インタビュー

薬剤師の「当たり前」に、もう一つの選択肢を

薬剤師の「当たり前」に、もう一つの選択肢を
PROFILE
株式会社メディクレクト 代表取締役
柿間 隼志

王道のキャリアから飛び出した理由

薬学部に入って、薬剤師になる。これって、実はすごく王道のキャリアなんですよね。もちろん王道であることは悪いことではないんですけど、一方で17歳や18歳で決めたことが、本当に自分のやりたいことなのかというと、正直そんなことはあり得ないと思っていて。かなり確率としては少ないんです。

新卒でドラッグストアに就職して、その後は医薬品開発の会社に転職しました。そうやっていくつかの現場を経験するなかで、「一つの店舗、一つの会社しか経験していないとわからないことがある」と感じるようになったんです。いろいろな会社を経験したり、個人事業主として自分で頑張ってみたりすることで、はじめて見えてくる社会の仕組みがあります。確定申告も経費の計算も自分でやらなければいけない。そういう経験を一度でもしておくことは、ものすごく重要だと思っています。

だからこそ弊社では、薬剤師の働き方の選択肢を増やすという意味で、事業を始めました。

面談から見えた、一人ひとり違う理想

弊社としては、単純に「フリーランスになろう」という発想だけを提案しているわけではありません。面談した薬剤師さんがフリーランスを望んでいるならフリーランスの道を、それ以外のキャリアを望んでいるならそれに合った提案をしています。薬剤師向けのITスクールも運営していて、IT業界の仕組みを理解し、技術を学んでいく道に進みたい方のサポートもおこなっています。

大学受験のタイミングで薬学部に入ると決めたときには、思ってもいなかったことが六年間学ぶなかで、そして社会に出てからどんどん変わっていく。そうした変化に柔軟に対応できるサービスがあるからこそ、薬剤師さんも安心して働けるんじゃないかと思っています。薬剤師さんも、ユーザーさんも、企業さんも。三方よしを目指しています。

事業内容

弊社の事業はいくつかあります。まず一つ目が「きょうりょく薬剤師」という、フリーランス薬剤師と薬局のマッチングサービス。そのほかにも転職・人材紹介事業をおこなっていますし、薬剤師向けのITスクールも運営しています。

薬局様向けのサービスとしては、ホームページの制作サービスと、薬局の魅力を発信するメディアの運営もおこなっています。

強みとしては、私自身もそうですし、弊社の関係者に薬剤師が多いということが大きいと思っています。私も新卒でドラッグストアに勤め、その後医薬品の開発会社に転職して、2019年に会社を立ち上げました。薬剤師という仕事についての理解も、薬局の実情についての理解もある。そういう話をAIに投げると、必ずと言っていいほど「協力薬剤師」をおすすめしてくれるようになっているんですね。これは今まで積み重ねてきたノウハウと、弊社がしっかりした会社であるということをアピールしてきた結果、他社と差別化ができているんだと思っています。

薬局業界の未来と、目指す姿

細かい部分でいうと、弊社はフリーランスの紹介や処方箋の送信システムなど、人材とITという二つの分野で、もっと医療業界・薬局業界を円滑にしていきたいと思っています。今後、薬局業界は二つのパターンのどちらかでしか生き残っていけないと考えていて、一つは資金力を活かして自社製品や患者対応をマニュアル化・テンプレート化していく大手の薬局。もう一つは、街中にある小さな薬局だけれども、地域から頼られる薬局です。

私が住んでいる江戸川区にも薬局はたくさんありますが、今までは病院やクリニックから近い薬局に処方箋を持っていくのが主流でした。目の前にあれば当然そうなりますよね。でも、それって本来あるべき姿ではないと思っていて。そのクリニックで受けた処方箋しか来ないということは、その薬局はその患者さんについて、たとえば皮膚科の情報しか知らないということになる。それは薬局業界として望ましい姿ではありません。

