが良かったということがなかったわけではないですが。

結局、いまの自分が幸せだと思えるか、正直に生きていられるかがすごく重要だと思います。自分の感覚に素直に生きるということです。真面目に考えているからこそ悩んでいるのだと思いますし、真面目に考えている時点でとても立派だと思います。そんなにカッコつけずに正直に、素直に生きて、いろんな人たちの話をちゃんと聞いて、自分なりに感じたことを実行する。それをしていれば、私がそうであるように、後悔のない人生が送れるはずなので、安心してほしいなと思います。

編集後記

「チャンスは望んで得られるものではない」。祖父の葬儀で焼香の列が終わらない光景を見て進路を変えたというお話に、聞きながら少し背筋が伸びました。私も小さく事業をかじっている身として、正直、比較から自由になれた記憶がありません。就活が始まってからは、内定先の名前で誰かを測ってしまう瞬間もあります。だからこそ、100人以上を面接すると本気度は透けて見えるという言葉と、AIで差がつかなくなった今こそ本気度が問われるという言葉が、同じことを指しているように聞こえました。30年40年先を自分ごととして語る35歳の視点も、強く印象に残っています。まずは正直でいることから始めたいです。