インタビュー

「地方創生」ではなく「旭川」だった。回り道の先に見つけた、私の本当のビジョン

「地方創生」ではなく「旭川」だった。回り道の先に見つけた、私の本当のビジョン
PROFILE
いろえんぴつ株式会社 代表取締役
大田原裕希

現地に飛び込むことを大切にした学生時代

地域創生を学ぶために上京した

大学から東京に出てきて、4年間はずっと東京で過ごしていました。もともと自分の地元である北海道旭川市を盛り上げたいという思いがあって、それで上京してきています。入った学部も地域創生や地方創生的なことが学べる学部で、大学の4年間は本当に、地方創生のことを学ぶために過ごしていました。

私自身、最初から起業したかったわけではありません。まずやっていたのは、ボランティアとインターンでした。

現地に足を運ぶことを大切にした

一つは、東京大学の近くにある「b-lab」という、中高生向けの施設で3か月間ボランティアをさせてもらったことです。そこで、実際に東京の子どもたちがどういう教育を受けているのかを、ボランティアとして3か月間見せてもらいました。

もう一つは、北海道の観光市場や働く環境がどうなっているのかを勉強したくて、たまたまタイミングも合い、ニセコで1か月間、泊まり込みで働きながらインターンをさせてもらったことです。そこでは地元の留寿都町役場の町長さんとも話をしながら、どうやって地方を盛り上げていくか、観光資源をどう使うかを学ばせてもらいました。

その後、授業の一環で行ったのが、茨城にある御岩(おいわ)神社という神社です。神社好きの人には有名なのですが、その少し奥にある町村まで観光客に足を伸ばしてもらいたくても、なかなかそこを通り過ぎて次の滝に行ってしまう、という課題がありました。そこでどうやったら人が集まってくれるかを、実際に研修という形で考えてきました。

4年間まるまる、地方創生のことを学ぶためにいろいろな地域に行ったり、実際に現地で働いたりしていた学生時代でした。

「社長に会えそうな仕事」を選んだ就職活動

決裁権を持つ社長に会うために法人営業を選んだ

大学生活を送るなかで、自分個人が地方や地元に何か貢献できるかと考えたとき、「今のままでは、できない」という結論に至りました。だとすれば、次にやるべきは自分の人脈を増やし、いろいろな人と知り合って旭川に来てもらうことだと思い、そのためには社長に会えばいいんだ、と考えました。それで法人営業をやろうと思い、1社目の会社に入っています。

最初の面接の時点から、北海道で一度働きたいですと伝えていました。ちょうど私が面接を受けたタイミングが、札幌支社を立ち上げるかどうかという話が出ていた時期の会社だったので、入社したら札幌の立ち上げに行きたいですと伝えたうえで、入社しています。

実際には地方創生に関わる仕事は1社目ではできませんでしたが、札幌に戻って北海道という市場で働く経験はさせてもらいました。決裁権を持つ社長に会えそうな仕事という基準で、大学生なりに選んだ1社目でした。

倒産をきっかけに気づいた、本当にやりたいこと

1社目の会社が倒産した

札幌という土地で働きながら北海道の市場を実感していくなかで、1社目の会社が倒産し、辞めざるを得なくなりました。そこから副業でWebデザインをやりながら、その後はサイクリングのイベント会社に1年ほど勤めています。

そうしているうちに、1社目のオーナーから「もう一度一緒に会社をらないか?」と声をかけてくれました。それならもう一度やろうと思い立ち上げ直したのが前職です。そのオーナーの会社を親会社として、出資してもらうかたちで立ち上げた子会社の代表を任せてもらいました。登記上、これが自分にとって最初の起業になります。

「地方創生」ではなく「旭川」だったと気づいた

きっかけは、やはりオーナーと一緒に始めた前職での経験です。自分が本当にやりたいのは北海道全体、ましてや地方創生一般ではなく、旭川という自分の地元のためだけに貢献したいことだったんだと、前職をやっていて気づきました。北海道以外の地域がどうなろうと、自分の人生には関係がない。そこまで極端に思ってしまうくらい、地元への愛着があったからこそ「旭川のために貢献したい」と思っていただけなのだと、前職の時に気づいたんです。

だからこそ自分でちゃんと会社を立ち上げて、自分が本当にやりたいと思えることのために頑張りたいと思いました。辞めるまでには半年ほどかかりましたが、オーナーといろいろな話をして社内の調整もすべて終えたうえで、退職することにしました。地方創生がしたかったのではなく、自分の地元を盛り上げたかっただけだと気づけたことが、独立の一番の理由です。

いいところも悪いところも見てきたからこそ

旭川という土地には、良くも悪くも、とんでもない事件が起きたり悪い部分が目立ったりすることもあります。それでも私は18年間暮らしてきて、いい街だと思っていました。もちろんいじめもあったので、いいところも悪いところも両方見てきたからこそ、この街はまだよくできる、まだまだ発展できる、と感じてきました。すべてが良い街だとは思っていませんし、悪い部分もわかっているからこそ、それも含めてこの街をよくしたいという思いです。

