インタビュー

見えなかった社会課題を、見えるものに。2,000件の電話から始まった、誰もが解決の主役になれる社会

更新: 2026年9月17日
見えなかった社会課題を、見えるものに。2,000件の電話から始まった、誰もが解決の主役になれる社会
PROFILE
ICHI COMMONS株式会社 CEO
伏見 崇宏

アメリカ育ちと大学受験への疑問

学生時代に熱中していたことを聞かれると、まっさきに思い浮かぶのは外国での暮らしです。小学校の6年間、アメリカ南部のど田舎で過ごしていて、まさに「トム・ソーヤの冒険」のような生活をしていました。綿花畑が広がる地域で、裸足で学校に通うような日々でした。

日本に帰ってきてからは、中学受験をし、そのあと大学受験も経験しました。塾に通ってみたら成績順に並ばされたり、大学受験では周りがみんな偏差値で大学を選んでいたりと、この国の受験の仕組みについて疑問を持つようになりました。

大学時代に立ち上げたHLAB

大学選びの選択肢を広げる場づくり

大学時代のハーバード大学の学部生との出会いをきっかけに、大学進学を考える際に偏差値だけで判断するのではなく、先輩たちが大学で何を学び、社会に出てどんな仕事をしているのかを知れる場をつくるべく、彼と一緒に高校生向けのサマースクールを立ち上げました。それが「HLAB(エイチ・ラボ)」です。

海外の学生が日本に来て、大学で何を学んでいるのかを講義形式で伝える合宿では、全国から高校生が80人ほど、大学生も20、30人が集まりました。もともとは都内で始まった活動ですが、いまでは東北地方や長野県の小布施町、徳島県など4、5か所へと広がっています。自分たちが高校生だった頃に欲しかった環境を形にしながら、自分たちがいなくなっても回る組織づくりに打ち込んでいました。

GEでの経験とキャリアの転機

団体の代表を務めていた大学2年生のとき、団体が赤字を出してしまったことがあります。それがきっかけで、新卒では一度社会に出て学ぼうと決め、アメリカの企業・GE(General Electric)のCFO(最高財務責任者)育成プログラムに2年半ほど身を置き、会社の財務経理を学ぶ経験をさせていただきましたばせてもらいました。GE一本に絞って就職活動をしていて、そこしか受けていません。もし受からなかったらHLABを続けるつもりでいたので、それくらい迷いなく決めていた選択でした。

いま振り返ると、この時期の経験には二つの意味があったと思っています。一つは、まだ何もないものを生み出す難しさや、確証がないことを信じて取り組む姿勢を、学生のうちに味わえたこと。もう一つは、財務経理という基礎があったからこそ、いま自分の会社を経営しながら金融の領域にも関われているということです。

キャリアを重ね、28歳になる頃にはグローバル企業で働く機会をいただきました。同時に地方でも働き、日本の地域課題を身をもって感じるようになりました。その中で、社会課題の解決にお金を投じる「インパクト投資」という、当時の日本にはまだあまりなかった概念に出会うことになります。

ICHI COMMONS創業の原点

2,000のNPOに電話をかけた創業期

そこで見えてきた根本的な課題は、社会課題の解決に向けて誰がどこで何をしているのかが可視化されていないということでした。学生の皆さんが経営者の声を聞きたくてもなかなか聞けないのと同じで、自分の地域にどんなNPOがあり、企業がどんな社会課題解決の取り組みをしているのか、ほとんど誰も知らない状態だったんです。

そこが可視化されれば、数千億円規模の寄付のお金が動いていることが見えたり、素晴らしい活動をしているNPOや企業が見つかったりする。売上や年収だけでなく、社会に貢献している人たちが見える市場をつくりたいと思い、ICHI COMMONSの創業に踏み切りました。まずは日本中のNPOが抱える課題を知るために、2,000のNPOに電話をかけて実態調査をしたことが、現在のプラットフォーム「サステナNet」の土台にもなっています。

複数のセクターが連携するエコシステムへの発展

電話をかけた中から少しずつプラットフォームに登録してくださる団体が増え、インタビュー動画を作成しながら、日本のソーシャルセクターのNPOのオンボーディング(新メンバーが組織・業務に適応するための支援)を進めていきました。ホームページさえきちんと整っていない団体も多いなかで、1時間ほどのインタビューを5分から10分の紹介動画にまとめることで、団体の思いや解決しようとしている社会課題そのものを知ってもらえるようになったんです。

プラットフォームから始まった事業は、企業が社会課題解決に向けた取り組みにヒトやお金を流せる仕組みづくりへと発展し、企業とNPOのマッチングだけでなく、企業の取り組みを可視化することにも広がっていきました。現在東京都と進めている、パラリンピックの競技団体と企業のマッチングを促進するプロジェクトもその一つです。複数のセクターをつなぐ中で見えてきたマッチングのニーズに対し、それぞれをサポートしながらエコシステム(企業や組織などが連携し、相互に価値を生み出す仕組み)をつくってきた、というのがここまでの歩みです。

パーパスマーケティングの本質

パーパスを事業に紐づける

企業への共感を軸に就職先を選ぶ動きが広がっていることについては、意味があると思う一方で、続くものと続かないものがあるとも感じています。続くかどうかを分けるのは、そのパーパス(企業が社会において果たすべき存在意義)が事業にきちんと紐づいているかどうかです。現場の営業や事業の担当者が「そのパーパスを実現することで売上や利益が伸びる」と実感しながら動けているかどうかが問われます。

