インタビュー

サラリーマン時代の「経営者に寄り添いたい」という思いが原点 ― 北海道の農業を支える35歳からの挑戦

サラリーマン時代の「経営者に寄り添いたい」という思いが原点 ― 北海道の農業を支える35歳からの挑戦
PROFILE
ミライチ株式会社 代表取締役
宮部 尚樹

5年かけて準備した独立という道

キャリアプランから逆算して見えた限界

私はもともと35歳で独立しようと決めていて、ちょうどその年齢で独立しました。今回取材いただいているミライチ株式会社はまだ3期目の会社で、最初は役員2名で始め、今はいろいろなメンバーに加わってもらいながら組織をつくっているところです。独立を決めたきっかけは、仕事柄経営者とやり取りする機会が多かったので、本当の意味で経営課題に寄り添うには、自分自身も経営者になる方が近道だと考えたんです。

農業を支える仕事へたどり着くまで

新卒で入社したのはまったく違う業界で、機械系のエンジニアとして働いていました。実家は北海道の農家で、今は兄が継いでいますが、若い農業経営者が経営課題を抱えていても相談できる先が少ないという話は、以前からずっと耳にしていました。30歳前後で次の転職を考えたとき、農業を周りからサポートできる仕事に就きたいと思うようになり、1社目の転職先として選んだのが農業のコンサルティング会社です。ここで人事コンサルを中心に3年間働き、その後でもう1社、別のコンサルティングファームで2年間経験を積みました。30歳から35歳までの5年間、そうした準備期間を経て独立に踏み切っています。

農業の担い手を支える四つの事業

組織づくりからM&Aまで一気通貫のサポート

弊社が主に支援しているのは、兼業農家や家庭菜園規模ではなく、法人化して規模拡大をしている「担い手」と呼ばれる農業経営者の方々が中心です。事業の柱は大きく5つあります。
1つ目は人事コンサルで、組織づくりのための人事評価制度や福利厚生制度をつくる支援です。
2つ目は人材紹介業で、農業をやりたい方と、雇用したい農家とのマッチングです。
3つ目は地方でなかなか事務員を抱えられない農家向けの、給与計算などのアウトソーシング事業です。
4つ目は農地M&Aで、農業を辞めたいという個人の農家と、規模を拡大したい担い手や新規就農希望者をつなぐ、いわば事業継承の支援です。
5つ目が、行政などの委託事業で、インターンシップや就職イベントの運営、事業者向け人事労務セミナーなどを行なっています。

新規就農の減少と、既存の担い手が抱える課題

新規就農は昨今、資材費や原油価格の高騰もあってハードルがとても高くなっています。一方で、地域によっては農業を辞めていく人の方が、新しく受け継ぐ人よりも多いという状況が起きています。新規就農者だけでは担いきれなくなってきたからこそ、既存の農業法人がエリアをまたいで規模を拡大していけるよう、そこをマッチングする事業を始めました。地域の農地、そして農業そのものを守っていくためです。ただ、新しい場所で規模を拡大するには雇用する人材が必要になりますし、未経験の方を育てていく環境づくりも欠かせません。今、農業ではいろいろな課題が同時に起きていて、まさに転換期だと感じています。

理想と現実のギャップを埋める役割

農業をやりたいという方には、社会貢献の意味合いを含めた理想と、実際の現実とのあいだにギャップがあることも少なくありません。社会や世界の食を支えるという意義の大きい仕事である一方、地道な作業や華やかではない裏方の仕事も多いのが実情です。そこのギャップを埋めるためには、私たち自身が丁寧な情報発信に務めることはもちろん、受け入れる農業法人の方々と共に「魅力的な組織づくり」を進めるなど、両面からのサポートが重要だと感じています。

農業特化だからこそできること

10年以上積み重ねてきた専門性

弊社は設立からまだ日が浅い会社ですが、私を含めたメンバーは、農業の「人」に関わる仕事に10年以上携わってきています。農業特化でやってきたという強みは大きいと思っています。人材紹介会社で農業分野を扱っているところはあっても、組織づくりから人材紹介、M&A支援まで一気通貫でサポートできる会社はほとんどありません。事業を一気に拡大するのではなく、少数精鋭で北海道に軸足を置いて展開しているからこそ、北海道の農業における「人」に関わる領域では、他社に負けないと思っています。

学生に伝えたいこと

最近の学生の真面目さに驚かされる

私自身の学生時代は、正直かなり遊んでいました。それに比べると、今の学生さんはとても真面目だと感じます。すでに一般企業に就職が決まっているのに、将来北海道で農業をやりたいからと、今のうちにインターンシップに参加したいという学生さんが、毎年少なからずいらっしゃいます。

まずは現場に足を運んでほしい

学生の皆さんには、まず農業に触れる接点を多く持ってほしいと思っています。人口減少が進むなかで外国人材の活躍も増えていますが、それでも管理する側、事業を継承していく担い手はやはり日本人がメインになると考えています。農業に興味があるなら、ハードルを高く感じすぎずに一歩を踏み出して、まずは現場に来てほしいですね。YouTubeやSNSで情報を集めることももちろん大切ですが、現地に行かないとわからないこと、感じられないこともたくさんあります。私たちが行っているインターンシップのような機会をうまく使って、まずは農業の現場を知り、体験してもらいたいと思います。農業は日本や世界の食を支える、なくなることのない、大変意義のある産業です。雇用就農から入れば参入のハードルもそれほど高くありません。可能性があり、成長できる産業だからこそ、ぜひ若い方々に意欲を持って飛び込んできてほしいと、常々感じています。

編集後記

サラリーマン時代の実体験から「経営者に本当に寄り添うには自分も経営者になるしかない」とたどり着いた宮部さんのお話には、農業という産業への深い思いが伝わってきました。とくに「現地に行かないとわからないことがある」という言葉は、情報収集だけで進路を判断しがちな私自身にも刺さるものがありました。まずは自分の足で現場に触れることの大切さを胸に、これからの進路を考えていきたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。