インタビュー

「エラー&ランダム」でまず飛び込む――未経験への挑戦を重ね、清掃ロボットを生み出すまで

「エラー&ランダム」でまず飛び込む――未経験への挑戦を重ね、清掃ロボットを生み出すまで
PROFILE
株式会社エムエムインターナショナル 代表取締役社長
橋本 修一

共同出資から始まった会社

きっかけは渋谷のパチンコ店

当社は1996年に広告関係の会社さんと、マルハンが共同で出資する形で事業をスタートしました。現在はマルハン100%出資の子会社です。

創業のきっかけの一つが、当時マルハンが渋谷にオープンさせたパチンコ店でした。業界内でも大きな注目を集めた店舗で、景品の取りそろえが非常に豊富でした。カップルでパチンコを楽しめる座席を設けるなど、それまでの業界にはなかったアイデアをどんどん詰め込んだお店だったんですよね。

その景品も、従来のたばこやお菓子だけではなく、家電などトレンドを捉えた魅力的なものをそろえようとしていました。そこで、景品を仕入れるバイヤーの役割として始まったのが当社の事業です。

広告とビルメンテナンスに事業を広げる

その後、広告関係の会社さんと一緒に立ち上げた背景もあり、マルハンの広告をグループ内で担うための、ハウスエージェンシーのような機能を持つようになりました。

あわせて、パチンコ店には清掃・設備管理など、店舗環境を維持するための業務がたくさんあります。そうしたビルメンテナンス業務の取りまとめも任されるようになり、これが今のコアな事業につながっています。

景品事業と広告事業は、マルハン本体の戦略と強く結びついていたため、その後は本体に戻されました。そして当社に残ったのが、現在の中心となるビルメンテナンス事業と、マルハンの店舗の一部を、当社がオーナーとして持つ不動産管理の事業です。

代表就任で託されたミッション

現場からの抜擢

私はもともとマルハンにいて、パチンコ店のホール現場からスタートしました。そこからマネージャー・店長を経て、営業部長を務めています。

その営業部長のときに、当社の社長をやってほしいという打診を受けました。2011年10月から2012年3月までは、マルハンの営業部長と当社の社長を兼任し、その後は当社の経営に携わり、今に至っています。

託された2つのミッション

就任にあたって託されたのは、大きく2つのミッションでした。一つは、マルハンが大切にしてきた価値観や「マルハンらしさ」を、グループ会社である当社にも根づかせること。もう一つは、マルハンに依存しない経営体質をつくっていくことです。

マルハンでは1997年にクレドを設定し、店舗ごとに異なっていた組織風土や、価値基準を見直していきました。全スタッフが集まり「仕事をする意味は何か」「会社として何を目指すのか」など考える取り組みを重ねて、そのエッセンスをまとめたものが「マルハンイズム」です。

当社でも、マルハンが目指している価値基準や世界観を踏まえながら、自分たちの事業として何を目指すのかを整理しました。

それまでは、マルハンから「依頼されたことをやる」という意識が強い会社だったんです。自分たちで考えて何かにチャレンジする機会は多くありませんでした。そこから少しずつ、「自分たちで考えてやってみよう」という方向に変えていきました。

ズブの素人から始めた不動産事業

朝7時からの資格勉強会

マルハンに依存しない経営体質をつくるために着目したのが、不動産事業でした。ビルメンテナンスが建物を管理する仕事だとすれば、その川上にあるのは不動産です。そこで、リーシングや不動産仲介を扱う事業をつくろうと考えました。

