インタビュー

意味に、かたちを。丹後の着物と広告経験を折り重ねてつくる、ふたつのブランド

意味に、かたちを。丹後の着物と広告経験を折り重ねてつくる、ふたつのブランド
PROFILE
TANIORI 代表 
谷口泰星

家電メーカーの宣伝部で広告づくりに出会う

宣伝部でキャッチコピーを磨く

私は、京都駅からでも2時間ほどかかる京都府北部の丹後地方で生まれ育ちました。大学卒業後は、日本を代表する家電メーカーに就職し、そこで6年半ほど広告クリエイティブを担当する部署に所属していました。学生時代はクリエイティブやアートに関わっていたわけではなく、たまたま配属されたのがきっかけです。でも、実際に広告やコピーライティングの世界に触れてみると、これがとてもおもしろくて。キャッチコピーを考えたり、企画を練ったりする仕事にのめり込んでいきました。

その後、転職を経て今本業で所属している会社は3社目になります。その傍ら、個人事業主としてもクリエイティブスタジオ『konova』を立ち上げました。そして現在は、企業のブランディング支援やコピーライティングの仕事を受けながら、自身のブランド『TANIORI』の運営をしています。

詩のサブスクリプション「shiokuri -詩の漂流便-」誕生

海外の詩のサービスに着想

会社員として広告の仕事を続けるなかで、AIによってコピーやデザインの仕事がどんどん変わっていくのを感じるようになりました。そのころから、クライアントの広告をつくるだけでなく、自分自身でプロダクトやサービスをつくり、世の中に届けていきたいという気持ちが強くなっていったんですよね。

もともと言葉や詩、短歌のようなものが好きで、コピーライティングの仕事ともどこかつながっているところがありました。AIと壁打ちしながら企画を考えていたときに、海外にはすでに詩のサブスクリプションサービスがあることを知り、調べてみると日本にはまだあまり見当たらない。それなら自分でやってみようと思い立ち、「shiokuri −詩の漂流便−」を立ち上げました。始めてからまだ数ヶ月ほどで、契約者数はこれから増やしていきたい段階ですが、じっくり育てていきたいと思っています。

言葉を日常に届けたい

詩と聞くと、一部の人が文芸として楽しむものというイメージを持たれるかもしれません。でも、私はもっと日常のなかに言葉があってもいいと思っていて。花を1本買うだけで気分が上がるように、言葉にもそういう力があるはずだと考え、このサービスをつくりました。

丹後の着物文化を受け継ぐものづくり

父は織機職人、母は元仕立て屋

実は、shiokuriよりも先に動き出していたプロジェクトがあります。私の地元は、着物の生地「丹後(たんご)ちりめん」の産地として栄えてきた場所です。今は着物を着る人自体が減り、生産量も最盛期の1%以下になってしまったと聞いています。そうしたなかで、父は生地を織る機械のメンテナンスをする職人で、母もかつて生地を着物に仕立てる仕事をしていました。着物の家系というわけではありませんが、地域全体としてそうした仕事に関わる人が多い土地で育ちました。

着物生地で新しいプロダクトをつくる

自分もメーカー勤めをしてきたなかで、いつかものづくりに関わりたいという思いがあり、地元の伝統的な生地を使ったプロダクトブランドを立ち上げることにしました。新しく着物そのものを仕立てるのは初期投資も大きく、需要を生み出すのも簡単ではありません。そこで、伝統と新しいアイデアを掛け合わせる形で、丹後ちりめんを使った小物のブランドを企画しています。今後はクラウドファンディングを通じて世の中に届けていく予定です。ゆくゆくは、海外にもこのプロダクト・ブランドを広げていきたいと考えています。

ブランド名は「谷折り」から

法人化を視野に入れて、屋号とブランド名は「TANIORI」という名前にしています。もともとは自分の名字である谷口と、地元の織物を掛け合わせて考えました。折ることは内側に向き合うこと、織ることは異なるものを結び合わせること。そこに、言葉や祈りを意味する「INORI」も重ねながら、目に見えない想いを手に取れる形に変えていくブランドでありたいと思っています。

一人社長としての苦労

企画から発送まですべて自分で

法人化はまだしていないので、今はいわゆる一人社長のような状態です。組織であれば分担できることも、すべて自分でやらなければなりません。商品を思いついたら、自分でOEM先を探して発注し、パッケージのデザインを考えてもらう会社を見つけ、自社ECサイトで在庫や発送のフローも整えます。お客さまからの問い合わせにも、自分で対応します。大変なところもたくさんありますが、ものづくりの最初から最後まで関われるのは尊いことだとも感じていて、楽しみながらやっているというのが正直なところです。

これから目指すもの

海外展開への思い

丹後ちりめんを使ったプロダクトは、グローバルに通用するブランドにしていきたいと考えています。海外の営業のつながりはまだありませんが、海外でも受け入れてもらえる可能性が大きいと感じていて、機会があればぜひチャレンジしてみたいと思っています。

仲間と一緒に育てたい

社員雇用については、まだ具体的にイメージできていませんが、この先はアルバイトのような形で一緒に働いてくれる人も増やしていきたいと考えています。もし共感してもらえる方がいれば、XやInstagramなどでも大丈夫なので、ぜひ気軽に連絡をもらえたらうれしいです。

学生へのメッセージ

目の前のことを大切に

未来から逆算して今やることを決めるという考え方もすばらしいと思いますが、私自身は、目の前のことに取り組むなかで人生が動き出した経験が多くありました。今振り返ると、当時は今のフェーズをまったく想像していませんでした。一つひとつやってきたことが、後から線としてつながっていく瞬間があります。だからこそ、20代の過ごし方はとても大事だと感じていて、将来やりたいことが見えていない人も、まずは身近な出来事や、そこで出会う人との会話を大切にしてほしいと思います。

自分にしかない強みを探す

もうひとつ伝えたいのは、自分にしかないものを早く見つけられる人は強いということです。リーダーシップがあるといった一般的な強みだけでなく、たとえば地元がどこかということも、その人にしかない要素になり得ます。例えば、京丹後地方出身でコピーライティングをしている人は、私くらいしかいないと思っていて。そういう自分ならではの掛け合わせを見つめる機会を、学生のうちから持ってもらえたらいいなと思います。

編集後記

今回のインタビューを通して、会社員として広告の仕事を続けながら、地元の伝統と自分の得意なことを掛け合わせて新しいブランドをつくろうとする谷口さんの姿勢がとても印象的でした。目の前のことを大切にするという考え方は、就職活動やキャリアに悩むことも多い私たち学生にとっても、大きなヒントになると感じました。貴重なお話をありがとうございました。