これまでのキャリアと事業の承継
35歳で見つけた営業の適性
私は大学卒業後、いろいろな仕事をしてきましたが、正直どれもぱっとしませんでした。ケーブルテレビの仕事では、それなりに結果を出せたのですが、その後が今一つだったんですよね。健康食品の販売会社に勤めたりもしましたが、なかなか自分に向いている仕事が見つからなくて。
それで35歳のとき、結婚を機に「もう後がない」という気持ちで、ハローワークの求人を見て八王子にある派遣会社に入社しました。たまたま見つけた会社だったんですけど、これが人生の転機になりました。
一冊の本が転機に
派遣会社に入ったとき、「絶対に成功しなきゃいけない」と思って手に取ったのが、フランク・ベトガーという方が書いた本でした。かなり古い一冊で、タイトルは「なぜ私は販売外交に成功したか」です。今でもネットで売っているので、興味があればぜひ読んでみてほしいです。
内容は「アポイントの準備をきちんとする」「身だしなみを整える」といった、本当に当たり前のことばかり書いてあるんですけど、意外とこれができていない営業マンが多いんですよね。その通りに実践してみたら、1年後にはトップセールスになっていました。
そこから派遣会社ばかり3回転職して、今の会社が4社目です。中小企業からテレビコマーシャルをしていた大手派遣会社までいろいろな環境で法人営業を経験しました。振り返ると、個人向けの営業よりも、大企業を相手に長期的な関係を築いていく法人営業の方が、自分の性格に合っていたんだと思います。
MBOによる事業承継
今の会社は、今から16年前にMBO(経営陣による買収)という形で引き継ぎました。もともとの創業者は建設会社の社長で、ちょっと名の知れた方だったんです。
私はこの会社に入社して、2年ほどで常務取締役になりました。営業でもかなりの成績を残せたので、当時のオーナーから「できればこの会社を引き継いでほしい」と言われて。メインバンクからも融資の話をいただいて、株式を買い取ることになりました。
振り返ると、あまり狙って動いたというより、流れに乗っていると気づいたらこうなっていた、という感覚に近いですね。
物流現場のニーズに応え続けて広がった事業
物流の「なんでも屋」
弊社の事業内容はEC通販の倉庫や、いわゆるサードパーティー・ロジスティクス(3PL)の現場などを対象にした人材派遣・業務請負です。倉庫内に人材を派遣するだけでなく、業務そのものを請け負う形でもサポートしています。
事業をやっているうちに業務の幅がかなり広がっていったんですけど、それはお客様から「どうせやるなら全部やってほしい」というニーズがあったからなんですよね。
おかげさまで、トヨタさんのような大手企業ともお取引させていただいています。中小企業から大手企業まで幅広く対応できることが、弊社が生き残って来られた理由の一つだと思っています。
選ばれる理由は営業力
大手企業とのお取引が続いている理由をよく聞かれるんですけど、正直に言うと弊社の営業力がとても強いんです。例えば弊社の営業部長は、アポイントなしでいきなり大手企業の本社に行って、部長クラスの方に会いに行けるくらいの行動力があります。
これは私が長年の営業経験のなかで編み出したノウハウや考え方、電話でのアポイントの取り方まで細かく分析して、マニュアル化・仕組み化してきた成果でもあります。おかげで、やる気さえあれば、一定の成果が出せる仕組みができていますし、センスのある社員はもっと結果を出しています。
離職率5割から変えた会社づくり
定着率の高さに裏打ちされた強い組織
弊社は社員が辞めにくいのが特徴で、定着率も90%ぐらいなんですよ。ただ、最初からこうだったわけではありません。会社を引き継いで5年目くらいまでは、地元密着で営業していたこともあって、私自身かなり厳しい社長だったんです。当時の離職率は5割ほどで、正直「これはまずい」と自分でも思いました。
そこから、経営に関する本を読んだり、伸びている企業を見学したりしながら、少しずつ仕組みづくりを取り入れていきました。
