インタビュー

「筋トレは裏切らない」――学生会長から愛のヘルスケア起業家へ、江口康二が貫く幸福の方程式

「筋トレは裏切らない」――学生会長から愛のヘルスケア起業家へ、江口康二が貫く幸福の方程式
PROFILE
株式会社メディロム 代表取締役
江口 康二

学生時代|サッカーと学生会、二つの熱中

大学時代は、東海大学の男子サッカー部でボールを追いかけることと、学生会執行委員会の委員長として組織を動かすこと、この二つに熱中していました。委員長は二年連続で務めさせていただいて、時代に合わせて会則を大きく変えるような取り組みをやっていました。

新卒入社|大学4年、9月28日から始めた1日だけの就活

私は、会社や社会にしがみつかないことが大事だと思っていました。当時の就活はインターネットで調べる時代ではなかったので、紙の求人情報をめくって会社を探すんです。金融や流通などカテゴリーがある中で、最終的には自分で新しい価値やサービスをつくれる事業家になりたいと思っていたので、ベンチャー企業に絞って探していました。成功しても失敗しても、どちらにしても勉強になりますから。

「必ず大きくするのは私です」と言い切った一日

普通、就活は大学4年の9月28日に始めませんよね。でも私はその日に初めて1社に電話をして、面接に行きました。副社長が出てきてくださったので、「初めまして。学生団体の代表をやっています。あなたの会社が何をやっているか知りませんが、必ず大きくするのは私だと思います」と話したんです。今思えば、ずいぶん生意気なことを言ったなと思いますが、落ちても別にノーダメージですから。次があると思っていました。

結果、翌日に電話がかかってきて内定をいただいて、10月1日には内定式です。私は結局、就活を1日しかしていません。その会社は同期を80名以上を採用していて、私も同期を上回る成績を出したいと思って働いていました。

20代での独立|ITバブルからリラクゼーション事業へ

働いた時間数と成長の曲線は、完全に比例します。むしろ二次関数的に伸びる瞬間もある。今は「働かないことが幸せ」という定義がおかしいと思っていて、働き方改革をして楽に働いて大成功した人なんて、これまで見たことがありません。

ITバブルを経験して感じた生存確率の低さ

自由な時間があって、ガッツもある20代のうちに独立をしようと決めました。もともと最初の会社ではインターネット事業部長を務め、IT系子会社の役員にも任命されました。1996年ごろは、いわゆるITバブル・IT革命と言われた時代でした。

ただ、ITの世界は新しいものが出てもすぐに古くなる、生存確率の低い世界でもあります。かつては「ワープロ検定」という検定資格があったんですが、今では誰も知らないですよね。そういう変化が激しい競争社会の中でずっとやっていくよりも、人間が根源的に長く必要とするビジネスをしたいと思っていたんです。

ぎっくり腰がきっかけで見つけた「なくならないビジネス」

自分のITのスキルを活かせる分野を探していたときに、たまたまぎっくり腰になりました。治療できる店を探すと、整骨院やカイロプラクティック、マッサージなど、いろいろな手法があることに気がついたんです。しかもこの産業は400年以上前、江戸時代からある。今もあって、おそらく400年後もあるでしょう。人が疲れない日は来ませんから。

さらに、こうした店では来店のたびに顧客情報をお聞きします。名前や生活習慣、既往歴などのヘルスケアのビッグデータが蓄積されてくる。店舗を増やすほど来店数が増え、それは「ページビュー」と同じ。顧客情報という「ユニーク」な健康情報が蓄積されていきます。データが集まれば、未来の消費を予測できます。たとえば花粉症の方であれば、マスクや点眼薬、アレルギー注射など、早く良くなりたいという消費行動を必ず起こしますよね。つまり、ヘルスケアのビッグデータを集めるほど、いつ誰が何を消費するかが予測できて、将来のマーケット予測に非常に役立つ。自分のIT知識を活かして、流行に踊らされないビジネスとして、リラクゼーション事業を始めました。

創業直後の苦労|16人中13人が2週間で辞めた

一番苦労したのは、やはり人間です。ITの世界は数字で答えが見えますが、大規模な店舗展開をしていく上では、人の感情や心をどう同じ方向に向かせるかが重要でした。

「みんなに任せる」が伝わらなかった

手元に300万円しかない状態で起業して、1号店を開いたときには100店舗・200店舗という多店舗展開を前提に始めていました。オープニングの日、集まった16人のスタッフに向けて「これから年内に4店舗、来期には12店舗をつくる。みんなには店長として育っていって、大きくするのを手伝ってほしい」と話したんです。

一見、良い話に思えますよね。でも、その一言がかえって不安を広げてしまって、裏で「この会社はやばいんじゃないか」という話が広がり、2週間で16人中13人が辞めてしまいました。経営感覚を持つ自分と、セラピストという職業についている彼らとでは、見ている視点がまったく違うのだと気づかされた出来事でした。

理念経営への転換、掲げたのは「愛」

その後、たどり着いたのが理念経営です。「みんなで稼ごう」というメッセージは、受け止め方に個人差があってイマイチ弱いんですよね。稼ぐことへの熱量は人によって違いますから。そこで、誰もが目指せる共通項として「愛を持って社会を変えていこう」「人間を育成する会社なんだ」と伝えるようにしたんです。同僚に対する愛、家族やパートナーに対する愛、お客様に対する愛。それを出せる人間であろうという話は、どのレイヤーの人も否定しないですから。