とはいえ、始めたメンバーは全員ズブの素人です。まずは資格を取らなければならないということで、当時の宅建主任者の資格取得から始めました。

朝7時から始業の9時まで、8人ほどが集まって資格試験の教材で勉強しましたね。1年目には私を含めて数人が合格し、2年目には合格者が10人ほどまで増えています。

2年目でようやく黒字に

それでも、事業は簡単には軌道に乗りませんでした。1年目は毎月赤字が続き、2年目の途中になって、ようやく単月で黒字が出るようになったんです。

そのなかで目をつけたのが、マルハン社員の社宅仲介でした。当時も数千人規模の社員がいて、異動に伴う社宅の仲介が毎月のように発生していました。

そこで、マルハンの会長に「自分たちにやらせてもらえませんか」と直接お願いしたんです。外部の不動産会社に頼めば、お金はグループの外に出ていってしまいます。しかし自分たちで担えば、グループ内にお金を残せます。

さらに、そこで蓄積したノウハウを外部の仕事にも生かしていくと説明し、任せてもらえるようになりました。これが不動産事業を前に進めるきっかけになっています。ただ、この時点では、まだ「マルハンに依存しない」状態までには至っていませんでした。

オリンピック招致から始まったホテル清掃事業

客室清掃という未経験の領域

2014年ごろ、東京オリンピックの招致が決まったことを受けて、「東京に外国人観光客が増えれば、ホテルが足りなくなるのではないか」と考えました。

そこで目をつけたのが客室清掃です。清掃事業そのものは手がけていましたが、ホテルの客室清掃はまったくの未経験でした。

まずはパートナー会社さんの現場をお借りして、勉強させてもらうところから始めています。その後は自分たちでも営業し、ホテルの客室清掃を受注するようになりました。

3年間の赤字から黒字化へ

しかし、清掃の仕事を受注できるようになったものの、3年間はずっと赤字でしたね。それでも、現場のメンバーは「どうすれば黒字になるのか」「どうすれば効率化できるのか」と、試行錯誤を重ねてくれたんです。

さらに単価の高い仕事を取るために、自分たちで営業もしてくれました。そうした取り組みを続けた結果、黒字化に至りました。現在では売上約3億円、粗利約1億円を上げる事業にまで育っています。

コロナ禍で訪れた最大の分岐点

約300人を解雇した苦しい時期

不動産やホテル清掃など、新しい事業に挑戦してきたなかで、会社にとって大きな分岐点となったのがコロナ禍です。当時はパチンコ店への風当たりが非常に強く、マルハンも休業せざるを得なくなりました。店舗が休業すると、当然ながら当社の売上も大きく下がります。

マルハンの営業中、清掃を担当していたスタッフを約300人雇用していましたが、全員を解雇しなければならなくなったんです。さらにマルハンからのお金も入ってこない。ほかにも仕事がない。先が見えず、本当に困った時期でした。

未経験の消毒作業に飛び込む

そんなとき、商業施設から「消毒作業はできますか」と相談を受けました。当然、それまでやったことはない仕事です。

それでも、「衛生管理という意味では、自分たちの仕事につながっている」と考えました。必要な消毒方法や衛生管理について一から調べ、必要な道具も自分たちで揃えましたね。

さらに、商業施設が翌日から安心して営業できるように、作業の様子を記録しました。消毒作業を実施したことを示す証明書も発行しています。

これは、社長の私がすべて指示して進めたわけではありません。社員一人ひとりが自ら考え、それを実践していったんです。その結果、衛生管理の仕事だけで、その年度に約3億円の売上を上げました。粗利も約1億7,000万円になっています。

結果的に「マルハン以外でも、自分たちの力で稼げるんじゃないか」と、実感できる一つの要因になったんです。

それまでは、できない仕事があれば協力会社を探す発想になりがちでした。しかし、このときを境に「まずは自分たちでやってみよう」というスイッチが本格的に入ったんです。クレドに掲げていた考え方を、社員一人ひとりが実際の行動に移し始めたのは、コロナ禍以降だったと思っています。

清掃現場の課題からロボットの開発へ

腰の痛みから見えた課題

新たな事業が少しずつ形になっていくなかで、実は清掃現場でスタッフの身体的な負担が、当社の大きな課題になっていました。

当時、私は現場の状況を知るために毎月1回、自分たちの店舗を回っており、欠員や当日欠勤があれば、本社から手伝いに行くこともあったんです。

そこで実際にパチンコ店の清掃をやってみて、一番きつかったのが床面の清掃でした。広い店舗の床をバキュームしたり、モップをかけたりすると、本当に腰が痛くなるんですよね。現場の話を聞くと、腰の痛みを理由に辞める方も少なくありませんでした。当時はパートスタッフの退職率も40%ほどありましたね。

