株式会社レジリエンスラボで代表取締役CEOをしている沖山雅彦です。私たちは、企業の防災・事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)をゼロから構築するお手伝いをしています。
出向創出支援事業がきっかけだった
会社を立ち上げた直接のきっかけは、経済産業省の「出向等創出支援事業」でした。大企業に在籍している社員が、自分がやりたいことを志として会社をつくり、それに対して国が支援するというスキームです。大前提として、所属する会社の理解と、所属会社と自分がつくる会社の間に親会社・子会社のような関係があってはいけない、独立性を持たなければいけないという条件が設けられていました。そのうえで書類審査や面談を経て、私たちの会社は採択されました。採択後、2年間は在籍会社の仕事とレジリエンスラボの仕事の両方をやり、その後、完全独立し今に至っています。
防災とBCPはまったく別の概念
防災とBCPは似ているようで、目的や考え方が異なります。防災は避難訓練など、昔から学校でも教わってきたものです。一方でBCPは、大きな災害が起きて通常業務に戻れなくなったとき、重要な事業をどのように継続・復旧させるかをあらかじめ決めておく計画のことです。震度7クラスの地震が起きると、翌日や翌々日に通常業務へ戻ることはできません。事前に決めておくと、起きたときにすぐ行動に移せますが、起きてから決めようとすると、決めなければいけないことが山のように出てきます。
BCPを主に担当するのは、多くの企業で総務部や経営企画部門ですが、専任でやっている方はほとんどいません。大企業ほどジョブローテーションもあるため、防災・BCPの専門知識やノウハウを社内に蓄積することがとても難しいのです。しかもBCPという概念自体、日本企業で語られ始めてからまだ20数年しか経っていません。経理や総務のように昔からある仕事なら先輩から仕事を引き継げますが、BCPにはその蓄積がありません。国(内閣府)は、直後、または各種団体を通じて長年BCP策定を呼びかけてきましたが、2026年現在でも、日本企業でBCPを策定している会社は半分に届いていないのが実情です。
事業会社の中で得た知見を、外に開いた
私は、事業会社の中で自らBCPを構築し、仕組みを回す経験を積んでいました。ただ、一つの会社に所属していながら、その知見を他社にオープンにすることはできません。事業継続には「社外秘」に当たる内容も絡むため、培ったノウハウを外部に出せないもどかしさがありました。一方で内閣府の調査でも、中堅・中小企業がBCPをつくれない理由として「何から手をつけていいかわからない」「社内に知見がない」という声が上位に挙がります。それならば自分たちの知見を囲っておく必要はない、オープンにしようと考え、レジリエンスラボを設立しました。
先行投資という意識を持ってもらうのが難しい
会社を立ち上げて6年目になりますが、教育にしても訓練にしてもコストがかかります。経営者の多くは目先の売上を優先し、コストをかけたくないと考えます。人材育成もBCPも、実は同じ「先行投資」なのですが、その意識を持ってもらうのはなかなか難しいというのが今の課題です。
15年前の東日本大震災では、被災した中小企業の中に倒産してしまったところもありました。倒産するということは、給料日に当たり前に振り込まれていた給料が振り込まれなくなり、そこで働いていた人たちの生活基盤が失われるということです。会社を守ることと、そこで働く方々の生活を守ることは、切り離せない問題だと考えています。
社会貢献と事業を両立させる、というCSVの考え方
CSR(企業の社会的貢献)という言葉はよく知られていますが、私たちが大事にしているのはCSV(Creating Shared Value)という考え方です。株式会社である以上、利益を出さなければ会社は存続できません。社会に貢献することそのものが事業になる、社会貢献と経済的な売上を両立させるという考え方で、会社をつくりました。
災害の発生時期は予測できないため、そこに投資する必要性を感じにくいという声もあります。ただ、BCPに取り組む会社が増えている一方で、取り組んでいない会社との差はどんどん開いています。就職先を選ぶ大学生にとっても、従業員の生活まで守ろうとする会社かどうかは判断材料になっていくはずです。実際、ヨーロッパの一部の業界では、初めて取引をする際に相手企業がBCPを持っているかどうかを条件にするケースも出てきています。例えば製造業の場合、原材料や部品を外部から調達して初めて一つの製品をつくれるわけで、自社だけでなく取引先を含めたサプライチェーン全体の課題になります。BCPは、自社だけにとどまらない奥の深いテーマだと感じています。
自分のキャリアは自分でつくる時代
年功序列、終身雇用の時代はもう終わりました。昭和の時代のように、大企業に入社をすれば定年まで安泰という前提はもうありません。業績が黒字でも事業ごと縮小させる会社は普通にあります。だからこそ、一人ひとりが自分でキャリアを形成していく意識を持つことが大切だと思います。
実際、私たちのようなあまりPRをしていない地味な分野にも、長期インターンとして関わってくださる学生さんがいます。京都大学の大学院生や、カナダに留学しながらリモートで参加してくださった学生さんもいました。防災・BCPは文系・理系を問わないテーマで、経営、経済、都市開発、工学、情報など、様々な分野の知識が生きる場面もあります。インターネットで自分から調べて、興味を持ってアプローチされる学生さんは、それだけモチベーションも高いと感じています。今の会社は社員にやさしい面もありますが、自分のキャリアは自分でつくるという意識を、若い世代には特に持ち続けてほしいです。
編集後記
正直に言うと、取材前は「BCP」という言葉すら知りませんでした。避難訓練とはまったく別物で、災害が起きたあとに「事業をどう続けるか」を事前に決めておく仕組みだと知り、なるほどと思いました。ゼロから知見をつくり、それをあえて外にオープンにするという発想には驚きました。終身雇用が終わったという言葉も、就職活動を控える身として、素直に刺さりました(早稲田大学3年)。