インタビュー

思いも寄らない方向からボールが飛んでくる。だから一人の意見には頼らない

思いも寄らない方向からボールが飛んでくる。だから一人の意見には頼らない
PROFILE
柚木良孔 代表
株式会社セールスリーチ兼ジジックス

輸入販売事業からのスタート

バイク輸入がきっかけだった

もともと私は何か明確にしたいことはありませんでした。バイクが好きだったので、バイクに関わる仕事に就きたいと思い専門学校に入ったのですが、実際に進んでみると、趣味として好きなことと仕事として毎日向き合うことはまったく別物だと感じ、半年で辞めてしまったんですよね。

その後はドコモショップや家電量販店で携帯電話の販売をおこなう仕事をしていました。輸入販売事業を始めたのは、もともと自分が輸入車に乗っていて、海外からパーツを仕入れていたことがきっかけです。確認不足で自分のバイクには使えないパーツを買ってしまい、仕方なく国内の販売サイトに出品したところ、思いのほか多くのオファーが届きました。同じように輸入車に乗っているものの、国内では手に入らないニッチなパーツを探している人がたくさんいることに気づいたんです。関税の手続きや配送トラブル、商品がきちんと届くかどうかの不安を抱えている方も多く、そこに問題解決の余地があると感じ、小さく小さく事業をスタートしました。

初年度で年商六千万円

輸入販売事業を始めたのは二十四歳、2017年のことです。ミニマムにやっているつもりでも、輸入にはさまざまなコストがかかるぶん単価が上がってしまい、初年度から年商は六千万円を超えていました。非常に順調なスタートだったと自分では思っています。ただ、現在この事業はほとんどおこなっておらず、自宅にある在庫を少しずつ販売している状態です。倉庫もどんどん縮小していて、今はもう自宅に収まるぶんと、収まりきらない分を倉庫二つほどで管理しています。

事業を広げてきた道のり

物販からメディアへ転換

物販はスケールするたびにコストがかさみ、在庫のリスクも大きい事業です。そこで年商一億円以内に抑えることを決め、それ以降は在庫のかからないメディア制作に力を入れるようになりました。SEOまわりを研究しながら知見を積み上げ、企業のオウンドメディアを作る事業に取り組んでいたのですが、こちらはすでに事業を譲渡しており、現在は自社でおこなうSEOのみを続けています。

SEOで実績を積んだ

ITやウェブ系の仕事の経験があったわけではなく、本当にやりながら学んできました。勉強熱心なほうで、トライアンドエラーの数もかなり多かったと思います。作ってきたサイトの数は数百にのぼり、その中で単体キーワードで検索一位を取れるようなサイトも出てきて、そこから多くの仕事の依頼をいただくようになりました。実績をもとにしたインバウンドで仕事が広がり、SEO関係の仲間も増え、一緒に案件を回してもらったり、共同で取り組んだりする機会も増えていきました。ただ、AIの登場によって検索する母数自体が減っていくと考えているので、今後もSEOに依存する経営はしないようにしたいと思っています。

SaaSとスペース事業、今の三本柱

現在メインでおこなっているのは大きく三つです。一つ目はSaaS(サース)です。インターネット経由で提供するウェブツールの開発から運営までをおこなっており、企業や個人事業主の売上・集客に貢献するサービスをサブスクリプションの形で展開しています。二つ目はメディア制作・運営です。三つ目は毛色が異なりますが、不動産の賃貸業とレンタルスペース事業です。マンションや一軒家などを借りるなり買うなりして、時間単位で貸し出しています。学生さんのたこ焼きパーティーや推し活、主婦の方のママ会や誕生日会など、利用のされ方はさまざまです。

事業内容に共通点がないように見えるかもしれませんが、根底にあるのはユーザーが困っていることや不便に感じていることを見つけ、それを解決する仕組みを作るという点です。弊社は小さい企業なので、そうしたニッチなニーズに向き合いやすいと思っています。関わるステークホルダーをなるべく小さく保つようにしているので、途中で横槍が入って断念せざるを得ないということもほとんどなく、最後まで丁寧にやり通すことができています。

個人と法人を使い分ける理由

相続と節税、二つの視点

不動産のような資産は個人で所有しています。単純に自分自身にお金を残したいという考えもありますが、相続の視点も大きいですね。夫婦間での譲渡であれば、税金がかからない範囲が数千万円にのぼるためです。法人名義にすることもできますが、その場合は法人を解散できなくなる問題も出てきてしまいます。事業を売却する場合も、法人であれば株式譲渡で二十パーセントの税金で済むところ、個人で売ると四十五パーセントまで取られてしまいます。その差は金額が大きくなるほど無視できないものになるので、節税を軸に個人と法人をうまく使い分けています。

