インタビュー

「都市鉱山のような仕事」で役に立ちたい。元投資銀行マンが不動産ビッグデータに懸ける理由

「都市鉱山のような仕事」で役に立ちたい。元投資銀行マンが不動産ビッグデータに懸ける理由
PROFILE
株式会社 Propre Base 代表取締役
白井久也

外資系投資銀行から独立、シンガポールへ

年俸を追い続けた日々から一転、独立してシンガポールへ

大学を卒業してから、まず金融機関に入りました。その後は、いわゆる外資系の投資銀行と呼ばれる会社でのキャリアが長くありました。言うなれば、給与重視で「年俸いくら」と給与額を追いかけるような働き方をずっと続けてきました。

さまざまな経験を経て、「経営者として現状と同じくらいの収益を目指してチャレンジしたい」と思うようになり、起業しました。最初は自己資本かつ、シンガポールを拠点に、「東南アジアでの不動産投資」を始めました。

情報の非対称性に気づく

シンガポールで不動産売買をする中で気づいたことが、情報の非対称性でした。外国人が単身で不動産を買いに行っても、地元の人間ならすぐにわかることが、外国人には10分の1以下の情報しか届いてこなかったのです。そこで、とにかく情報を集め、それを元に分析するようにしたところ、「業者や売主の言い分が真実かどうか見えるようになってきた」のです。そこから、「データビジネスは面白い」と感じるようになり、現在のデータインフラストラクチャー事業に業態変更して、今日に至ります。

世界17カ国の不動産ビッグデータ

地道ながらも価値のある仕事

弊社がおこなっていることは、実はすごく地道な業務です。現在、世界17カ国を対象に、「各国の不動産の情報を日々集めて、きれいに整理してデータベースに格納する」という業務をおこなっています。例えば、不動産の価格査定サイトを運営しているお客様に、「査定時に使えるデータを提供する」というインフラ寄りのビジネスをしています。東南アジアはほぼ網羅していますし、北米やヨーロッパ、オセアニアもほぼ網羅しています。さらに、価格だけでなく、17カ国分の「このエリアが注目を集めている」、「人気がなくなってきている結果、売れにくくなっている」などのデータも見られる素材を企業様向けに提供しています。

スイッチングコストの高さ

この事業の強みは、スイッチングコストが意外と高いことです。つまり、お客様は弊社のデータを元にサービスを構築するのです。一度APIでシステムとシステムが紐づいた場合、それを切り替えることは、なかなか難しかったりします。そのため弊社は、「きれいで正しいデータを提供する」という意識を持って業務をおこなっています。一度ご契約をいただいたお客様と細く長くお付き合いいただけることが、資産としての強みになっていると思います。

銀行や不動産会社との取引

わかりやすい例を挙げれば、銀行は物件を担保にローンを融資しますよね。弊社は、提供するデータを銀行様には担保査定モデルの根拠として使っていただいたり、不動産会社様には「このエリアは周りに比べて単価が高くなっている一方、売れにくくなっている」などの情報を見える化させるための材料として活用させたりしています。

都市鉱山のような仕事をしているという自負

私は今の弊社の業務を「リサイクルと同じ」だと思っています。例えば、その辺りに落ちているゴミをただ拾ってきたところで、それそのものに価値はないでしょう。しかし、アルミ缶や鉄、プラスチック、新聞紙などにきれいに仕分けていけば、それらは「価値ある資源」に生まれ変わるかもしれません。「都市鉱山」という言葉もありますが、使わなくなった携帯電話などの小型家電製品をたくさん回収していくことで、やがてそれらから金を回収できることは、みなさんもご存じですよね。要は弊社の業務も都市鉱山のようなものなのです。雑多な情報を仕分け、価値ある素材に変え、それを必要としている方々に提供できるようにする。この過程が面白いと思っているのです。

さらには、「交通事故のデータ」も持っているため、幼稚園児や小学校低学年のお子さんがいらっしゃるご家族が、マンションを買うべきか借りるべきかを検討する際に、「意外とこの周りは幹線道路沿いだから、交通事故が多い」などの情報がわかったり、ペットを飼っている方には、周辺にペットホテルや動物病院があるかなどの確認にも活用いただいています。周囲の環境と自分の望む条件とのベストマッチエリアをデータから導き出すお手伝いもしています。

