インタビュー

紙からSNS、そしてAIへ ― 変わり続けることを選び続けた二十年

更新: 2026年7月28日
紙からSNS、そしてAIへ ― 変わり続けることを選び続けた二十年
PROFILE
株式会社ニューオーダー 代表取締役
青山 直樹

学生時代から電通へ

起業は漠然とした夢だった

大学は東京大学の経済学部でした。本当は卒業したらすぐに自分で起業したいという、ぼんやりとした思いもあったんですけれども、当時はまだ学生がインターンをできるような環境も少なかったため、具体的にビジネスに関わる経験といえばアルバイトくらいしかできませんでした。なので、卒業してすぐに起業するというアイデアも固まらず、まずは忙しそうな企業に就職して、その中で自分にできるビジネスを見つけようと考えたんです。

大学の単位は3年生で取り終えてしまったので、4年生の間にかなりの数の企業訪問をしました。銀行や証券、商社、外資系の金融、コンサルティングなども何社か受けたのですが、その中で一番働いている人が元気そうで楽しそうだったのが、大手広告代理店の電通でした。商社は扱う商材によって仕事の内容がまったく違う印象があったのですが、電通はメディアの仕事にしても、お客さまを担当する営業の仕事にしても、どれも楽しそうだと感じたんです。

電通十年で見えたタイミング

電通ではテレビ局の担当になり、TBS系列のローカル局や日本テレビを担当しました。もっと営業の仕事もしたいと思っているうちに、電通に在籍して10年が経ってしまって。さすがにこれ以上サラリーマンを続けていると起業のタイミングが遅くなってしまうと思い、33歳で電通を辞めて、すぐに会社を作りました。30歳を過ぎたころには、遅くとも起業したいと考えていたので、それを実行に移した形です。

ゴルフ雑誌からSNSへ

紙とSNSでメディアを作った

電通時代にテレビ局を担当していたこともあって、メディア経営はすごく面白そうだと二十代のうちからずっと感じていました。ただ地上波は免許制で、テレビ局を新しく作るのは難しく、当時増えていた衛星放送の局もベンチャーが始められるほどの資金はありませんでした。少ない元手でもできそうなのが雑誌とインターネットだったので、まずは雑誌に挑戦することにしたんです。

書店で売る雑誌は数が多くて埋もれてしまうので、当時ブームだった無料のフリーマガジンという形を選びました。リクルートが「R25」を出していたのに倣って、差別化のためにゴルフに特化したフリーマガジンにしようと。ターゲットは富裕層に設定して、名門ゴルフ場や高級な練習場など全国2,000か所ほどに無料配布しました。あわせて、当時日本で流行していたmixiのような、ゴルファー専用のSNSも自社で構築して、雑誌とSNSの両方でメディアとコミュニティを運営する会社を2004年に立ち上げました。

紙メディアの限界に気づいた

ゴルフメディアのモデルは10年ほど続きましたが、うまくいかなくなってしまって。インターネットが広まるにつれて紙のメディアは少しずつ衰退していきましたし、無料の雑誌なので収入は広告だけです。広告市場が紙からインターネットへと流れ始めたことで、フリーマガジンという事業モデル自体が立ち行かなくなってしまいました。雑誌事業は他社に事業譲渡して、ゴルファー専用のSNSも閉鎖しました。

ニューオーダーへの転換

社名に込めた新しい秩序

時代のニーズに合わせて事業モデルを変えないといけないと感じて、2013年に社名を「ニューオーダー」に変えました。ちょうどFacebookが流行り始めたころで、企業のFacebookページを代わりに運用するという事業に切り替えたんです。SNSがどんどん広まれば、マスメディアは少しずつ衰退して、すべての企業や個人がSNSで情報を発信できる時代がくる。情報発信の秩序がまったく変わるはずだと思い立って、新しい秩序という意味を込めて社名を変えました。

そこからSNSマーケティングやウェブ広告の運用を手がけるようになり、最近ではSNSの運用に生成AIを活用して、ひとりで複数アカウントを効率的に運用したり、AIを使ってSNSの効果を最大化したりする研修やコンサルティングの事業も始めています。

変わり続けることが原動力

環境の変化に敏感でいる

紙媒体は今でも書店に並んでいますが、数としてはだいぶ減ったと思います。世の中は時とともに、ビジネスも環境も大きく変わっていくものです。パソコンでインターネットを使う時代から携帯電話、いわゆるガラケーがネットにつながるようになり、その後スマートフォンになって、今ではスマホがパソコンの代わりのような機能を持つようになりました。通信環境やコミュニケーションの環境によって、ビジネスは大きく影響を受けて変わっていくんですよね。逆にいえば、変わらなければいけないということに、雑誌事業がうまくいかなくなった時点で気づきました。

なので常に時代の新しい流れを観察して、会社のビジネスモデルもそれに合わせて変える必要があると強く思っています。古い成功モデルに縛られず、時代の流れや環境の変化に合わせて変えていかなければいけない。AIが広まり始めたら、AIに合わせた仕事を始めなければいけないので、弊社の場合はSNSマーケティングにAIを活用する事業をどんどん作っています。