コンサルティングにも入ってもらいながら、自分がなぜ成果を出せていたのかを言語化して、マニュアルに落とし込んでいったんです。数年かかりましたが、今では社員が私以上の成果を出してくれるようになりました。
「怒らない」という文化
弊社の企業文化としてこだわっているのが、「怒ることを禁止する」という考え方です。上司から部下に対して怒るということは、非常に恥ずかしいことだと私は考えています。よほど悪いことをしない限り、弊社では怒られることはありません。
最近は経営会議にもあまり出席しないようにしていて、幹部との1対1のヒアリングを中心にしています。人に指図されるのが嫌いだった自分が、他人に指図するのはおかしいと思ったからです。任せることで、みんなが自分で考えて頑張れるような会社を目指しています。
5年で1,000人、物流業界の未来を支える挑戦
2040年問題への備え
物流業界には「2040年問題」と呼ばれる課題があります。人口減少が進むなかで、将来的に物流を支える人材が不足していくことが懸念されているんです。この課題に対して、弊社が力を入れているのが外国人材の活用です。
今、弊社には100人以上の留学生が働いてくれています。今後は外国人材の受け入れに関する制度も変わっていく予定で、物流業界でも外国人材が活躍できる環境が広がっていくと見ています。
ネパール・インドネシアから広がる人材活用
具体的には、ネパールやインドネシアから、若い人材を弊社に迎え入れる取り組みを進めています。8月には弊社の役員がネパールに行っていて、来年4月にはネパールの若者たちが弊社で働いてくれる予定です。目標としては、5年で1,000人の外国人の人材を物流業界に呼び込みたいと考えています。
中小の物流企業にとって、外国人の人材受け入れに関する法律や手続きは、正直かなり複雑です。弊社は、そうした部分を中小の物流企業に代わってサポートする形で、外国人の人材を活用した物流アウトソーシングを展開していきたいと考えています。
大手との協業
この取り組みを加速させるために、大手デベロッパーとの協業も進めています。デベロッパーが倉庫を建設し、そこに入るお客様に対して、法律に沿って外国人の人材を活用できる仕組みづくりを進めている段階ですね。
それから9月には、東京ビッグサイトで大きな物流の展示会が開催されます。弊社もブースを共同で出展して、来場されたお客様に外国人の人材を倉庫で活用する提案をする予定です。
今回のインタビューでは前向きな話が中心になっていますが、実際には海外出張なども含めて、かなり苦労しながら進めているのが正直なところですね。
学生へのメッセージ
失敗を恐れないでほしい
拙い経験からお伝えできるとすれば、人生は何度でもやり直せるということです。私自身、35歳になるまでいろいろな仕事に挑戦しては、うまくいかないことの連続でした。それでも、自分に向いている仕事に出会えたことで、人生が大きく変わりました。
何が自分に向いているかは、やってみないとわからないものです。だからこそ、失敗を恐れずにどんどん挑戦してほしいと思います。幸い、今の日本はまだまだ豊かな国ですし、失敗したからといって生活できなくなるようなことはほとんどありません。
日本に生まれたというだけでも、世界的に見れば恵まれた環境にいるはずです。可能性を自分で狭めずに、いろいろなチャレンジをしてもらえたら嬉しいですね。
編集後記
朝日さんのお話をお伺いして、まず驚いたのが、35歳という年齢からキャリアが大きく開花されたというエピソードでした。
就職活動をしていると、つい「早く結果を出さなければ」と焦ってしまいがちではないでしょうか。ですが、朝日さんの歩みからは、自分に合った場所さえ見つかれば、大きく飛躍できるのだと勇気をもらいました。
また、外国人の人材活用という新しい挑戦を通じて、物流業界の未来を切り拓こうとされている姿にも刺激を受けました。失敗を恐れずに挑戦し続けることの大切さを、改めて実感させていただいたインタビューでした。貴重なお話をありがとうございます。