インタビュー

零細企業でも、キラリと光るものを一つ持てばいい

零細企業でも、キラリと光るものを一つ持てばいい
PROFILE
有限会社まんてん. 代表取締役
黒田孝弘

卸問屋から独立、選んだのは「ものづくり」

消去法で選んだ道

もともとは食品業務用の食品卸問屋に勤めていました。32歳のときに会社を辞めて、いつか何かしたいなという思いが若い頃からあったので、独立するタイミングを探していたんです。ちょうどそのとき、倉庫の物件が見つかって、これはタイミングかなと思って辞めて独立した、という経緯があります。

正直なところ、もともと食品の製造がしたくて始めたわけではなくて、消去法で入ったんですよね。卸問屋にいたものですから、いろいろな商品の知識や価格には強かったんです。ただ、後発で問屋をやろうとしても、人もモノもお金もついてこない。だったらどうしようかと考えたとき、自分はずっと食しか携わってこなかったので、選択肢は飲食店をやるか、商品を作るかのどちらかでした。サービス業は自分には難しいなと思って、食品の製造という道を選んだんです。

安易な気持ちで独立した

会社員時代のお客様がいたので、卸という立場ではなくメーカーとしてそのお客さんを回れば、もともと持っていた人脈で商品を提案・供給できるかなという思いもありました。

今になって思うのは、独立したいと考える人間というのは、組織の中ではどちらかというと「邪魔になっちゃう」タイプなんですよね。自分もそっち側の人間だったので、いつかやりたいという思いと、会社で働き続けることの難しさが相まって、独立するきっかけになりました。安易な気持ちでしたね。

イカからメヒカリへ、地域の魚で勝負する

大手と戦わない場所を探した

32歳で独立した当初は、今とまったく違う商品を作っていました。地域の魚ではなく、別のエリアのイカをもらって、唐揚げなどを作っていたんです。

最初は人対人のよしみで商品を買ってもらえていたんですが、3年もするとそれだけでは立ち行かなくなってきます。大手と違って、自分たちが戦える場所はどこだろうと考えたとき、地元の魚を加工しようという方向に切り替えました。イカを手放して、地産地消や食育に力を入れる今のスタイルにマイナーチェンジしたんです。

ブランディングと言うとかっこいいですが、後ろで考えていたのは「自分たちのポジションはどこだろう」ということでした。大手がいない場所でないと、中小零細は戦えないと思っていたので。そこでメヒカリに出会いました。

給食採用までの地道な歩み

メヒカリは地元では美味しい魚として知られていたのに、なかなか市場に出てこなかったんです。とくに20年前は、今よりもっと知られていない魚でした。

地元で獲れる魚だから、学校給食で子どもたちに食べてもらいたいという思いが強くて、当時、給食センターや学校を一生懸命回りました。ただ、なかなか取り入れてもらえなかったんです。「知らない魚を子どもに出せない」と。学校給食は安心・安全が担保されていないと採用できないという事情はもちろん分かるのですが、その壁は高かったですね。

調べていくと、メヒカリはとても栄養価が高い魚だと分かりました。シシャモやワカサギよりもカルシウムが多いんです。それなら給食で使ってもいいじゃないかと、栄養士の先生に「使わない理由」を聞いて回ると、結局は「使ったことがないから」という答えでした。親御さんから質問が来ても答えられない、と。

それなら一回でいいから、どこかで使ってもらおうと、一件ずつ「使ってよ」とお願いして回りました。「どこどこの市で使ったよ」と隣の街に話をして、少しずつ広げていったんです。先生から「問題はなかった」と返事が来ると、それを聞いた別の学校が「うちも使おうかな」となる。その繰り返しでした。今では愛知県内の小学校給食のかなりの割合に導入してもらえるまでになっています。

「超満点」を掲げて、子どもたちに届け続ける

日本一の定義は自分で決めればいい

メヒカリを一生懸命やっている企業はそれほど多くなかったので、ここできちんと形を作れば、メヒカリの第一人者として、問い合わせが自然と弊社に来る仕組みができるだろうという思いがありました。

零細企業でも、キラリと光るものを一つ持てればいい。それがメヒカリだったんです。メヒカリの日本一になりたいと自分は思っていて、弊社で働いてくれている人たちにも、同じ思いで誇りを持てる会社にしたいと伝えています。「うちはメヒカリ日本一なんだ」と、みんなが胸を張れる会社にしたいと思って、日々やっています。

決して大手と戦いたいわけではなく、そこで戦っても勝てません。日本一のメヒカリ屋というのも、日本一の定義は自分で決めればいい話で、「日本一メヒカリを愛する男」でもいいんじゃないかなと思っているんです。

みんなの想いを、超満点のカタチにしよう

弊社が掲げている経営理念は「みんなの想いを、超満点のカタチにしよう」というものです。満点の前に「超」をつけています。

関わるすべての人の想いをカタチにしてあげたいという思いがあって、弊社に来ると一つずつ夢が叶っていく、そんな会社にしたいと思っています。それは商品についても同じで、一つ唐揚げができたらそれで終わりではなく、ずっと進化させ続ける。新しい基準を作ったり、ブラッシュアップを重ねたりして、満点を超えていく商品を作りたいという思いが「超満点」という言葉に込められています。

今、私の一番の思いは子どもです。安心して食べていただける商品を作り続けるということを、弊社で働いてくれている人たちにも伝えています。

機械で生産していくと、どうしても魚が車の部品のように見えてくるときがあるんですよね。でも、私たちが作っているのは子どもたちが食べるものです。魚は車の部品とは違って、同じ形も同じ厚みもしていません。だから、正しい商品とエラーの商品の判断基準は「自分の子どもに食べさせたいか、食べさせたくないか」だと伝えています。形が悪い魚、大きさが揃っていない魚を、大切な人に食べさせたいか。その基準で検品をしてほしい、とお願いしているんです。

学生へ伝えたいこと

想いに共感してくれる仲間がほしい

水産加工業に勤めたいと思う学生さんは、正直なところそれほど多くないと思います。漁師さんの数は明らかに減っていて、若い人たちも後を継がない。そういう状況の中で、漁師さんと一蓮托生のこの業界では、安定供給は漁師さんがいてこそ成り立ちます。

だからこそ、企業の規模が大きいか小さいかではなく、ビジョンや理念を大切にしている企業を選んでもらえるといいなと思っています。「給料がいい」「休みが多い」ではなく、「この人のためならやるよ」と思ってもらえる仲間が一人でも増えたら嬉しいですね。

非効率の中に付加価値がある

効率だけを求めていいのかというと、私はそうは思いません。非効率だからこそ大手との差別化が図れる部分があります。魚を売るというより、海をどれだけ大切にできるか、その魚をどこに届けたいかというところを一番大事にしています。

うちのスタッフにも「手間がかかるではなく、うちの会社は手間をかけるんだ」と伝えています。みんなが手間をかけたくない部分に手間をかけることで、付加価値が生まれる。資本力で大手と戦えない零細企業だからこそ、思いだけを発信し続けています。

編集後記

今回のインタビューを通して、地方の中小企業が大手と同じ土俵で戦うのではなく、自分たちにしかできない場所を見つけることの大切さを学びました。メヒカリという一つの魚に向き合い続け、「超満点」という理念のもとで一つひとつの商品や人との関わりを大切にする黒田さんの姿勢から、規模の大小ではなく、想いの強さこそが企業の個性になるのだと感じました。就職活動においても、知名度だけでなく、共感できるビジョンを持つ企業を選ぶという視点を、私自身も大切にしていきたいと思います。