早稲田の図書館で過ごした学生時代
友人よりも本を選んだ日々
学生時代、そんなに立派な話ができるほどのものではないんですよね。私は早稲田大学の出身なんですけど、あの頃はとにかく図書館に入り浸っていました。興味のある本が無料で読めるので。お金がなかったんですよね。
本館だったり、学部の図書室だったり、いろいろな場所に足を運んでいました。ただ、友人があまりいなくて、それは今でも少し後悔しています。もっと友達を作っておけばよかったなとは思いますね。
私は社会科学部だったので、読んでいたのは社会学や、政治・経済に関するものが中心でした。あとはベンチャー企業を作った人の書物のようなものも、大学にちょこちょこ置かれていて、そういうものも読ませてもらっていました。その頃から企業経営に興味があったかと聞かれると、はっきりと意識していたわけではないですが、ぼんやりとはあったのかもしれません。
突然の代表交代、一日迷って決めた
前任者の退任という「苦悩」
今の会社、トヨクモクラウドコネクトは、トヨクモという会社の子会社になります。トヨクモだけではお客様の課題を解消しきれない部分があったので、役割の全く違う会社として立ち上げたのですが、設立時の代表は実は別の方でした。ただ、その方が事情があって割とすぐに退任されてしまって。せっかく作った会社を潰すのはもったいないですし、社会的な役割もあるだろうと思ったので、私が引き継いで今やらせてもらっているという経緯です。
私自身、トヨクモにも所属しているので、トヨクモ側の気持ちもある程度わかっているつもりでした。前任の代表がいなくなるときの苦悩や焦りのようなものも、そばで感じていて。そのタイミングで、トヨクモの代表から「やってみないか」と声をかけられたんです。正直、少し迷いました。責任が重大ですから。一日考えさせてほしいと伝えて、翌日には「やらせてもらいましょう」という話になったのを覚えています。
ノーコードの便利さの裏にある危うさ
トヨクモはSaaSメーカーで、クラウドサービスを提供していて、今では二万件以上の契約をいただいております。。ノーコードツールは自分たちで手軽に作れて便利な一方で、システム的な知見がない方が触ってしまうと、情報漏洩を起こしたり、大量アクセスへの備えがないまま多くの人に迷惑をかけてしまったりすることが起こりえます。これまではプログラマーがそうした知見も含めて開発していたので、そのようなことが起きる頻度はそこまで高くありませんでした。しかし、手軽に始められるようになったぶん、コロナ以降このようなケースがとても増えてきました。こうした課題を何とか解消できないかということで作ったのが、トヨクモクラウドコネクトです。
自治体でいえば、住民の方に何かシステムを案内するときに迷惑がかからないように、また問題が起きて記者会見をしなければならないような事態を防げるように。そういった思いで始めた会社になります。
一件一件の対話から生まれた一万社
想像だけでは誰にも刺さらない
今ではトヨクモが二万件以上のお客様と契約できるようになりましたが、初期のマーケティングは私一人でやっていた時期があります。一軒一軒営業して回るのはなかなか難しいので、必要なコンテンツを自分なりに作っていきました。お客様インタビューだったり、使い方のノウハウをブログや事例として書いたりして、そこから問い合わせをくださったお客様に一件一件お話を伺い、業務の解像度を上げながらコンテンツも拡充していく。その繰り返しでした。
お客様の身になって考えるといっても、どうしても限界があるんですよね。私たちはトラックドライバーでもなければ、現場で働く方でもない。営業側にいたので経理の業務もやっていません。そうなると想像で書くしかなくて、想像力や解像度が低ければ低いほど、誰にも刺さらない記事になってしまいます。だからこそ、この人はどうやっているんだろうと突き詰めて、その人にとって便利なコンテンツを用意する。それを抽象化したり、また具体化したりを行ったり来たりしながら作ってきました。
小さな会社の武器は「スピード」だけ
オーダーメイドという選択肢を捨てた
代表という責任ある立場に立って、大切にしている考え方があります。私たちは小さな会社なので、強みにできるものといったら、もうスピードくらいしかないんです。お客様を待たせない。トヨクモクラウドコネクトはメーカーとは違って構築を手がけますが、その構築も他社より抜きんでて早い状態を作らなければいけません。
だから、お客様の要望を百パーセント叶えるシステムではなく、「私たちがベストだと思うのはこれです、これなら一週間で作れます」という形でスピードを優先させています。個別具体的にオーダーメイドで作ってほしいというお客様には、対応できないとお伝えすることもあります。
価値そのものを試行錯誤する
