半導体エンジニアから、インテル日本法人の技術責任者へ
巨大企業のやり方を間近で見てきた
私はもともと半導体の開発エンジニア、研究者としてキャリアをスタートしました。そこからキャリアの途中で、アメリカの巨大企業であるインテルの日本法人で技術責任者を務めることになり、主にパソコン関連の製品を担当していました。
プラットフォーマーと呼ばれる会社の動き方って、世界中を同じ色に染めるようなやり方をするんですよね。インテルもそうですし、マイクロソフトもそうです。私は最後、日本のパソコンメーカーをずっと担当していたので、そのなかで「プラットフォーム」というコンセプトを日本で立ち上げる責任者のような立場にいました。
現場に近い立場で、同じことをやりたい
その経験があったからこそ、より現場に近いところにいる私が、自分のネットワークやパートナーとの関係を活かして協業しながら、同じようなことができないかと考えるようになりました。そうして立ち上げたのが、今の会社「株式会社K-kaleido」です。
AI Edge Hub®とスピーチコネクト®が生まれた理由
若いエンジニアが正当な対価を得られる仕組みを
会社を回していくうえで、まず必要だったのはエンジニアでした。ただ、今のソフトウェアエンジニアは、大半がクラウドのエンジニアかスマートフォンアプリケーションのエンジニアで、パソコンの上で動くAIアプリケーションをつくるエンジニアはほとんどいないんですよね。私がつくりたかったのは、まさにそのパソコン向けのAIアプリケーション、いわゆる「AI PC」向けのソフトウェアでした。
日本のIT産業には、多重下請け構造があり、結局中抜きされて末端のソフトウェアエンジニアに届くお金はごくわずか、という商習慣上の課題があります。私はアメリカのエンジニアを見てきたので、彼らが個人としてしっかり独立していて、とがったスキルがあれば大きなお金を稼げる世界があるのを知っています。日本のエンジニアは能力が高くても、なかなかそこにたどり着けない。それがずっと引っかかっていました。
だからこそ、若いエンジニアには年齢に関係なく、成し遂げたことの大きさに見合った報酬が伴う仕組みをつくりたいと思ったんです。販売については、私が売り側としてGTM(go to market)を支援します。日本のパソコンメーカーとはほぼ全社と繋がりがありますし、販売店へのネットワークもありますので、そうしたパートナーの力を借りながら、エンジニアがつくったものをしっかり売りにつなげる仕組みをつくりました。
自治体のような「クラウドに慎重な現場」のニーズに応える
何をつくるかというコンセプトについては、売り側のメッセージや課題感をきちんと理解することを大事にしています。日本はクラウドAI中心と言われがちですが、実際にはクラウド導入が進んでいない企業もとても多くあります。典型的なのが自治体で、外部クラウドサービスへの情報送信には慎重なケースが多いです。
そうした課題感を売り側から理解して、若いエンジニアがつくったアプリにつなげていく。それが「AI Edge Hub」です。自治体のような現場では、情報の漏洩を最も恐れます。そうした現場の「情報を外に出したくない」というニーズに特化して開発したのが、「スピーチコネクト」です。会議のなかには個人情報や企業秘密、新製品情報など、とても慎重に扱うべき情報がたくさんあります。そうした課題を理解いただいたうえで導入していただいているのが「スピーチコネクト」です。
パソコンの上ですべての会話を記録してログとして保持するため、音声情報が外部に送信されることはなく、外部クラウドなどに記録として残ることもありません。あくまでパソコン上にのみログが残る仕組みです。
そうした社会課題や企業が抱える課題をきちんと理解し、それを解決できるエンジニアに結びつけていく。個人のエンジニアに、年齢を問わず、それぞれが持っているスキルをふんだんに活かしてもらう仕組みをつくることで、このアプリストアの形を成立させたい。それが私の考えている事業構想です。
日本だけで終わらせるつもりはない
マイクロソフト本社やチップメーカーとも直接つながる
