インタビュー

電話線を抜いてインターネットにつないでいた少年は、なぜ建設業界のテクノロジーパートナーになったのか

電話線を抜いてインターネットにつないでいた少年は、なぜ建設業界のテクノロジーパートナーになったのか
PROFILE
株式会社フォトラクション 代表取締役
中島 貴春

電話線を抜いてインターネットにつないでいた

私たちは、建設現場の写真や図面などを管理・共有するクラウドサービスをはじめ、建設会社の仕事を支えるテクノロジーを提供しています。創業は2016年で、今年でちょうど十年経ったところです。

そもそもの創業の経緯をお話しすると、学生の頃からITと建築の両方に興味がありました。ものをつくるということが、昔から好きでした。特にITに関しては、小学校高学年の頃から、当時はまだ家の電話線を抜いてパソコンにつないでインターネットにする時代だったんです。インターネットをしている最中は電話ができない、そんな時代でした。

その頃からウェブ上で遊べるゲームをプログラミングして、いろいろな人に楽しんでもらっていました。母がITを結構好きだったこともあって、そこから自然と親しんでいったところがあります。

独学が難しい建築を、大学で一から学ぶ

ITは独学で学び続けていた一方で、建築は独学が難しいのではないかと思っていました。ITだけを深めるのではなく、建築も一から学びたいという思いがあり、その二つを掛け合わせたことが、結果的に今の仕事につながっているのかなと思います。

そのため大学では、建設業界で今では割と主流の言葉になっている「BIM」の研究をしていました。建物の形をコンピューター上で立体的に表し、材料や寸法などの情報も扱う仕組みです。ITも建築も好きな自分には合っていると考えて取り組んでいたテーマが、今の建設×ITという事業につながっています。

開発より難しかったのは、お客さまとの対話

創業してから今までを振り返って、しんどかったことをひとつ挙げるとすれば、開発そのものではありませんでした。開発は昔からプログラミングに親しんでいたので、抵抗なくやれていました。どちらかというと、つくったものをお客さまに届け、継続して役に立っていくというところが一番難しかったです。

営業経験がなかったため、創業初期は、お客さまとの接点を一つずつつくり、対話を重ねていくことに苦労しました。

山口県まで日帰りで会いに行った

ホームページを公開して間もなく、最初にお問い合わせをいただいたのが山口県の会社さんでした。まだ資金的にも余裕がなかったのですが、営業としてお客さまと話す経験をしたことがなかったので、直接お伺いして、いろいろとお話しさせていただきました。

そうやってひとつずつの関係を大事にしながら向き合っていくことが、今思うと信頼につながっていったんですよね。そこは大変でしたし、その経験を重ねたことが、今につながっていると思います。

竹中工務店で見つけた「欲しいもの」

2013年に芝浦工業大学大学院を修了し、株式会社竹中工務店へ入社しました。最初は施工管理業務という形で建設会社の業務を実際に経験し、二年目にICTを推進する部署に異動しています。システムの企画や開発などに携わるなかで、当時は、建設現場でもiPadやiPhoneといったタブレットやスマートフォンの活用を進めようとしていた時期でした。

まだ今のようにいろいろなソフトウェアがなかったので、こういうものがあったらいいのではないかと考えていたところがあり、そこで感じた課題や、システム開発の経験が、今の事業につながっています。ただ、実際にお客さまと話してみると、自分がそこまで長く建設会社で働いていたわけでもなく、知らない課題に数多く出会いました。実際に現場を訪れて話を聞くことで、自分の中に落とし込んでいけたところがあります。

単一のツールから、産業を支えるパートナーへ

創業から10年が経ちました。これまで私たちは、ゼネコンや建設会社が共通して抱える課題に対し、多くの会社で利用できるツールとして『Photoruction』を提供してきました。一方で、会社ごとに異なる課題は、共通のツールだけでは解決しきれません。AI時代の中で人手不足を解決する方法はいろいろあると思っていて、単一のツールにこだわらず、産業全体を支えるテクノロジーパートナーへと変わっていきたいと考えています。

目指すのは「デジタルゼネコン」

理想として掲げているのが「デジタルゼネコン」という言葉です。建物づくりは、工事全体を取りまとめるゼネコンだけでなく、専門工事会社や職人さんなど、多くの人たちによって成り立っています。私たちもテクノロジーを使って、建物づくりに参加していきたいと思っています。

AIが担うところ、人にしかできないところ

具体的には、AIに任せられる準備や整理、データの生成などがある一方で、AIがつくったものが正しいかどうかを判断するのは、やはり人の力が必要です。建物の用途や地域によって、適用される法令や確認すべき条件も異なるため、それらを踏まえて判断しなければなりません。

そうした人の力とテクノロジーを両輪にして、より良い建物づくりに貢献できるパートナーになっていきたいと考えています。単に効率化するだけでなく、より良い建物づくりを、人とテクノロジーの両方で支えられるような会社になっていきたいです。