せっかく働いていただくのであれば、できるだけ長く働いてもらいたい。そのためには、身体への負荷を減らしていかなければならないと考えていました。

理論値通りには動かなかった

そうした現場の負担を減らす方法を考えるなかで、新たに目を向けたのが業務用清掃ロボットです。

約8年前、ソフトバンクロボティクスさんが、本格的な業務用清掃ロボットをリリースしたと聞きました。「これはいいな」と思って、1台約200万円のロボットを3台購入し、現場に入れてみたんです。

ところが、実際に導入してみると簡単ではありませんでした。清掃スタッフさんからは「自分たちの仕事を取るんですか」といった反応もありました。ロボット自体もうまく動かなかったり、途中で止まってしまったりしていました。

理論上は業務工数やスタッフの負担を減らせるはずでしたが、実際の現場では期待したほどの効果を出せませんでしたね。

上海の展示会に社員を派遣

その後も現場で使える清掃ロボットを探し続けていましたが、コロナ禍を経た2023年に転機が訪れました。ビルメンテナンス業界向けの大規模な展示会が上海で開かれると知ったんです。

当時は日本から現地へ行く人も多くない状況でしたが、中国はロボット分野が進んでいたので、「これは面白いかもしれない」と思いました。そこで社員を派遣して、見てもらうことにしたんです。

展示会には、業務用清掃ロボットのメーカーが数多く出展していました。そこから6社ほどとやり取りを始め、日本の代理店を通じたり、メーカーに直接来てもらったりしながら、当社の現場で実証実験を重ねました。

2週間でソフトウェアを改善

そこで、さまざまなロボットを試しましたが、初めは現場になかなかマッチしませんでした。パチンコ店には遊技台が数多く並び、その間の通路はかなり狭い場所もあります。ロボットのセンサーが周囲を感知すると、通れる場所でも止まってしまうことがありました。

そのなかで、南京に本社を置くあるメーカーさんの対応が、非常に印象に残っています。そのメーカーのロボットも最初は同じように止まったので、「また改善できたらお願いします」と伝えました。すると、「明日もう一度やらせてもらえませんか」と言われたんです。

走行ログを研究開発側のエンジニアにオンラインで送り、そのデータを解析してソフトウェアを修正する。そうした改善をすぐに回せる体制を持っていました。

それまでやり取りしたメーカーでは、一度持ち帰ると判断まで時間がかかるケースもありました。それに対して、このメーカーはその場でどんどん改善していったんです。

2週間ほどすると、それまで入れなかった通路にも入れるようになりました。1カ月後には、ほぼすべての通路を走行できるところまで改善されていましたね。このスピード感には、本当に驚きました。

50台のロボット導入で見えた次の課題

その後、現地の研究開発拠点で改良状況を確認すると、指摘していた課題もすでに改善されていました。そこで「これなら現場で使える」と考えて、50台を購入したんです。

しかし、実際に現場に導入していくなかで、新たな課題も見えてきました。中型のロボットは通路を清掃できる一方で、パチンコ台の足元など細かい場所には入れません。床面全体で考えると、そうした部分が40%ほど残っていたんです。

そこで、「細かい場所まで清掃できる小型ロボットをつくれないか」と、メーカーさんに相談しました。中型ロボットと組み合わせれば、床面全体をロボットで清掃できるようになると考えたからです。

一方で、新しい製品をつくるには、金型などへの大きな投資が必要です。メーカーだけにリスクを負ってもらうのは難しいので、「当社も出資するので一緒にやりませんか」と提案しました。

