インタビュー

「真っ当なことを、真っ当にやり切る」 課題を成長に変える、塩原正也氏の経営論

「真っ当なことを、真っ当にやり切る」 課題を成長に変える、塩原正也氏の経営論
PROFILE
メディアミックス株式会社 代表取締役
塩原 正也

メディアミックス株式会社 代表取締役 塩原 正也氏インタビュー

19歳で麻雀の世界に本気で向き合い、飲食業を経てIT業界へ。31歳で独立し、現在は11社からなる企業グループの経営に携わる塩原正也氏。派手な新規性よりも、需要のある市場で価値を磨くこと。問題を避けるのではなく、成長の起点として捉えること。そして、曖昧さに逃げず「真っ当なことを真っ当にやり切る」こと。これまでの歩みと、メディアミックスに託す成長への期待を聞いた。

進路を変えながら、経営の土台を築く

19歳で知った「好き」と「仕事」の違い

大学の付属高校から法学部へ進学した塩原氏は、大学時代の多くを麻雀に費やした。19歳のころから約1年半、本気でプロを目指すほど打ち込んだという。

しかし当時は、主要なタイトル戦でも賞金規模が限られ、麻雀だけで生活を成り立たせることは容易ではなかった。肩書を得られるかではなく、職業として継続できるか。現実を見極めた末に、塩原氏は別の道へ進むことを決めた。

飲食業からIT業界へ

麻雀を離れた後は飲食店で正社員として働き、調理師免許を取得。店舗運営も学び、将来は自分の店を持つことも考えていた。ただ、その前に一度はデスクワークを経験しておきたいと考え、飲食店としては独立せず、IT業界へ転じた。

就職先を選んだ決め手は、通勤のしやすさだったという。ところが入社してみると、そこは先進的な技術を扱うベンチャー企業だった。偶然の選択から始まったIT業界で、塩原氏はSEとしてパッケージ開発に携わり、技術と事業の双方を学んでいく。

31歳、周囲の後押しを受けて独立

独立したのは31歳のとき。もともと社長になりたい、組織のトップに立ちたいという願望が強かったわけではない。多忙な開発現場で仕事を続けるなか、事務所や設備を提供し、事業を始めることを後押ししてくれる人との縁が生まれた。そうした流れに背中を押される形で、IT業界での独立を決断した。

最初の会社は共同で立ち上げた取締役に経営を引き継ぎ、その後あらためて設立したのが現在のパワーエッジである。パワーエッジは2018年からM&Aを軸とした成長へ舵を切り、メディアミックスはグループに加わった5社目の会社となった。以降、塩原氏はメディアミックスの経営も担っている。

課題を「成長の入口」として捉える

独立後に最も大変だったことを尋ねても、塩原氏は特定の出来事を挙げない。事業規模が大きくなれば、扱う金額も組織も変わり、直面する課題の種類も変わる。過去の問題は、解決した時点で次の経験へと変わっているからだ。

「目の前の問題は、避ける対象ではなく、どう乗り越えるかを考える対象です。解決のために何が必要か、新しい方法を考えることに面白さを感じます」

その姿勢は、組織運営にも表れている。仕事量が増えれば人手が足りなくなり、人員が増えれば管理部門や制度が追いつかなくなる。成長の過程では、仕事、人員、組織、制度のバランスが必ず変化する。

塩原氏が重視するのは、その変化を失敗として捉えるのではなく、次に整えるべき経営課題として見つけることだ。課題が見えなくなると、改善のきっかけも見えにくくなる。組織や制度をその都度つくり直し、課題に向き合い続けることが、会社の成長につながると考えている。

曲げない基準は「真っ当さ」

塩原氏が事業で最も大切にしているのは、「真っ当なことを真っ当に、きちんとやり切る」ことだ。短期的な得失よりも、法令、契約、会計、顧客や取引先との信頼を優先する。

グループ全体で共有しているのは、「グレーはアウト」という考え方である。白か黒か判断に迷う領域には、そもそも入らない。判断を曖昧にして目先の利益を取りにいくより、説明責任を果たせる選択を積み重ねるほうが、長期的には会社の信用と基盤を強くする。

納税に対する姿勢も同じだ。過度な節税によって短期的な数字を整えるのではなく、正当な利益を計上し、必要な税金を納めたうえで会社の体力を積み上げる。派手な手法ではなく、当たり前のことを継続することが、持続的な経営につながるという考えである。

競争のない市場より、需要のある市場で選ばれる

新しい市場を切り開く「ブルーオーシャン」という考え方に対して、塩原氏は一定の距離を置く。競合が少ないことは魅力に見える一方で、そもそも十分な需要がない可能性もあるからだ。

反対に、多くの企業が参入している市場には、それだけ顧客の需要が存在する。そこで他社よりも良い価値を提供し、選ばれる理由を磨く。塩原氏が志向するのは、奇をてらうことではなく、需要のある市場で事業の精度を高める経営だ。

