インタビュー

制度設計者から、当事者として起業へ

株式会社Sincecore 代表取締役CEO 佐藤英吾
PROFILE
株式会社Sincecore 代表取締役CEO
佐藤英吾

株式会社Sincecore(シンスコア)で代表取締役CEOをしている佐藤英吾です。企業の高リスクな面談——たとえば内部通報を受けたあとのヒアリングなどを支援するSaaSを開発・提供しています。社名は「Sincerely at the core.」からの造語で、2026年5月に創業しました。

大企業の内側から、起業の仕組みをつくる

新規事業の現場から

2002年に新卒で社会人になりました。富士フイルム株式会社、大日本印刷株式会社で新規事業に関わったり、新規事業をつくるための社内の制度設計をする側に回ったりしてきました。その制度設計に関わる中で、大企業に所属しながら起業という選択をして、籍を置いた状態で自分の会社を経営できるという仕組みを導入しました。出向起業カーブアウトという制度です。

元々は、国がこの出向起業の仕組みを設計し推奨していて、趣旨は、会社を辞めなくても起業できるようにすれば起業家が増えるんじゃないかという考え方なんですね。そのスキームに準じた形で自社での制度を設計しました。最初は制度設計側だったのですが、徐々に起業してみたいという気持ちが強くなり、自分でもエントリーして採択され、会社をつくりました。そのため、現在もDNPに所属しながら、自分でつくった会社に在籍出向し100%コミットしているという状態です。

市場の評価を得た上での出向起業

この制度のポイントが、起業するためには、社内審査の通過に加え、ベンチャーキャピタルなど社外から資金調達するという点です。マーケットから一定の評価を受けていることが蓋然性の強い証明になるからです。実際にシードで資金調達しようと思うと半年くらいは時間がかかるので、非常にハードルが高い要件ではありますが、DNPとしては私の案件が2号案件です。

人の尊厳を守るSaaSをつくる

通報が来たらどう対応するか?

私たちが支援する内部通報というのは、企業に設置されている内部通報の窓口があって、直属の上司や人事部門に相談しにくいことを第三者的に受け付けて対応していく仕組みです。そのため、大きな問題が潜在している可能性を踏まえて調査をする必要があります。例えば、何を聞いたらいいかをしっかり設計しなきゃいけないですし、聞き漏らしもないようにしなきゃいけない。その面談って結構大変なんですよね。

そこで、私たちが提供するAI-SaaS「シンミライナビ」を使えば、ワンタッチで台本が生成されて、基本的にそれを読んでいけば必要最小限の情報が取れます。面談の内容は文字起こしされて、その場で議事録もできるので、お互いに「これで間違いないですか」と確認してその場を終えられます。言った言わないでもめるリスクもないですし、複数の人の面談を整理することも自動で行いますよ。こうしてSaaSを使って効率化を計りつつ、各企業が保有しているノウハウや経験をプロセスに落としこんでいくことを支援しています。慣れている人じゃなくても一定の水準でできるようにする、そういうことをやっていきます。

企業がリスクのある面談でリスクヘッジができて、そこに対して対価をいただきます。一方で、従業員の方もそういった仕組みにより尊厳を傷つけられることがなくなるので、会社を守ることにもなるし、結果的に従業員を守ることにもなる。10/13に、プロダクトをリリースして、本格的な営業を始めている段階です。

プログラミング初心者によるAI駆動開発

私は経済学部出身のプログラミング初心者ですが、Claude(クロード)を使ったAI駆動開発で、2週間でプロダクトの原型をつくりました。頭の中にやりたいことのイメージがあって、サービスのコンセプトも資料にまとめてあったので、それをClaudeに読み込ませてスプレッドシートで要件定義がパッと上がってくる。要件定義書をClaude Code(クロードコード)に投げると、データベースも含めてシステムが一通り構築できる。できたものを触りながら、「デザインはこうしてほしい」「こういう機能を追加したい」と自然言語で指示していくことで、ベースのものは2週間でつくりました。
もちろん、商用化するに当たっては、ハイレベルなエンジニアに構築と監修を依頼し、外部の脆弱性診断を受けるなど必要で、私がカバーしたのは開発工程のごく一部になりますが、創業者は、原体験をもっていたり事業解像度が高いので、非エンジニアでも動くものをつくれるというのは、これからの事業開発において大きなアドバンテージになると思います。

すべての組織の尊厳を守りたい

企業の外にも広げていく

現在は3人で会社を運営しています。最初は検証のフィードバックが大事になってくるんで、できるだけリアルでMTGを実施し生で聞く。難しければすべてのMTGを文字起こししているので、要約して記録を共有するということは徹底しています。お客様とのMTGでいただくフィードバックは私たちにとって大切な一次情報で、いわば宝の山です。

企業における高リスク面談を私たちが支援していくことで、前述の通り企業のリスクヘッジと合わせて、尊厳を傷つけられる人が減っていくだろうと思っています。そこから自治体や学校など、企業以外にも展開することで、さまざまな組織においてリスクを減らし、そこに関わる人の尊厳を守っていきたいと思っています。その取り組みを広げていくことで、世の中で人の尊厳が守られていくシーンを広げていくことに大きく貢献できればいいかなと思っています。

好きなら300年でも続けられる

学生さんへのメッセージとして、私はひとのメンタルに関心があり、とあるきっかけで認知科学コーチングを動画で学んだのですが、ゴールの設定の必要性と方法がすごく腑に落ちたんですね。もし仕事は楽しいほうがいいと思っているけど、自分のやりたいことと仕事がなかなかマッチしないという人がいたら、認知科学をちょっと調べてみてほしい。YouTube(ユーチューブ)にもわかりやすい動画がたくさんあるので、1本2本見てもらうとやりたいことが多分見つかると思います。

今の私の場合、自分が心からやりたいと思えることを「ゴール」として設定しているため、誤解を恐れずいうと毎日遊んでいるような感じで仕事をしています。そうなると、いつ成功するかはわからないけど、やり続けるんで、300年くらいあったら多分どこかで成功すると思います笑。つまり学生さんにお伝えしたいのは、やりたいっていう思いがあれば何とでもなると思っている、ということです。それはつまり、自分の人生を自分で選択する、ということだと考えています。

編集後記

早稲田大学の3年生で、自分も法人を経営しているので、「大企業に籍を置きながら起業する」という選択肢があること自体が新鮮でした。とくに印象的だったのは、経済学部出身でありながらAIを活用して2週間でプロダクトをつくり上げたというお話です。「300年ぐらい寿命があったら多分どっか成功する」という言葉には、好きなことに没頭できている人ならではの軽やかさを感じました。自分も学生起業をしている身として、やりたいことに向き合い続ける姿勢に背中を押されます。認知科学コーチングについても調べてみようと思います。