共同開発したロボットが事業の柱に

半年ほど話し合いを重ね、ようやく開発がスタートしました。自分たちが企画した清掃ロボットが、初めて製品になったんです。開発には約1年かかりましたが、まずは自分たちの現場約50店舗で実際に使い、しっかり運用できることを確認しました。

現時点で出荷台数は2,500台に達しており、業務用小型清掃ロボット(※1)は、 日本国内 2025 年度新規導入台数 No.1を獲得できました。

2011年に当社へ来たときには、こんなことをやるとは考えていませんでしたね。現場で出てきた課題や事業上の課題に向き合い、その都度新しいことに取り組んできた結果が、今の事業につながっているのだと思います。

(※1)2026 年 8 月期_業務用小型清掃ロボットにおける市場調査 調査機関:日本マーケティングリサーチ機構 調査期間:2026 年 7 月 17 日~2026 年 8 月 11 日 調査概要:主要 6 社を対象 調査手法:公開情報および関係者へのヒアリング等を基に、累計データを比較・検証したものです。 実際の数値とは異なる場合がございます。

目指すのは「清掃3.0」という世界観

これからも、業務用清掃ロボットの普及を進めたいと考えています。日本では人手不足・高齢化が進んでいます。清掃には身体への負荷が高い作業もあるので、そうした部分はロボットが担えるようにしていきたいんです。

一方で、最後の品質を担保する部分には人の感性も必要です。「きれい」か「汚れているか」を判断するような、人だからこそ担える仕事もあります。そこで、負荷の高い作業はロボットに任せて、人は人らしい仕事を担う。そんな世界観を「人とロボットが協働する社会 清掃3.0」というビジョンとして掲げています。

その実現に向けて、ビルメンテナンス事業をさらに進化させたいと思っています。さらに清掃ロボットの販売・普及にも、引き続き取り組んでいきたいです。

学生に伝えたい「エラー&ランダム」

まず飛び込んでみること

よく「トライ&エラー」と言いますよね。会社でもよく使っていた言葉なんですが、最近は少し変えた方がいいと思っています。それが「エラー&ランダム」です。

まずは飛び込んでみる。そこでうまくいかないことも含めて経験し、その原因を改善しながら、学んでいくという考え方です。「失敗したらどうしよう」と考えて、立ち止まってしまうことは多いと思いますが、それよりもまずやってみることが大切です。

中国のメーカーさんと仕事をしていても、そのスピード感には驚かされました。韓国を含め、アジアの企業にも似たような勢いを感じています。

グローバルな競争のなかで、「失敗しないようにしよう」「自分が傷つかないようにしよう」と考えて動けなくなってしまえば、負けてしまうと思うんです。だからこそ、失敗を恐れずにまず飛び込んでほしいと思っています。

経験こそが財産になる

これからの時代は、知識やノウハウならAIから学べることも増えていくと思います。ただ、実際に自分ができるかどうかは、やってみなければわかりません。実践して得られる経験値は、これからますます重要になっていくと思っています。

そういう経験を積み重ねていけば、自分の財産も増えていきます。社員が日々の業務でエラーを出したからといって、それだけで会社が潰れるわけではありません。経営の判断を間違えれば会社が潰れることはありますが、社員にはもっと多くのことを経験してほしいと思っています。

AIがさまざまな選択肢を示してくれるようになっても、最後に決断するのは自分です。その意味でも、経験は非常に重要になります。学生の皆さんにも、躊躇せずにどんどん飛び込んでいくマインドセットを持ってもらいたいですね。これからの未来をつくっていくのは、学生の皆さんですから。

編集後記

今回のお話で特に印象に残ったのは、「エラー&ランダム」という考え方でした。不動産もホテル清掃も、最初から成功していたわけではありません。それでも現場で試し、失敗から改善を重ねた先に、メーカーとの清掃ロボット開発までつながっています。

AIから多くの知識を得られる時代だからこそ、自分で飛び込んで得る経験には、大きな価値がある。就職活動を控える学生として、私自身も強く意識したいと感じました。貴重なお話をありがとうございました。