ビジョンとしては、まずアプリをたくさん揃えることはもちろん重要です。ただ、マイクロソフトのように誰もが使うアプリを作ることを「なぜ日本でできないのか」と言われたときに、私は実はできると思っています。やろうと思っていないだけ、やり方がわからないだけであって。私は、マイクロソフト本社側の人とも話をしていますし、インテル以外のチップメーカーとも話をしています。日本市場だけで販売していくつもりはまったくありません。
日本人には島国気質があり、どうしても自国のなかだけで閉じて考えがちなマインドが根底にあると思っています。その壁を私が少しでも取り払って、やり方さえわかってしまえば売れる製品はつくれるということを実証していきたい。海外の販売先とのコミュニケーションが課題なら、私のほうでサポートすればいい。そういう意味で、今後はグローバル展開を目指したいと思っています。
「仕様を決めてください」ではなく、自分で考える力を
使う側の課題を理解できる人が稼げる時代に
エンジニアに対しては、受け身にならないようにお願いしています。日本のエンジニアはどうしても受け身なんですよね。ソフトウェアでもハードウェアでも、いろいろなエンジニアと話してきましたが、「仕様が決まっていれば私たちはつくれます」という人が多い。能力が高くても、仕様を考える力がないケースが目立ちます。
今はAIがコードを書いてしまう時代で、エンジニアではない人までソフトウェアをつくれるようになっています。だからこそ、何をやらせるべきなのか、どういうものをつくればお客さんの業務が改善するのか、ニーズが高まるのかを理屈として考えられる人が、稼げる人、成功できる人になっていく。そういうマインドの転換を、社内でも促しています。「これがやりたい」と聞いてくるのではなく、「こういうものがあったらどう思う?」と、あえて考えさせるようにしています。
大学名で自己紹介するのをやめてみる
会社の看板ではなく、自分が何をやったか
学生へのメッセージとしては、まず身近なところで言うと、自己紹介のときに大学名を言うところから見直してみてほしいと思っています。私は大学名を自分から言うことはあまりありませんでした。たまたまその大学に属して、たまたまその先生に教わっただけであって、大学名自体に意味はないと思っていたからです。
私はNECという会社で働いたあと、インテルという会社で働きました。大企業には看板があります。でも、その看板だけで仕事をしてしまっている人もいる。採用活動でレジュメを見ていても、会社としてやったことを自分の業績のように書いている人がいます。そうではなく、「あなたは何をやったのですか」というところが、実は抜け落ちがちなんです。それは三十代でも四十代でも五十代になっても変わりません。学生のうちからそういう発想が生まれてしまっているのではないかと、私は仮説として持っています。
AIの時代に、大学名は就職を助けてくれない
今はとても厳しい時代です。海外の一流大学を出ていても、就職できないエンジニアが実際にたくさんいます。AIがエンジニアの仕事をどんどん代替しているのは事実で、どこの大学でどう学んだかということが、就職を助けてくれない状況がもう来ています。三年後、五年後には、もっと当たり前になっているはずです。そう身構えたときに、自分でどう打開していけるかが問われます。頭の使い方を変えなければならない、大きな壁にぶつかるタイミングだと思います。だからこそ、逆に応援したい気持ちがあります。
こうした課題は学生だけの問題ではなく、採用する側の企業の問題でもあると思っています。私は日本企業を離れて二十年ほどになりますが、今もベンチャーで働きながら、内側から少しずつ変えていきたいと動いている部分があります。日本企業が抱えている課題はとても根深いものですが、だからこそ学生のみなさんには、そうした課題を理解して、どんどん変えていってほしいと思っています。
編集後記
安生さんのお話を伺って、大企業での経験を土台にしながらも「個人がきちんと稼げる仕組み」をつくろうとされている姿勢がとても印象的でした。大学名より自分が何をやったかを語る、という考え方は、これから社会に出る私たち学生にとっても、今すぐ意識できる大切な視点だと感じました。グローバルを見据えた挑戦を続ける安生さんの今後の展開が楽しみです。