組織が大きくなるほど、経営企画室・広報室・人事部・CSR(企業の社会的責任)推進室・サステナビリティ推進室というように役割は縦割りになっていきます。サステナやCSRがやっていることは事業とは関係ないと感じる人たちも出てくる。広報が打ち出すサステナやCSRの魅力に惹かれて入社したのに、事業サイドの現場にはその哲学がなかったという乖離が起きると、社員の幸福度や働きがいが損なわれてしまいます。マーケティングだけを推進するという文脈には、一長一短があると思っています。

事業性と社会性を両立する企業の見方

好きから本質が見えてくる

こうした事業性と社会性の両立を、学生のうちに見極められるようになるにはどうしたらいいか。答えはシンプルで、多くの経営者と話をすることです。それに、学生だからできないと思われがちですが、実は学生のほうが圧倒的に社会と接続していると思っています。社会人は9時・5時で働いていて自由時間が限られますが、学生には授業以外の自由な時間があります。

とはいえ、やりたいと思わないことは続きません。好きなものには勝てないからこそ、自分が好きなものを追求していくといいと思います。あるスポーツが好きなら、それを突き詰めて選手になったり監督になったり、運営チームを見るようになったりするかもしれません。たとえば運営チームを本気で見始めると、そのチームが本当に強い組織なのかを考えるようになり、事業性と社会性を両立できているかを見極める力もついてきます。好きな会社を見続けることで、自分にフィットするかどうかも含め、その会社の事業と社会の関係性が見えるようになってくるはずです。

一括採用がなくなる未来

学生が価値観を形成する自由

大学が人材を育て、企業への就職という形で社会に送り出す仕組みは、もう時代遅れなのではないかと感じています。大学の学びの場には、もっと企業やNPO、自治体といった社会のステークホルダー(利害関係者)が入ってくるべきで、それを妨げているのが一括採用の仕組みだと考えています。

就職活動については早期化と長期化という問題がよく語られますが、その根っこにあるのは、学生が自分の価値観や哲学を形成していくための経験をする自由が奪われているということです。企業側は自己決定力やリーダーシップのある優秀な人材を求めながらも、どんな課外活動をしていたかといった問いがテンプレート化してしまっている。そこは、いずれ取り払われていくものだと思っています。

能力ベースの採用へ

一括採用の仕組みがなくなれば、「新卒」という言葉そのものもいずれなくなっていくはずです。そうなると、本当に能力をベースに人を採用することになり、マーケットは大学生だけでなく、それ以外の層にも広がっていきます。転職市場のあり方も大きく変わるはずです。このスピードがどれくらいで進むかはわかりませんが、2、3年のうちに動き出すのではないかと感じています。

労働市場が縮小していくということもありますが、それ以上に、魅力的な代替手段が出てくると思っています。試験を受けて一次、二次、三次面接と進むのではなく、大学卒業後にもう少し自分のやりたいことを探す学生が増えていくのではないでしょうか。人口が減っていくなかで即戦力を求める力が働くぶん、ポテンシャル採用に余裕を持たせられる企業は減っていくはずです。ただ、日本企業は現金をしっかり保有して安定的に経営する体質があるので、経団連のような場からこの仕組みを撤廃しようという経営者が出てこない限り、変化には時間がかかるかもしれません。何のために働いているのか、企業が何のために存在するのかという問いが、これからより重要になっていくと思っています。

これからの3年で描く景色

ポートフォリオワーカーの時代

会社のビジョンとして掲げているのは「誰もが社会課題解決の主役になれる世界」です。それは誰かがヒーローになるという意味ではなく、一人ひとりが自分のミッションを社会課題解決のなかで全うできている状態を指しています。

いまは20ほどのプロジェクトを走らせていますが、プロジェクトを公開できる範囲で見える化すれば、関わりたいと言ってくださる方は少なくありません。社員・業務委託など関わり方を問わずに、自分の関心のある領域で、自分の貢献したい形で携われる体制をつくることは、社会的にも意味のあることだと思っています。日本の人口はいま1億2,000万人ほどですが、30年後には8,000万人ほどにまで減っていくと言われています。一つの会社で一生働くという前提だけでは、自治体やNPOも含めて社会の仕組みそのものが立ち行かなくなっていく。一人が二役、三役として複数の組織で働く「ポートフォリオワーカー」のような働き方が当たり前になる社会に向けて、自分たちの組織が動けているかどうかを、これからの1年から3年で描いていきたいと思っています。

最後に、学生の皆さんに伝えたいのは、人生は思っているよりも短く、学生時代は思っている以上に貴重だということです。少しでもやってみたいと思ったことをやらずにいると、後で後悔することになります。学生の時間は、すべての選択肢を自分でコントロールして生きていける、とても貴重な時間です。その一分一秒に、どんな意味づけをするか。友達と飲んだくれる時間でもかまいませんが、自分で納得してその時間を追求できているかどうかが、働きがいや幸福、生き方すべてにつながっていくと思っています。

弊社では現在インターンも募集しています。NPOのインタビュー動画づくりは、その8割ほどを学生の皆さんが担ってくれていて、動画編集のスキルも身につきます。卒業して社会に出たあとも連絡を取り合っている元インターン生も多く、興味のある方はぜひ気軽に問い合わせてほしいです。

編集後記

今回のインタビューを通して、一番印象に残ったのは「学生のほうが社会人よりも社会と接続している」という視点でした。就活では条件面ばかりに目が向きがちですが、社長のビジョンに共感して選択肢を広げるという、まさにビジョン図鑑が大切にしている価値観と重なるお話をたくさん伺えました。一括採用という当たり前を疑うことから始まった伏見さんの歩みは、これから社会に出る自分自身にとっても、とても励みになるものでした。ぜひあわせて、伏見さんが出演するポッドキャスト(ICHI Radio)もチェックしてみてください。