インタビュー

富山の後継ぎ社長が、就活ラジオを立ち上げるまで

富山の後継ぎ社長が、就活ラジオを立ち上げるまで
PROFILE
株式会社就活ラジオ 代表取締役社長
碓井 一平

学生時代

バスケ一色の学生時代

生まれは富山県で、育ちも富山です。小中高、とくに中学生からはバスケットボールに夢中で、部活のバスケを中高でずっと一生懸命やっていました。学生時代のほとんどは、その部活に費やしていたと思います。

家業を継ぐための進学

高校まではむしろバスケで生きていたようなものだったのですが、私は3代目として家業を継ぐことになっていました。だからこそ、しっかり後を継ぐための勉強をしなければいけないと思い、富山県立大学に進学しています。大学に行った理由も、そもそも勉強するためだったので、大学時代は割と一生懸命勉強しましたね。人生でいちばん勉強したのは間違いなく大学時代だと思います。アルバイトもせず、実家から通いながら、勉強に時間を使っていました。

家業と経営者としての歩み

現場からのスタート

大学を卒業してすぐ、家業である測量設計の会社に就職しました。1年生なので、まずは現場から入ります。最初は本当に雑用で、車の運転や準備、片づけなどをやりながら、少しずつ測量の仕事を任せてもらえるようになり、現場で技術を磨いていきました。そして23歳のとき、会社のグループにあったもう1社の代表になることになり、そこで初めて見よう見まねで経営者という立場を経験しています。25歳ごろにまた本社に戻って現場を積み、27歳のときに3代目を引き継ぎました。

感想文が教えてくれたこと

3代目を引き継いでから3年ほど経ったころ、地元の富山県立大学の先生から、キャリア教育の一環として学生に話をしてほしいという依頼をいただきました。地元の経営者という立場で90分ほど学生に話をしたのですが、その後に学生から届いた感想文の内容が、社会に対する不安や不満、いわゆる悲観的なものばかりだったんです。大学という教育機関の4年間だけでは払拭できない社会への不安を、彼らは自分たちだけでは乗り越えられない。そのことに気づいたとき、急に課題感が芽生えました。大学だけでこの状況を変えるのは難しい、それなら自分にもできることがあるかもしれない、やらなければいけないと思い、会社を辞めて独立することを決めています。

妻のひとことが後押しに

家業を辞めるときは、もちろん周りから反対もありましたし、みんな驚いていました。「じゃあ何をするの」という声もたくさんありました。ただ、私としては3年間で自分がやらなければと思っていた会社の課題は、それなりに解決できたと感じていたタイミングでもありました。当時すでに結婚していて子どももいたので、もし妻が反対していたら悩んだかもしれません。でも唯一、妻だけは反対するようなネガティブな声は一つもなく、「辞めるんだ、じゃあ次は何するの」という、それだけだったんです。だからこそ、逆に言えば唯一気にしていた妻の意見が前向きだったので、あとは誰に何を言われてもそれほど気にすることなく、押し切ることができました。

創業とピボットの日々

必要に迫られた4社設立

いま経営しているのは就活ラジオ1本ですが、これまでに4社を立ち上げてきました。とはいえ、最初から複数の会社を作ろうと考えていたわけではなく、必要に迫られてその都度会社を作ってきたという感覚です。ある事業を今の会社でやるのは違うなと感じたときに、最適な箱を新たに作る、という形を繰り返してきました。だからそれぞれ事業領域も違いますし、目指すビジョンと呼べるようなものがない会社もあります。1社目に作った「ラボレ」は、そもそも会社を辞めるきっかけになった学生たちに対して何かをしたいという思いで立ち上げた会社です。その後、必要に迫られて2社を作り、いまの就活ラジオは、ラボレでやるには目指す世界が少し違うということで立ち上げています。

「どうせやらない」の一言

一番苦しかったのは、ある企業から「今回のサービスも結局やらないんでしょ」と言われたことです。私たちはスタートアップとして立ち上がってから、何度もピボットを繰り返してきました。いろいろなプロダクトを作っては検証して、うまくいかなければ潰す。その都度、いろいろな企業に使ってもらいながらフィードバックをもらい、目をかけてもらってきました。でも、その過程で途中で断念せざるを得なかったことも何度もありました。いま私たちがメインでやっている「Talentee」というサービスを、3年、4年かけてようやくここまで来て、ある企業にお話ししたときに言われたのが、あの一言でした。言い返すことができませんでしたし、グウの音も出ないほどつらかったです。それに加えて、埋まらない予定と見えない出口をずっと抱えながら走っていました。忙しいのにその忙しさが空回りなだけで、明確なスケジュールが見えてこない、カレンダーにぽっかり空いた日がたくさんある。その出口の見えなさが、いちばんきつかったですね。

少しずつ照準が合ってきた

正直にいうと、まだ何かが爆発したわけではなく、先行が半歩進んだくらいの感覚です。ただ、明確な境目もありません。最初に作ったプロダクトから、やっていることも、やりたいことも、ずっと一緒なんです。ただ、その手段だけがいろいろ変わってきました。音声メディアでやってみたり、プログラムをやってみたり、イベントをやってみたり、場所を富山にしてみたり東京にしてみたり。目指しているものは変わらないまま、少しずつ形が変化してきて、いまのAIとマッチングアプリという構造にたどり着きました。この3年間、さまざまなことをやってくるなかで、就職活動において大事にすべきポイントが少しずつ見えてきた結果です。急に大きな変化があったというより、少しずつ照準が合い、反応がよくなってきた、という感覚に近いですね。

