インタビュー

「『ない』なら自分で作る。カンボジアで学んだ“本当の豊かさ” ― 株式会社メルリンク代表・和田リエが歩んだキャリアの原点」

「『ない』なら自分で作る。カンボジアで学んだ“本当の豊かさ” ― 株式会社メルリンク代表・和田リエが歩んだキャリアの原点」
PROFILE
株式会社メルリンク(MERULINK) 代表取締役
和田 リエ

自分自身と向き合う前

学生時代を振り返ると、正直なところ「何も考えていなかった」と痛感します。父は自営業を営んでいましたが、私が幼いころに倒産を経験し、自己破産という現実を目の当たりにしました。父はお酒やギャンブルに溺れ、経営の厳しさを子どもながらに痛感させられる日々でした。そうした背景もあり、当時は企業に勤めることや起業するといった未来を、まったく想像できていませんでした。

決して裕福な家庭ではありませんでしたが、だからこそ「勉強して今の環境を変えたい」という一心で走り続けてきました。中学2年生のころ、学校から足が遠のいていた時期に出会ったのが、塾の英語の先生です。「逃げるな」「戦って負けるのは構わないが、逃げたらそこで終わりだ」という言葉を贈ってくれました。社会には理不尽があふれていることも、その先生から教わりました。特筆すべき取り柄もなかった当時の私にとって、その教えは今も大切な心の支えになっています。

就職氷河期の真っ只中で、スマートフォンも普及していない時代。「良い学校に入り、良い会社に就職すること」こそがゴールだと信じて疑いませんでした。現代の学生は、手元のデバイスひとつで世界とつながり、自ら稼ぐ力を磨くチャンスにも恵まれていて、とても羨ましく思います。私は学費や生活費を工面するためにアルバイトに明け暮れる日々を過ごしていましたが、今思えば非常に狭い視野で生きていたと実感しています。

国内金融からカンボジアへの旅路

早稲田大学の政治経済学部に進んだのも、マスコミ業界への憧れと「世の中の声なき声を発信したい」「社会的弱者の声を発信したい」「弱者の味方になりたい」というような漠然とした思いがありました。

しかし、就職活動では志望先が全滅し、その後の目標を見失ってしまいました。そんな折、過去のアルバイト経験から「証券会社の営業なら自分の力を発揮できるかもしれない」と考え、金融の世界へ飛び込みました。父の過去もあり、銀行への就職は難しいと考えていましたが、縁あって証券会社への入社が決まったのです。

証券会社で3年ほどキャリアを積んだあと、銀行での営業を経験し、計13年ほど勤めました。ただ、努力が必ずしも正当に報われる環境ではなく、組織にもなじめず苦労しました。「自分はこのまま社会の役に立てるのだろうか」と自問自答していたとき、ふと蘇ったのが子どものころにテレビで見たカンボジア内戦の記憶でした。「自分の目で確かめたい」という衝動に突き動かされ、現地へ向かうことを決めました。

訪れる前は「地雷が埋まる貧しい国」という印象でしたが、現実は想像と真逆でした。現地の人々の圧倒的な「生き抜く力」に触れ、本当の豊かさとは何かを深く考えさせられたのです。インフラも整わない村で日本語教師のボランティアに飛び込んだ際、子どもたちの瞳が学ぶ喜びで輝いている様子に心を打たれました。そこでカンボジア人の姉のような存在や、現在の夫とも巡り会うことになります。

ないなら、自分で作ればいい

親の介護のために一度帰国し、野村證券へ転職しました。多様性を重んじるグローバルな風土で、私のようなタイプも受け入れてくれる環境でしたが、出産を経て育休に入った際、「このまま元の生活に戻っていいのか」という迷いが生じました。周囲にも同じ葛藤を抱える母親が多いと気づき、培ってきたポジティブ心理学や育児の知見を講座として提供し始めたのが、現在の活動の第一歩です。

現地の方々から学んだのは、「ないなら自分たちで作ればいい」という自律的な姿勢でした。当初から起業を志していたわけではありませんが、「会社に縛ら

れない働き方を確立したい」「子育ての経験を仕事に昇華できる仕組みを作りたい」という想いが形となり、一般社団法人ポジティブ子育て協会を設立しました。1年目から100人ほどの受講生が集まり、現在は通算1,000人を超える方々に学びの場を提供しています。