「いろえんぴつ株式会社」が手がける三つの事業

社長の想いを言語化する広報代行

会社としてまずやっているのが、社長直下の言語化支援という広報の代行です。社長がやりたいことや発信したいことを、外の人に伝わるように発信していく仕事になります。

企業誘致につなげるインタビューメディア「カラキャン」

もう一つが、インタビューメディア「カラキャン」の運営です。前職の時から取材を続けているなかで、企業さんや社長さんの良さというのは、当たり前になりすぎてサラッとと流されてしまっていることがとても多いと感じていました。それを一番発信しなければいけないし、学生さんやこれから入ってくる人が一番知りたいことだろうと思い、インタビューや言語化の支援を通して、皆さんの良さを本当に必要な人に届けたいと考えています。

このメディアでは、できるだけ道外の企業さんに取材をさせてもらっています。理由は、地方の税収の話をすると、結局は売り上げのある企業がどれだけ来てくれるかが大きいからです。企業誘致という選択肢を増やすことで、東京や大阪の企業さんが旭川に支社を出してくれれば、地元にいる学生さんが都心基準の企業に入社しながら、地元にも住み続けられる選択肢が増えます。地方創生をやっていくうえで、企業誘致は外せないと考え、インタビューのなかで旭川がどんな街かという紹介もあわせてさせてもらっています。

地元の人材を底上げするリスキリング事業

三つ目が、旭川市から委託を受けているリスキリング事業です。広報やインタビューで受けたお仕事のバナー制作やSNS運用を、受講生の方に一緒にお仕事をしてもらっています。企業さんに旭川に来てもらっても、ITスキルが低すぎると仕事を任せられず採用につながらない、という課題も出てきます。人材がいることをきちんとPRしていきたい思いもあり、内側では教育事業を、外側では皆さんの情報発信の手伝いをする、すべてつながった事業として取り組んでいます。

目標は、全社インタビューと地元学生の新卒採用

メディア掲載社数を増やし、企業誘致につなげる

まずは弊社が運営するインタビューメディア「カラキャン」の掲載で、社長インタビューのみを1,000社達成することが1つの目標です。全社(全て)で行うことが一つの目標です。1,000社にインタビューできれば、そのうち3社くらいは旭川に来てくれるだろう!という見込みで動いています。

地方創生を学べる学部ができたことが追い風に

もう一つは、3年後くらいには地元の学生さんを新卒採用したいという目標です。現在は東京に住みながら会社は北海道に登記して、2拠点でほぼ生活していて、まだ2期目になります。地元の大学に、今年の4月から実際に地方創生のことが学べる学部ができたこともあり、その学生さんが卒業するタイミングで一緒に旭川を盛り上げてくれる仲間が増えたら嬉しいと思っています。20代、これから働き盛りになる世代の人たちに、自分の地元が良いと知ってもらい、一緒にPRをして行けたら嬉しいです。

学生に伝えたいこと

お金のことは一旦置いて、やりたいことをやる

アドバイスとしては二つあります。一つは、自分がやりたいと思ったことを、お金のことは一旦後回しにして、とにかく書き出してみて、やれることからやってみることです。私自身、勉強はあまりできなかったので、勉強以外のところでカバーしようとしてきた人生でした。勉強はできたほうがいいとは思いますが、できなくても意外と何とかなりますし、奨学金なども含めてお金の面でも、意外といろいろな選択肢が今の世の中にはあります。だからこそ、自分のやりたいことをぜひやってもらいたいと思っています。

いろんな社長に話を聞きに行ってほしい

もう一つは、私が独立して起業できた理由の一つでもありますが、いろいろな社長にインタビューをしたり、話を聞く機会をとにかく増やしてほしいということです。前職の時、子会社の代表とはいえ会社員であることには変わりなく、自分のやりたいことはあるのにどうしたらいいのだろうと悶々としていました。そのなかで150社ほどの社長にインタビューをさせてもらい、自分のやりたいことについてどう思いますか、とひたすら聞いていたんです。その結果、なぜその会社にいるの?、自分でやりたいと思っているなら絶対にやったほうがいいよ、とたくさんの方に言っていただきました。

起業したい人はしたらいいし、起業する気がない人はそれでもいい。ただ、自分の身の回りに全くいないタイプの大人にいろいろな話を聞いてみると、自分のやりたいことが言語化されていきますし、口に出したことは意外と叶いやすいものです。ぜひいろいろな社長に話を聞いてみてほしいと思います。

編集後記

学生時代からずっと、地元・旭川への思いを軸に一直線に進んできた大田原さんのお話でした。地方創生という大きな枠組みではなく、自分の地元という具体的な対象に絞ったからこそ、事業のすべてがつながっていくのだと感じました。学生時代からいろいろな社長に話を聞くことをすすめてくださったのも、とても印象的でした。自分自身も学生起業に携わる立場として、現場に足を運び、いろいろな大人に話を聞く姿勢を大切にしていきたいと思います。