経営が身近にある家庭に生まれて、海外で見た景色
両親から学んだマネジメントの原点
一般的な家庭というとあれですが、両親ともに地元の中小企業の役員をしていて、オーナーではないものの、経理・会計や人事労務といった言葉が身近な家庭で育ちました。物心ついた頃から家庭の食卓で人のマネジメントの話や数字の話が身近にあったんですよね。母の会社で携帯ショップを立ち上げる時の店舗設営をアルバイトとして手伝ったこともあって、新しい立ち上げって楽しそうだな、面白そうだなという感覚が、そのあたりからずっとありました。
米国留学で広がった視野
地元の高校を出たあとは慶應義塾大学に進学して、在学中にカリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)に1年ほど留学しました。せっかく西海岸まで行ったので、JETROロサンゼルス事務所でインターンもさせてもらって。日本国内でもベンチャーやNPO、政府機関など、いろいろなところに片足を突っ込んで、自分に何がフィットするのかを探していた時期だったと思います。正直、東京の大学に行って地元に戻ることは、当時はまったく考えていませんでした。
震災が変えた進路
卒業式直前に起きた地震
僕にとって出来事として大きかったのが東日本大震災です。ちょうど大学4年の3月、卒業式直前のタイミングで起きました。その4月から慶應の大学院に進学することが決まっていたんですが、大学院生をやりながら復興支援活動に動き始めました。
「生きているか」を確かめられない焦り
いろいろな活動をする中で、いつか起業したい、経営に興味があるという思いはあったんですが、原発事故もあって家族や友人にすぐ会えないかもしれない、自分は今ちゃんと胸を張って生きてきたのか、という問いが自分の中に生まれて。それなら、いつかやろうではなく今、起業しようと。また、起業を通じて地元の力になりたいと思い大学院を修了した2013年に一人でプレイノベーションを立ち上げました。福島は日本中や世界中から沢山応援してもらった地域なので、その恩返しとしても福島からイノベーションを生み出したいと思いました。
一人での創業、そして試行錯誤
お絵かきアプリは儲からなかった
最初にチャレンジしたのは、IT×幼児教育の分野でした。震災後離れて暮らす家族をつなげたいと思って、幼児向けのお絵かきアプリを作ったんです。今考えるとすごく原始的なものなんですが、子どもが描いた絵を毎日違うコンテンツとして親御さんに届けるような、親子コミュニケーションのサービスでした。ただ、正直まったくお金にならなくて。他にも運動不足が社会問題化していたこともあり、デジタルの力を活用して体を動かす遊びを日常的に増やせないかと、モーションセンサーを使った事業化にもチャレンジしたんですが、これも実証実験止まりでした。
頂いたお仕事の先に見えた「DX」
そうやって試行錯誤しているうちに、地元の経営者の方から「ITを使った新規事業をやりたいから手伝ってくれ」という声がかかるようになりました。モビリティ系だったり、建設系のサービスだったり、いろいろな仕事をやらせてもらう中で、あとから気づいたら「これってDXだったんだ」と知りました。狙ってDXをやったというより、目の前の仕事をやっていたら、いつの間にかDXと呼ばれる世の中になっていたという流れです。
大切にしているのは「探究」という軸
自分たちらしさを偽らない
いろいろな引き合いやご提案をいただく中で、自分たちがこうありたいという状態を偽って仕事をしていくと、続かなくなると思うんですよね。だから自分たちの個性や文化を大事にしながら、社員にもお客さんにも選ばれ続ける会社になるにはどうすればいいか、ということを大事にしています。キーワードにしているのが「探究」という言葉で、去年の12周年のタイミングで探究経営宣言として打ち出しました。答えのない問題に対して自分たちなりの答えを出すこと、それを探究と呼んでいます。メンバー一人ひとりが自ら考え、行動し、他社と協働できる組織にしたいと思っています。
システム導入で終わらせない
弊社では「世の中の問題解決を加速する」というミッションを掲げており、今まではお客様の業種業態をあえて絞っていませんでした。100年時代になっていく中で解決すべき問題はたくさんあって、子どもが大人になった時に良い社会であってほしいという思いがあるからです。強みで言うと、DXに詳しい、システム開発ができるということ以上に、安易にAIやDXと言わずに探究する会社であることに共感してくれるメンバーが集まってくれています。システムを作ることも、市販のツールの導入をサポートすることもあるんですが、導入して終わりということはしたくなくて、会社が目指すビジョンや抱えている経営課題と向き合いながら、現場に入って伴走することを大事にしています。
現場で向き合ってきた課題たち
