インタビュー

履歴書が、変わる。スキルとエビデンスで切り拓くAI時代の人材革命

履歴書が、変わる。スキルとエビデンスで切り拓くAI時代の人材革命
PROFILE
一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク 代表理事 理事長
岸田 徹

時代が作る人間、人間が作る時代

全学でストライキの時代

私が大学院にいたころ、日本中のほぼすべての大学がストライキ状態に入っていました。大学のあり方を根本から問い直すという時代で、私がいた経済大学院も例外ではありませんでした。

当時のわたしの大学院は、博士課程を修了した人の2人に1人が東大教授になり、残りの1人もどこかの大学の教授になっていくというルートが当たり前でした。ところが、無期限ストライキのなかで大学院生たちが一斉に「東大の教授にはならない」と宣言したんですよね。半分の人たちがそのまま大学を離れ、私もその一人でした。

eラーニングから、1億2000万人へ

大学を出たあとは自分でビジネスを立ち上げて、最初は出版関係から始め、今は教育・人材育成を中心にしています。2000年からeラーニングのサービスを開始して、これまでに私たちの講座を受講した人は1億2000万人になります。日本の人口にほぼ近い数字ですから、ほとんどの企業の方が一度は受講したことがある、と言っていいかもしれません。

 

履歴書は、もう古い

オープンバッジとは何か

そんな中で、今から6〜7年前に「オープンバッジ」という新しい時代を切り拓くものに注目して、サービスを始めました。何を学んだのか、どんなスキルを持っているのか、どんな経験をしてきたのか——それをブロックチェーンを使ってデジタル証明していく仕組みです。偽造はできません。

大学でいまマイクロクレデンシャルという考えが広がっていて、これはいくつかの単位を組み合わせてたとえば「私はデータ分析ができます」と大学側が証明していくもの。世界ではすでにオープンバッジが3億個ほど発行されていて、IBM は社内だけで500万個、社員30万人が1人当たり10数個は持っている計算になります。

履歴書の4つが全部変わる

今の履歴書って、4つの要素で成り立っているんですよね。紙であること、所属の証明であること、自己申告であること、そして読むのが人間であること。

でもいま、それが一気に変わってきています。紙ではなくデジタル。所属証明ではなく「何を学んだか・どんなスキルか」。自己申告ではなく、発行者のエビデンスがついている。そして読むのは人ではなく AI です。

海外ではすでに採用にオープンバッジをフル活用する動きが広がっていて、企業側が AI を使って世界中から候補者を見つけていく時代になっています。オープンバッジの中にはメタデータとして「どのくらい学習したか」「どんなスキルを身につけたか」が詳細に記載されていて、AI がそれを読んでいるんです。

 

日本とアジアを、変える

国立大学の55%以上が導入

日本でも、私たちの財団を利用している国立大学はすでに55%以上。大規模大学でも半分以上が活用していて、170ほどの大学で発行が始まっています。大学など100の団体が連名で企業に対して「採用にあたってはオープンバッジをしっかり見てください」という申し入れ書も出しました。

中央大学は今年から1年生全員にオープンバッジとそのウォレットを持たせる取り組みを始めています。入学の時点から意識するのとしないのでは、やっぱり違いますよね。

人材戦略の核心

伊藤先生の「伊藤レポート」では、企業経営と人材戦略が一体でなければならないと示されています。新しい事業モデルに必要なスキルセットを明確にして、今いる社員のスキルセットを明確にして、そのギャップを埋めていくのが人材戦略だと。そのためにはスキルの見える化が必要で、オープンバッジを活用することで企業は初めて人材戦略を実行できる、ということになります。

アジアのインフラへ

世界の経済力はすでに半分以上がアジアになっています。そのアジアにおける人材交流・人材活用のプラットフォームを私たちが提供していきたい。いまはオンリーワンの状態ですが、オープンバッジのようなサービスは数が増えれば増えるほど価値が高まります。100個しかないときは誰も使い方がわからない。でも1000万個あれば、もう誰もが使っている世界になる。

韓国ではすでに大学の7割以上が私たちのプラットフォームでオープンバッジを発行しています。私が呼びかけて始めた「AESグローバルコンソーシアム(※要確認)」はアジア8か国に組織があり、あわせて約1400のエドテック企業からなる国際組織になっています。数年後には、オープンバッジを中心にアジア全域でオンリーワンの人材活用プラットフォームを作っていきたいと思っています。

AI時代の「学び」を、問い直す

「勉強」という言葉はなくなる

本当はね、大学4年間ぐらい遊んで視野を広げてと言いたいんですが、さすがにこれだけ激しい時代なので、やっぱり学ばなきゃいけない。ただ「勉強」という言葉はたぶんなくなっていきます。学びは残るし価値を持つ。でも、ハチマキをして夜遅くまで机に向かって必死でやる、あのスタイルの勉強はなくなっていくんですよね。

AI 時代の学びは、単なる知識の習得ではなく、実行する力、さらには実現する力を身につけていくことでもあります。たとえば語学なんて、学校で教えるというやり方は根本的に間違っている部分もある。私たちが3年かかって習得した語学力を、これからの子どもたちは数か月で身につけてくるかもしれません。

知識革命に立ち向かう

人類はいくつかの知識革命を経験してきました。自然現象を神様だと思っていた時代から、原因があってすべて説明できると知った時代へ。印刷が生まれ、インターネットが出てきた。そして今、AI 時代に私たちはまた知識革命に立ち向かわなければいけない。

「AI にできないことは何か」という発想ではなく、人類の知的資産——書籍や新聞をしっかり読んで、物事の意味を捉えて、明確な目的と判断基準を持つ。産業革命以上の大きな変化が今出てきていて、時間の概念も、人が集まる場所の概念も、根本から変わっていく。知能とは予測能力だという定義が一般化してきているいま、大学生の皆さんには自分の全知全能をかけて自分の生き方を予測し、作り出してほしいと思っています。

不安はあると思います。でも、真正面から立ち向かうということが大事なのかな、と。未来社会を作るのは今の学生たちです。自分たちが見たい未来、社会を作る主体なんですから——どんな仕事を選択し、どんな生き方をしていくのか、ワクワクしながら考えてほしいですね。

 

編集後記

今回お話を伺って、「オープンバッジ」が単なる資格証明のデジタル化ではないことを実感しました。AI が採用の判断材料としてスキルのメタデータを読む時代が、すでに始まっているという事実は正直驚きでした。自分の大学でも導入が進んでいると知り、まだ活用できていなかったことを少し悔しく思っています。岸田さんが学生時代に大学のあり方を問い続けた世代であるからこそ、「学びとは何か」という問いへの言葉に重みがありました。「勉強という言葉はなくなる」という一言が特に刺さっています。主体的に学び、スキルをエビデンスで積み上げていくことが、これからの就職活動や社会での活躍に直結する——そんな時代にいることを、改めて意識させていただきました。