「働くその先に喜びを」というビジョン

就活のための就活への違和感

私たちのタグライン、存在意義といえるものが「働くその先に喜びを」です。この言葉の通り、働いたその先に喜びが来るかどうかをすごく重要視しています。就職活動を見ていると、就職活動のための就職活動、就職活動のための学生時代に力を入れたこと、就職活動のための自己PRになっている場面が多く、それがあまり意味を持たないと感じ始めた時期がありました。うちにインターンとして来ていた学生たちを見ていても、行きたいと思っていた会社に入ったのに辞めてしまうケースが相次いでいたんです。世の中的にも「入社後に思っていたのと違った」という理由で辞める人が多い。その「思っていたのと違う」の正体は、就職活動のときに軸にしていたものが、実際に働くうえではそれほど重要ではなかった、それ以上に大切なものがあった、ということなのだと思います。

働くその先の喜びを軸に

つまり就職活動で大事にすべきなのは、どこの内定を取るか、何社から内定をもらうかではなく、その会社で働くことによってその先に喜びや幸せを感じられるかどうかです。私たちはそれを声にし、プロダクトに落とし込みました。それが、いまの「AI Talentee」というサービスです。どんな機能をつけるべきか、開発の中で検討するときも、常に「それは働くその先の喜びにつながるのか」「むしろそれがあることで喜びから遠ざかってしまうのではないか」を軸に考えています。AIを使ったマッチングアプリという見た目だけを切り取れば、いまどきのポップなサービスに見えるかもしれませんが、働くその先の喜びにつながらないものは、やらないと決めています。

学生へのメッセージ

可能性を広げる学生時代

私自身はレールに乗って大学に行き、後を継ぐために勉強していたので、就職活動そのものはやらずに決まっていました。仕事をするための準備は人生の財産になっていますが、自分の選択肢を広げたかというと、そうではなかったと感じています。だからこそ学生には、自分の選択肢を広げるような活動を、学生のうちにやってほしいと思っています。学生のうちがいちばんコストパフォーマンスがいいはずです。社会人になってから可能性を広げる活動は、休みの日に限られてしまいますし、いきなり留学することも、日本を自転車で縦断することも、ヒッチハイクでどこかへ行くことも難しくなります。でも学生のうちなら、それが許されます。海外に行く、知らない土地に1ヶ月でも住んでみる。そういう自分の可能性を広げる活動は、どんな人にもやってほしいと思っていますし、自分の子どもたちにも絶対にさせたいと思っています。

センスは移動距離に比例する

学生には「センスのいい大人」を目指したほうがいいとよく話しています。センスがいい人のほうが、仕事もプライベートも恋愛もうまくいきますし、いろいろな意味で評価されると思うからです。では、どうすればセンスが磨けるのか。私が聞いた言葉のなかで、いちばん腑に落ちているのが「センスは移動距離に比例する」というものです。文字通り、移動した距離がセンスになります。富山県内をいくら往復しても、それはそれでいい面もありますが、富山を離れて、富山ではない場所にどんどん行く。そこにセンスが磨かれる要素がたくさんあります。たとえば、東京というセンスのいい街に4年間ずっといるより、その4年間でいろいろな場所を歩いたほうがセンスは磨かれます。センスのいい人と悪い人の違いは、突きつめると「その人と関わりたいと思うかどうか」だと思います。センスのある人は、発言や行動に狙っている感じやいやらしさがなく、それでいて個性があふれています。逆にセンスのない人は、たとえば同じ柄物のシャツを着ても、ダサく見えてしまう。立ち回りや所作、言動、そのすべてがセットになっているんです。

何者でもなかった強み

私たちの最大の魅力は、私たち自身が「何者でもなかった」ことだと思っています。メンバーの中に人材業界出身の人間がいないんです。私自身も就職活動をしたことがありませんし、ナンバー2のメンバーもほとんど就職活動を経験していません。だからこそ、業界のセオリーや「就職活動とはこういうものだ」という固定観念がなく、学生にとって本当に必要なものは何かという解像度の高い視点を持てていると思います。歴史の長い日本の就職活動、新卒一括採用や終身雇用というこの文化に対して、私たちはイノベーションを起こせる存在なのではないかと思っていますし、そこが自分たちのおもしろさだと感じています。

納得感のある決断を

学生の皆さんには、自ら可能性を閉じるようなことは絶対にしてほしくないと思っています。それよりも、自分の可能性を広げるための活動をしてほしいんです。それはどこかの会社に入るための学生時代の頑張りではなく、あくまでも自分の可能性を広げるための活動や行動、言動であってほしいと思っています。その結果として、自分が納得できる就職先を見つけてほしいですし、誰かに勧められたからとか、大手企業から声がかかったからではなく、自分の中で納得感が得られる決断をしてほしいと願っています。

編集後記

正直、話を聞くまでは「就活支援サービス」という言葉だけで完結させてしまいそうになっていました。でも碓井さんが繰り返していた「働くその先に喜びがあるか」という視点は、私自身が就職活動の軸を考えるうえでも、まったく整理できていなかった部分だと痛感しました。とくに「センスは移動距離に比例する」という話は、大学生活の残り時間をどう使うかを考え直すきっかけになりました。就活のための就活ではなく、自分の可能性を広げる行動を、まずは移動距離から増やしてみようと思います。貴重なお話をありがとうございました。