情報の壁を下げていきたい

不当な壁は作りたくない

情報の非対称性がある場合、そこにはビジネスが生まれます。ただ、それが不当な壁として作られてしまうことは、「サービスではないな」と思っています。「不当な情報非対称性の壁をもう少し壊したい」ということが、弊社の想いです。私たちが目指すのは、「情報の知恵がないから」という理由で、住まい選びや投資において誰ひとりとして不当に損をしない世の中です。透明なデータが当たり前に届く社会になれば、国境や知識の差を超えて、誰もが納得感を持って自分の人生の選択ができるようになります。だからこそ、世界中の海外情報の量を拡大させながらデータも集め、「誰でも気軽に必要なデータに触れられる環境」をつくっていきたい。さらに、海外情報の量を拡大させながら、データも集め、「誰でも気軽に必要なデータに触れられるようにしていきたい」と考えています。分析済みデータと聞くと、「難しいと思い込んでしまう方も少なくはない」ですが、情報アクセスへのハードルを下げ、より多くの人に有意義な情報をお届けしていくための啓発活動をしていければと思います。

わらしべ長者のような資産の連鎖

個人様向けには、不動産をお持ちの方に向けて、「LINEでマンション売り時診断」というサービスを展開しています。「不動産を持ち続けたほうがいいのか、売ってしまったほうがいいのか」という問いは、永遠の課題でしょう。しかし、データを使うことで、「単価は上がっているのに回転が少なくなっているエリアである」、「売買価格は上がっているが、賃料が比例して上がっていないエリアである」などの「個人では把握が難しい視点」からも分析可能になります。

ちなみに、個人的にやってみたいと思っているのは、「わらしべ長者のような連鎖」です。例えば、最初は小さな物件しか持っていなかった人が、その物件を売った金額で、「駅近かつ、より都心部に近い物件に住み替えていく」という売買を重ねることで、「気づけば都心のド真ん中に家を持っていた」という具合の連鎖を後押ししたいと思っています。実際に、日本国内で売りに出されている物件に対しても、日々AI査定をおこなっています。そして、売値とAI査定額の差が大きい「割安でお買い得な物件」のランキングも毎日更新しています。

以前は、データを使って自社で不動産投資を試みていたこともありました。しかし、実際には「投資よりもデータ収集・分析のほうが面白く、そちらを事業として拡大」していっていました。いつの間にやら、「不動産投資が好きなおじさん」だったはずが、「データ分析事業のほうが面白くなっていた」のです。そのため、今は自社で活用するためだけでなく、「データインフラとして、たくさんの人に活用してもらえる世の中」を目指しています。

学生に伝えたいこと

夢を紙に書き出す

私自身、学生時代を振り返れば、当時は将来像をあまり深く考えていなかったように思います。ちょうど就職活動期が「氷河期」と言われた世代で、実際に就職活動が難しかったこともあり、「雇ってくれるところがあればどこでもいい」くらいのノリで、きちんと調べずに動いていました。そうは言っても、仮に誰かから、「就職活動は真面目にしなさい」と言われたとしても、その通りにやってはいないだろうと思います。しかし、今思い返せば、仮に漠然としたものだったとしても、「こんなふうになっていたい」という夢を「仕事とお金の2軸で言語化して、紙に書き出しておくべきだった」と思います。

人生でうまくいくためのゴールを設定しておいたとしても、結婚や子どもの誕生など、さまざまなライフイベントやライフステージの変化により、計画変更が途中で必要となってきます。つまり、「最初に立てていたはずのゴール地点が実情と少しずつズレていく」わけです。だから、将来像を見通せる目を養っておかなければ、例えば、30歳になった時点で「あれ、自分はどう考えていたのだったっけ」となってしまいます。だからこそ、学生のうちに毎日少しの時間でも構わないですから、自身のなりたい将来像を思い描き、それを言葉に落とし込む形でゴール設定をしておけば、社会人になってからのブレ幅を小さくできるかもしれません。これは私が学生時代にやっておけばよかったと思っていることのひとつです。

留学しておけばよかった

私は海外で仕事をしたかったことから、例えば「中国語で不自由なく会話ができるだけの語学力があればよかった」と思ったことがたくさんあります。言うなれば、「留学はしておいたほうがよかった」ですかね。海外は言語だけでなく、「文化も全く違う」ため、その点を知っておくだけでも、今とは大きく違ったと思います。

例えば、中華系の方は声が大きく、あまりにこやかに話さないことが多いため、日本人からすれば、「怒られているのかな」と思ってしまいがちです。ですが、実際は彼らは怒っているわけではなく、それが彼らにとっての「当たり前のコミュニケーション」なのです。要するに、相手の当たり前を知らずに「怒られている」と思ってしまうと、ミスコミュニケーションに繋がってしまいます。そうした意味でも、海外特有の生活習慣やマナー、文化などを若いうちから知っておきたかったと思っています。

編集後記

今回のインタビューを通して、外資系投資銀行という華やかなキャリアから一転、不動産ビッグデータという地道な事業に懸ける白井さんの姿がとても印象的でした。特に、創業から一貫する「情報の非対称性をなくしたい」という思いに驚きました。また、夢を紙に書き出すというアドバイスは、私自身もぜひ実践していきたいと思います。貴重なお話をありがとうございます。