反発から始まった後継者人生
父のレールに乗りたくなかった
当社は同族経営の会社でして、祖父が創業して父が二代目、私は三代目に当たります。正直に言うと、祖父がなぜ会社を創業したのか、私はよく分かっていません。祖父からは「お前が継ぐんだ」とずっと言われてきて、いわば洗脳みたいな感じでしたね。
二代目である父の背中を見て育った私には、明確な人生の目標なんてありませんでした。あったのは「父のレールには乗りたくない」という反発心だけです。継ぎたくないという一心で、反発して自分の人生を歩もうとしていた時期もありました。
恩師との出会いが決心に変わった
そんな私が変わったきっかけは、社会人になってから、当社のお客様のところで修行させていただいたことです。そこで出会った、今でも恩師と呼ばせていただいている方の存在が、非常に大きかったですね。
その方は父と非常に仲がよく、父の思いを代弁するように、私に伝えてくださることもありました。
その恩師との出会いを通して、息子として祖父や父の思いを、私が受け継がなければいけないのではないか、私以外にいないと感じるようになったんです。それで、ある時に自分の中で決心が固まり、当社を引き継がせていただきました。
ワンマン経営から社員ファーストへ
人を信じることができなかった
会社を引き継いでからの日々を振り返ると、恥ずかしながら、私は人を信じることができない人間だったんです。人の力を借りるのが苦手で、信じられるのは自分だけ。一人で突っ走るタイプでしたね。
自分の中では必死にやっているんですけど、後ろを振り向くと、誰も付いて来ていないような感じでしたね。本当に「自分は何をやっているんだろう」と思いました。
コロナ禍をきっかけに社員が進めるプロジェクトを発足
そういった、自分の問題を変えるきっかけとなった大きな外部要因の一つが、コロナ禍です。コロナの中で、当社も例外なく先行きが不透明になって、この先ずっと真っ暗闇の中を進んでいくのではないかと思うほど、経営者として大きな不安と恐怖を感じていました。
その時に、変わらなければいけない、自分自身を変えなければいけないと思ったんです。そこで、とにかく「社員ファースト」にしようと考えました。
社員さんが「ああしたい」「こうしたい」と言ったことを全部承認しようと思って、複数のプロジェクトを立ち上げたんです。そこに私を含めて、経営陣は一切参画しないようにしました。完全に社員さんだけで発足して、進めるプロジェクトです。
権限委譲による社員の戸惑い
それまで私は完全にワンマンで、何にでも自分で口や手を出し、社員さん一人ひとりの仕事の領域にまで、土足で踏み込んでいくようなやり方をしていました。
それが突然、社員さんを見守る立場として、とにかく社員さんがやりたいことを承認するというスタンスになったわけです。一気に180度変わったわけですから、社員さんからすれば戸惑うしかなかったと思います。「何が起きたんだ?」という感じだったでしょうね。
社員とともに描いたビジョン
April Dream(エイプリルドリーム)でビジョンを共有
コロナ禍のあった2020年ごろから、そのような形で社内の風土を変えてきましたが、実は今年、大きな出来事がありました。
2020年より毎年開催されている「4月1日を、嘘ではなく企業が本気で叶えたい夢を発信する日にしよう」というPR TIMESの企画「April Dream(エイプリルドリーム)」で、社員自身が「社員が誇れる会社になる」という夢を掲げてくれたんです。これは私が今、掲げているビジョンそのものでした。
ちょうど同じころ、私自身も全社に向けて、自分が作りたい会社像を発信していました。私が思い描くのは、自分自身がよいと思える会社であるのはもちろん、それ以上に、社員自身が大切にしている人から評価されることです。
社員の大切な人から、「あなたの勤めている会社は本当に素敵な会社だね」と、言ってもらえる会社を目指しています。