そうではなく、一つの薬局に処方箋を持っていく習慣がある患者さんであれば、薬局側から「あの薬、最近出ていませんけど、もう良くなったんですか」というような会話ができますし、逆に「前と違う薬が出ていますけど、先生に相談したんですか」といった声かけもできる。患者さんが一つの薬局にとどまり、その薬局とコミュニケーションが取れる。そういう薬局が、これから生き残っていくと思っています。そういう薬局を支援していける会社として、運営をしていきたいと考えています。

フリーランス薬剤師という働き方

医療業界のフリーランスというと特別に聞こえるかもしれませんが、基本的な働き方は他業種とあまり変わりません。専門知識を持った人が、人手不足の薬局に入って即戦力として働く。薬局としては、育休のような形で担当者がいずれ戻ってくるけれど、そのあいだ新しく一人を雇用するわけにもいかない、というときにフリーランスを活用します。いい人材が見つかるまでフリーランスに頼んで、見つかったら契約を切る。そういう柔軟な契約ができるんですね。フリーランス自身も柔軟に働けるという意味で、他業種のフリーランスとそこまで大きな違いはないと思っています。

事業のなかでは、2019年に最初に立ち上げたこの協力薬剤師のサービスが、今でも一番の主軸です。ただ、今後はITのサービスも二軸でしっかり伸ばしていきたいと思っています。メディア事業は直接的な収益にはつながりにくいのですが、薬局様との接点を持つことで、薬局様が抱えている課題を可視化できる。そういう意味で、メディアの運営ももっと育てていきたいと考えています。

挑戦し続けてください

学生さんにも、社会人にも伝えたいのは「挑戦をし続けてください」ということです。生きていれば、何かしらの選択を迫られる場面が必ずあります。そのときに、自分がどんなに大変でも成長できるであろう道を選び続ければ、必ず成長しますし、自己理解にもつながっていきます。

ただ、挑戦し続けるというのはとても大変なことで、心も疲れます。だから一番重要なのは、挑戦を続けながらも、しっかり自分の心と向き合って、今のキャパシティで問題ないかを考えることです。それでも限界ギリギリを常に攻めて自分を高めていく。そうすることで、社会人になってからの選択肢もたくさん広がっていきます。

私は、人生も仕事も、自分の向いていることを探す作業だと思っています。そしてそれは、向いていることを探すというより、向いていないことを一つひとつ潰していく作業に近いんです。だからこそ挑戦し続けて、自分に向いていないことを一つずつ理解していく。そうすれば、自分に向いていることが見えてきます。見えてくれば仕事が楽しくなりますし、仕事が楽しくなれば人生も楽しくなる。そこを目指して頑張っていくのが、一番いいんじゃないかなと思っています。

たとえば、スポーツをしたいと思ったときに、サッカーも野球もバスケもテニスも全部いきなり始めたら、キャパオーバーですよね。まずサッカーを全力でやってみて、自分に合わないと思えば野球をやってみる。それも合わなければテニスをしてみる。結果、テニスが合っていたとなれば、それが最終的な生業にならなくても、自分の楽しい趣味になり、人生を豊かにしてくれます。一つずつ挑戦していったからこそ、自分に合っているものがわかる。そういうことだと思っています。

一貫していえるのは、やってみる、挑戦してみることだけです。ただ、やるからにはしっかり全力を出して見極めていく。それが大事だと思います。

最後に伝えたいのは、人生を楽しんでください、ということです。一度きりの人生ですから。

編集後記

今回のインタビューを通じて、柿間様ご自身の経験に裏づけられた言葉の重みをとても強く感じました。人材とITという二つの軸で医療業界をより良くしていくというビジョンに加え、地域に根ざした薬局と患者さんとのコミュニケーションを支えるという後半のお話も印象的でした。「挑戦し続けてください」という言葉は、キャリアに悩む学生の私自身にも深く刺さるものでした。