インタビュー

枕に一目惚れした就活生が、家族の「困った」を発明で解決する社長になるまで

枕に一目惚れした就活生が、家族の「困った」を発明で解決する社長になるまで
PROFILE
マシマロワークス 代表者
井出 葵

大学時代はものづくりに夢中だった

鳥人間研究会で飛行機を作っていた

私の出身学部は文学部日本語日本文学科で、日本語教育を専攻していました。勉強自体はまじめに取り組んでいたのですが、それを将来の仕事にしようとまでは考えていなくて。むしろ興味があったのはものづくりのほうでした。

所属していたのは鳥人間研究会という部活で、飛行機を作ってコンテストに出品するという活動をしていました。何かを自分の手で作って、それが誰かの役に立ったり、多くの人の目に触れたりする。そういう体験に強く惹かれていたんだと思います。

面接の帰りに枕を買って帰った

ニトリの選考に応募したのは、実はそれほど強い思い入れがあったわけではありませんでした。出身は兵庫県で、地元にはニトリの店舗がほとんどなく、友人が受けたという話をちらっと聞いて名前を知っていたくらいで。

転機になったのは、面接に行った赤羽の本部でした。あまりの枕の種類の多さに驚いて、リクルートスーツのまま枕を買って帰ってしまったんです。自分に合う一つが見つかりそうだと感じて。赤羽から当時住んでいた八王子まで大事に持ち帰りました。今でも懐かしい思い出です。

ニトリで過ごした16年間、あらゆる仕事を任された

立ち上げたばかりの新規事業に配属される

新卒では、埼玉の2店舗と東京の2店舗で現場経験を積みました。その後は、社内で立ち上がったばかりの小規模店舗事業「デコホーム」へ異動になりました。

まだ3店舗しかない、できたてほやほやの事業だったので、マニュアルづくりから新店オープン時のヘルプ、パートさんや社員の教育まで、何でも自分たちで決めながら動いていく必要がありました。ストアチーフという店長に近い肩書きで、20−30人程度の従業員と店舗を運営する役割を任せてもらっていました。

独学で学んだマーケティングが今の土台に

デコホームの後は商品部に6年ほど在籍しました。最後に担当したのは、ニトリでいちばん売上の大きい「春の新生活」の企画です。新しく進学したり就職したりする若い世代向けの企画で、正直なところ、やり方を誰かに教えてもらえるわけではなく、任された感じで独学でマーケティングやブランディングを勉強しました。

若い人たちに実際にインタビューをしながら、どんな暮らしを求めているのかを考える日々のなかで、もっとピンポイントに絞って、誰の決裁もなく、自分の思い込んだ方向にすぐ進んでいけるフットワークの軽い働き方に惹かれるようになりました。ちょうど2人目の子どもを考えたいタイミングとも重なり、プライベートとのバランスも考えるなかで、自分でやっていこうと決めました。

家族の「困った」から生まれた発明

「レジカゴ丸ごと保冷バッグ」が第一弾

独立して最初に手がけたのは、スーパーで買い物をした後、袋詰めをせずにそのまま持ち帰れる保冷バッグでした。クラウドファンディングのMakuake(マクアケ)でまずデビューさせて、新しいものが好きな人たちに先に手に取ってもらうことで認知を広げ、その後は楽天市場やAmazonでの一般販売につなげています。

第二弾として作ったのは、乾いた洗濯物を畳んだりしまったりする面倒さを解消するアイテムです。ポンポンと投げ入れて、使うときは引き抜くだけでいい、引き出しのない薄型の脱衣所収納家具になります。

累計1万8000個以上を販売

保冷バッグは今も主力商品で、Instagramで「保冷バッグ」と検索すると、一般の方が紹介してくれた私の製品の動画が一番上に出てくるほどです。企業側の発信ではなく、使ってくれた人が自然に広めてくれていることが、そのまま認知につながっていると感じています。累計の販売数は1万8000個以上にのぼり、需要の大きさを実感しています。

子育て世帯の「あるある」を見逃さない

商品の着眼点は、自分自身の暮らしから来ています。私には子どもが2人いて、両親とも地理的な距離があり、頼れる状況にありません。共働き比率が7割を超える今の時代、自分と同じような困りごとを抱えている家庭はきっと何千万世帯もあるはずだと考えています。

「なぜこれを毎日やらなければいけないのだろう」という小さな違和感を見逃さず、それをなくすためにはどうすればよいかを突き詰めて考える。これが商品開発の根底にある姿勢です。生活雑貨や家具だけでなく、文房具や帽子、庭まわりのアイテムなど、カテゴリーにこだわらずさまざまなものを生み出そうとしているのも、「暮らしにかけるアイデアと発明」というベースがあるからです。

一人社長だからこそ得られるもの

現在は一人で会社を経営しています。人を雇うということは、その人やその家族の生活に責任を持つということでもあり、簡単なことではないと感じています。だからこそ、できる限りミニマムに自分でできることをやりながら、今の時代ならではのアウトソーシングを活用し、少しずつ多くの人に助けてもらいながら進めています。

一人でやることの厳しさもありますが、そのぶん、失敗も含めてすべての経験や知見が自分のものになっていく感覚があり、そこに大きなやりがいを感じています。

会社員としての経験は、独立後もずっと役立つ

今こうして一人でいろいろなことをやれているのは、ニトリでの16年間があったからこそだと思っています。当時は悩みや葛藤もたくさんありましたが、だからこそ独立への気持ちが強くなった面もあります。

大きな会社では、ジェネラリストとしてさまざまな仕事を経験する機会をもらえます。それが、一人で何でもやっていく力の土台になりました。大きな会社でそうした経験を積んでも、はたまた小さな会社でスペシャリストとして経験を積んでも、その知識をもとに一人で歩いていくことはきっとできると思います。会社員として働いた経験は、規模の大小を問わず、長い目で見て役立つものだと感じています。

名前だけでも覚えてもらえたら

学生の皆さんが今すぐ手に取る商品ではないかもしれません。ただ、いつか家族を持って、時間に追われながら子育てに奮闘するときが来たら、ふとマシマロワークスの商品を思い出してほしいです。暮らしが少し時短になって、家族と向き合う時間を増やせるような商品を、これからも生み出していきたいと思っています。

編集後記

今回、井出さんのお話をうかがって、まず驚いたのは「一人社長」という働き方のリアルさでした。すべての責任を背負うぶん、得られる経験や知識もすべて自分のものになるという言葉が印象的で、私自身の将来のキャリアを考えるうえでも刺激になりました。子育ての困りごとを見逃さず、発明という形で解決していく姿勢からは、日常のなかにこそビジネスのヒントがあることを教えていただいた気がします。貴重なお話をありがとうございました。