当社は、愛知県北名古屋市に本社を構えていますが、社員さんたちは「北名古屋市から全国に、名工銘鈑の”ものづくり”を」という思いも掲げてくれました。抽象的な言い方にはなりますが、この言葉には、私が本当に大切にしたい思いが詰まっています。
新たなものづくりへの挑戦
B2BからB2Cへの踏み出し
当社は、大手自動車部品メーカー様向けの高品質なネームプレートをはじめとした、各種印刷製品の製作がメイン事業です。これまでは完全に、B2Bで事業を展開してきました。
ただ、ここ数年は企業様や一般のお客様に向けて、オリジナルの木製御朱印帳や木製雑貨といった商品を、当社で企画から製作・販売まで手がける取り組みを進めています。B2Bの会社が、B2Cの領域にも踏み出しているところです。
地域社会に笑顔を届ける
この取り組みの根っこにあるのは、当社が作ったオリジナル商品を手に取ってくださった方に、「この商品を手にしてよかった」と思っていただきたい気持ちです。一人の企業人として、商品を通じて喜びや笑顔を届けたいと思っています。
例えば、最近ですが、当社が展開する木製雑貨ブランドの御朱印帳が、名古屋商工会議所の「なごみやげ」に認定されました。当社のものづくりが、地域の魅力の発信につながっていることは、本当に嬉しいですね。
また、当社は「愛知・名古屋2026アジア競技大会」公式ライセンスグッズとして、「ホノホン 木製スタンプ帳・サイン帳」が採用されました。こうした取り組みも含めて、地域社会との関わりをさらに広げたいと思っています。地域社会が抱える課題に対して、ものづくりを通じて解決する仕事に精通していきたいですね。
これからの課題
採用とDX化に向き合う
これから業態変革を進め、地域社会に喜びを届けられる商品づくりを広げていく上で、まず課題だと考えているのが人材採用です。これからの未来を担う若いエネルギーが必要になるなかで、正直なところ採用には苦戦しています。
もうひとつの課題が、社内システムの刷新ですね。当社はまだまだアナログな部分が多く、デジタル化やDX化が十分に進んでいるとは言えない状態です。
そこで、今後はデジタル化やDX化により、生産性の向上を目指しているわけですが、これは単純に業務の効率化を図るだけではありません。人でなければできない仕事と、人でなくても可能な仕事を、明確に切り分けたいと思っています。
機械やデジタルに任せられるところは任せて、人が担うべき仕事をより明確にする。そうした健全な棲み分けをしていきたいですね。人の価値を最大限に引き出す取り組みをしていきたいと思っています。
学生へのメッセージ
人生のビジョンを考える
学生の皆さんには、まず学生時代を思い切り満喫してもらいたいですね。その時代でしかできないことを、徹底的に体験してほしいと思っています。
もう一つ伝えたいのが、早い段階で、自分自身の人生設計をしてみてほしいということです。完璧なものでなくて構いませんし、その時点で正しいか間違っているかなど、決めるものでもありません。
どんな形でもいいので、会社が経営ビジョンを描くように、自分自身の人生のビジョンを考えてみてほしいですね。私はそれができませんでしたが、ようやく自分自身の人生設計や、人生のビジョンを描けるようになってから、以前よりも人生が充実し、豊かになってきたと感じています。
だからこそ、本当にざっくりした形でも構わないので、早い段階で自分の人生設計を作ってみるとよいと思います。
編集後記
家業への反発から始まり、自分自身を変える決断に至るまでの率直な言葉が、とても印象に残りました。特に「不完全でもいいから、早い段階で自分自身の人生設計をしてほしい」という田中様のメッセージは、同じ学生として非常に心に残っています。
B2BからB2Cへと挑戦を広げながら、社員とともに「誇れる会社」を目指す姿勢から、多くの学びをいただいたインタビューでした。
また、名工銘鈑株式会社様は、9月2日から4日まで、東京ビッグサイトで開催される展示会「LIFE×DESIGN」への出展もされるそうです。こちらも成功をお祈りいたしております。