たとえば、若い医師が立ち上げたクリニックでは、家庭医療という医学的に認められた新しい考え方を、地域になじむ形で伝えるための企業理念の策定をはじめマーケティング戦略立案、ウェブサイト策定やIT/AI活用支援をさせていただきました。相続コンサルティングの企業からは、相続にまつわる複雑なヒアリング業務をAIを機能として組み込んだシステム開発を実施しました。製造業に特化したDX人材育成や技能継承プロジェクトでは、県内の地域産業を活性化する取り組みも行っています。
AI時代に、地方でDXをやる意味
システム屋も「組織変革」の視点を
非エンジニアでもAIを使ってものを作れる時代になってきているからこそ、今までのシステム屋が組織変革を生業にしていかなければならない時代になってきていると思います。会社にある経営課題や組織課題にデジタルをどう活用できるかということを、僕らはずっとやってきたので、AI時代になったことで、むしろ僕らのやっていることの価値が上がっているのかなと感じています。答えのない問題に対して創造的な問いを立てるような営みや、新しい組織のあり方を自社の経営で実験することなどを通じて、他社への支援へ展開しているところです。
人口減少地域から生まれる解決策
福島をはじめとする東北は、世界的に見ても人口減少が進んでいる地域です。そこでDXや新規事業をやるのはとても大変なんですが、これから人口減少していく国や地域は日本以外の国でも増えていきます。ある意味、福島・東北で生まれたソリューションは、日本以外の他の国でも喜ばれる可能性があるのではないか、と思っています。この地でチャレンジしていることを、いずれ世の中に還元していきたいと思っています。
地元に戻って気づいたこと
祖母を見送れた理由
地元に戻って起業して良かったことの一つが、祖母が亡くなる時にお見送りできたことです。もし東京で働いていたら、そうはいかなかったと思うんですよね。誰にとっても地元は大事だと思っていて、僕の場合はたまたま福島の郡山ですが、大切な人や大切な場所が近くにあることの意味を、あらためて実感しました。AI時代になったこともあり、パソコンの中だけで完結できることは、もう終わりに近づいていると思っていて、僕にとっては福島や東北がフィールドで、そこで起きている問題には当事者意識を持って向き合えますし、それがAI時代の人間の役割として価値があることだと思っています。
採用について大事にしていること
インターンから関わってほしい
中途採用は継続的に行っていますが、無理な採用はしていません。新卒採用については、3年後を見据えて社内で動き始めているところです。いきなり新卒で入社というよりは、プロジェクトベースやインターンベースで関わってくれる学生さんと、もっと関わっていきたいと思っています。
AI面接からはじまる出会い
東京のスタートアップであるPeopleX(ピープルエックス)さんと提携していて、弊社では最初のカジュアル面談にAI面接のプロダクトを使っています。まだまだ地方では馴染みがない中で、それを面白がってもらえるかどうかも、自社のカジュアル面談での一つの見極めになっています。企業理念には探究や進化、創造といった言葉を散りばめていて、「これができるから」という条件ではなく、「次々やってみたい」という挑戦意欲を持った方に出会いたいと思っています。
学生へのメッセージ
現場に足を運んでほしい
AIに仕事を奪われるという不安を持つ方もいるかもしれませんが、実験してみることや、とりあえず手を動かして現場にいることの価値は、むしろ上がっていると思うんですよね。アイデアを形にするのが楽な時代になったからこそ、大学のキャンパスの中だけに閉じず、リアルな課題を抱えている人のところに行ってほしいなと思います。学生だから会える人もたくさんいるので、純粋な問題意識を持って行動して、周りを巻き込んで、感謝を伝えていくこと。それらの価値が上がっていく面白い時代だと思っています。
この先の課題
プレイノベーションが向き合っている業界は、いい意味で変化が激しくて、今までやってきたことがすぐに古くなってしまいます。
変化が激しい時代において、同じ会社で働いていたとしてもコンサルタントや技術者のように職種が違うと「これから必要になること」にズレが生じます。組織の中でこのようなズレが生まれると、成果が出にくくなるんですよね。私たちも、AIを活用するなどさまざまなチャレンジを行っていますが、最後は人間としてのコミュニケーション力が求められると感じていています。これは僕にとってはもちろん、会社のメンバーにも求められます。さらには、弊社に限らず、世界中の会社が感じている課題だと思います。
編集後記
今回のインタビューを通して、地域に根ざしながら「探究」を軸に事業を広げてきた菅家さんの姿勢がとても印象的でした。答えのない問題に自分たちなりの答えを出し続ける、という考え方は、学生である私自身の活動にも通じるものがあると感じました。福島や東北という人口減少が進む地域だからこそ生まれる解決策が、世界にも通用するという視点は新鮮でした。ぜひあわせてチェックしてみてください。