結果として、1年後には4店舗をオープンし、その翌年には12店舗をオープンしています。最初に言い切った目標は、有言実行できました。

事業拡大|店舗ビジネスからヘルステックビジネスへ。

褒めることで続けられるヘルスケアアプリ「Lav(ラブ)」

店舗でのデータを見ていくと、健康を害している理由の多くは生活習慣の乱れにあります。ただ、それは店の中だけでは正せません。そこでIT分野のアプリケーションの力を使って、オンデマンドでトレーニングを提供する「Lav(ラブ)」というアプリをつくりました。店の外でのライフスタイルをアシストしようという発想です。

無理な運動や食事制限とは違って、励ましの力で続けられるようにしています。愛ですよね。認めてあげること、承認すること。「昨日はたくさん歩けましたね」「昨日の食事はすごくいいバランスでしたね」と褒められると、人は継続できるんです。逆に、貶(けな)されると続かない。人間は不思議と天邪鬼(あまのじゃく)で、「勉強しなさい」と言われた途端にやる気がなくなる。人間の行動変容は、非常に複雑なんです。

この仕組みがうまく回り始めたことで、健康保険組合が行う特定保健指導でも「Lav」が起用されるようになりました。実は健康診断でメタボ判定が出ると、三大生活習慣病のリスクが一気に高まります。なかでも重度の糖尿病などに進行してしまうと、日常生活に支障が出るほどQOL(生活の質)が下がってしまう。だからこそ、そうなる前の『予防』が極めて重要なんです。

充電不要の活動量計「MOTHER Bracelet」誕生の裏側

アプリのガイドで痩せる人には、明確な共通点がありました。よく寝ている人です。7時間以上睡眠を取れている人ほど、痩せる速度が早いことがわかったんです。それなら睡眠トラッカーが必要だと。

「薄くて軽くて、充電しなくていいトラッカーがあれば、もっと多くの人が睡眠をトラッキングしてスコア化できるはず」――そんな想いから生まれたのが「MOTHER Bracelet」です。

メイドインジャパンにこだわり、キヤノン電子株式会社に生産をしていただきましたしました。一番の特徴は、やはり『充電不要』という点です。表面のソーラーパネルによる『光』での発電に加え、裏面では身につけている人の『体温(熱エネルギー)』を電気に変換しています。この熱と光、2つのエネルギーをハイブリッドで活用することで、24時間365日、充電の手間なく使い続けることができます。

自衛隊の方が山中で1週間過ごすような場面でも、充電切れの心配がありません。

遠隔体調管理システム「REMONY」で実現する、現場の安全管理と見守り

実は、この「MOTHER Bracelet」を活用した遠隔体調管理システム「REMONY(リモニー)」では、データの「一括集中管理」が可能です。同じデバイスを複数人がつけていれば、1台のゲートウェイに全員分の健康データが集まり、1か所でリモートモニタリングを行うことができるんです。

この強みのおかげで、現在は自衛隊や介護施設、製造現場、建設現場などから非常に大きな引き合いをいただいています。

例えば、広大な倉庫の隅で熱中症で倒れて亡くなってしまうといった痛ましい事故が起きていますが、防犯カメラを大量に設置するのはコストがかかりますし、倉庫全体を冷やすのも現実的ではありません。しかし「MOTHER Bracelet」をつけていれば、どのエリアに誰がいるかがなんとなく把握でき、万が一熱中症などで具合が悪くなった人がいれば、管理者に『Aエリアの〇〇さんが倒れています』といったメールアラートが自動で届きます。

もともとは「痩せるための睡眠トラッカー」としてつくったものが、予想もしなかった方向に広がり、今や人々の安全や命を守る新しいビジネスとして大きく育っています。

これからのビジョンと学生へのメッセージ

人材育成こそが最大の目標

ビジョンを一言で言うなら、人づくりです。企業の成長も、社会にとって必要なことも、結局は人のありようだと思うんです。サッカーのワールドカップで日本人サポーターが世界中から賞賛されているのも、ゴミ掃除をして帰るといった人のありようですよね。いい人間たちが、いい製品をつくっていく。世界を変えていくということは、いい人間をどれだけ世の中に送り出せるかということだと思います。企業は利益を追求することが当然メインではありますが、その利益の根源は、どれだけ人が育ち、愛のある人材が育ったかということ。そういう人材を育てて社会に還元することが、会社としてのいちばん大きな目標です。

「筋トレは裏切らない」という幸福論

学生の皆さんに伝えたいのは、幸せになるための方程式です。幸せになるには、初めに苦しむことから逃げないことが絶対に大事だと思っています。苦しさや辛さを知ると、人の弱さもわかるようになって、人に対する愛を持てる人間になれます。若いうちだからこそ、あえて苦しい局面に自分を置いた方がいい。

100m走でもサッカーでも、練習しないで代表になれることはありません。筋力トレーニングをせずに重量挙げが成功することもない。全てを投げ打つほどの練習量があってはじめて、成功が見えてくるものです。何もしないで楽々手に入るものなんて、まずありません。でも、筋トレは裏切らないんです。毎日毎日続ければ、100kgのバーベルは誰でも上げられるようになる。幸せも同じで、苦しさから逃げないことが大事だし、その積み重ねは裏切りません。会社に問題があるなら、自分で変えるくらいの勢いで、良い意味で舐めてかかっていいと思いますよ。私もそうでしたし、成功する人にはそういうところがあると思います。

編集後記

今回のインタビューを通して、事業の成長の裏に「愛」という一貫した軸があることが強く伝わってきました。学生会での経験から、失敗を経てたどり着いた理念経営、そして睡眠トラッカーが人命を守るデバイスへと広がっていく展開まで、すべてが「人をどう育てるか」という一点に繋がっているように感じます。就職活動を控える身として、「初めに苦しむことから逃げない」という言葉はとても刺さりました。学生のうちにあえて負荷をかけることの意味を、あらためて考えたいと思います。