トヨクモクラウドコネクトでは、どういう商品、言い換えればどういう価値をお客様に届けるのかというところから、かなり試行錯誤を繰り返しています。最初は保守や構築、プロによる検証など、いろいろな観点で自治体の方々にアプローチしていましたが、最近では先ほどお話ししたようなスピードの部分が評価されるようになってきました。
私たちは何回か失敗したら潰れてしまうような小さな規模の会社です。最初の仮説にいつまでも固執して、一年経ったけれど結果は振るわなかった、では困ります。お客様が認めてくださる価値はどこにあるのかを、少しずつずらしながらチャレンジしている。まだ途中です。より大きな価値を提供できるように志向しながら、常にこのサイクルを回し続けています。
公共事業という難所で見えたもの
予算年度の壁と、突然の「政治の意向」
公共事業への参入は、正直難しいものでした。公共の方々は一年単位で予算を考えるので、四月の時点で発注がなければ、また次の四月まで営業活動を続けないといけない。最初の頃はまさにそういう状態でした。
一方で、今扱っている給付金や補助金へ対応するシステムは、政治の意向が色濃く反映されて、年度の途中に急な対応を求められることがあります。自治体の方々も困ってしまって、誰がシステムをやるのか、誰が審査のオペレーションをやるのかと相談される。そこでお役に立てればということで、システムを提供しています。直接ご利用いただくお客様もいますし、コールセンターを立ち上げるようなBPOの会社さんが、システムは私たちのものを使い、オペレーターは自分たちで用意するという形で一緒に活動するケースも増えてきました。
紙からデータへ、自治体の負担を減らす
これまで紙だけで申請を受け付けていたお客様も多くいらっしゃいます。高齢の方々にとってスマートフォンの操作が難しいこともあり、紙をすぐにやめるという決断は自治体にとって簡単ではありません。ただ、スマートフォンに慣れている方がウェブから申し込んでくれれば、データとしてそのままデータベースに入ってくるので、処理がとても楽になります。紙で受け付けたものは、届いたデータを職員の方が手作業で転記しているんですよね。その転記の手間や文字の間違いがなくなる。これだけでも喜んでいただいている部分があると感じています。それを一週間から二週間という短納期で提供する。ここも評価いただいているところです。
学生へ贈る、幸せについての言葉
働くことがすべてではない
学生向けのメディアということなので、学生の皆さんに向けてお話しさせてください。私自身、そんなに誇れるような学生時代を送ったわけではないので、偉そうなことは言いにくいのですが。就職活動をする時は、どうしても会社の規模や知名度に意識が向いて、視野が狭くなりがちだと思います。でも、どこで働くか、何をするかというのは、その人の人生の一部でしかありません。仕事が大きなシェアを占める人もいれば、九時五時にきっちり帰りたいという人がいてもいい。
私自身は、若いうちはしゃかりきに働いた方がいいと思っています。寝る間を惜しんで働く経験は、年を取ってから効いてきます。スキルや経験、そして信頼というものは、後から獲得するのがとても難しいからです。特に信頼は、知識やスキルがAIにあっという間に追い抜かれていく時代でも、時間をかけないと得られないものだと思っています。
ただ、勘違いしてほしくないのは、仕事だけがあなたの幸せを構成するものではないということ。あなたがどんな人生を送りたいかは、他の人と違っても別に良いと思うんですよね。
幸せは自分で決めていい
就職活動に失敗したから、あの会社に入れなかったから幸せになれないと思っているのは、自分自身なんですよね。逆に言えば、どんな場所であっても、幸せだと思えればそれでいいと私は思っています。
幸せとは何かと聞かれると、これは本当に難しいです。お金がいくらあったら、何平米の家に住めたら幸せというものは、実はないと思うんです。自分で幸せだと思えたら、それが幸せ。ただ、一生幸せでいられる自信があるかというと、そこまではありません。だからこそ、日々幸せであり続けるための努力は必要だと思っています。経済的な基盤や社会的な信用を得続けるために働くこと、家庭の中で幸せな雰囲気を保つために家族を大事にすること、そして仕事に没頭していると減っていきがちな友人との時間を、意識してつくること。どれも当たり前のことかもしれませんが、常にケアしなければいけないものはいくつもあると考えています。
編集後記
今回のお話で印象的だったのは、田里さんの「幸せは自分で決めていい」という言葉です。私自身、まだ学生として、就職や将来のことを考えると視野が狭くなってしまう瞬間があります。だからこそ、しゃかりきに働くことと、幸せは他人が決めるものではないということを両立させる考え方に、はっとさせられました。小さな会社だからこそスピードを武器にするという経営判断も、限られたリソースの中で価値を出す工夫として、とても学びになりました。貴重なお話をありがとうございました。