インタビュー

知られていなかった制度から、二つの居場所づくりへ

知られていなかった制度から、二つの居場所づくりへ
PROFILE
サチエ株式会社 代表取締役
前田 幸江

出会いは営業に来た事業者から

ケアマネ時代の出会い

結婚してから子育てをしているあいだはヘルパーをしていて、そこからケアマネジャーの仕事をするようになりました。ケアマネという仕事は、いろいろな事業者さんが「うちを使ってください」と営業に来るんですよね。デイサービスだったり、ヘルパーステーションだったり、福祉用具だったりする事業者さんたちです。

そのなかでデイサービスの人と仲良くなって話しているうちに、「すごく面白い事業があるんだ」と聞いたのが、放課後等デイサービスでした。今から12年ほど前の話で、当時はまだこの事業が国で始まって2年目ぐらいの、誰も知らない事業だったんです。私ももちろん知らなくて、そこから調べたり、区役所に行ったりしたんですが、あまり知られていませんでした。障害を持った子どもが通う特別支援学校に行っても、保護者さんでさえほとんど知らないぐらいの事業でした。

居抜き物件からの始まり

そこから、「じゃあやってみよう」ということで始めました。始めるときも、「絶対にやるぞ」という強い気持ちだったわけではなく、当時はまだ子どもが学生だったんです。ちょうどいい物件が居抜きの状態で見つかりました。それと同時に、「こういう仕事がしたかったんだ」という人たちが周りにぱっと集まってきて、あっという間に「やめる」と言えないような状況ができあがって、そのまま立ち上げることになりました。

11年働く古株スタッフ

一緒に始めたメンバーは、私の知人というわけではなく、その後すぐに集まってきた人たちです。私がケアマネ時代にショートステイの相談員をやっていた人に声をかけて、「新しい事業をやるから来ない?」と誘いました。その人が今、一番長く働いてくれていて、もう11年ほどになります。

子どもと大人、二つの事業

学齢期と未就学児の施設

学校終わりに通ったり、学校がお休みの日に通ってきたりするのが、放課後等デイサービスです。もうひとつ、児童発達支援という0歳児から6歳までの未就学児を対象にした施設もあります。年齢が違う2つの種類の施設を、これまでずっと運営してきました。

就労支援を5月から開始

4月まではその2つの事業をおこなってきたのですが、5月からは大人の障害を持った方向けの就労支援の事業もあわせて始めました。高校3年生で卒業したあと、行く場所がなかなか見つからないという方が多くて、その居場所を作りたいという思いがあったんです。まずは就労支援の施設を作って、これからは大人向けの施設をもっと広げていきたいと思っています。

就労支援で向き合う難しさ

「仕事」を作る難しさ

就労支援の現場では、案件を取ってくること自体がなかなか難しいんです。たとえば、大きく印刷したチラシを2つに折るという仕事を作ったり、本当は1枚で済むところをわざわざ大きく印刷したりして、仕事を成立させています。それでも、コスト面で見ればなかなか発生しにくいのが正直なところです。

生活介護という、仕事をしないタイプのデイサービスもあるのですが、それとはちがう意味があると感じています。チラシを半分に折るという作業でも、「自分は仕事ができた」という満足感があって、ただのデイサービスではなく、自分は仕事をしてお金をいただいているんだという自信につながります。そこはないがしろにしたくないのですが、国の制度とはすこしずれていて、今のうちの課題だと感じています。

テレビで見た工場の話

実際に就職させてもらえるかというと、そこはやはり難しいところがあります。利益優先と言うと聞こえが悪いのですが、企業ももちろん赤字になってまで雇うという感覚はないので、そこがとても難しいと感じています。

去年の24時間テレビで見たのですが、7割が障害者の方という会社が紹介されていました。最初は5割だったのを7割に増やした経緯があるそうで、障害を持った方たちへの理解を深めるのは簡単ではなかったと思いますが、それでもうまくいっているようでした。やり方次第では、可能性はあるのかなと思っています。

事務作業はほぼ一人で

今の従業員数は、パートさんを入れてだいたい40人ほどです。ほとんどのスタッフが子どもたちのお世話をしながら、それぞれの事業所で事務仕事もこなしています。うちには事務員がいなくて、給料計算から年末調整、保険関係まで、事務仕事はすべて私がおこなっています。娘が1つの事業所の管理者をやっているのですが、その管理をしながら事務仕事も手伝ってくれています。

これからのビジョン

大人向けの施設を広げたい

障害を持つ子どもたちのなかで、家に帰ってくる子が減っているのを感じています。そのような背景もあり、就労支援という大人への移行を今始めているところです。子ども向けの施設はこれ以上増やす予定はなく、大人向けの施設をこれから増やしていきたいと考えています。

学生へのメッセージ

集まることの意味

うちでは新年会や忘年会を必ずおこなうようにしています。面倒くさい、集まりたくないという人が多いなかでも、そうした場を通じて仲良くなれたり、距離が縮まったりすることがあると伝えたいです。

できない理由を作らない

就職を考えている学生も多いと思うのですが、そういうときに「できない理由」を作らないでほしいと思います。できないのではなく、できるためにはどうしたらいいかを考えることです。仕事でも失敗はしてしまうものですが、失敗したことは仕方がないので、同じ失敗をしないためにどうしたらいいかを考えること。常に前向きでポジティブな思考でいくのがいいのではないかと思います。

学生の方には、アルバイトから始めて、そのまま就職した方も何人かいます。夏休みなどにアルバイトとして来てもらって、うちの会社を楽しんで見てほしいなと思っています。

編集後記

前田さんのお話を伺って、印象に残ったのは「できない理由を作らない」という言葉でした。放課後等デイサービスがまだ知られていなかった12年前に一歩を踏み出し、そのあとも就労支援という新しい挑戦を続けている姿勢に、迷いながらも前に進む強さを感じました。制度と現場のあいだにあるずれに向き合いながらも、子どもや大人ひとりひとりの「居場所」を大切にする視点は、私自身が将来なにかを始めるときにも参考にしたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。