もう一つの会社、株式会社メルリンクは、協会で学んだ方々が在宅で活躍できる実務の場を創出するために立ち上げました。「PPA認定ポジティブ子育てアドバイザー®︎」としての活動に加え、事務スキルなど個々の得意分野を活かせる環境を目指しています。また、私自身の娘に自閉症という特性があることも、創業の大きな動機となりました。どんな事情があっても、女性が自身のキャリアを諦めずにすむ社会を、本気で実現したいと考えています。

女性らしい丁寧さが強み

一般社団法人ポジティブ子育て協会では、6か月間のオンラインプログラムを通じてポジティブ心理学とビジネスマーケティングを教授し、「PPA認定子育てアドバイザー®︎」として在宅で講師活動ができる体制を構築しています。専門的な資格がなくても、自らの育児経験を学びに変え、伝える側として自立できる点が最大の特長です。

一方の株式会社メルリンクでは、ママさんを中心としたチームでフォーム営業やDMなどの営業代行を担っています。AIによる効率化が進む現代だからこそ、私たちは一件ずつ相手に寄り添い、手動でメッセージを送る「心のこもった対応」を追求しています。その結果、返信率は業界平均を凌駕する約10%を記録。女性特有の細やかさや柔軟な対応力が、競合他社にはない圧倒的な付加価値を生んでいます。

経営してわかった父の苦労

これまで幾多の困難に直面してきましたが、経営者となって初めて、かつての父の苦労を理解できたことが大きな転換点でした。幼少期は家を困窮させた父を責めてばかりいましたが、いざ自分が組織を動かしてみると、人材育成や集客、資金繰りといった全責任を負う重圧を身をもって知りました。会社員時代とは質の異なる厳しさですが、その分、手応えも格別です。経営という険しい道を通ることで、ようやく父との和解ができたのかもしれません。

いつからでもどこからでも挑戦できる社会へ

昨年4月には、カンボジアにフリースクールを開校しました。夕暮れどきに子どもたちが寺子屋のように集う場所です。かつて私が現地の方々から授かった「心の豊かさ」への恩返しであり、また「どんな過酷な環境からでも未来は切り拓ける」というメッセージを体現したいという想いからスタートさせました。

「努力が正当に評価される社会であってほしい」この願いは、学生時代に卒業論文で『女性と年金』をテーマにしたころから一貫しています。カンボジアの子どもたち、日本のママさんや障害や特性を抱える方やご家族、そしてこれから羽ばたく学生の皆さんへ。自身の置かれた環境に関わらず、意志を持って歩めば人生は変えられるのだということを、これからも伝え続けていきたいです。

自分のモットーである「明日死ぬかのように生きる。永遠に生きるかのように学ぶ」
「常に自分にある常識を疑い、世の中の常識を覆すこと。」この気持ちを忘れずに活動を続けていきたいと思っています。

 

学校で習うことが正解とは限らない

学生の皆さんに心に留めておいてほしいのは、学校での評価や世の中の定説が、必ずしも唯一の正解ではないということです。私自身、既存のルールに適応できず生きづらさを抱えてきました。しかし、起業家という道を選んでからは、その「なじめなさ」こそが独自の強みや個性を育む源泉だったのだと確信しています。「同質性」を求められる場面も多い日本ですが、そこから外れることを恐れる必要はありません。

情報があふれ、何でも効率的に調べられる時代だからこそ、あえて「ないものは作る」という創造的なマインドを大切にしてください。もし私が今の学生に戻れるなら、モノではなく「経験」に自己投資します。今見えている景色が世界のすべてではありません。視野を広げ、まずは未知の領域へ一歩を踏み出してみてください。そしていつか、カンボジアの地で皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

編集後記

今回、株式会社メルリンク代表の和田リエさんにお話を伺いました。カンボジアでの原体験から「ないなら自分で作る」という発想を得て、複数の事業を立ち上げてこられた行動力に驚かされました。学校の正解と社会の正解は違う、という言葉が印象に残っています。私自身もまだ大学院生ですが、決められたレールの外にも道があるのだと勇気づけられるお話でした。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。