インタビュー

ファンとアーティストを「印税」でつなぐ ― ロイヤリティバンクが描く新しい応援の形

ファンとアーティストを「印税」でつなぐ ― ロイヤリティバンクが描く新しい応援の形
PROFILE
株式会社ロイヤリティバンク 代表取締役社長
坂上 晃一

音楽業界にいたからこそ見えた、もうひとつの応援方法

コンサートやCD購入の枠を超えた応援を目指して

ロイヤリティバンクは、音楽・エンタメ業界にルーツを持つメンバーで構成されています。ファンがアーティストを応援する手段といえば、コンサートへの来場やCD・グッズの購入、定額制音楽配信サービスでの視聴が一般的です。私たちは、こうした既存の枠組みにとどまらない、新しい応援の形を提示したいと考えました。

現在、欧米で注目を集めているのが「ロイヤリティ(印税)」の取引です。例えば、シンガーソングライターには、著作権管理団体や所属プロダクションから年に数回、著作権使用料が支払われます。この印税を受け取る権利は、金融的な視点では「債権」に該当します。著作権の場合、この債権は作者の死後70年間にわたって発生し続ける、極めて息の長い資産といえます。

印税を「資産」として捉える

年間100万円の印税収入があるアーティストでも、新作の海外マスタリングや大規模なツアー開催には、まとまった資金が即座に必要となる局面があります。その解決策として私たちが提案しているのが、ロイヤリティの一部売却です。10年から権利存続期間といった期間を定めて権利の一定割合を売却し、契約終了後に権利を戻す。これにより、必要なタイミングで迅速な資金調達が可能になります。

その売却先として想定しているのがファンの方々です。高額な権利を一口1,000円程度に分割することで、多くのファンが参加しやすくなります。購入したファンには、年に4回、アーティストの印税が分配されます。10年間、アーティストから「お小遣い」をもらえるような感覚といえるでしょう。カラオケでその曲が歌われれば著作権料が発生し、さらにファンとの結びつきも強固になります。私たちは、こうした新しい互恵関係を築きたいと考えています。

こうした仕組みは、米国や韓国などではすでにプラットフォームが確立されています。日本では未だ一般的ではありませんが、ロイヤリティバンクは、このロイヤリティの活用を通じてエンタメ業界におけるIP(知的財産)の流動化を推進しています。アーティストとファンの間に新たな絆を創出することこそが、私たちのビジネスの本質です。

特許を持つ独自の予測式

このビジネスにおいて最大の鍵となるのは、楽曲が将来にわたってどれほどの収益を生むかを予測する精度です。見積もりが低すぎればアーティストの期待を裏切り、高すぎれば購入するファンの不利益につながります。ロイヤリティバンクは、この複雑な予測式において特許を取得しており、現在はデータを入力するだけで精緻な収益予測が可能なツールの開発を進めています。

また、権利売買とは別に、権利者向けに「作品の特性」を可視化するサービスも展開しています。楽曲は不動産と同様に長期的な資産です。演奏権、録音権、放送権といった指標を一覧化・グラフ化することで、自身の作品価値を正確に把握していただけます。このサービスはすでに稼働しており、次なるプロモーション戦略の立案にもご活用いただいています。

新しいビジネスを根付かせる難しさ

歴史の長さゆえの複雑さ

創業以来、最も苦心しているのは新しい仕組みの社会実装です。音楽業界における著作権の歴史は長く、商習慣も強固に固定化されています。私たちのような革新的な取り組みは、既存の枠組みからは「異質」と捉えられがちです。この見えない壁をいかに乗り越え、信頼を勝ち得ていくかが、現在進行形の大きな挑戦です。

海外と日本の温度差

欧米には「将来の収益を今得る」という合理的な考えが浸透していますが、日本では伝統的な手法へのこだわりが強く、慎重な姿勢を示される場面も少なくありません。しかし、保守的であるからこそ、新しい可能性をポジティブに面白がっていただけるよう、粘り強く多角的なアプローチを続けています。

データ収集という高いハードル

また、過去の収益データを収集・分析し、適切な評価額を提示するプロセスには、依然として一定の手間を要します。この導入ハードルをいかに下げ、実利を実感していただけるか。ユーザーの利便性を高めるための改善を、日々積み重ねている段階です。

印税ビジネスがつなぐ未来

推し活と印税の相性

「ビジョン図鑑」の読者である学生の皆さんの中には、熱心にアーティストを応援している方も多いでしょう。現在の「推し活」は非常に熱量が高い一方で、時に燃え尽き感を抱いてしまう側面もあります。私たちのサービスを通じて楽曲の権利を所有すれば、応援が長期的な収益にもつながります。もしその楽曲が大ヒットすれば、さらなるリターンも期待できる。こうした「夢」のある応援の形を提供できることが、私たちの自負です。

音楽を収益化することに対しては、時に懐疑的な視線も向けられます。しかし、音楽業界の出身だからこそ、私たちはこの課題に真摯に向き合っています。アーティストとファンの双方に実利をもたらすエコシステムを日本に根付かせることが、ロイヤリティバンクの掲げるビジョンです。

音楽からエンタメ全般へ

最後に、「ビジョン図鑑」をご覧の皆さんへ。印税は音楽に限った話ではありません。小説、漫画、ゲーム、さらにはキャラクターの肖像権など、エンタメ全般に共通する可能性を秘めています。現在は音楽からスタートしていますが、将来的にはあらゆる領域のロイヤリティへと展開していく予定です。エンターテインメントの未来に関心がある方は、ぜひ私たちの挑戦に注目してください。

編集後記

今回のインタビューを通じて、普段何気なく耳にする「印税」という言葉の裏側に、これほどまでに革新的なビジネスの可能性があることに驚かされました。ファンとして「推す」ことと、資産として「支える」ことが地続きになっていく未来は、一ファンとしても非常に楽しみです。複雑な著作権の世界を、情熱を持って分かりやすく紐解いてくださった坂上代表に深く感謝いたします。