お客さまに合わせてチームをつくる

建設テック×AI×デザインに特化した開発パートナーサービス『クリエイティブサービス』も展開しています。自社サービスの開発で培った技術や知見を生かし、お客さまの課題に応じたシステムや新しいサービスを一緒につくっています。こちらのチーム規模は、案件ごとに異なります。つくるものによって必要な専門性や活用する技術が異なるため、そのつど最適なチームを組成しています。

大手の建設会社ではPhotoructionを導入したうえで、さらに生産性を上げていきたいという要望をいただくこともあります。建設業といっても各社特有の悩みがたくさんあり、そうした課題に取り組むことが、お客さまの強みを生かすことにもつながると考えています。汎用的なパッケージだけでは対応しきれない場合には、必要なシステムを開発してご提供したり、すでに建設会社向けのサービスを提供している企業と、一緒に新しい事業をつくることもあります。

 

これまでAIやソフトウェアに関する技術・機能を蓄積してきたので、すべてをゼロから開発するのではなく、それらを組み合わせながらお客さまにとって最適な開発の進め方を提案できます。おかげさまで、長期にわたってお付き合いが続いているお客さまも多くいらっしゃいます。

建設業界に残る、テクノロジーだけでは解けない課題

私たちが向き合っているのは、建設業界全体に関わる課題です。AIの進化によって、さまざまな業務で活用が進んでいます。建設会社も計画を立てたり、書類をつくったりする中でAIを活用するようになってきていますが、AIがアウトプットを出したからといって、それだけでいい建築ができるわけではありません。

品質の基準は、会社によって違う

会社によって見るべき品質のポイントが違いますし、東京と北海道では条例なども全然違います。建物の品質を確保するには、さまざまな条件を踏まえた総合的な判断が欠かせません。

職人さんたちと、気持ちよく働く

建設業は、現場で人が手を動かし、多くの専門技術を組み合わせてものをつくる産業です。職人さんたちと互いに気持ちよく働ける関係を築きながら、より良い建物をつくることが重要です。また、技術を次の世代へ残せる環境づくりは、テクノロジーだけでは実現できないと感じています。

こうした課題をきちんと解いて、建設の世界を限りなくスマートにするというミッションの達成に向かっていきたいと思っています。人にしかできない価値とAIの価値を組み合わせて、限られた人員でも、より良い建物をつくり続けられる産業にしていけたらと考えています。

「建築技術」という75年の歴史を、次の世代へ

ここで少し触れておきたいのが、2025年12月に、専門誌「建築技術」を発行する株式会社建築技術をグループに迎えたことです。同社は、1950年に日本初の建築技術専門誌を創刊し、75年以上にわたって建築技術者や研究者へ専門情報を届けてきました。現在は、その専門知と私たちのテクノロジーを掛け合わせ、建築技術者向けのデジタルプラットフォーム「KENGI(ケンギ)」を共同で開発・運営しています。技術コラムなどは無料で読むことができるので、ぜひご覧いただければと思います。確かな技術や知見を次の世代へつないでいくことは、より良い建物をつくり続けるために欠かせません。そうした技術継承の面でも、建設業界に貢献していきたいと考えています。

学生へのメッセージ

まず、やってみる

とりあえず何でもやってみるのが一番大事だと思っています。好きなことや、自分なりに意味を感じられることは、仕事を続ける力になると思います。起業するにせよ、どこかに勤めるにせよ、そこは変わらないと思っています。

もちろん、それをやるためにはやりたくないこともたくさんやらなければなりませんし、そもそも何が好きかわからないという人も多いはずです。ただ、一回やってみるとわかることがあるので、誰かから期待されたことやお願いされたことも含めて、恐れずに飛び込んでみるといいのではないかと思います。

続けるうちに、それが財産になる

私自身、プログラミングが好きで、誰にも強制されずにやっていました。当然、わからない課題に何度もぶつかって、本を調べても1か月経っても解決しないということもたくさんありました。ただ、試行錯誤を続ける中で、解決の糸口が見つかることがありますし、それが自分の財産になっていきます。改めて好きだと実感して、新しい技術に挑戦するというサイクルが回っていくと思うので、まずは何でも一生懸命やってみることをおすすめします。

編集後記

早稲田大学3年の私は、学生団体でイベント運営に関わりながら、自分でも小さくビジネスの真似ごとをしています。今回、中島さんのお話を伺って、一番印象に残ったのは「開発より、お客さまとの信頼づくりのほうが難しかった」という言葉でした。得意なことをただ磨くだけでなく、苦手なことにも飛び込んでいく姿勢が、事業を10年続ける力になったのだと感じました。まずはやってみる、その積み重ねを、私自身も大切にしていきたいです。