心理士から経営者へ
資格取得までの道のり
臨床心理士や公認心理師という資格は、大学院を卒業しなければ取得できません。私も大学院を出たあと、まず民間のカウンセリング会社に就職しました。そこでは通常のカウンセリング業務だけでなく、いろいろな分野に関わる機会がありました。会社の業務としてはもちろん、勤務ではない日に小児科のカウンセリングをおこなったり、教育機関に絡む仕事をしたりと、ひとつの場所でひとつのことをやり続けるというよりは、福祉や教育、司法、ビジネスなど、心理にまたがるさまざまな領域を行き来しながら働いてきました。就職してからおよそ5年間、そういう働き方を続けていました。
縛られない支援がしたい
そうした働き方をしていたからこそ、さまざまなお悩みに取り組むことがとても自然でした。心の悩みというのは、実はいろいろな要素が絡み合ってできています。家族関係に絡んでいたり、職場関係に絡んでいたり、ご自身の特性や病気が複合的な要因になっていたりすることも少なくありません。だからこそ、心理のお悩みに取り組むときはさまざまな視点を持たなければならない、ということをその頃に学びました。
しかし、世の中の心理カウンセリングというのは、どうしても領域に縛られてしまうところがあります。たとえば医療であれば病気に関することにしか使えなかったり、1対1での相談しかできなかったりと、さまざまな縛りがあって、私が目指すような複合的なアプローチがしづらいと感じていました。そのアプローチを実現するにはどうしたらいいかと考えたときに、たどり着いたのが起業でした。自分の会社で、一人ひとりに合った対応方法をきちんと選択できるようにしようと思ったのがきっかけです。
幅広い心理支援を届ける
個人から法人まで支える
現在は、カップルカウンセリングや集団のお悩みを扱うカウンセリングなど、幅広く心理相談をお受けしています。病気というほどではないけれど、ご自身の何かで悩んでいる、というようなお悩みも受け付けています。これがまずひとつの領域です。
もうひとつは、契約いただいている法人様に向けた支援です。私たちが外に出向いて、現場に対して専門的な観点からアドバイスをおこなうといった取り組みもおこなっています。企業や教育機関からのご依頼を受けて公認心理師や臨床心理士を派遣する心理士派遣、そして研修講師の派遣もおこなっており、児童発達支援・放課後等デイサービス「みらっぷ」の運営など、子どもの療育に関わる事業も手がけています。
研修は現場に寄り添って
研修については、たとえば専門学校の先生方向けのセミナーをご依頼いただくことがあります。学生さんに対する問題の見極めやアプローチ方法についての研修です。別の日には、先生方がハラスメントのようなかたちになってしまいがちな場面で、どのように対応するべきかという研修をおこなったこともあります。企業様向けの研修についても対応は可能ですが、私たちから積極的に広報しているわけではなく、ホームページを見た企業様から「いい講師はいないか」とご連絡をいただいた際に対応する、という形が中心です。
技法をひとつに決めない苦労
無限に近い組み合わせ
通常の心理関係の仕事に比べると、私たちが扱う領域は圧倒的に広いです。そもそも目指している方法論自体が、決まった技法をどの方にも当てはめるというものではないためです。一人ひとりの問題性や性格に合わせて、ひとりひとりにぴったりと合うやり方をつくり上げることを目指しています。そのため、私たちが使う技法もひとつではなく、その方それぞれに合わせて複数、というよりも無限に近いかたちで生まれてきます。
社員教育に何倍もの労力
私自身もいろいろな問題に対してどう取り組むべきか、社員に対して見極め方やその場合の取り組み方といった技法面の指導をおこなっていますが、それがケースバイケースで非常に多くなってしまうんですよね。そのため、社員教育にかかる労力は、通常のカウンセリングをおこなっている法人様や民間企業よりも何倍もかかっていると思います。もちろん当たり前のことではあるんですが、そこはやはり苦労している点です。
これからの水戸心理・療育センター
独立できる仲間の存在
少しずつ組織として定着してきて、仕事を任せられる、信頼できる社員も育ってきました。事業部として独立できるような方たちが増えてきたので、今度は「私がいなければ」とか、「この建物の中だけで」というような狭い範囲ではなく、だんだんと世の中に向けて広げていきたいと思うようになってきているところです。
それでも残る社員教育の壁
課題としては、やはり社員教育に絡んでくるところが大きいです。急速に広げられるものではないと思っていますし、このパッケージをやれば誰でもできる、というものでもありません。だからこそ、今後もこの課題はついて回るだろうと思っています。現状では完璧にお任せできる状態ではないので、もし広げていくのであれば、私自身が一番動かなければならないだろうな、というのが個人的な課題として強く感じているところです。
学生へのメッセージ
個人の幸せだけじゃない
こういう素晴らしいものがあるよ、とパッケージ化してわかりやすくして広めてしまえば、お金儲けとしては成立すると思いますし、個人的な生活という部分でも今よりずいぶん楽に会社経営ができるとは思うんです。しかし、社会に出て働くということを、個人の幸せというところだけで捉えてほしくはないなと思っています。人を、その人に合った方法できちんと助けたい、という気持ちがあるのであれば、私たちの会社にもぜひ興味を持っていただいて、調べてみていただければうれしいです。
編集後記
今回、水戸心理・療育センターの富田さんにお話を伺い、「ひとつの技法に頼らない」という姿勢にとても惹かれました。決まった型に当てはめるのではなく、ひとりひとりに合わせて支援方法をつくり上げるというお話は、効率化が叫ばれる時代だからこそ新鮮に感じます。学生起業を考える身としても、パッケージ化のしやすさだけでなく、本当に人のためになるかどうかを大切にしたいと改めて思いました。ありがとうございました。