ゼロから新しい事業を連続して生み出すことだけが、企業成長の方法ではない。実際、多くの企業は最初の事業を土台にしながら、M&Aや既存事業の強化によって領域を広げている。パワーエッジがM&Aを成長戦略の柱としてきた背景にも、再現性のある方法で事業を伸ばすという考えがある。

「ブルーオーシャンには魚も住んでいないかもしれない」

「私は起業家というより経営者です。まったく新しいものを次々に生み出すタイプではありませんが、今ある事業をより良くし、伸ばしていくことには力を発揮できると思っています」

「流れ」を読むとは、変化の兆しを捉えること

塩原氏は、意思決定において「流れ」を大切にしている。この感覚は、若いころに麻雀へ打ち込んだ経験から培われたものだという。ただし、麻雀の考え方をそのまま経営へ持ち込んでいるわけではない。

ここでいう流れとは、偶然や勢いだけに任せることではなく、市場、顧客、組織、人の動きに現れる変化の兆しを捉えることに近い。良い機会が訪れているにもかかわらず、リスクだけを理由に可能性を閉じてしまえば、自ら成長の流れを止めることになる。

もちろん、感覚だけで判断するものでも、誰にでも当てはまる方法でもない。事実を確認し、リスクを見極めたうえで、それでも今は進むべきか、守るべきかを決める。経験を通じて磨いてきたタイミングの感覚が、塩原氏の経営判断を支えている。

メディアミックスを、次の成長段階へ

現在、パワーエッジのグループ会社は11社。各社に同じ役割を求めるのではなく、安定的に利益を生み出す会社、成長投資を優先する会社など、それぞれの状況に応じて経営方針を分けている。そのなかで、成長曲線に乗せることを期待されている3社の一つがメディアミックスである。

メディアミックスは過去最大の売上を達成した。一方で、グループ入り後に売上を約2倍へ伸ばした他社と比べると、メディアミックスの伸びは約1.3倍にとどまる。塩原氏は、この差を否定的に捉えるのではなく、「まだ伸ばせる余地がある」ことの表れだと見る。

すでにメディアミックス自身もM&Aを行い、傘下に新たな会社を加えている。今後の目標として掲げるのは、売上8億円。現在の延長線上だけでなく、組織、制度、人材、事業領域を見直しながら、成長速度を一段引き上げる構想だ。

会社を成長させる理由は、個人的な富を増やすことではないと塩原氏は語る。自らの判断と実行によって、組織がどこまで変わり、どこまで成長できるのか。その可能性を確かめることに、経営の面白さを感じている。

20代へ――効率だけでは身につかないものがある

若い世代に伝えたいことを尋ねると、塩原氏は「努力」と答える。効率を意識すること自体は重要だが、結果だけを最短距離で得ようとすると、自分で調べ、考え、試す過程まで省いてしまいかねない。

就職活動でも、人材紹介などのサービスは有力な選択肢の一つである。ただし、会社選びそのものを他者へ委ねるのではなく、自分が何をしたいのか、どの環境で力を発揮できるのかを自分の言葉で考える必要がある。選択の責任を引き受けることが、入社後の納得感にもつながる。

「努力は結果を保証するものではありません。それでも、経験を積み重ねることで判断力が育ち、次に選べる道は増えていきます。近道を探すだけでなく、自分で考えて動く時間を大切にしてほしいと思います」

経営は、日々の選択の積み重ね

塩原氏の言葉に一貫しているのは、成功を特別な才能や一度のひらめきだけで説明しない姿勢だ。現実を直視し、課題を見つけ、組織や制度を整え直す。競争を避けるのではなく、需要のある市場で選ばれる理由をつくる。そして、判断に迷う場面ほど「真っ当さ」という基準へ立ち返る。

麻雀、飲食業、IT業界での独立、M&Aによるグループ経営。歩んできた道は一見すると多様だが、その根底には、状況を冷静に見極め、必要な選択を積み重ねる姿勢がある。

メディアミックスはいま、過去最大の売上を更新した先で、次の成長段階へ進もうとしている。売上8億円という目標に向けて問われるのは、派手な一手ではなく、日々の仕事をどこまで高い精度で積み重ねられるかだ。塩原氏が掲げる「真っ当なことを、真っ当にやり切る」という言葉は、その挑戦を支える経営の軸でもある。

編集後記

「ブルーオーシャンには魚も住んでいないかもしれない」という一言に、頭を殴られたような気分になりました。学生起業をしている身として、競合のいない場所を探すことばかり考えていたからです。人が群がっているのは魚がいる証拠、あとは人より多く釣ればいい。この順番で考えたことは一度もありませんでした。

印象的だったのは、ご自身を「起業家ではなく経営者」と言い切られたことです。できないことを認めたうえで、できることの精度を上げていく。その割り切りがあるからこそ、11社を束ねる規模まで来られたのだと感じました。

課題を自分からつくりにいくという発想も、持ち帰りたいと思います。順調であることに安心していた自分を、少し反省しました。