孫正義さんに学ぶ経営

時代や環境に合わせてビジネスを変える必要があるのは、どの会社にも言えることだと思います。こうした変化をうまくやっているのは、ソフトバンクの孫正義さんかなと思います。最初はソフトウェアの販売会社から始まって、その後携帯電話のキャリアになり、今はAIのビジョンファンドを手がけています。孫さんのように、時代の半歩先くらいのビジネスモデルを常に描いている人が、成功するのではないかと思います。

AIに代替できないもの

SNSに人格を宿す

SNSマーケティングの制作プロセスを、5つほどの段階に分けて考えています。まず企画を考える段階では、企業の担当者はなかなかネタに詰まってしまうので、ChatGPTやGemini、Claudeを使って新しい企画のアイデアを出す。次のステップではInstagram用のイラストを作ったり、キャプションの文章を書いたり、撮りためた写真からコンテンツを作らせたりします。SNSマーケティングの作業をいくつかの段階に分けて、それぞれに合わせた活用方法を研修で教えています。

ただ、AIを使うとどうしても企画が似てきてしまうんですよね。ChatGPTとGeminiで多少の違いはあっても、企画自体が標準化してしまう。だからこそ、そのSNSにどういう人格を持たせるかがとても大事です。企業がSNSを運営するなら、その企業の社風や社長の考え方、人格をアカウントに宿す必要がある。そこはAIには代替できない部分で、まだ人間が考える必要があると思っています。誰が書いても同じ内容になってしまったら、つまらないですから。

これから挑戦したいこと

SNS人材を育てていく

SNSの運用を手がける会社やフリーランスは多いのですが、担当者一人ひとりの才能や能力にはまだ個人差があり、平均するとそれほど高くないのが実情だと思います。担当している企業さまに満足していただけるコンテンツやパフォーマンスを提供するためにも、SNS人材の教育をこれからどんどんおこなっていきたいと考えています。AIを使うことで飛躍的にできることが増えたり、パフォーマンスを上げられたりすることを、SNSに関わりたい人たちに教育することで人材を育てていきたいです。そして、その人材をいろいろな会社に派遣したり、弊社で活躍してもらったりして、SNS人材をどんどん輩出していきたいですね。

学生へのメッセージ

興味があることを仕事にする

昔は上智大学の学生さんなどにインターンとして来てもらっていたのですが、学生さんの中には大企業や潰れない会社に就職したいという安定志向の方も多いと思います。一方で、ベンチャーに入って自分もスタートアップをやりたい、いろいろなベンチャーを転職してキャリアやスキルアップにつなげたいという人も増えているのではないでしょうか。

世の中は非常に早く激しく変わっていくので、会社や就職先を選ぶときも、時代も会社も常に変わっていくことを前提に選んだほうがよいと思います。たとえば今、AIに興味があるという学生さんなら、それを仕事にしたほうがよいのではないかと。AIは趣味で仕事は別、ではなくて、自分が一番やりたいことで、これから10年ほどどんどん伸びていきそうなマーケットを選んで就職したり、そのことについて勉強を重ねたりすることを、心がけるとよいのではないかと思います。

会社にも変化が求められる

ひとつの会社に長く勤めることも、もちろんよい考え方だと思います。ただ電通のような広告代理店にしても、三菱商事のような商社にしても、時代の流れに合わせて事業モデルを大きく変えているんですよね。三菱商事は木材や食品の売買だけでなく、伸びそうな業界に会社を作って育てるような、プロジェクトファイナンスに近いこともおこなっています。電通も、かつてはテレビや新聞の枠を売る営業が中心でしたが、今は広告の領域でもDXが避けられなくなっていて、DXのコンサルティングに近いビジネスをおこなうようになりました。

なので、大きな会社に長くいたいと考えている人でも、常に時代や環境の変化に敏感になって、新しい情報をどんどん摂取したほうがよいと思います。

ニューオーダーの強み

クリエイティブと分析の力

SNSの運用でいうと、クリエイティブの制作能力の高さがひとつの強みです。たとえば食品メーカーさまであれば、食品をおいしそうに、美しく撮ることができますし、動画についても社員が撮影から編集までおこなうので、スピーディーに納品できます。あわせて、SNS運用の結果を精緻に分析するレポーティング能力の高さも、もとからの強みです。そこに加えて、AIを活用して効率化と効果の最大化を図っていることが、3つ目の差別化のポイントだと思っています。AIへの取り組みはどの会社も始めていると思いますが、それをしっかり結果に出すことが大事だと思っています。

編集後記

今回、青山さんのお話を伺って印象に残ったのは、「変わり続けること」への強い意志です。紙媒体からSNS、そしてAIへと事業を転換されてきた背景には、時代の変化を恐れずに受け入れる姿勢があるのだと感じました。学生団体の運営やインターンをしていると、環境の変化に対応する難しさを痛感することがあります。青山さんの「AIに興味があるなら、それを仕事にしたほうがよい」という言葉は、進路に迷う学生にとって大きなヒントになるのではないでしょうか。貴重なお話をありがとうございました。