新しい業界に挑むたびに壁がある

「思いも寄らない方向からボールが飛んでくる」

つながりのない事業に参入することが多いぶん、新しい業界に入るたびに知識や経験をゼロから積み上げる必要があり、これは今でも毎回大変に感じています。市場や競合の調査、顧客のニーズ、利益の仕組みだけでなく、法律まわりや地域・業界ならではの慣習など、思ってもいないところから問題が出てくるんですよね。私はこれを「思いも寄らない方向からボールが飛んでくる」と呼んでいます。

レンタルスペース事業を例にすると、なるべく手間がかからないよう自主清掃という形で運営していますが、設備が壊されたり、警察沙汰になるようなトラブルが起きたりすることもあります。誰か一人の注意力に頼るのではなく、チェック項目を作ったり、ユーザーへの手順を明文化したり、契約内容を見直したりしながら、都度対応して問題を解決するようにしています。

一人の意見に頼らない

新しい分野に追いつくために大事にしている考え方は、なるべく一人からは教わらないということです。書籍でも人からの話でも、三つほど情報を取り入れると、共通している部分と、人によって答えが異なる部分が見えてきます。共通している部分はおそらく正解ですが、答えが分かれる部分こそトラブルが起きやすいところです。レンタルスペース事業で言えば、夜間トラブルが多いから夜間営業はしないほうがいいという意見もあれば、夜間利用は朝まで滞在してもらえるぶん売上が上がるので積極的に取るべきという意見もあります。どちらも正しいと思いますが、大事なのはそこにどこまで自分たちが対応できるかという点です。だからこそ、たくさんの書籍や、その業界の先輩たちの話を幅広く聞くようにしています。

これから目指す姿

手離れの良い仕組みへ

やりたいことが明確に一つあるわけではありませんが、事業を通じて売上が発生するということは、誰かの役に立ち、価値を提供できているということだと考えています。今後も誰かの課題を解決したり、面倒な作業を楽にしたりしながら、人の役に立てていることを実感できるビジネスを展開していきたいと思っています。

弊社は少人数で複数の事業を運営しており、私だけでなく妻にも手伝ってもらっています。何も考えずに事業を増やしていくと一人ひとりの負担が大きくなり、全員が疲弊してしまう経験も過去にありました。だからこそ、これからは作業量に売上が比例するビジネスだけでなく、運営の手離れが良く、仕組みとして継続できるビジネスを増やしていきたいと考えています。

家族との時間を大切に

従業員は現在二人で、必要に応じて外注を入れる形にしています。自分自身が製造から企画立案まで担うことが多いため、従業員を前提にすると属人性が高くなり、事業を売却する際にも問題が生じやすくなります。だからこそ、基本的には外注をメインに活用するようにしています。事業を通じて、家族との時間を大切にできるような経営を、これからも続けていきたいですね。

学生へのメッセージ

道を変えるのは失敗ではない

バイクが好きで専門学校に入ったものの、実際に進んでみると趣味として好きなことと仕事として向き合うことは違うと感じ、辞めた経験があります。その後フリーターとして働いていた時期、同年代の友人がすでに正社員として昇格したり、店長になったりしているのを見て、バイクを見るのが嫌になるような時期もありました。

大きな会社に入って出世したり、おしゃれなオフィスで働いたりすることに憧れるのは、勉強や就活のモチベーションになるならとても良いことだと思います。ただ、そこに付随する現実まで想像できていないと、やってみて思っていたものと違うと感じる場面もきっと出てくるはずです。石の上にも三年とはよく言いますが、途中で方向を変えても良いのではないかと思っています。

私自身、専門学校もバイクの道も途中で辞めていますし、フリーターも経験しています。今のようにいくつも事業を展開する未来が最初から見えていたわけではありません。一度選んだ道を変えること自体は失敗ではなく、その経験を通じて自分に合わないものや向いているものが見えてくるのなら、それも大事な前進だと考えています。最初から完璧な答えを出そうとせず、行動して、違うと感じたら修正しながら、納得できる生き方を見つけていくくらいの、ゆるいスタンスで良いのではないでしょうか。

編集後記

物販から輸入事業、メディア制作、SaaS、レンタルスペースまで、一見つながりのない事業を次々と手がけてこられた柚木さんですが、根底にあるのはニッチなニーズを見つけて解決するという一貫した姿勢でした。「思いも寄らない方向からボールが飛んでくる」という表現がとくに印象的で、新しい挑戦にはつきものの壁を前向きに乗り越えてこられた歩みが伝わってきました。将来に迷いを感じている学生の私にとっても、途中で道を変えることは失敗ではないという言葉に励まされました。ありがとうございました。